養殖が天然に勝てると思うなよ?【本編完結】   作:物体Zさん

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本気さ。僕はね、予想外が好きなんだ

 

 

 

 母星に到着した。

 

 船体が着陸パッドにゆっくりと降下し、金属の脚が地面に触れた瞬間、わずかな衝撃が船全体に伝わった。機体の振動が収まり、ハッチが開くと、外の熱気と懐かしい匂いが一気に流れ込んでくる。ユィタ=プライムの空気だ。薄い硫黄と甘い果実のような匂いが混ざった、俺たちアヌ族にとっては安堵を感じさせる香り。

 

 俺は船を降り、整備係たちに指示を出す。

 

 「燃料の補給とエネルギー回路の点検を頼む。あと、船体の外装も見ておけ。酸でどこか侵食されてるかもしれん」

 

 整備係たちは黙々と頷き、すぐに作業を始めた。重い足音と金属工具の音がパッドに響く。俺はそれを背に、ゆっくりと大聖堂へ向かって歩き出した。

 

 道の両脇には高くそびえる黒樹が生い茂り、その根元では小型の捕食獣が蠢いている。油断すれば脚を食いちぎられそうな連中だが、母星に住む俺たちにとっては日常の風景。幼い頃、何度もあの顎に噛みつかれそうになりながら生き延びてきた。俺はああいう環境で育ったからこそ、今こうして生き残れているのだと思う。

 

 ユィタ=プライムは、プレデターにとって理想的な星だ。重力は適度に高く、常に身体を鍛え続けることになる。気候は温暖で湿度も高く、筋肉を緩めることなく活動できる。そして何より、この星は危険に満ちている。森や山、海に至るまで凶暴な生物が溢れ返り、弱者を容赦なく淘汰する。俺たちの種族にはこれ以上ない鍛錬の場だ。

 

 今のアヌ族のエルダーと、オリオンを含むかつての大狩猟団(クラン)――その連中がこの星を発見し、移住したのがすべての始まりだったと聞く。初めてこの地に降り立った時、彼らは数え切れぬ仲間を失いながらも定住地を築き、そこからアヌ族の歴史が始まったらしい。俺が生まれた頃にはもう、母星としての形が出来上がっていた。

 

 幼少期は、生き延びるために毎日が戦いだった。森で待ち伏せする巨大な虫、夜になると巣から這い出す獣、空から急降下してくる有翼の捕食者。どれも牙と爪を持ち、油断すれば即死だ。俺たちはそれらを狩って食い、牙や骨を武器や装飾品に変え、少しずつ生きる術を身に付けていった。仲間の中には途中で命を落とす者もいたが、それは誰もが当然のこととして受け入れていた。

 

 そして今、俺はその過酷な環境を抜け、こうして任務をこなして帰還している。大聖堂の巨大な影が視界に入ってきた時、自然と歩幅が落ちた。ここに入るたび、妙に胸がざわつく。任務の報告をする場所でもあり、次の命令が下される場所でもあるからだ。

 

 ……さて、今回の報告はどうまとめるべきか。ザラクのこと、ナハト=マァドのこと、遺跡で見たあの巣の有様。全部正直に話すべきか、それともある程度伏せるか――。俺の臆病な性格は、こういう時いつも後者を選びたがる。だが、オリオンには誤魔化しは通じないだろう。というかもう全部知られてるかもしれない。

 

 俺は深く息を吸い込み、大聖堂の正面階段を一段ずつ上った。巨大な扉の前で立ち止まり、その冷たい金属の表面に手を置く。これからまた、次の狩りが始まるのかもしれない――そんな予感を抱きながら、俺は扉を押し開けた。

 

 中に入り、()へと繋がるエレベーターに向かい乗り込む。

 

 足元の金属床が、俺の体重と装備の重みをしっかりと受け止め、低く鈍い音を響かせた。壁面には熱を帯びた模様が浮かび、内部の配管を通るエネルギーが薄く脈動しているのがわかる。無言で閉じるボタンを押し、扉が静かに閉まりかけたその瞬間――。

 

 「おっと、僕もいいかな?」

 

 金属音を立て、閉まりかけた扉に大きな手が差し込まれる。扉はすぐさま反応し、再び開いた。そこから入ってきたのは、背の高い、まだ若いプレデターだった。

 

 「……あぁ」

 

 俺は一歩退き、スペースを空ける。そいつは軽く頷き、エレベーター内に滑り込んだ。装飾の付き方やバイオマスクの形状から、アヌ族ではないことはすぐにわかった。マスクのラインは鋭く、装飾の金属は淡い銀色。胸当てに刻まれた紋章が目に入る――恐らく、列強部族と名高いプライム族の出だ。

 

 歳は俺と同じくらいか、少し下かもしれない。だがその佇まいには、妙に落ち着きと自信があった。

 

 「悪いね。僕はウルフ。この辺りを担当することになった掃除屋(ザ・クリーナー)さ」

 

 「掃除屋? クリーナーか。若いのに大変な仕事に就いたな」

 

 クリーナー――それは戦場や狩場の痕跡を消し、外部への情報流出を防ぐ任務を担う者たちだ。中でもプライム族のクリーナーは、失敗が許されない現場に派遣されることで有名だ。若くしてその役に就くのは、それだけ能力が評価されている証でもある。

 

 「まぁ、大変っちゃ大変だけどね」

 

 ウルフは軽く笑ったような仕草を見せ、壁に背を預けた。その態度はどこか余裕を感じさせる。だが、俺は直感的に悟った。こういう奴は、笑みの裏に何層もの思惑を隠している。

 

 エレベーターが動き出す。下層の蒸し暑さから、上層の乾いた空気へと変わっていくのがわかる。俺は視線を少しだけ横に向け、彼の装備を観察した。胸当てには刃こぼれ一つないコンパクトなスピア、腰には最新型のディスク。ガントレットは俺の型より新しく、複雑な彫金が施されていた。見ただけで、それが戦闘用というより儀礼と威圧の意味も持つ高位仕様だとわかる。

 

 「アヌ族のアビサル、だろ?」

 

 「……何で知ってる」

 

 「こっちの仕事柄ね。任務記録はある程度目を通すことになってる。ザラクの件、大変だったらしいじゃないか」

 

 その名を口にされ、胸の奥にわずかな緊張が走る。俺は表情を変えないよう努めた。

 

 「大変ってほどでもない。ただ、少し汚い狩りになっただけだ」

 

 「ふぅん……君、そういう時でも生き残るのが得意そうだ」

 

 挑発とも取れる言葉。だが声色は穏やかで、むしろ観察するような響きがあった。俺は返事をせず、視線を正面に戻す。

 

 エレベーターの速度が緩み、上層に近づいていく。天井の光が強まり、外の大聖堂の光景がガラス越しに見えてくる。複雑な彫刻の回廊、歴代のエルダーの名が刻まれた石碑、そして天頂の青白い光球――ここがユィタ=プライムの中心、権威と掟の象徴だ。

 

 「君がどう動くのか、ちょっと興味があるんだ」

 

 不意にウルフがそう言った。俺は一瞬だけ眉を動かし、短く返す。

 

 「……興味本位で近づくと、痛い目を見るぞ」

 

 ウルフは口元を覆うマスク越しに、笑った気配だけを残した。

 

 その時、エレベーターが上層階に到着する音が響き、重厚な扉が開いた。熱気と乾いた風が入り混じる空気が流れ込み、俺たちは同時に一歩踏み出した。

 

 エルダーのいる場所は大聖堂の最上階。そこからはアヌ族の街全てを一望できる。高くそびえる塔の最上層に位置するその部屋は、まるで支配者の眼のように街を見下ろしていた。地下の重苦しく湿った空気とは違い、此処は開放感があり、温暖で乾いた風が常に流れ込む。部族の者なら誰でも訪れることが許されるが、それでもこの場所に足を踏み入れる時は背筋が伸びる。

 

 「僕もエルダーに話があるんだ。同席いいかな?」

 

 「構わん」

 

 ウルフの声は柔らかく、どこかお兄さんめいた落ち着きがあった。その口調が自然と警戒心を削いでくるのが妙に不気味だ。普通、初対面でこの距離感を詰めてくるヤツは信用できない。だが、それを表に出すと面倒になる。俺は視線を前に向けたまま、黙って足を進めた。

 

 高い天井を支える柱の間を抜け、扉の前に立つ。扉の両脇には、古代の狩猟具を模した巨大な槍が飾られており、両端には儀礼用の炎が灯されている。その炎がマスクのレンズに反射し、一瞬俺とウルフの顔が重なった。

 

 扉を開け、中へ入る。

 

 部屋にはエルダーと、その横に立つオリオンの姿があった。エルダーは年輪を刻んだような皺のある顔だが、その瞳には衰えの色は一切ない。背後の大窓から差し込む光が彼の輪郭を際立たせ、威厳をより一層増していた。

 

 「きたか」

 

 オリオンが振り向き、低く声をかけてきた。俺は無言で一歩前に出て、任務報告を始める。

 

 「……確認済みだろうが、任務は完了した」

 

 「あぁ」

 

 短いやり取りだが、これで形式上の報告は終わりだ。俺は早くこの場を離れようと踵を返す。

 

 ――が。

 

 「待て」

 

 オリオンの声が背中に刺さる。ちくしょう、こうなる予感はしていた。

 

 「話があると言ったろう」

 

 「わかったよ」

 

 仕方なく振り向くと、オリオンがエルダーに視線を送った。

 

 「ではエルダー」

 

 「う…うむ…」

 

 エルダーはわずかに顎を動かし、俺に告げる。

 

 「新しい任務を伝える。プライム族の新任掃除屋、ウルフと共に護衛任務を行え」

 

 「護衛任務…?」

 

 「そうだ。創造種族による生命循環の儀式が、地球という新たに見つかった星で行われる。そこまでエンジニアの護衛だ」

 

 エンジニア――創造種族。俺たちヤウジャが尊ぶ存在であり、時には畏れ、時には利用する相手。儀式の内容までは知らされないが、地球という未知の星で行われるという時点で、平穏な任務ではないことはわかる。

 

 俺はウルフに視線を向ける。マスク越しでも彼が笑っているのがわかる。だが、その笑みが何を意味するのか――まだ掴めなかった。

 

 「生命循環の儀式がどんなものか知っているか?」

 

 エルダーはガラス窓越しに街を見下ろし、背を向けたまま問いかけた。

 

 その姿は高所から世界を俯瞰する王のようであり、同時に何かを試す教師のようでもあった。

 

 「僕は知らないですね。ただ、“偉大なる所業”とだけ」

 

 ウルフが軽く肩を竦めて答える。その声色は柔らかいが、ほんの僅かに緊張の色が滲む。

 

 俺はさっぱり分からない。エンジニアがどんな奴らかは知っているが、儀式が何なのかまでは知らない。

 

 エンジニア――白く、つるりとした肌を持つ人間に似た種族。身長は二メートルから三メートルにも及び、この宇宙の()()()を創造したとされる存在。だからこそ「創造種族」と呼ばれている。

 

 だが、そんな神々しい響きを持つ呼び名に反して、彼らは決して優しい存在ではない。掟を破れば、黒き雨を降らせてすべてを滅ぼす。無慈悲で、冷徹で、意志の読めない化け物。それが俺の知るエンジニアだ。

 

 「プライム族といえど、これは秘中の秘だ。ただ、エンジニアと関わることになるのであれば知っておいてもよい。アビサルも聞け」

 

 「……」

 

 正直、帰りたい。こういう話は嫌な予感しかしない。任務が増えるか、ややこしい事態に巻き込まれるか、その両方だ。

 

 エルダーの声が部屋に重く響く。

 

 「エンジニアがこの宇宙に現存するすべての生命の創造主……というのは既に知っている事だろう。しかし厳密にいえば、エンジニアはただの“触媒”にすぎない」

 

 その言葉に、横に立っていたウルフの身体がわずかに震えた。ほんの一瞬だが、確かに肩が動いたのを俺は見逃さなかった。まるで何か禁忌に触れたかのような反応だ。そんなに驚くことなのか?

 

 「生命循環の儀式とは――ディーコンの血をエンジニアが飲み干し()()()()()行われる生命創造だ」

 

 ……は?

 

 その言葉の意味を頭の中で何度も反芻する。ディーコン、あの怪物の血を飲んで死ぬ?そして、それが生命創造?

 

 俺の知識では、そのディーコンという生物はゼノモーフに似た形状を持ち、異常な再生力と攻撃性を誇るとされている。それの血を飲めば、普通は一瞬で死ぬ。いや、死ぬどころか肉体は内側から溶かされ、跡形もなくなるだろう。どこかの星では山のように大きいディーコンが跋扈しているという噂も聞いたことがある。

 

 そんな行為が儀式であり、生命創造だというなら……エンジニアの存在そのものが狂気に満ちている。

 

 ウルフが小さく息を吸い、俺に視線を向けた。マスク越しだが、その目はどこか探るようで、同時に覚悟を決めたようにも見えた。

 

 エルダーは続ける。

 

 「儀式の場に立ち会うということは、創造と破壊の境界に触れるということだ。お前たちは、その“境界”を守るのだ」

 

 ……守る?何を?誰から?

 

 俺の胸の奥で嫌な鼓動が鳴る。こういうとき、過去の経験から学んだ直感が叫ぶ――「行きたくない」と。

 

 だが、アヌ族として命令は絶対だ。

 

 そして、この場にはウルフもいる。妙に笑みを崩さないこの男と共に任務をこなすことになるらしい。

 

 なんだよ……また面倒なことになった。

 

 「地球は見つかったばかりで未開だ。生命の兆しはなく、生命創造にうってつけという事で選ばれた」

 

 オリオンが腕を組み、淡々と告げた。

 

 その声には抑揚がほとんどない。まるで、この星が生命を生み出す舞台になることも、そこにどんな危険が潜もうとも、すべて既定路線であると言わんばかりの響きだった。

 

 俺はその響きに、じわりと胸の奥を締め付けられる感覚を覚えた。こういう時のオリオンは、聞く者に逃げ道を与えない。冷静であるがゆえに、こちらの心を揺らす。

 

 「地球ですか……水と岩と植物しかない星ですね。でも…まさか“偉大なる所業”がそういう事だったとは……まさしく偉大ですね」

 

 ウルフが小さく笑みを浮かべ、軽やかな声で言った。柔らかい声色は部屋の緊張感をわずかに和らげる……はずなのに、俺は逆に落ち着かなくなる。

 

 なんだろう、この人懐っこい雰囲気。演技めいた自然さ、とでも言えばいいのか。警戒心が削がれるようでいて、その実、何かの仮面を見せられているような気分だ。

 

 「エンジニア(創造種族)に護衛なんて必要ないだろう」

 

 俺はムスッとした顔で言い放った。半分は疑問、半分は苛立ちだ。エンジニア――創造種族。掟を破れば黒き雨で星ごと滅ぼす、無慈悲な存在だ。あんな化け物に護衛など必要あるはずがない。護衛が必要なのは、力なき者か、事情を抱える者だけだ。

 

 しかしオリオンは、その言葉を否定しなかった。

 

 「必要なのだ。地球での儀式は、外部からの干渉を許してはならない」

 

 視線だけをこちらに向ける。低く短い言葉だが、その目は「これ以上は問うな」と言っていた。俺は舌の奥に引っかかった反論を飲み込み、黙る。

 

 胸の奥に嫌なざわめきが広がる。この感覚は何度も経験してきた。直感が告げている――「これは面倒ごとになる」と。狩猟で培った勘は滅多に外れない。そして今、その勘は確実に赤信号を灯している。

 

 横目でウルフを窺う。こいつはまだ口元を緩めている。無知ゆえか、それとも同じ予感を抱きながら隠しているのか。もし後者なら、こいつは相当な役者だ。

 

 「護衛とはいえ、相手はエンジニアだ」

 

 エルダーが静かに口を開く。その声は石壁のように重く、揺るがない。

 

 「戦うための任務ではない。だが、儀式を乱す存在がいれば、容赦なく排除せよ」

 

 簡潔だが、その裏に込められた意味は明白だった。――儀式に近づく者は、種族を問わず敵と見なす。

 

 俺の脳裏に、まだ見ぬ地球の情景が浮かぶ。荒れた大地、深い森、その中心に立つ巨大なエンジニア。そしてその周囲に立つ俺たち。そこへ現れる“何か”。その瞬間を想像するだけで、背筋を冷たいものが走る。

 

 「……了解した」

 

 短く答えた。言わされる前に口にしただけだが、この時点で俺の未来はさらに重くなった。任務の詳細はまだ明かされていない。だが一つだけ分かる。――地球行きは、絶対に平穏では終わらない。

 

 

 

 そうして俺とウルフは部屋を出た。

 

 エルダーとオリオンの視線が背中に刺さる感覚を引きずりながら、無言のままエレベーターに乗り込む。閉まる扉が金属の音を響かせ、その瞬間から沈黙が支配した。外の景色も見ず、互いに言葉を探すでもなく、ただ足元の微かな振動だけが時間を刻んでいく。

 

 やがてエレベーターが地上階に到着し、扉が開いた。大聖堂の荘厳な回廊を抜け、外に出る。昼の光が鎧に反射し、冷えた金属が一瞬温もりを帯びた気がした。

 

 ウルフは階段を降りながら、ポツリと呟く。

 

 「いやぁ、まさか掃除じゃなくて護衛を頼まれるなんてね。アヌ族に挨拶に行けっていうから来たのに、任務を言い渡されるとは……面白いね」

 

 ――どこがだよ。

 

 心の中で思わず叫んだ。面白くもなんともない。むしろもう既に面倒くさい予感しかしない。しかも相手はエンジニアだぞ?あの無慈悲な創造種族。下手に怒らせれば黒い雨で星ごと終了バイバイキーンだ。冗談抜きで命がいくつあっても足りない。

 

 「お前、本気でそう思ってんのか?」

 

 俺は階段を降りながら横目でウルフを見た。こいつは本気で笑っている。柔らかく、自然体の笑み。だが俺の経験上、こういう奴は二種類いる。本気で何も考えてない奴か、全てを計算した上でその表情を選んでいる奴か。どちらにせよ、付き合うには面倒くさいタイプだ。

 

 「本気さ。僕はね、予想外が好きなんだ。予想通りじゃ退屈だろ?」

 

 軽い口調でそう返してくる。俺は溜め息を吐く。予想外なんて、戦場じゃほぼ死因と同義だ。そんなスリル、好んで味わいたくはない。俺はただ生き延びたい。それだけだ。

 

 階段を降り切ると、広場が広がっていた。ユィタ=プライム特有の温暖な空気が、鎧の隙間から入り込む。遠くで子供たちが訓練用の槍を振るっているのが見える。その光景は平和そのものだが、俺の胸は落ち着かなかった。

 

 「で、君は?」

 

 ウルフが唐突に聞いてきた。

 

 「何がだ」

 「護衛任務、楽しみかって話」

 

 楽しみなわけがない。だが、ここで正直に「全く楽しみじゃない」と言えば、こいつに余計な突っ込みを入れられる未来が見える。だから俺はただ、「……まあな」とだけ答えた。

 

 ウルフは口元を緩め、「そっか」と一言。それ以上は何も言わない。その沈黙が逆に気味悪い。

 

 広場の端まで来た時、俺はふと立ち止まった。空を見上げると、母星の雲はゆっくりと流れ、その向こうに小さく別の惑星が見える。あの中の一つが、これから向かう地球だ。

 

 ――本当に行くのか、あんな所に。

 

 胸の奥に嫌な重みが居座る。それは緊張でも恐怖でもなく、もっと生々しい「生き延びたい」という本能から来るものだった。俺はその重みを押し込めるように、再び歩き出した。

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