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そんなこんなで、俺は任務を続けた。
これといった休暇もなく、ただ淡々と日々が過ぎていく。どれほどの年月が経ったのか、もはや正確に数える気力すらない。俺にとって時間とは、次の任務までの猶予か、それとも獲物を仕留めるまでの一瞬か。そういう単位でしか数えられなくなっていた。
来る日も来る日も、俺はバッドブラッドを狩り続けた。星から星へと渡り歩き、掟を破った同族を追い詰め、仕留める。ある者は笑いながら刃を振るい、ある者は膝を折って命乞いをし、またある者は最後まで誇りを口にして逝った。だが俺にとってはどれも同じだった。掟を破った瞬間、狩るべき獲物になる。それがアヌ族の宿命であり、俺が背負わされた役割だった。
「……正直、嫌になる」
声には出さず、心の中でそう呟く。表情に出せば弱さを晒すだけだ。俺はいつも通り冷徹な面を保ち続ける。だが心の奥底では、いつも恐怖が爪を立てていた。俺は臆病者だ。これは誤魔化しようのない事実だ。バッドブラッドと刃を交える度、背筋に冷たい汗が流れる。勝てなければ殺される。ほんのわずかな油断で首を刎ねられる。そんな光景を幾度となく見てきた。俺の中にある臆病さは、そうした死の影を常に思い出させる。
だが、不思議なことに――その臆病さが、俺を生き延びさせてもいた。
マーカーを発見する任務も幾度かあった。バッドブラッド狩りの「ついで」だ。俺は決して触れず、決して解析せず、ただ報告するだけに徹した。あの黒い遺物に少しでも近づけば、狂気に飲み込まれる。それをオリオンも、エルダーも言っていた。
そして、幸いなことに……俺は狂気に堕ちることはなかった。
理由は分かっている。俺が臆病だからだ。常に最悪を想定し、恐怖に押し潰されそうになりながらも、「生き残るため」に一歩退く。その性分が、あの呪われた遺物から俺を遠ざけていた。エルダーやオリオンはそれを「強み」だと言った。だが俺にとってはただの逃げ癖でしかない。なんにも嬉しくない。
……そうして生き延びてきた俺だが、ここに来て新しい任務が降ってきた。
地球――。
そう、昔エンジニアの護衛任務で訪れたあの青い星だ。あの時はルナジリオとかいう馬鹿でかいエンジニアがディーコンの血を飲んで壮大に崩壊し、残った連中が宴と称して馬鹿騒ぎをしていた。俺はその光景を今でも思い出す。思い出すたびに、背中をぞわりと冷たいものが走る。エンジニアという存在は、俺にとって神でも悪魔でもなく「理解できない異形」そのものだった。
その地球に、再び訪れることになったのだ。
「成人の儀式の施設を設置する許可が下りた」――そう言ったのは、新たなエルダーとなったオリオンだった。
俺の教育係であり、誰よりも近くにいた存在。今はアヌ族全体を束ねる立場となり、かつて以上に重々しい眼差しで俺に命令を下す。
成人の儀式――。
アヌ族の儀式は、他の部族とは異なる。
プライム族や他の大部族は、狭い闘技場で一対一の試練を行わせる。生まれたての狩人とゼノモーフを向かい合わせ、殺し合いの末に勝った者のみが真の成人と認められる。至極単純で、分かりやすい儀式だ。
だが、アヌ族は違う。
俺たちは星々を渡り歩き、そこに存在する文明と接触する。自らを神と見せつけ、畏怖させ、その信仰を利用して建築を施させるのだ。我々が「成人の儀式」に使う遺跡は、そうして造られる。知的生命体は、我々を神々として崇める。大抵の場合、反抗など考えもしない。求めるままに石を切り出し、積み上げ、やがて神殿めいた建造物を完成させる。
アヌ族の若者たちは、その建造物に送り込まれる。
内部にはゼノモーフの卵が配置され、女王が鎮座する。フェイスハガーが犠牲者に寄生し、ゼノモーフが生まれ、そこから本当の儀式が始まる。
逃げ場のない遺跡の中で、次々と生まれるゼノモーフと戦い、狩り、生き延びる。それこそがアヌ族の成人の儀式なのだ。
俺はその儀式を生き延び、今ここにいる。
思えば、あの時から何も変わっていない。俺は臆病者のまま、死に怯えながら生き延び続けてきた。
地球……あの青い星で、再びゼノモーフの血が撒かれ、若き狩人たちが命を賭けた試練に挑む。
俺はそこに立ち会うことになる。
「……本当に、休暇って言葉は俺には縁がないらしいな」
冷めた声で呟いた。だがその裏で、胸の奥が小さく震えていた。
地球――あの星で、何かが待っている。俺はそう感じていた。
そして、嘗てルナジリオが行った生命創造は、どうやら上手くいっていたらしい。あの時、青い星で身体を崩壊させながら川へと沈んだエンジニアの姿を、俺は今でも鮮明に覚えている。肉も骨も血も、すべてが黒く溶け崩れていき、その残滓が川を伝って広がっていった。正直、あの光景は何度思い出しても気分が悪い。だが、あれこそが儀式であり、あの犠牲の果てに生まれたものが今の地球に息づいているのだという。
それからどれほどの時が経ったのか、俺にはもう分からない。狩りと任務に追われる日々の中で、数世紀など呼吸のように過ぎ去ってしまう。だが一族総出の惑星調査が行われ、地球に確かに知的生命体が誕生していると確認された。俺の知っている「青い星」は、もはや当時の原始の姿とは違っていた。
地球に芽吹いたのは、人間――この宇宙のさまざまな星に分布している弱き知的生命の一種だ。細身で、骨も脆く、武器を持たねば到底獣にも勝てないような存在。それでも彼らは知恵を持ち、狡猾さを発揮する。弱者でありながら群れることで力を発揮するのは、ある意味で実に厄介な性質だった。
まぁ……エンジニアが創造した知的生命体は、往々にしてエンジニアと似通った部分を持つ。形や姿が似ていたり、理性と狂気の狭間を行き来する傾向があったりと、必ずどこかに造り手の影を残す。地球の人間もまた、例外ではなかったのだろう。
しかし、俺の目からすれば彼らの文明はまだ未熟だ。
狩った獣の皮を身に纏い、己の身を守る術とする。石を擦り合わせて火を起こし、粗末な武器を手に戦う。空を飛ぶ術も、宇宙を知る術もない。彼らにとって星々の広がりは想像の外でしかなく、ひたすら地上を這いずり回るだけだ。
それでも人間は、神々とやらを恐れていた。
いもしない存在に祈りを捧げ、生贄を差し出し、血を流す。空に浮かぶ月を崇め、火や水を神格化し、何かに縋らねば生きていけない。
「……格好の餌だな」
思わず呟きが漏れる。
俺たちアヌ族が求める成人の儀式において、地球の人間ほど適した存在はいない。何も知らず、恐怖を抱き、命令に従う。掟を知らぬがゆえに反抗の芽すら生まれにくい。遺跡を築かせ、ゼノモーフを放ち、そこに若き狩人を送り込む。人間たちにとってはそれすら「神の意志」であり、抗うことなど考えもしないだろう。
俺は己の胸に芽生えた小さな違和感を、すぐにかき消した。
彼らがどれほど哀れだろうが、俺には関係がない。俺の役目は常に同じだ。掟を守り、任務を遂行する。それだけだ。臆病な自分がどれだけ逃げたいと叫んでも、俺の足は止まらない。止まれば狩られる。それだけは絶対に避けなければならない。
だが……臆病な俺だからこそ、ほんの少しの恐れも忘れなかった。
人間という存在は、俺たちの予測を裏切るかもしれない。未熟な彼らの中に、いつか俺たちに牙を剥く個体が現れるかもしれない。ゼノモーフですら掟を破った狩人を追い詰めることがあるのだ。ならば人間とて、ただの駒で終わるとは限らない。
俺はそうした未来を想像し、心の奥で震えていた。
「オリオン……いや、今はエルダーか」
かつての教育係がエルダーとして語った言葉を思い出す。地球を成人の儀式の場とする――それは一族にとって誇らしい決定だったのだろう。だが俺にとっては、また新たな恐怖との遭遇でしかない。
この青い星で、新しい血が流される。若き狩人が命を賭けて試練に挑む。人間たちは恐怖に怯え、ゼノモーフは巣を広げる。そこに俺は立ち会う。
……一体何を見ることになるのか。
地球人に儀式場を造らせた。これで舞台は整った。だが肝心の獲物を用意せねばならない。ゼノモーフの女王を捕獲し、儀式場に据えること――そればかりは人間ごときに任せられる仕事ではない。あれは我らヤウジャがやるべきことだ。
ゼノモーフ……それは俺たちにとって至高の獲物であり、同時に唾棄すべき邪悪な存在でもある。エンジニア共が生み出したとされる生物だが、その詳細は今なお闇に包まれている。どのように造られたのか、どんな意図が込められているのか――ありとあらゆる伝承を紐解いても真実には辿り着けない。前任のエルダーであれ、オリオンであれ、他部族の長老たちであれ、誰一人としてその核心を知らぬ。
分かっているのはただ一つ。ゼノモーフは「至高」であり「神聖」であり、そして何より「邪悪」である、ということだけだ。狩人としての魂を昂らせる対象でありながら、その存在自体が背筋を凍らせるほどの恐怖を孕んでいる。俺たちヤウジャが誇りとする「名誉の狩り」を最も純粋に体現する存在であり、だからこそ忌み嫌われるのだ。
最初にゼノモーフと対峙したのは、今では伝説となっている「ロスト狩猟団」だった。部族と呼ぶにはあまりに小規模な一派に過ぎなかった彼らが、ある星で偶然エンジニアの遺棄船を見つけたのがすべての始まりだ。
円環状の戦艦。黒く、静まり返ったその巨体を探索した彼らは、奥深くで眠っていたものと出会った。ゼノモーフに似て非なる存在――
ネオモーフ。今となっては宇宙に存在しない。再び産まれることもないとされる、幻の怪物。白く滑らかな体表、異常な再生力、理解を超えた攻撃性。ディーコン以上に謎に満ちた存在だった。ロスト狩猟団は多大な犠牲を払いながらもそれを狩猟し、さらに船の奥へと進んだ。
そこで彼らが発見したのは保管庫。重々しく封印され、決して開けてはならぬと直感できるようなその場所で、彼らは卵――エッグチャンバーを見つけた。中には蠢く気配があり、生命の息吹を感じさせるものだった。
ロスト狩猟団はその卵を持ち帰り、部族連盟に報告した。そしてエンジニアとの謁見を許される。
その場でエンジニアは言ったという。
「これは禁忌の生物である。しかし、なんと美しい存在か。これこそが今後、そなたらの偉業の礎となるだろう」
あの冷酷無比な創造種族が、美しいとまで評した存在。それがゼノモーフの原点だった。
やがて紆余曲折を経て、卵から生まれたフェイスハガーが獲物に寄生し、ゼノモーフが生み出された。以来、我らヤウジャにとってゼノモーフは狩りの対象であり、試練であり、そして畏怖の象徴であり続けている。
「誉高き至高、そして邪悪……か」
俺は吐き捨てるように呟いた。
あの忌まわしい生物を地球に持ち込み、儀式場で増やす。アヌ族の若き狩人がその中へと放り込まれ、生き残った者だけが成人を許される。シンプルだが、残酷極まりない掟。俺自身もかつてその儀式を生き延びた。だからこそ分かる。あれは名誉と死が表裏一体で迫る狂気の試練だ。
……だが、今回は俺がその準備を担うことになる。ゼノモーフの女王を調達し、儀式場に据えなければならない。
「はぁ……」
無意識に溜息が漏れる。クールに振る舞う俺の内心では、恐怖がじわじわと広がっていた。ゼノモーフはただの獲物ではない。あれは狩りをするたびに背筋を凍らせる存在だ。臆病者の俺にとって、あれほど関わりたくない相手はいない。
だが逃げることはできない。これが俺の役目であり、掟であり、何よりアヌ族の名誉のためなのだから。
クイーンの調達――それは俺たち狩人に許された任務ではない。エルダーのみが担うことを許される、特別な使命だ。若き狩人が成人を迎えるための礎、その命を捧げるにふさわしい舞台を整える。それこそがエルダーの職務であり、重責であり、名誉であった。
俺はただ、その傍らに付き従う。補佐であり、証人であり、同時に後進としてこの狩りを目に焼き付ける存在として。
「アビサル、エルダーになる条件を知っているか?」
その問いは重く、だが静かに投げかけられた。俺は反射的に背筋を伸ばし、礼を失わぬよう声を返す。
「偉業を為すとだけ……他は知りません」
かつて前任のエルダーには、半ば無礼講で言葉を返していた俺だが、今は違う。目の前に立つのはオリオン――教育係として俺を鍛え上げ、そしていまやエルダーとして君臨する男だ。かつての師が背負うものを、俺はこの眼で見届けねばならない。
オリオンは腰から重々しいウォークラブを引き抜いた。武骨で、しかし儀礼を帯びた装飾が施されたその武器は、狩猟の象徴であり同時に処刑具のようでもあった。
「千の狩りを成し……そして、単独でクイーンを討伐することだ」
その言葉は雷鳴のように俺の胸を打った。千の狩り――それは数世紀に及ぶ死闘の果てに積み上げられる偉業だ。そしてクイーン討伐――あの恐るべき存在をたった一人で仕留めることが、エルダーとなる条件。俺は思わず息を呑む。臆病な俺には到底不可能な偉業だと理解していた。
その瞬間、大地が震えた。
洞窟の奥から姿を現したのは、闇を纏いながら這い出る巨影。ゼノモーフ・クイーン。その体躯は建物をも凌駕し、四肢は大地を砕くように踏みしめ、長大な尾が鋭い槍のごとく後方にしなった。口腔から滴り落ちる血液は腐食性の酸であり、岩肌すら焼き切る。
「グギィィィィィィアアアアア!!!」
咆哮が空気を震わせる。俺の耳膜を震わせ、心臓が一瞬で凍り付いた。臆病な本性が全身を支配し、逃げろ、と叫び始める。だが俺の足は動かない。隣に立つのはオリオン――あの教育係だ。背中を見せることなど許されない。
オリオンは一歩も退かず、堂々と前に進んだ。
「これが、クイーンだ。アビサル、目を逸らすな」
その声は鋼鉄のように揺るぎなく、俺の胸を打ち据える。
クイーンが地を揺らしながら突進してきた。巨体が信じられぬ速度で迫る。黒光りする頭蓋が矢のように突き出され、尾が鞭のように振るわれる。
オリオンは吼えるように足を踏み込み、迎え撃った。
「ハァァァッ!!!」
ウォークラブが振り抜かれる。空気が裂け、衝撃波が土砂を巻き上げる。次の瞬間、鈍重な衝撃音が響き、クイーンの頭蓋に深々と叩き込まれた。骨が軋み、肉が裂け、黒い酸の血が飛び散る。
「ギィィアアアア!!!」
クイーンが怒り狂ったように尾を振るい、オリオンを叩き潰さんと迫る。だがオリオンは滑るように身を捻り、尾の一撃を紙一重で避けた。その動きは老練でありながら俊敏、俺が知る誰よりも鋭かった。
「アビサル、これが“力”だ」
オリオンの声が響いた瞬間、再びウォークラブが閃き、今度はクイーンの前肢を打ち砕いた。骨が粉砕され、酸が弧を描き飛散する。火花のように散る飛沫が地面を焼き、煙を上げる。
俺はただ立ち尽くし、その光景を見ていた。
臆病な俺の心臓は喉元まで跳ね上がり、逃げ出したい衝動で全身が軋む。だが、同時にその戦いに魅了されてもいた。人智を超えた怪物と、それを正面から打ち倒そうとする狩人。これこそがヤウジャの本懐――名誉の戦いだ。
「さぁ、終わらせるぞ!!」
オリオンが大地を蹴り、クイーンの頭蓋に飛び乗った。ウォークラブを高く掲げ、一気に振り下ろす。その一撃は大地をも断ち割るかのような力を秘め、頭蓋を粉砕せんと叩き込まれた。
轟音。酸の飛沫。断末魔の叫び。
俺はその全てを、息を殺して見届けた。
「フッ……我ながらよくやったものだ。どうだアビサル?よくできたものだろう」
エルダー――いや、オリオンはウォークラブを肩に担ぎながら、昏倒したクイーンの巨体を見下ろし、息をつくように呟いた。足元に横たわるクイーンはまだかすかに痙攣しているが、致命には至っていない。あれほどの怪物を殺さずに仕留める――まさに芸術とも言える所業だった。
「……俺には到底できない仕事です。バッドブラッドを狩る方がまだマシです」
思わず口から出たのは、臆病さ混じりの本音だった。あの咆哮、あの巨躯、あの尾の一撃を受け止めるなど……俺には到底想像できない。バッドブラッド狩りがどれほど命懸けであろうと、相手は同族だ。だが、クイーンは異質だ。存在そのものが終焉を齎す生物。
オリオンは振り返り、わずかに笑った。
「まぁ……そう自分を卑下するな。お前の実力は私が保証しよう」
その声に、俺は返す言葉を失った。保証されたいわけではない。だが、この場にいる限り、その言葉は揺るぎない重みを持っていた。オリオンは教育係であり、今やエルダーだ。俺の強さも弱さも、すべてを知る存在に言われれば、認めざるを得なかった。
巨体を持つクイーンは、特殊な拘束具で縛られた。両腕、尾、そして外骨格の節々にまで鋼鉄の鎖が巻きつけられ、電磁の枷が輝く。酸を防ぐために封印用の液体窒素が注ぎ込まれ、体温を奪う。クイーンの断末魔の声が次第に弱まり、凍りつくように動きを止めていった。
「これで地球の儀式場に運べる」
オリオンの声に、俺はうなずいた。
船の内部には女王専用の収容区画があり、そこにこの巨躯が収められた。分厚い装甲に覆われた輸送カプセルの中で、液体窒素が絶え間なく循環する。いずれ地球の儀式場――人間どもが石を積み上げて造り上げた壮大な遺跡の奥、その最奥の女王の間に安置される。
そこで眠りにつくのだ。百年おきに目覚め、次々と卵を産み、フェイスハガーを吐き出す。新たな成人を迎える狩人たちは、その卵に曝され、ゼノモーフを宿した人間を相手に戦う。
「これが……成人の儀式の礎、か」
俺は無意識に呟いた。冷気が漂う輸送カプセルを見つめながら、背筋に寒気が走る。
名誉の儀式だと誰もが言う。だが実際は、狩人たちを選別するための死地。臆病で、必死に生き延びようとする俺だからこそ分かる。これはただの試練ではなく、死と生の天秤にかけられるだけの残酷な舞台だ。
「アビサル」
オリオンが俺の名を呼んだ。
「覚えておけ。エルダーになる者は、こうして礎を築く。だが、それを受け継ぐ狩人たちもまた、この礎に身を投げねばならぬ」
「……心得ました」
冷たい声で答えた。俺は頷きながらも、心の内ではざらつくものを感じていた。
成人の儀式を経て、俺はいまここにいる。だが、果たして次の世代はどうだろうか。ゼノモーフは強い。狩人を殺す。数多の命を呑み込みながら、なお生き続ける。
俺が今こうして生きているのは、ただの幸運だ。臆病で、逃げ足が速く、何より死にたくないと強く願ったからだ。誇りや勇気ではない。
「……俺には、やはりエルダーは務まらない」
心の奥底で呟きながら、俺は視線を逸らした。
その後、クイーンは収容され、船はゆっくりと軌道を離れた。地球に築かれた儀式場、その最奥の女王の間にクイーンは沈められた。液体窒素に包まれ、長き眠りにつき、百年おきの儀式のたびに再び目覚める。
俺はただ、その光景を冷めた目で見ていた。
「これで成人の儀式は守られる。数世代先も、アヌ族の狩人たちはここに集うだろう」
オリオンの言葉に、俺は小さく応じた。
「……そうですね」
だが心の奥では違う声が響いていた。
――本当は、もう儀式なんて終わりにしてしまえばいい。
次話から一気に時が進み、遂に……