養殖が天然に勝てると思うなよ?【本編完結】   作:物体Zさん

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フハハハハー!ざまあみろ!

 

 

 

 

 遺跡の奥から這い出し襲いくるナハト=マァドという生き物は、どこかゼノモーフに類似している。

 

 骨格の構造、滑らかな甲殻、そして酸性の血。

 

 俺は飛びかかってきた一体の頭蓋にスピアを突き刺し、その勢いのまま壁に叩きつけた。鈍い衝撃と共に甲殻が割れ、酸の血が石壁を焼き、白い煙が上がる。鼻を突く刺激臭が一気に広がった。

 

 振り返ると、ザラクはリストブレイドを最大限まで伸ばし、複数の個体を次々と仕留めていた。その動きは流れるようで、無駄がない。まるで古の舞踏のような滑らかさと、猛獣が獲物を仕留める瞬間の獰猛さが混ざり合っていた。

 

 エリート――その言葉が似合う。プレデターの中でも上澄みと言っていい階級に到達した狩人の戦いぶりだ。

 

 だが、俺の頭の中には別の声が響いていた。

 

 「奴は必ず裏切る」

 

 オリオンの言葉が、まるで脳髄に刻み込まれた呪詛のように何度も反復される。

 

 ナハト=マァドの一体が壁面を這い、死角から俺に迫る。ザラクが刃を振るい、その首を落とした。俺は一瞬目を合わせたが、彼の仮面の奥の表情は読み取れない。

 

 「援護感謝」

 

 「……気にするな」

 

 短い言葉を交わしながらも、俺の視線は時折ザラクの背中を追っていた。彼の動き、間合いの取り方、敵の数をどう数えているか――狩人としては参考になる。だが同時に、もしこの背が自分に刃を向けたとしたら、その時にどう動くべきかを考えてしまう。

 

 広間の奥からは、まだ足音と壁を爪で叩く音が響いてくる。カツ、カツ、カツ――その不規則なリズムが、じわじわと神経を削る。

 

 ザラクが低く呟く。

 

 「増えてきた……奥の巣からだ」

 

 「母体がいるか」

 

 「ああ、間違いなく」

 

 俺たちは互いに背中を預け、迫る敵を迎え撃った。ザラクが左から迫る二体を斬り伏せ、俺が右から飛びかかってきた一体を突き上げる。酸の血が飛び散るたび、床や壁が焼け焦げ、煙と臭気がさらに濃くなる。

 

 胸の奥が熱くなり、視界がわずかに揺らぐ。この臭気は長時間吸えば神経を麻痺させるかもしれない。だが息を止めれば動きが鈍る。

 

 「奥へ進むぞ」

 

 ザラクが短く告げた。俺は頷き、スピアの先を巣の方へ向ける。

 

 そして俺たちは、煙と酸の霧が漂う中、さらに深く踏み込んでいった。

 

 遺跡の通路は、奥へ進むにつれて様相を変えていった。

 

 最初は乾いた石壁と整然とした彫刻だけが続く無機質な通路だったが、やがて石は黒い肉のような物質に覆われ、その感触が足元にまで広がっていく。踏み込むたびに、ぬめりを含んだ音が靴底から響く。まるで大地そのものが生き物に飲み込まれていくようだ。

 

 「まるでゼノモーフだな」

 

 俺がそう呟くと、ザラクは振り返らず、リストブレイドで前方から飛びかかってきたナハト=マァドを撫で斬りにしながら返答した。

 

 「ふむ……確かにな。だが奴らは違う」

 

 返す声は低く、何かを知っている響きがあった。だが、今は問い詰める余裕はない。

 

 通路は複雑に入り組み、壁や天井から垂れ下がる黒い触手のような突起が行く手を邪魔する。その一本一本が微かに脈動し、内部を液体が移動しているのが透けて見える。その異様な光景の中を、俺たちは淡々と進む。

 

 ナハト=マァドは途切れることなく現れた。壁の中から、天井の隙間から、床の割れ目から、蜘蛛のように這い出してくる。それを斬り伏せ、突き殺し、酸の飛沫を避けながら足を進める。

 

 やがて、視界が一気に開けた。

 

 広間だ。

 

 その空気は重く、湿っていて、匂いは濃密だ。腐敗した肉と血の臭気が充満し、喉の奥にまとわりつく。壁も天井も、通路以上に有機物に覆われ、ところどころで管のような構造物が蠢いている。

 

 まるでゼノモーフの女王の間を思わせる光景だった。

 

 だが、俺の目を釘付けにしたのは、天井から無数に垂れ下がる一本の巨大な触手だ。その先には繭のように包まれた塊がぶら下がっている。

 

 近づくにつれ、それが繭ではなく()()だと分かった。

 

 多種多様な種族の死体。人間、爬虫類に似た異星種、獣のような姿のものまで――どれも腹部に大きな風穴が空き、内部から何かが飛び出した痕跡がある。

 

 頭部は全て失われていた。

 

 「……」

 

 言葉が出なかった。

 

 死体の中には、見覚えのある形状の頭蓋と装甲の欠片が混ざっていた。プレデターのものだ。

 

 まさか……

 

 脳裏に、遺跡の入り口に山のように積まれていた頭蓋骨の光景が蘇る。あの中には、俺たちの同族のものもあった。

 

 「アビサル」

 

 ザラクが低く呼んだ。

 

 「これはただの巣じゃない。狩場だ」

 

 その言葉と同時に、天井奥の暗がりから低い唸りが響いてきた。呻きにも似た、腹の底を震わせる音。壁を這っていたナハト=マァドたちが一斉に動きを止め、音の方向へと姿勢を向ける。

 

 俺の背筋に、冷たいものが走った。

 

 「お前……まさか……」

 

 俺はかつてないほどの警戒心を抱きつつ、前に立つザラクを見た。

 

 その瞬間まで臨戦体制だったナハト=マァドたちが、一斉に動きを止めた。壁を這っていた個体も、天井に張りついていた個体も、まるで糸が切れたかのように硬直し、()()()()()()

 

 その視線は、捕食者が獲物を値踏みするものではない。もっと冷たく、もっと機械的で……まるで巣に運ばれてきた餌を観察するかのようだった。

 

 視線の先には、吊るされた死体の列がある。腹には大きな風穴が空き、内部は空洞。そこから飛び出したであろう何かの痕跡が、生々しく残っている。

 

 「あぁ……そうだ。俺はここで狩りをしていた」

 

 ザラクが、仮面越しにこちらを振り返った。

 

 その声は、妙に落ち着いていて、狩人の呼吸ではなく、語り部の調子を帯びていた。

 

 「狩り……?」

 

 俺はスピアを握りしめ、間合いを崩さぬよう足をずらす。

 

 ザラクは一歩だけ後ろに下がり、そしてゆっくりと語り始めた。

 

 「この遺跡に潜んでいるナハト=マァドは、ただの獣じゃない。奴らは苗床を必要とする。生きた獲物を捕らえ、腹の奥に種を植え付け、そして……孵化した子らが母体の元へ帰る」

 

 俺は一瞬、呼吸を忘れた。

 

 ザラクは続ける。

 

 「俺は、それを狩っていた。だが……狩り方はお前たちアヌ族のやり方と違う。俺は生け捕りにする。獲物を逃がさず、最後まで観察し、苗床となる瞬間までを見届ける」

 

 言葉の端に、愉悦が混ざった。

 

 「吊るされている死体は……」

 

 「俺が捕らえたものだ。ここの壁を這う獣どもにくれてやった。腹の風穴は、その結果だ」

 

 その告白は、ただのバッドブラッドの所業ではない。これは狩人としての倫理を完全に捨て去った者のやり口だ。

 

 オリオンの声が脳内で反響する。

 

 ――奴は必ず裏切る。

 

 ザラクが仮面の奥で笑った気配がした。

 

 「さて、アビサル……お前はどうする?」

 

 その問いに、俺は即答しなかった。言葉を返せば、相手の狙いに乗る気がしてならなかったからだ。

 

 だが、周囲のナハト=マァドたちが再び身を動かし始めた。ゆっくりと、しかし確実に俺たちの間合いを詰めてくる。

 

 ザラクの刃が、音もなく光を反射した。

 

 「俺と協力するか……それとも、ここで奴らと一緒に死ぬか」

 

 広間に漂う腐臭が、さらに濃くなった気がした

 

 「クソッタレめ……」

 

 俺はスピアを最大限まで伸ばし、さらにリストブレイドもカチリと音を立てて限界まで伸ばした。

 

 ヤバいヤバいヤバいヤバい。

 

 胸の奥に押し込めていた俺の本性――臆病で、逃げ腰な本性が、今にも暴れ出しそうになる。

 

 どうしよう……めっちゃ逃げたい……!!!

 

 こんなの聞いてないって!ただのバッドブラッドかと思ったら……なんだよコイツ!!!

 

 捕らえた獲物を化け物にくれてやった?その結果があの腹の風穴?

 

 コイツ、絶対ヤバい奴ですやん!!!何やってんのコイツ!?こ、このゼノモーフみたいなやつを増やしてたってこと!?

 

 頭の中で叫びながらも、視線だけは逸らさない。ザラクの仮面は無機質だが、その奥にある視線は俺を値踏みするようにじっと射抜いてくる。背筋を這い上がるような悪寒。

 

 ナハト=マァドたちは、まるでザラクの存在を理解しているかのように彼を避け、俺の方へとジリジリと距離を詰めてくる。その足音は湿った肉の床を踏みしめるたびに、ぬちゃり、といやらしい音を響かせた。

 

 「おいおい……なんで俺ばっかり狙うんだよ……」

 

 思わず口に出したが、返事をしたのはザラクだった。

 

 「お前は外から来たばかりだ。奴らは新しい匂いに惹かれる」

 

 ――いや、それ以上に、俺を“餌”として差し出す気満々の顔してないか、こいつ?

 

 スピアを握る手の汗で、柄が滑りそうになる。心拍は早鐘を打ち、呼吸は浅くなる。酸の匂いと腐肉の臭気が混じり合い、鼻腔の奥を焼くように刺す。

 

 「……チッ」

 

 舌打ちをひとつ。やるしかない。逃げたらその瞬間に背中を喰い破られる。俺は足を低く構え、壁際の影に目を走らせた。そこから飛び出す気配――いた。

 

 四脚のシルエットが一気に間合いを詰めてくる。俺は反射的にスピアを横薙ぎに振り抜いた。金属と肉がぶつかる鈍い衝撃、骨が砕ける感触、そして直後に噴き出す高温の酸。俺は即座に後方へ跳び、飛沫を避けた。

 

 その一瞬、ザラクが低く笑った。

 

 「悪くない……だが、お前はまだ“こいつら”を知らない」

 

 次の瞬間、ザラクのリストブレイドが一直線に突き出され、俺の斜め後ろに迫っていた別の個体の頭蓋を貫いた。酸がしぶきを上げるが、彼は微動だにせず、死体を壁に叩きつけた。

 

 ――ちょっと待て、この動き……完全に俺を囮にしてるだろ!?

 

 「おいザラク! お前――」

 

 言いかけた瞬間、広間の奥から、地鳴りのような低い唸りが響いた。壁の有機質が震え、天井から黒い塊がゆっくりと垂れ下がってくる。

 

 俺は、その光景を見た瞬間に確信した。

 

 ――これ、絶対に逃げなきゃいけないやつだ。

 

 広間の奥から垂れ下がるように現れたのは、名状し難い巨躯だった。

 

 有機質の天井を破るようにしてゆっくりと降りてきたそれは、まるで悪夢の塊だ。触手がぶわりと広がり、空気を裂くように轟き、肉と血を踏みしめながら四脚で前進してくる。下半身には、膨れ上がった巨大な卵嚢がぶら下がっており、その透明な皮膜越しに、何かがうごめく影がちらついた。

 

 さらに、そこから何本も伸びる触手の先端はどれも鋭い針のような形状をしており、刃物よりも危険そうな輝きを放っている。先端からは、糸を引くように白濁した液体がぽたり、ぽたりと落ちていた。床に触れた瞬間、肉のような有機床が小さく煙を上げる。

 

 ――エッぐ〜……これ刺されたら、なんか産みつけられるやつですやん……!!!

 

 背筋に冷たいものが走った。見ただけで嫌な予感しかしない。絶対、健康に悪いし、命にも悪い。

 

 「美しいだろう?」

 

 ザラクが、降りてきたそれを見上げながら、仮面の奥でうっとりとした声を出す。

 

 ――何言ってんだコイツ。キモすぎるわ!!

 

 「コレを見つけた時は驚いたもんだ」

 

 「知るかよ……」

 

 思わず反射で突っ込むが、俺の声は広間の重苦しい空気に吸い込まれていく。

 

 巨躯の影がさらに近づく。四脚の爪が肉床を掻き裂く音が、まるで刃物で骨を削るように耳に刺さる。卵嚢の内部がどくり、と脈打ち、そのたびに触手が微かに揺れた。

 

 俺はスピアを両手で握り直す。視界の端で、ザラクが一歩も引かずに立っているのが見えた。その姿は、共に戦う気配を見せるでもなく、ただ観察しているだけの狩人のようだ。

 

 ――あ、これ完全に俺を試してるやつだ……。

 

 呼吸が浅くなり、酸っぱい空気が肺に溜まる。酸性の匂いと卵嚢から漂う生臭さが混ざり、吐き気が込み上げる。汗が背中を伝い、バイオマスクの内側を湿らせた。

 

 「こいつは、この星で最も古く、最も危険な生き物だ」

 

 ザラクがゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

 「ナハト=マァドの母体……女王だ」

 

 その言葉と同時に、巨躯の触手が一斉に広がった。

 

 俺は心の中で絶叫した。

 

 ――いや、マジで逃げたいんですけど!?

 

 驚くのも束の間、ザラクが振り向きざまに右腕のリストブレイドを突き出してきた。

 

 俺は反射的にスピアを横に振り抜き、その刃を跳ね除ける。同時に後方へ大きくバックステップし、着地の勢いを利用して体を半回転。視界の端に映った二体のナハト=マァドを、刃の切っ先で斜めに断ち割った。

 

 骨を砕く感触とともに、切断面から酸が噴き出す。俺は即座に身をひねって回避し、飛沫が床に落ちるのを確認する。その瞬間、肉床が煙を上げ、鼻を突く焦げ臭さが広がった。

 

 「いい動きだ。良い素体になる」

 

 ――出たよ、コイツの気色悪いセリフ。

 

 「気色悪いやつだ」

 

 吐き捨てるように言いながら、俺は左腕のコンピューターガントレットを操作する。バイオマスク越しに視界に浮かぶホログラムが、遺跡近くに停泊している自分の船の位置を示した。そこへ即座に呼び出し信号を送る。

 

 ついでに、広域殲滅爆弾の起動プロトコルを開く。

 

 ――どうせならまとめて吹き飛ばしてやる。

 

 俺は逃げる時間を計算し、タイマーをセットした。ホログラムのカウントが無慈悲に進んでいく。

 

 腰からディスクを取り出し、ザラクに向かって構える。薄く光を帯びたその円盤は、回転すれば鋼鉄も骨も紙のように断ち切る殺戮の道具だ。

 

 「こんなもの弾けば……な!?」

 

 俺は叫びながらディスクを投げた。その軌跡は赤い残光を描き、一直線にザラクの顔面を狙う――が、それは本命じゃない。

 

 投げた瞬間、俺はガントレットの爆弾部分を引き外し、巣のさらに奥――卵嚢の密集地帯へと全力で放り投げた。

 

 そして、そのまま踵を返し、全力で走り出す。

 

 肉床が滑りやすく、足が沈みそうになるが構っていられない。後方で、ザラクがディスクを弾き返す金属音と、ナハト=マァドたちの咆哮が混じり合う。広間全体が戦場になっていくのがわかる。

 

 ――逃げ切れるか……?いや、逃げ切るしかない……!!

 

 俺は肺が焼けるような呼吸を繰り返しながら、出口へと続く暗い通路をひた走った。

 

 「おおおおおおお!!!!」

 

 肺が焼けるほどの息を吐きながら、迫り来るナハト=マァドの群れを正面から蹴り飛ばし、脇から飛びかかってきた奴には肩からタックルを叩き込み、さらに振り上げた拳で頭蓋を粉砕。血と酸が混ざった液体が弾け飛び、バイオマスクの表面を濡らす。だが構っている暇はない。

 

 スピアを逆手に握り、目の前に飛び出した一体の胸を突き破る。刃先が背中から突き抜け、そのまま死体を壁に叩きつけて道を開けた。滑る床を蹴りつけ、全力で走る。

 

 「逃げるなぁぁぁぁ!!!」

 

 後方からザラクの声が響く。低く唸るような怒号は、まるで獲物を追う獣の叫びだ。

 

 ――逃げるに決まってんだろ!あんな化け物と一緒にいる趣味はない!

 

 「オラッくらえ!!!」

 

 俺は全力疾走の勢いを殺さぬまま、腰からディスクを引き抜く。体をひねって後方を一瞥、狙いをザラクに定め、そのまま投げ放った。

 

 このディスクは一見コンパクトだが、展開すれば六枚の鋭い刃が飛び出す殺戮兵器だ。金属を削るような音を立てながら回転し、空気を切り裂いて飛んでいく。

 

 広間の肉壁を擦りながら走るディスクの残光が、背後のナハト=マァドたちの影を細切れに照らす。その一瞬の視覚情報だけでも、奴らの牙と爪がどれほど鋭く、どれほど俺の命を奪うことに特化しているかを思い知らされる。

 

 爆弾のカウントダウンが頭の中で鳴っている気がする。実際はガントレットを放り投げてきたから視覚的な表示はない。それでも、あの忌々しい電子音が耳の奥でリズムを刻んでいるような錯覚に襲われる。

 

 出口までの通路はまだ遠い。足音の反響が、俺一人のものではないと知らせてくる。振り向かずともわかる、ザラクが迫ってきている。しかも、あの女王の触手の音も混じっている気がする。

 

 ――いやいやいや、なんでこっち来んの!?お前巣の奥にいろよ!!

 

 俺は思わず心の中で悲鳴を上げる。

 

 酸の滴る音が背後で連続し、床が焼けただれる匂いが鼻を刺す。酸素が足りない。心臓の鼓動が耳の奥で爆音のように響く。

 

 あと少し、あと少しで出口だ――そう思った瞬間、前方の通路に二体のナハト=マァドが立ち塞がった。

 

 「クソッ!」

 

 俺は躊躇なくスピアを投げつけ、先頭の一体の頭蓋を貫く。同時に腰から二枚目のディスクを引き抜き、二体目の胴を水平に両断。酸の飛沫を避けつつ、死体を踏み台にして飛び越える。

 

 足が着地するのと同時に、頭上の天井が振動し、肉壁の隙間から触手が数本、鞭のように振り下ろされてきた。

 

 ――やっぱり来てたのかよ女王!!

 

 俺は床を滑るように前転し、触手の先端が床を抉る音を背中で聞きながら立ち上がる。背筋に悪寒が走る。

 

 あの爆弾が起動すれば、ここ一帯は消し飛ぶ。だが、それまで生き延びなければ意味がない。

 

 出口の光が視界に差し込む。俺は最後の力を振り絞って走り抜けた。

 

 「しゃおらっ!!」

 

 全身を包んでいた淀んだ空気が、ふっと軽くなる。

 

 ――外だ。

 

 ついに遺跡の出口を抜けた。

 

 冷たい風が装甲の隙間を抜け、焼けるようだった肺に新鮮な空気が流れ込む。酸の匂いも血の臭いも薄れ、代わりに乾いた土の香りが鼻をくすぐった。

 

 もう、後は船に乗ってとんずらだ。

 

 バッドブラッドの狩猟?今はそんなことどうでもいい。生き残ることが先決だ。

 

 ――しかも、あいつには船がない。

 

 広域殲滅爆弾の爆心地から逃げる術はないのだ。

 

 フハハハハー!ざまあみろ!

 

 クロークを解かれた船が、目の前にその姿を現す。艶消しの黒い装甲が夕陽を吸い込み、獣のような輪郭を浮かび上がらせた。俺が近づくと、油圧音とともにハッチがゆっくりと開く。

 

 「おっしゃ!」

 

 その瞬間、反射的に後ろを振り返った。

 

 「待てええええええええ!!!」

 

 遺跡の闇から飛び出してくるザラク。背後にはナハト=マァドの大群が黒い波のように続いている。

 

 マスクのHUDに映る爆弾のカウントは残り十秒――。

 

 「くんな!!!」

 

 俺は腰のホルダーから最後のディスクを引き抜き、全力で投げ放つ。

 

 刃を展開したそれは、鋭い唸りを上げながら一直線にザラクへと向かっていった。

 

 「くっ、こんなもの!」

 

 奴は一瞬動きを止め、リストブレイドで弾き飛ばす。しかし、そのわずかな遅れが命取りだった。

 

 俺はその間に操縦席へ飛び込み、ハーネスを締めながら船を急発進させる。

 

 離陸と同時に旋回、照準をザラクに合わせた。

 

 HUDの中央に奴の熱反応が収まる。

 

 「じゃあな」

 

 指先がトリガーにかかり、高出力エネルギー砲が轟音と共に火を噴いた。

 

 真白な光が一直線にザラクを呑み込み、地表を抉る衝撃波が遺跡の入り口を粉砕する――。

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