養殖が天然に勝てると思うなよ?【本編完結】   作:物体Zさん

76 / 103
本日も2話公開です!お願いしますー!


感想、評価ありがとうございます!


お前は何を隠している?

 

 

 

 ザラクとナハト=マァドの大群が、高出力エネルギー砲の閃光に呑み込まれる。

 

 視界が一瞬で白く塗りつぶされ、その奥で黒い影が引き裂かれるように散った。

 

 だが、それで終わりではなかった。

 

 遺跡全体が、まるで巨大な心臓が破裂する直前のように脈動を始めた。

 

 壁も床も天井も、有機質の膜を通して脈打ち、赤黒い光が筋のように走る。

 

 それが膨らみ、押し広がり、地表を覆う肉床が波打って裂け、裂け目から白熱したガスが噴き出す。

 

 その轟音と熱、そして底知れぬ圧迫感――広域殲滅爆弾が起動したのだ。

 

 船のセンサーが、耳障りなほど甲高いアラームを響かせる。

 

 視界のモニターは危険信号の赤で埋まり、距離警告と衝撃波予測が次々に表示される。

 

 「やべぇやべぇやべぇ!」

 

 反射的に操縦桿を握り、船体を反転させた。

 

 全スラスターを開放し、推進剤の噴出が背中を押し潰すように重力を増す。

 

 それでも俺は加速を緩めなかった。

 

 背後で爆心地が膨張を続け、何か巨大なものが破裂する前の張り詰めた空気が肌を刺す。

 

 ――間に合うか?

 

 計算では間に合うはずだ。

 

 だが俺の本能は、背後のそれが予測よりも速く、広く、そして強く俺を追うと告げていた。

 

 広域殲滅爆弾は、ただの爆発ではない。

 

 標的となった地点を中心に、あらゆる構造物と有機物を分子単位まで焼き尽くし、消し去る。

 

 衝撃波と共に熱と放射線が広がり、その範囲に入ればプレデターの強靭な肉体でも一瞬で蒸発する。

 

 「……くそ、絶対死にたくねぇ」

 

 自分でも情けないと思うほど、喉が渇き、呼吸が浅くなる。

 

 俺は戦士だ。

 

 アヌ族の狩人として、百年以上も命懸けの狩りを続けてきた。

 

 だが、生き残りたいという欲求は、誇りや名誉よりも深く、強く、骨の髄に染みついている。

 

 だからこそ、死に近いほど身体は勝手に動く。

 

 背後から、何かが爆ぜる低い音が聞こえた。

 

 同時に、押し潰されるような圧力が背中にのしかかる。

 

 衝撃波が迫ってきたのだ。

 

 船体が揺れ、フレームがきしみ、計器が一瞬だけノイズを走らせる。

 

 「っっ!!」

 

 俺は操縦桿を押し込み、さらに加速した。

 

 外部カメラの映像が、赤黒い光に覆われた星の地表を映し出す。

 

 遺跡は影も形もなく、ただ燃え上がる肉塊と粉塵が渦を巻いていた。

 

 その中に、ザラクとナハト=マァドがいる。

 

 いや、もう形すら残っていないかもしれない。

 

 あの化け物も、そしてあの狂った狩人も。

 

 「ふぃ〜……危なかったな」

 

 吐き出す息が、コックピットの空気を少しだけ冷ます。

 

 指先に残る汗がべたつき、まだ心臓が落ち着かない。

 

 俺は計器を確認し、距離計の数字が安全圏を示しているのを見てようやく息を整えた。

 

 背後の爆心地は、赤黒い光と濃い粉塵に包まれ、その光すらもやがて宇宙の闇に飲み込まれていく。

 

 ――これで、任務は終わった。

 

 そう、少なくとも今は。

 

 俺はそのままアヌ族の母星に座標をセットし、操縦席を少し倒して背中を沈めた。

 

 「ふぅ〜……」

 

 なんとか、終わった。

 

 そう思いたいのに、胸の奥の熱はしばらく引かない。

 

 指先にはまだ汗が滲み、操縦桿のグリップがやけに湿って感じられる。

 

 呼吸を整えようと深く息を吸っても、肺の奥に張り付いた緊張が抜けきらない。

 

 毎回こうだ。

 

 冷静に、狩りの最後まで立ち振る舞うよう心がけてはいる。

 

 だが、任務が終わり安全圏に入った瞬間、抑え込んでいた本性――臆病な俺が、顔を出す。

 

 どうしようもなく逃げたくて、ただ生き延びたいという欲求が全身を支配する。

 

 誇りだの、名誉だの、戦士としての在り方だの、そんなものはその瞬間、遠い星の話のように霞んで消える。

 

 ――とにかく生き残りたい。

 

 それが俺の全てだった。

 

 物心がついた時から、いつだってそうだった。

 

 鍛錬場で砂埃にまみれ、骨が軋むまで体を動かしても、生き残るためだと思えば耐えられた。

 

 同じ年に生まれた仲間たちが成人の儀式で次々に命を落としていくのを見た時も、俺は必死に「自分は違う」と言い聞かせた。

 

 それでも心の奥底では、ただ「俺だけは死にたくない」と願っていた。

 

 その願いは、今も変わっていない。

 

 いや、むしろ年月を重ねるごとに強くなっている。

 

 百年以上も生き延びてきたのは、俺が優れた狩人だからではない。

 

 臆病だからだ。

 

 危険の匂いを、誰よりも早く嗅ぎ分ける嗅覚。

 

 危険が迫る前に距離を取り、退路を確保する慎重さ。

 

 相手が同族であろうが、異種族であろうが、俺にとって重要なのは一つ――生きて帰ること。

 

 エルダーも、オリオンも、アヌ族の誰も知らない。

 

 俺がそうやって生き延びていることを。

 

 いや、知ろうともしないだろう。

 

 彼らにとって俺は、ただ命令に忠実で、百戦錬磨の「粛清者」に過ぎないのだから。

 

 窓の外に、真空の闇と星々の瞬きが広がっていく。

 

 母星ユィタ=プライムまで、まだしばらくかかる。

 

 惑星間航路を示すナビゲーションが、自動で微調整を繰り返しながら滑らかに軌道を修正していた。

 

 俺はその光景を、ただ黙って眺めていた。

 

 ザラクの顔がふと脳裏を過ぎる。

 

 あの瞬間、俺は本能的に「死ぬ」と思った。

 

 あの化け物と一緒に俺も終わる、と。

 

 だが生き延びた。

 

 それが事実だ。

 

 生き延びるためなら、俺はどんな卑怯な手でも使う。

 

 例えそれが、同族を罠に嵌めて爆殺することでも。

 

 それが俺だ。

 

 ――俺は狩人ではなく、生存者なのかもしれない。

 

 そんな考えを振り払うように、操縦席の背もたれにさらに体を沈めた。

 

 目を閉じれば、船体の振動と微かな機械音が、心地良い眠気を運んでくる。

 

 今は、少しだけ眠ろう。

 

 母星に着けば、また新しい命令が降るだろう。

 

 それまでのわずかな時間くらい、戦士ではなく、一個の命としての俺でいさせてくれ。

 

 ピピッ。

 

 船内に小さく、しかしはっきりと響く通信受信音が鳴った。

 

 「……! 通信か……」

 

 全身が一瞬で緊張し、船体の重力制御よりも早く背筋を伸ばす。

 

 ついさっきまで半ば沈み込むように倒していた操縦席を起こし、呼吸を整える。

 

 「ゴホンッ……なんだ? オリオン」

 

 俺は咳払いをして、平静を装う声を作った。

 

 「どうやら任務は終わったようだな」

 

 通信越しのオリオンの声は低く、淡々としている。喜びも労いもない。

 

 この声色は昔から変わらない。どんな報告にも、褒めることはしないし、怒ることもほとんどない。ただ事実だけを確認する。

 

 「……あぁ、いつも通り始末した」

 

 そう返しながら、俺は意識的に声を低くした。オリオンの前で、少しでも弱さを悟られたくなかった。

 

 オリオンは俺の教育係だった男だ。幼い頃から、呼吸の仕方、獲物への近づき方、武器の構え、そして同族を殺す技術まで叩き込まれた。

 

 あの視線を思い出すだけで、今も背筋に冷たいものが走る。訓練中、ほんの一瞬でも迷いや怯えを見せれば、容赦なく殴り倒された。

 

 「ザラクは?」

 

 短く問う声に、俺の心臓が一瞬止まりかけた。

 

 「……消し飛んだよ。遺跡ごと」

 

 沈黙が、通信越しに流れた。

 

 オリオンは何も言わない。沈黙の中に、相手が何を考えているかを読むのは難しい。

 

 だが俺は知っている。この沈黙は、状況を頭の中で整理している時のものだ。

 

 ――嘘をついていると、気づかれてはいないだろうか。

 

 実際には、ザラクは爆発に巻き込まれる寸前だった。確証はない。あのバッドブラッドが生き延びている可能性はゼロじゃない。

 

 俺は視線を逸らすように、操縦席の外、星々の瞬きを見た。

 

 「そうか」

 

 オリオンの声が再び響いた。その一言がやけに重い。

 

 「お前が報告した通りなら、それでいい。……母星に戻れ。詳細は帰還後に聞く」

 

 通信が途切れた。

 

 ヘルメットの内側で、俺は思わず息を吐き出す。

 

 この瞬間、ようやく船内の空気が軽くなった気がした。

 

 だが安堵と同時に、心の底では別の感情がざわめいていた。

 

 ――あの沈黙の間、オリオンは何を考えていた?

 

 俺を完全に信じているはずがない。オリオンは俺を育てた。臆病で逃げ腰の俺の本性も知っている。

 

 ならば、俺が必要以上に「始末した」と強調すれば、その裏を探ろうとするはずだ。

 

 ユィタ=プライムに帰れば、間違いなく事情聴取が待っている。

 

 爆発の映像記録やセンサーのデータ、船の行動ログ……アヌ族はこういう記録を細かく照会する。

 

 俺は自分のガントレットに手を伸ばし、任務記録の一部を暗号化して隠す作業を……いや、やらなくて大丈夫か?

 

 ただ、生き延びるためには、戦場だけでなく、報告の場でも戦わなければならない。

 

 俺はそう思いながら椅子を深く倒し目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 オリオンは腕を組み、無言で映像を見つめていた。

 

 映し出されているのは、アビサルのバイオマスクから()()された任務の全記録だ。遺跡の外観、内部構造、遭遇した未知の生物、そして標的ザラクとの接触。すべてが鮮明に再生されていく。

 

 「……あのザラクがここまで堕ちていたとはな」

 

 静かな呟きとともに、オリオンは大きく息を吐いた。

 

 ザラクはかつて、複数の部族の狩りで名を馳せた熟練の戦士だった。動きは鋭く、判断は速く、そして誇り高い。少なくとも、そう記憶していた。

 

 だが、今映像に映るザラクは、獲物を捕らえ苗床とし、異形の怪物を孵化させ、巣の主のようにそれらを使役していた。名誉も掟も捨て、狩りをただの愉悦に堕とした存在。

 

 「……」

 

 その所業は、アヌ族の掟から見れば論外だ。だがオリオンが深く息を吐いた理由は、それだけではない。

 

 映像に映るアビサルの動きが、僅かに不自然に見えたのだ。戦い方は教え込んだ通り、無駄がない。だが、時折生じる間合いの空白、逃げの姿勢。それは昔からの彼の性質――臆病さが、今も消えていない証拠だった。

 

 「アビサルはどうだ?」

 

 背後から低い声が響く。オリオンはわずかに顔を上げ、ゆっくりと振り返った。

 

 そこに立っていたのはエルダーだった。

 

 プレデター特有の太いドレッドヘアーは年輪のように染まり、今は深い青を帯びている。露出した肌には皺が刻まれているが、その瞳には衰えの兆しはない。むしろ年を重ねた分、獲物を見据える刃のような鋭さを増しているように見えた。

 

 「いつも通り、着実に、片付けています」

 

 オリオンは淡々と答える。言葉に余計な感情を混ぜない。

 

 「うむ……そうか」

 

 エルダーは短く頷き、視線を映像へと戻した。ザラクがナハト=マァドの群れの中に消える瞬間、そして直後の爆発。

 

 「爆風の中心にいたのなら、生き残る術はないはずだな」

 

 「……そのはずです」

 

 オリオンは即答したが、内心ではわずかな引っかかりを覚えていた。

 

 任務の映像には、ザラクが爆発に呑まれる直前の姿が映っている。だがその直後、爆発光の中で何かが動いたようにも見えた。解析すれば、細部まで確認できるかもしれない。

 

 だが、それをするのは今ではない。

 

 エルダーは任務の完了だけを見ている。ザラクが死んだかどうかの確証よりも、アビサルが生還し、報告したという事実を重視しているのだ。

 

 オリオンはその姿勢を理解していた。だが同時に、自分は教育係として、より深く掘るべきだとも思っている。

 

 ――アビサル、お前は何を隠している?

 

 彼の育て方は特殊だった。普通なら潰れてしまうような圧迫と訓練を、あえて生かす形で施した。臆病な本性を殺すのではなく、それを利用して生き延びる術へと変換する。

 

 だからこそ、アビサルは生き残る。だがそれは同時に、己の判断で掟を曲げる危険性も孕んでいる。

 

 「オリオン」

 

 再びエルダーの声が響く。

 

 「はい」

 

 「アビサルの次の任務は……お前が選べ」

 

 オリオンはわずかに目を細めた。

 

 それはつまり、教育係として、アビサルの行く末をさらに試せという意味だ。掟に従い、同族を討ち続けるか。それとも――。

 

 「承知しました」

 

 返答は短く、感情を排したものだった。

 

 だがその胸の奥で、何かが静かに動き始めていた。

 

 エルダーが背を向け、ゆっくりと部屋を後にする。その背中が扉の向こうに消え、静寂が戻った瞬間、オリオンは深く息を吐き出した。

 

 広間に漂っていた威圧的な空気が消え、代わりに自身の思考の音だけが響く。机上に置かれた端末はまだ、アビサルの任務記録を停止したまま光を落としていた。

 

 オリオンは腕を解き、背もたれに体を預けながら、再び記録の中でのアビサルの動きを脳裏に描き直した。

 

 ――動きそのものは問題ない。

 

 最初の接触、敵の位置の特定、狭所での立ち回り、すべてが基礎に忠実だった。だが、その合間に見え隠れする()()の臆病さ――それは決して消えてはいなかった。任務中、危険の匂いを嗅ぎ取った瞬間に身構える反応がわずかに早すぎる。間合いを詰める前に一瞬の躊躇が走る。その癖は、教育の過程で完全に矯正できなかった。

 

 だが、それこそがアビサルを生かしてきた要因でもある。臆病さゆえに引き際を見極め、無駄な突撃を避け、確実な一撃だけを選ぶ。今回の広域殲滅爆弾の使用、退避ルートの確保、そして船に乗り込んだ直後のエネルギー砲の発射――これらは単なる臆病者にはできぬ判断だ。恐怖と冷静さを同時に抱え込む、その異質な戦士としての資質。

 

 「船の主砲に広域殲滅爆弾……あのザラクでも生きてはいまい」

 

 低く呟き、喉をわずかに咳払いして声を整える。爆発の規模から見ても、あの場に残った者が生還できるとは考えにくい。だが、戦場では“絶対”という言葉は存在しない。万一という言葉が常に付きまとう。

 

 オリオンは立ち上がり、記録端末の電源を落とした。薄暗い室内にわずかな機械音が消え、重い沈黙が落ちる。

 

 廊下に出ると、母星ユィタ=プライムの大聖堂特有の金属と石を組み合わせた冷たい空気が肌を撫でた。壁面には部族の歴史を刻んだ彫刻が並び、通路の奥では若い戦士たちが儀礼の巡回を行っている。

 

 ――アビサルの次の任務か。

 

 エルダーはその選定を自分に委ねた。つまり、これは試練の継続を意味する。今までのようにバッドブラッド狩りに送り出すか、それとも別の狩場で、別種の危機に晒すか。選択ひとつで、アビサルの未来は変わる。

 

 オリオンは歩みを止め、ふと天井の高窓から差し込む橙色の光を見上げた。母星の恒星が傾き、赤みを帯びた光が大聖堂の廊下を染めていく。あの光の中に、かつて自分が育てた他の弟子たちの姿が脳裏に蘇る。生き残った者はわずか数名、残りは名誉ある死か、掟による処刑だった。

 

 アビサルはその中で異端だった。生き残ることに異常なまでの執着を見せ、同時にそれを恥じない。普通なら臆病は蔑まれる。だが、彼はそれを力として使い続けた。

 

 ――だが、あれがいつまで保つか。

 

 脆さと強さは表裏一体。臆病さが強すぎれば戦意を失い、強さが臆病を覆えば慢心する。バランスを崩せば、あっけなく命を落とすだろう。

 

 廊下を進み、武具庫へと向かう。任務の内容に応じて装備を調整するのは教育係の役目だ。次の任務では、あえて長距離戦闘用の武装を外し、近接主体で挑ませるのもいい。恐怖と距離を奪われたとき、彼がどう動くかを見極めるためだ。

 

 「……少し楽をさせてやるか」

 

 そう呟く声は、柔らかく響いた。だがその“楽”は、アビサルにとって本当の意味で楽になるかどうかは分からない。オリオンの目は、すでに次の狩場と獲物を選び始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァックショゥオ〜ン!!!」

 

 盛大なくしゃみが船内に響いた。鼻の奥がつんと痛む。マスクのフィルターを通しても匂いが残っている気がする。ナハト=マァドとザラクの血と肉の匂いが、まだ鼻腔にこびりついて離れない。気がする。

 

 「……ったく、やっぱり遺跡の空気は性に合わねぇ」

 

 操縦席に腰を落ち着け、背もたれにだらしなくもたれかかる。目の前には母星ユィタ=プライムへの航路が表示され、星図の線が静かに点滅していた。俺はガントレットの端末を軽く叩き、オートパイロットを確認する。

 

 戦闘が終わった後というのは、決まってこの妙な脱力感が襲ってくる。さっきまで命のやり取りをしていたというのに、こうして座ってしまえばただの静かな空間だ。急に気が抜けて、眠気さえ湧いてくる。だが、脳裏にはザラクの顔と、あの広間の異様な光景がまだ鮮明に焼き付いていた。

 

 ――生き残った、また。

 

 俺はいつもそうやって、自分に言い聞かせる。勝ったとか、討ち取ったとかじゃない。とにかく生き残った。それだけが俺の評価基準だ。エルダーだって、オリオンだって、きっとそんな本音は知らない。いや、知られたら軽蔑されるに決まっている。臆病な戦士なんて、ヤウジャの歴史から見れば恥に等しい。

 

 でも俺は、どう思われても構わない。名誉なんかより、俺にとっては呼吸できる空気と鼓動の方が価値がある。名誉のために死ぬくらいなら、笑われても逃げて生き残る。それが俺だ。

 

 「……っと、何だ?」

 

 ガントレットの端末に新しい通信の通知が点滅した。発信元は――オリオンだ。またか……俺は慌てて姿勢を正し、胸を張る。

 

 「ゴホンッ……何か用か、オリオン」

 

 『……映像を見た。ずいぶん派手にやったな』

 

 「まぁな。遺跡もザラクも、もう跡形もないだろう」

 

 自分でも少し誇らしげに言った。だが、内心では“多分”とか“おそらく”という言葉が頭をよぎる。あんな化け物じみた相手、完全に死んだと断言できる保証なんてどこにもない。それでも、口では堂々と振る舞う。それもまた俺が生き延びるための術だ。

 

 『次の任務は……』

 

 オリオンの声が一拍だけ間を置く。その間が妙に長く感じられて、背中に冷や汗が滲む。まさかまたバッドブラッド狩りじゃないだろうな――と、胸の奥がざわつく。

 

 『……まあ、話は帰ってきてからだ』

 

 「……了解」

 

 通信が切れると、また船内に静寂が戻った。俺は背もたれに沈み込み、長く息を吐く。次の任務のことなんて今は考えたくない。

 

 窓の外には深い宇宙の闇が広がっている。遠くの星々が瞬き、無数の光点がゆっくりと流れていく。その光の中に、過去に倒した敵たちの影がちらついた。中には今でも夢に出てくる奴らもいる。追い詰められた顔、必死の抵抗、そして死ぬ間際の目――。

 

 俺は目を閉じて首を振る。忘れろ。そういうものを抱えて生きていくのは性に合わない。戦士としてはどうか知らないが、俺は狩りを楽しむために生きているわけじゃない。俺はただ、生き残るために戦う。それだけだ。

 

 「はぁ……飯でも食うか」

 

 立ち上がり、船内の補給庫から乾燥肉を取り出す。口に放り込み、咀嚼しながら再び操縦席に戻った。船は静かに母星へと進んでいる。今だけは、何も考えなくていい時間だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。