養殖が天然に勝てると思うなよ?【本編完結】   作:物体Zさん

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感想、評価ありがとうございます!!ブラックGoo!!!


揃いも揃って臆病者扱いか

 

 

 

 「アビサル、戻った……」

 

 俺は母星に帰還し、大聖堂の奥にあるエルダーの私室にいた。

 

 椅子に腰掛けたエルダーは、目を閉じて低く呟く。

 

 「タウ・ヴォランティスで起きた事、確認した」

 

 「あれは……なんなんだ?」

 

 頭にこびりつく異形の姿、そして惑星そのものが凍り付いていった光景。だがそれがどういう理で起きているのか、俺には理解できない。

 

 エルダーは静かに応じた。

 

 「お前がエンジニアの護衛任務に赴いてから、暫しの時が経ったな」

 

 護衛任務――あれと関係があるのか、あの仕事からはすでに数世紀が経過している。

 

 「エンジニアはディーコンの血を用いて生命を創造する。それは今も昔も変わらん。だが、彼らも時に己の命を削ることを恐れた。犠牲を厭ったのだ」

 

 嫌な気配を孕んだ話に、俺は無意識に息を詰める。

 

 「星を滅ぼすために奴らが放つ黒き雨……あれをお前も知っていよう。ブラックグーと呼ばれるものだ。だがあれは元来、兵器ではなかった。ディーコンの血を模倣して造られた、いわば模造品だ」

 

 エルダーは立ち上がり、窓辺に進む。眼下に広がる街を見下ろしながら言葉を継いだ。

 

 「ヤウジャに部族があるように、エンジニアにも派閥がある。宇宙の均衡を護ろうとする保守派と、積極的に創造と破壊に手を伸ばす急進派だ。ディーコンの血は無限ではない。ディーコンと呼ばれる超常の存在から採取するが、それが死ねば血もまた尽きる。だから急進派は血に代わる創造の手段を探し、そして作り出した」

 

 脳裏にタウ・ヴォランティスで見た地獄の光景が蘇る。

 

 「まさか……あの怪物たちがそれなのか?」

 

 だがエルダーはゆっくりと首を振った。

 

 「違う。あれは過程にすぎん。奴らが創ったのは――マーカーだ」

 

 マーカー?なんだそれは……目印のことか?いや、どう考えてもそんな呑気な話じゃない。

 

 エルダーは静かに、しかし重々しく言葉を紡いだ。

 

 「マーカーとはエンジニア共が死にゆく星の核から造り出した忌まわしき物体よ。それは生命の進化を促し、知的生命を生み出す。そこまでは良かった。だが、マーカーには自らを増殖させ、広がろうとする性質があったのだ」

 

 俺は思わず顔を歪めた。進化を促す?知的生命を生む?一見すれば悪くない話に聞こえるが、エルダーの声音はまるで毒を含んでいた。

 

 「増殖って……まさか」

 

 「そうだ。マーカーは知的生命体を特殊な感応波動で操り、狂気に堕とす。そして互いを殺し合わせ、死体を生み出す。その死体を異形へと変貌させるのだ」

 

 俺の頭に、タウ・ヴォランティスで遭遇したあの怪物が蘇った。両腕が鎌に変わり、顔も胸もぐちゃぐちゃに潰れ、肉と骨が意味不明な形でねじくれたあれだ。あれが、マーカーによる仕業だったのか。

 

 エルダーは続ける。

 

 「お前が見た異形は、まさにその産物だ。お前は《ネクロモーフ》と呼んでいたな……的を得ている。今後はその名で呼ぶとしよう」

 

 俺は両手を広げて叫んだ。

 

 「ふざけるな!そんな化け物じみたモンが、どうしてタウ・ヴォランティスにあったんだよ!?あそこは宇宙最強の娯楽星だったんだぞ!?みんな笑って酒飲んで、遊んで、欲望に溺れていればよかったんだ!なんであんな地獄に変わった!?」

 

 俺の声は反響し、私室の石壁に木霊した。休暇を奪われたんだ。黙ってられない。

 

 エルダーは目を閉じて、重く吐息を零した。

 

 「……急進派のエンジニアが置いていったのだろう。あるいは、もっと古い時代に……何故あれが街にあったのか分からん」

 

 俺は言葉を失った。急進派……またか。

 

 「マーカーは造られた場所から拡散し続ける。そして文明を狂気に沈める。タウの民は最期に惑星を凍結させて封印した。だが……」

 

 「だが?」

 

 「その封印がいつまで続くかは分からん。外から干渉があれば、また同じ惨劇が繰り返される」

 

 俺は無意識に拳を握り締めた。頭の中に、街で見た人々の顔が浮かぶ。笑顔で飯を食い、踊っていたあの光景が、一瞬で血と肉に塗れた地獄に変わった。全て……あの黒い物体のせいか。

 

 「クソッ……」

 

 心臓が嫌な鼓動を打ち続ける。怒りと、そしてどうしようもない無力感。

 

 「エルダー。……もしもだ。もしも、あのマーカーが他の星にもあるとしたら?」

 

 恐る恐る問うた俺に、エルダーは目を閉じ、ゆっくりと首を縦に振った。

 

 「あるとも。マーカーは一つではない。宇宙の至る所に散らばっている。お前が見たのはほんの一端に過ぎぬ」

 

 俺は絶句した。

 

 タウ・ヴォランティスで見た惨劇は偶然じゃなかった。あれはただの序章。マーカーが存在する限り、宇宙のどこでも同じ地獄が繰り返されるってことか。

 

 エルダーはさらに言った。

 

 「ネクロモーフは単なる怪物ではない。マーカーの意志に従い、生命を狩り、死を撒き散らし、やがては収束を起こす。それこそが奴らの本質だ」

 

 収束――聞き覚えのある嫌な言葉だ。タウ・ヴォランティスで、街にいた狂信者どもがよく口にしていた。あれが……全てマーカーの導きによるものだというのか。

 

 「……やめろよ。勘弁してくれ。もう、バッドブラッド狩りで手一杯なんだぞ。マーカーなんて怪物工場まで相手にする余裕なんてない」

 

 俺は額に手を当てた。だが、内心分かっていた。もう関わらざるを得ない。あの黒い遺物が宇宙に点在してるなら、いつか必ず俺の目の前に現れる。逃げられるわけがない。

 

 「お前の戦いはこれからだ、アビサル」

 

 エルダーの声が鋭く俺の胸に突き刺さった。

 

 なんでだよ!?

 

 宇宙を蝕む病原のような存在、マーカー。

 そしてその産物、ネクロモーフ。

 

 俺は知らず知らずのうちに奥歯を噛み締め、己の爪が掌に食い込むほど拳を握っていた。

 

 「エルダー、ヤウジャがどうにかできる問題じゃないだろう」

 

 俺は堪えきれず言った。ネクロモーフだのマーカーだの、もはや狩猟の範疇を越えている。あれは災害そのものだ。

 

 「そうだな」

 

 エルダーは静かに頷いた。その横顔は重く沈み、俺の心臓に冷たい石を押し付けられたような感覚を与えた。

 

 「ブラックマーカーは我らの力では破壊できぬ。それを生み出したもの、エンジニアのみが破壊することができる」

 

 やはりか……俺も薄々わかってはいた。あれは獲物じゃない。戦って勝てる類じゃない。狩人の矜持や技量を超えた存在。

 

 「エンジニアには既に知らせてある」

 

 その言葉を聞いて、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。だが同時に疑念も湧く。

 

 「本当に……動くのか?エンジニアが」

 

 俺は問わずにはいられなかった。あの連中のことは知っている。護衛任務で見た。彼らは高貴で知恵も力もあるが、同時に狂気と傲慢を孕んでいる。自らの実験に酔いしれ、星を犠牲にすることさえ平然とやる。

 

 「動く。だが……」

 

 エルダーは一拍置き、瞼を細めた。

 

 「奴らは保守派と急進派で分かれている。保守派はマーカーを封じ、星の均衡を守ろうとするだろう。だが急進派は違う。マーカーを利用し、さらなる創造を成そうとする」

 

 俺は奥歯を噛み締めた。

 

 「結局……また同じじゃないか」

 

 バッドブラッドもそうだ。掟を破る愚か者はどこにでもいる。たとえ知恵や力を持つ種族だろうが、結局は欲に呑まれて堕ちる奴らがいる。

 

 「エルダー、もし……エンジニアがマーカーを壊すどころか、利用しようとしたらどうする?」

 

 俺の問いに、エルダーは答えなかった。ただ、深い沈黙の中で窓越しに広がる街を見下ろしていた。

 

 その沈黙こそが答えだった。

 

 「………いいか、アビサル。もしマーカーを見つけたら何もせず記録もせず、スキャンもせず。ただ知らせろ。表面に書かれている文字を解析することすら許さん」

 

 エルダーの声は重く響き、俺の胸に鉛のように沈んだ。

 

 「もしすればどうなる?」

 

 「狂気に堕ちる」

 

 エッぐ〜……と、思わず情けない声が心の中で漏れる。マジかよ。俺が何か軽くスキャンでもしたら、狂気に堕ちて終わり?そんな脆い爆弾みたいな代物を野放しにしてるなんて、宇宙はどんだけ狂ってやがる。

 

 「意思の強いものであれば抵抗できる。だがそうではない者が感応波動に当たれば破滅が始まる」

 

 エルダーが窓際で振り返る。その瞳は俺の顔ではなく、俺の背後、いや俺の中を見透かしているようだった。強靭な意志だと?俺が持ち合わせてると思うか?日頃から死ぬだの逃げたいだのぼやいてる俺に。

 

 「……俺が狂気に堕ちたらどうなるんだ?」

 

 「その時はオリオンが斬る」

 

 ズドン、と心臓に衝撃が走った。いや、待て待て待て……今さらっと言ったよな?オリオンが斬るって……つまり俺が少しでもおかしくなったら即、処刑ってことかよ!

 

 「勘弁してくれ……」

 

 俺は額に手を当て深く息を吐いた。狂気に堕ちるとか、正直笑えねぇ。笑えねぇが、オリオンに処分されるなんてのはもっと御免だ。あいつ絶対ニヤニヤしながらやりやがる。斬った後に「良い突きだった」とか言い出す未来が見える。嫌すぎる。

 

 「アビサル、覚えておけ。マーカーはただの石ではない。あれは意思を持つ。生命を生み出し、同時に滅ぼす。エンジニアの中でも急進派と呼ばれる者たちが、それを用いて新たな種を創造しようとした。その果てに生まれたのがネクロモーフだ」

 

 エルダーの声が部屋を満たす。重圧で喉が渇いた。思い出すだけで背筋が寒気に包まれる。あの化け物ども。噛み千切る音、血の匂い、肉が弾ける感触、全てがまだ鮮明に脳裏に焼き付いている。

 

 「奴らに狩猟の誉れはない。ただ増え、喰らい、変わる。それが繰り返されるだけだ。お前が見たあれはほんの始まりに過ぎぬ」

 

 「始まり……?あれがか?」

 

 俺は目を見開いた。あの地獄が「始まり」?なら終わりはどれほどのものなのか。想像もしたくない。いや、想像するまでもないか。タウ・ヴォランティスはもう封印されたんだ。惑星ごと凍らせるなんて、正気の沙汰じゃない。だが、それほどの絶望だったということだ。

 

 「アビサル」

 

 エルダーの声に意識を引き戻される。

 

 「我らヤウジャが誇る狩猟の力をもってしても、マーカーは狩れぬ。だが、お前には知る権利がある。お前は既に見た。目撃した者がそのまま平穏に生きることなどできぬ。知らねばならぬのだ」

 

 「……だったら俺はどうすればいい?」

 

 思わず問いが口を突いた。狩るな、触るな、見るな、知らせろ。それで俺は何者なんだ?ただの伝令か?

 

 「恐れるな」

 

 エルダーの言葉は静かで、だが鋼のように硬かった。

 

 「恐れはお前を殺す。だが恐怖を知る者こそ、狂気の淵に踏み込んでも戻ってこれる。お前は臆病だ、アビサル」

 

 「……褒めてんのかそれ」

 

 「褒めておる。臆病であることは生への執着だ。生きるために退く者は、死ぬために進む愚か者よりも遥かに強い」

 

 俺は言葉を失った。臆病であることを、強さだと?そんな風に言われたのは初めてだった。いつもバカにされ、弱いと吐き捨てられるだけだったのに。

 

 「アビサル」

 

 再び呼ばれた。今度は真っ直ぐ目を射抜かれた。

 

 「お前は次にマーカーを見つけることになる」

 

 「はぁっ!?ちょ、待て!縁起でもないこと言うな!俺は休暇を満喫してただけだぞ!?なぜ俺がまた地獄に……!」

 

 「運命だ」

 

 短い一言で切り捨てられる。運命?そんなの信じたことはない。俺の人生はいつだって逃げ道を探すことの繰り返しだった。だが、運命と言われてしまえば、どうしようもなく背筋に冷たいものが走る。

 

 「エルダー……マジで俺が次に見つけちまったら、その時は……」

 

 「知らせろ」

 

 即答だった。重ねて突きつけられるその言葉。知らせろ。ただそれだけだと。

 

 「……分かったよ」

 

 俺は深く溜息をついた。狩猟民族ヤウジャの戦士であるはずの俺が、逃げ道を探している。だが、臆病こそ強さだとエルダーは言った。その言葉に縋るしかない。

 

 「絶対に、触るなよ」

 

 最後にもう一度釘を刺される。

 

 俺は頷いた。喉が渇き、胸が詰まる。それでも応えなければならなかった。

 

 

 エルダーとの話を終え、重い扉を閉めた瞬間、全身から力が抜けた。胸の奥に鉛を詰め込まれたような感覚がする。歩を進めた廊下は静まり返っており、やけに冷えた空気が肌を撫でていった。

 

 その時だった。視界の端に立つ影があった。

 

 「……」

 

 オリオンだ。

 

 壁にもたれ、腕を組んで待っていたらしい。あの無駄のない姿勢。何もかもが相変わらずだ。

 

 「お前があんなに声を張り上げるとはな」

 

 低く抑えた声が響く。

 

 「……聞いていたのか」

 

 「すべてな」

 

 息が詰まった。さっきの会話の全てを、コイツは耳にしていた。マーカーの話も、狂気に堕ちれば斬るという言葉も……。

 

 「……チッ」

 

 舌打ちが漏れる。俺の動揺を見透かしたように、オリオンの目が僅かに細まった。

 

 「お前の声は廊下まで響いていた。臆病者の声は意外と通る」

 

 「……好きに言え」

 

 抑えた声で返す。苛立ちよりも、妙な諦めが胸を満たしていた。

 

 「だが、エルダーの言葉は正しい」

 

 オリオンは壁から背を離し、一歩こちらに進む。

 

 「お前は臆病だ。それを恥じる必要はない。臆病は生き残るための本能だ。だがもしマーカーに触れ、狂気に堕ちるなら……」

 

 淡々とした声。だが、その先は予想できる。

 

 「……その時は俺が斬る」

 

 心臓を握られるような冷たさが胸を貫いた。そう言うだろうとは思っていた。それでも、実際に告げられると重い。部族の総意。俺が堕ちた瞬間、迷いなくこの男が処刑人になる。

 

 「……お前、待ってるんじゃないだろうな」

 

 低く吐き捨てるように言った。感情を抑えきれなかったのかもしれない。だがオリオンは表情を変えなかった。

 

 「馬鹿を言うな。俺は楽しみで刃を振るうことはない」

 

 冷徹な声。だが虚勢ではなく、本気でそう思っている声だ。

 

 「俺が斬るのは、使命だからだ。お前が堕ちれば、それはお前ではなくなる。狩る価値もない獲物となる。だから俺が斬る。それだけだ」

 

 淡々とした言葉。それが何より恐ろしい。もし笑いながら言ってくれたなら、俺も軽口で返せただろう。だが、オリオンは本気だ。

 

 「……そうかよ」

 

 吐き出すように呟いた瞬間、オリオンが肩に手を置いた。驚くほど温かい手だった。

 

 「安心しろ」

 

 「……安心?」

 

 「お前は臆病だ。だから堕ちない」

 

 予想外の言葉に、一瞬返事を忘れた。

 

 「恐怖を知る者は、自分を保てる。恐怖を知らぬ者が、真っ先に飲まれる。だから……お前は生き残る」

 

 静かに告げられたその言葉が、不思議と胸を軽くした。

 

 「……揃いも揃って臆病者扱いか」

 

 わずかに息を吐いて肩をすくめる。だが内心では、ほんの少しだけ救われた気がした。

 

 「臆病であることは恥ではない」

 

 オリオンは腕を組み直し、淡々と続ける。

 

 「恥ずかしいのは、恐怖から目を逸らすことだ」

 

 その言葉が妙に胸に残った。

 

 静まり返る廊下に、互いの呼吸音だけが響く。

 

 「……オリオン」

 

 「なんだ」

 

 「次にマーカーを見つけたら……その時はお前も隣にいろ」

 

 自分でも驚くほど落ち着いた声で言った。

 

 オリオンはしばらく俺を見つめ、やがて頷いた。

 

 「当然だ」

 

 その一言に、胸の奥で張りつめていた何かが僅かにほどけた気がした。

 

 「ところでなんだが……」

 

 エルダーの部屋を離れ、廊下の静けさに少しだけ安堵していた俺は、どうしても胸の奥に引っかかっていた疑問をオリオンにぶつけた。

 

 「……俺の休暇は、どうなる?」

 

 言い終わった瞬間、自分でも情けなく思った。声がわずかに上ずっていた。戦士らしい威厳も何もない。クールに言い放ったつもりが、臆病な本心が顔を出してしまったのだ。

 

 オリオンは片眉を上げ、わずかに驚いたような素振りを見せた後、ニヤリと口元を歪めた。

 

 「バッドブラッドの任務があるぞ」

 

 その瞬間、頭が真っ白になった。

 

 「な、なんでだよ……ッ!!」

 

 押し殺したつもりの声は、結局廊下に反響した。

 

 「なんで休暇の話をした途端にバッドブラッドなんだよ!!俺は少しの休みを貰ったはずだろ!?」

 

 叫んでいる自分を抑えきれない。冷静に返すべきだと頭では分かっているのに、心が勝手に暴走する。

 

 オリオンは腕を組み直し、至極当然のように言葉を続けた。

 

 「お前は狩人だ。狩人に休暇はない。必要なのは鍛錬と実戦だ。……それに、バッドブラッドを狩るのはお前の役割だろう?」

 

 「役割……か。そうだな。だが俺だって息をつく間くらいは欲しいんだ。息抜きくらい許されてもいいだろ」

 

 吐き捨てるように言い返す。だが返事を待つまでもなく、オリオンの冷ややかな視線が俺を射抜いた。

 

 「お前は休む時、狩りのことを忘れられるのか?」

 

 ……ぐっ。痛いところを突いてくる。

 

 「休んでいても、結局獲物の姿が頭から離れないだろう。血の匂い、肉が裂ける音……逃げる背中。そうやって常に思い出し続ける。違うか?」

 

 言葉が詰まった。図星だった。確かに俺はどんな時でも、心の奥では「もし今バッドブラッドが現れたら」と考えてしまう。心臓が高鳴り、喉が渇き、掌がじっとり汗ばむ。

 

 「……ち、違わないな」

 

 小さく呟くしかなかった。

 

 オリオンは一歩近づき、俺の肩に重い手を置いた。

 

 「アビサル。お前は臆病だ。その臆病さが、お前を生かしてきた。そして……臆病者に本当の休暇はない」

 

 「……」

 

 「お前が狩人である限り、休暇はすべて偽りだ。常に獲物に備え、常に死に備えろ。それがお前の宿命だ」

 

 宿命……そう言われれば反論の余地はない。臆病であるがゆえに生き延びてきた。それは事実だ。だが臆病であるからこそ、少しでも安らぎを求めてしまう。休暇という甘い響きに縋りたくなる。

 

 「……宿命、か。随分と便利な言葉だな」

 

 吐き捨てるように言ったが、声には力がなかった。

 

 オリオンはただ、静かに笑った。

 

 「便利な言葉だ。だからこそ真実なんだ」

 

 そのまま歩き出すオリオンの背を見送りながら、俺は奥歯を噛み締めた。

 

 心の中で響くのは苛立ちと諦め、そして……ほんのわずかな安心だった。

 

 結局俺は、次の狩りに向かう。チクショウ!!

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