養殖が天然に勝てると思うなよ?【本編完結】   作:物体Zさん

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甘いなどとは……もう言わせん!!!

 

 

 

 「ウオオオオオオ!!!」

 

 喉が裂けるほどの声を上げながら、私はただひたすらに走っていた。

 

 洞窟の奥深く、血と骨と腐臭に満ちた暗闇を、全力で駆け抜ける。いや、全力で逃げる。

 

 肩の傷は縫合したばかりで鈍く疼き、筋肉の一部は痙攣している。だが止まれば終わる。振り返る勇気すらない。

 

 背後では無数の咆哮が重なり、岩を砕く音が連続して響き渡る。振動が大地を伝い、全身に叩き込まれる。女王の怒声だ。私の一撃で首を穿たれ、しかし仕留めきれなかった女王は、完全に狂乱していた。

 

 それだけではない。奴の叫びに呼応するように、巣の奥深くで眠っていたオスたちが次々と目覚め、さらに外にいた群れまでもが呼び寄せられていた。

 

 「ふざけるな……!」

 

 息を切らしながら吐き捨てる。臆病な心はすでに囁いていた。――帰れ。逃げろ。もう無理だ。だが足は止まらなかった。止まれば死。狩人は死を恐れるが、獲物に食い破られることを最も忌む。

 

 その時、前方の闇から二つの影が飛び出した。

 

 「チッ!」

 

 ホワイトスパイクが二体。岩壁を蹴り飛ばし、矢のような速度で迫る。白い巨体、煌めく顎。触手が蠢き、棘が放たれようとしている。

 

 私は腰帯からディスクを引き抜き、瞬時に展開させた。六枚の鋭利な刃が光を反射し、円環を描いて唸る。

 

 「フンッ!」

 

 全身を捻り、腕を振り抜いた。

 

 スピンッ! 風を裂き、円刃が弧を描いて飛翔する。

 

 一体目の首を容赦なく切り裂き、頭部が空中で回転しながら血を撒き散らす。続けざまに、二体目の胴を斜めに裂き、その内臓を鮮血ごと床にぶち撒けた。

 

 骨と肉が爆ぜる音が耳に残る。

 

 私は止まらず、壁に突き刺さったディスクを片腕で引き抜きながら駆け抜けた。

 

 「なんで一撃で死なない……!」

 

 呻きが漏れた。胸中で臆病な声が響く。群れが迫る。女王が迫る。数が違いすぎる。無謀だ。帰れ、帰れ、帰れ。

 

 しかし私は走る。狩りをやめられない。名を変えたのだ。アビサルではなく、今の私はゴンジ。底から這い上がり、未来を見据える者。ここで退くなら、それは再び“底”に沈むことを意味する。

 

 足音が洞窟を震わせ、岩壁に反響する。前方にも影が走る。更に二体、いや三体。

 

 「来いよ……!」

 

 喉の奥から笑いが零れた。恐怖と高揚の混じった奇怪な笑いだ。

 

 スピアを引き抜き、低く構える。

 

 最初の一体が跳躍してきた。私は逆に踏み込み、突きを合わせる。

 

 刃が喉下を穿ち、血が噴水のように吹き出した。

 

 横から迫る二体目をディスクで斬り裂き、三体目の触手をリストブレイドで受け、力任せに切断した。

 

 肉と骨が割ける感触。血が肌に飛び散り、マスクを汚す。

 

 「ウオオオオオオ!!!」

 

 叫んだ。恐怖を掻き消すために。

 

 背後では女王の咆哮が再び轟き、洞窟全体が震動する。

 

 私は息を荒げながら更に奥へと駆け抜けた。

 

 出口はまだだ。だが止まれば確実に死。

 

 「来い……まだだ……!」

 

 心臓は破裂しそうに鳴り響き、肺は焼けるように熱い。

 

 臆病な囁きと、狩人の本能が、頭の中でぶつかり合っていた。

 

 「見えた!!」

 

 眼前に穴が開け放たれていた。外光が差し込み、青白い霞が洞窟の中に揺れている。湿った大気と土の匂いが薄れ、風が頬を撫でた。出口だ。救いだ。

 

 だが次の瞬間、背筋を打つ轟音が耳を裂いた。

 

 「ギエエエエエエエエエエ!!」

 

 振り返った視界に広がったのは悪夢の群れだった。

 

 洞窟全体を押し流すように、数えることすら馬鹿らしいほどのホワイトスパイクの大群が押し寄せてくる。先頭には、咆哮とともに洞窟そのものを揺るがす巨体――あのクイーン。首横に刻んだ私の一撃の痕がまだ赤黒く脈打ち、逆に奴の怒りを煽っていた。

 

 「こりゃアカン」

 

 反射的に口を突いた言葉は、臆病な心そのものだった。しかし冷徹な狩人としての思考は、その怯えを即座に利用する。恐怖は武器だ。死を悟る本能は、生をつなぐ最後の道を示してくれる。

 

 私はついに肩の武装を起動した。

 

 「起動、プラズマキャスター」

 

 低い駆動音とともに背中から肩へ、重厚な金属音を響かせて砲座が展開される。蛇のような可動アームが肩甲部に固定され、砲身が頭部横にせり上がった。マスクのHUDに照準ラインが浮かび上がり、赤く輝く三本のレーザーが洞窟の岩肌を走る。

 

 「オラッ!」

 

 私が選んだ狙いは、群れでも女王でもなかった。

 

 標的は、出口手前の天井。

 

 洞窟を崩落させ、連中を押し潰し、せめて数秒の猶予を得る。名誉?誉?栄光?――笑わせるな。死んでしまえば何の意味もない。ヤウジャの誇りも功績も、骨と灰に還るだけだ。

 

 牙がマスク内の制御パネルを押し込む。牙を鳴らし、呼気を荒げながら引き金を絞った。

 

 轟音と閃光。

 

 砲口から青白いプラズマの塊が発射され、音速を超える衝撃で洞窟の天井に叩きつけられる。

 

 「ドオオオオンッ!!!」

 

 爆炎が洞窟を裂き、岩盤が悲鳴を上げて割れ、巨大な破片が落ちてきた。

 

 「ギャオオオオオオオオ!!!」

 

 群れの先頭が押し潰され、血と肉と岩塊が混ざり合って爆ぜ飛んだ。白い脚がもぎ取られ、触手が千切れ飛び、絶叫が反響する。

 

 私は両腕を交差させ、飛んでくる破片を払いながら必死に走る。熱風と土煙が一気に押し寄せ、マスクのフィルターが悲鳴を上げた。

 

 「ぐっ……はぁ……ッ!」

 

 呼吸が焼ける。視界は土埃に覆われ、HUDの赤外線だけが頼りだった。

 

 だが、まだ終わっていない。崩落した岩を突き破り、クイーンの咆哮が再び響いた。

 

 「ギイイイイイイアアアアア!!!」

 

 奴は止まらない。押し潰されてもなお、瓦礫を掻き分けて迫ってくる。岩を砕く音が大地を震わせ、洞窟全体が崩壊しそうな勢いだ。

 

 「……やっぱりか。あの化け物、一筋縄じゃいかん」

 

 私は血の味を噛み締めながら、出口へと最後の全力を注ぐ。

 

 外光が間近に迫る。

 

 臆病な囁きは、もはや消えていた。

 

 「生き延びてこそ、次がある」

 

 私は振り返った。

 

 「フンッ!」

 

 全身の筋肉を捻り上げ、腰から放ったディスクが空気を切り裂いた。唸りを上げる回転刃は、迫るクイーンの腕をまるで紙切れのように切断し、骨と筋肉をまとめて吹き飛ばした。そのまま直進し、胴体へと深々と突き刺さる。

 

 「キイイイイイイイイ!!!」

 

 耳を劈く絶叫が洞窟全体を震わせ、反響した岩壁が音圧で震動する。オスたちが驚愕し、散発的に走り出すが、もはや関係ない。私はその一瞬の隙を見逃さず、視線を上へ向けた。

 

 そこにあったのは、光。

 

 出口だ。

 

 「……ッ」

 

 脚に全力で力を込める。地面を砕き、脚部から衝撃波を走らせ、私の身体は跳躍した。上へ、上へ、狭い洞窟を飛び抜け、破片を蹴りながら出口を突破する。

 

 外光が眼前に広がり、湿った洞窟の空気が一気に澄んだ冷風へと変わる。私はそのまま前へ転がり出て、大地に着地した。

 

 「はぁ、はぁ……ッ!」

 

 呼吸は荒い。だが休んでいる暇はない。

 

 マスクのHUDに赤い影が次々と表示されていく。振り返ればまだクイーンが動いている。胸を切り裂かれながらもなお生き、瓦礫を掻き分けて這い出ようとしていた。

 

 「しぶとい奴だ……」

 

 思わず唇を噛んだ。あれほどの一撃を受けてなお動くとは。ゼノモーフといい、この宇宙にはどうしてこうも殺しても死なない類が存在するのか。

 

 私は走りながらガントレットを操作した。

 

 「船を寄越せ」

 

 通信信号が即座に飛び、応答が返る。空の遥か彼方、雲を割りながら影が迫る。私の船だ。待機させていた相棒が、こちらの危機を感じ取って急速降下してくる。

 

 「間に合えよ……!」

 

 だがその瞬間、私は嫌な光景を目にした。

 

 正面の大地が揺れていた。

 

 砂が舞い、地平線の先から白い影が波のように押し寄せてくる。

 

 「……群れか」

 

 ホワイトスパイクの群れ、いや群れどころではない。波だ。数百、数千か、それ以上。四肢を絡めながら走り、白い泡立つ奔流のように一面を覆い尽くしている。

 

 「囲まれている……」

 

 左にも右にも、後方にも。群れが弧を描くように迫り、私を中心に閉じ込める陣形を作り始めていた。彼らの目は赤黒く光り、涎を垂らし、牙を剥き出していた。

 

 出口を突破した先が、既に地獄の口だったというわけだ。

 

 「フッ……さすがに笑えてきたな」

 

 苦笑しながら全身の力を解放する。逃げ隠れしても無駄だ。これだけの数相手に潜むなど意味をなさない。

 

 私のスピアが低い唸りを上げる。リストブレイドが閃き、肩のプラズマキャスターが充填音を鳴らした。

 

 空では船が急降下を続けている。しかし到着するまでの時間は……わずかだが永遠に感じられる。

 

 「来るなら来い」

 

 私の声に応じるように、群れ全体が咆哮を上げた。

 

 「ギイイイイイイイイイ!!!」

 

 白い奔流が、大地を揺るがし、私に襲いかかる。

 

 「私は死なないッ!!!」

 

 喉を裂くように叫び、ガントレットを叩きつけるように操作した。指先の動きに即応して船が空を裂き、先端部に搭載された高出力エネルギー砲が起動音を響かせる。耳鳴りのような甲高い振動が空気を震わせ、次の瞬間、蒼い光弾が収束した。

 

 「吹き飛べ!!」

 

 放たれた光は雷鳴の如き轟きを伴い、前方に押し寄せるホワイトスパイクの奔流へと突き進んだ。光弾が大地を砕き、白き群れの中心を穿ち、肉と骨を蒸発させて穴を開ける。爆風が巻き起こり、焼け焦げた匂いが鼻孔を刺した。

 

 「今だ……ッ!」

 

 私は足裏に力を籠め、大地を裂きながら走り出した。波に開いたその一瞬の裂け目を突き抜けるしかない。光が焼き尽くした死骸が煙を立てる中を、クロークも解いたまま疾走する。

 

 振り返る。

 

 「ギイイイイイイイイイ!!!」

 

 黒い影が、岩を粉砕しながら地上へ這い出ていた。

 

 クイーンだ。

 

 洞窟で深手を負わせたはずの巨体は、なおも両腕を振り回し、半身を血で濡らしながらも健在であった。裂かれた胸からは濁った体液が滝のように滴り、蒸気を上げて大地に落ちる。だがその赤黒い双眸には、殺意と執念しか残っていない。

 

 「惜しいが……!」

 

 思わず足を止めかけた。あれを仕留めることができれば、これ以上ない名誉。至高の戦果となり得るだろう。私が目指す教育係という道にも大いに繋がる……。

 

 しかし同時に脳裏をよぎる。死。

 

 あの巨体を仕留めるために振り返れば、群れが背を貫くだろう。飛びかかる白い奔流に食いちぎられ、骨の一片すら残らない。

 

 「死ねば何も残らん」

 

 呟く声は苦く、だが決断は速かった。

 

 栄光を手放す。

 

 振り返らず、走る。

 

 後方ではクイーンの怒声と群れの蹄音が混じり合い、地鳴りとなって迫る。だが私は構わず突き進む。マスクのHUDが先導する光の線を示し、船が低空を掠めながら迫ってくる。

 

 「間に合え……ッ!」

 

 エネルギー砲が再度閃光を吐き、追いすがる群れの前列を焼き払った。熱波が背に叩きつけられ、皮膚が焦げる臭いが漂う。私は叫び声を噛み殺し、なおも足を動かす。

 

 ――生き延びるために。

 

 たとえ誉れを逃したとしても、死んでは何も残らない。

 

 私の胸中で、アビサルというかつての名が一瞬揺らめく。臆病で、底に沈みながら生き延びてきた自分。その弱さを嫌悪しながらも、その臆病さこそが今を生き延びさせているのだと。

 

 「私は……死なない」

 

 低く、だが確かに呟き、私は船のランプが照らす光の中へ飛び込んだ。

 

 全身が叩きつけられた。

 

 鉄と石を混ぜ合わせたような硬さを持つ船の床に背中を打ちつけ、私は転がるように船内へと飛び込んだ。肺の中の空気が一気に押し出され、息が詰まる。視界が霞み、鼓動が耳の奥で破裂音のように鳴り響く。だが、立ち止まっている暇はない。

 

 「クッ……!」

 

 私は床を蹴って奥へと走り抜け、反射的に振り返った。ガントレットを叩きつけるように操作し、肩に装備したプラズマキャスターをハッチへと向ける。

 

 次の瞬間、船体が軋んだ。

 

 ハッチの向こう、巨躯が無理やり押し込まれるようにして姿を現した。

 

 「……来たか」

 

 ホワイトスパイクのクイーンだった。

 

 その全身は洞窟で浴びせた斬撃とディスクの傷で血と体液に濡れていたが、なおも動きは力強く、四対の腕が金属壁をひしゃげさせながら進入してくる。咆哮は耳を貫き、船の内部を震わせた。

 

 私は思わず笑った。

 

 「ハッ!!これは僥倖だ!!!」

 

 すぐさまガントレットを操作し、背後のハッチを閉ざす。隔絶された密室に響く金属音。その直後、船が自動制御に従って上昇を開始した。大地が離れていく感覚が、足裏を震わせた。

 

 だが、私は今、全身傷だらけだった。

 

 肩は牙に抉られ、蛍光の血が今なお滴っている。腰は悲鳴を上げ、ギックリ腰寸前。肋骨は何本も砕け、脇腹には奴のスパイクが深々と突き刺さったままだ。呼吸をするたびに焼け付くような痛みが広がり、視界の端が暗転していく。

 

 「……栄光を捨てる?それは……やっぱり無しだ」

 

 私はマスクに両手をかけ、深く息を吸い込んだ。そして、ゆっくりと引き剥がす。

 

 金属の覆いが外れ、冷たい空気が素顔を撫でた。眼前に立つクイーンの姿が、遮るものなく網膜に焼き付く。

 

 「グオオオオオオオオオ!!!」

 

 私の喉から迸る咆哮。

 

 それに呼応するように、クイーンも甲高い叫びを上げた。

 

 「ギエエエエエエエエエエ!!!」

 

 咆哮と咆哮がぶつかり合い、金属の壁を震わせる。空気は熱を帯び、二つの存在が狭い船内で殺し合いを始めることを告げていた。

 

 私は両腕を広げ、二枚刃のリストブレイドを展開させた。鋼鉄より硬い刃が伸び、蒼い光を反射する。

 

 「来い……!!」

 

 私は足を踏み鳴らし、前へと躍り出る。

 

 初撃は奴だった。

 

 触手が唸りを上げ、弾丸のように迫る。鋭いスパイクが連射のように飛んできた。

 

 「フンッ!!」

 

 腕を振り上げ、リストブレイドで次々と叩き落とす。刃と棘が激突し、火花が散り、床に突き刺さった棘が金属を抉った。

 

 間合いを詰める。

 

 クイーンが立ち上がった。天井に頭を擦りつけるほどの巨体が伸び上がり、二本の触手を鞭のように振り下ろす。

 

 「……ッ!」

 

 私は腰を捻り、半身をズラす。触手は私の背を掠め、床に叩きつけられた瞬間、鉄板が陥没し、船全体が揺れた。

 

 隙だ。

 

 「死ねッ!!!」

 

 私は踏み込み、刃を閃かせた。リストブレイドが奴の横腹に深々と突き立ち、熱を帯びた体液が溢れ出した。焼けるような臭気が立ち込め、皮膚を侵す。

 

 だがクイーンも黙ってはいない。咆哮を上げ、片方の腕を叩きつけてきた。

 

 衝撃が私の身体を吹き飛ばし、金属壁に激突した。肺の中の空気が再び弾け、視界が白に染まる。

 

 「……まだだ」

 

 私は壁を蹴って再び立ち上がる。吐き出された血が口の端を伝う。だが、瞳はまだ死を受け入れてはいなかった。

 

 「最後まで……狩り抜く」

 

 再び走る。

 

 血に濡れた床を蹴り、影と影が交差した。

 

 ふと、昔の光景が脳裏をかすめた。

 

 私が渾身の力を込めて突き出したスピアを、オリオンはわずかに身体をズラすだけで避けたのだ。

 

 その時、静かに告げられた言葉を今も忘れられない。

 

 「だから甘いと言っている」

 

 次の瞬間、彼の拳が私の腹に突き刺さっていた。息が止まり、膝を折り、砂に顔を叩きつけるほどの一撃。

 

 ――あの時の無力感。

 

 あの時の怒り。

 

 私の胸の奥に沈殿していたものが、目の前の獲物を前にして一気に爆ぜた。

 

 「甘いなどとは……もう言わせん!!!」

 

 叫ぶと同時に、迫り来るクイーンの触手をリストブレイドで切り払う。刃が火花を散らし、分厚い皮膚を裂き、白濁した体液が霧のように飛び散った。

 

 背中に背負ったスピアに右手を伸ばす。自分でも信じられないほど自然に、そして驚くほど早く掴み取っていた。全身に力を込め、槍を展開する。

 

 「ウオオオオオオオオオッ!!!」

 

 クイーンの横払いの触手が唸りを上げた。空気が割れ、船内の壁に圧が走る。私は身を沈め、地を擦るほど低く屈んでかわした。刹那、全身の筋肉を爆発させる。

 

 跳躍。

 

 脚の腱が悲鳴を上げるほどの踏み込み。腰が軋み、折れた肋骨が突き刺さるように痛む。それでも構わなかった。

 

 身体が宙を舞い、船の天井すれすれにまで到達する。

 

 眼下には咆哮を上げるクイーン。裂けた顎、鋭い牙、振り乱れる触手。だが、その全てが私には遅く見えた。

 

 「これが……ゴンジ()だッ!!!」

 

 全身全霊の力を込め、スピアを頭蓋めがけて突き下ろした。

 

 刃が骨に触れた瞬間、凄まじい抵抗が手に伝わる。だが私は止めない。肩の関節が外れそうになるほど力を込め、全ての筋肉を絞り出し、喉奥から迸る咆哮と共に押し込む。

 

 「グオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

 骨が軋み、砕ける音がした。

 

 スピアの穂先が頭蓋を貫き、白濁した体液と共に赤黒い脳漿が噴き出す。

 

 クイーンが全身を痙攣させ、天井に触手を叩きつける。船体が揺れ、制御盤が火花を散らす。だが、私は刃を離さない。

 

 「まだだ……まだ足りん!!!」

 

 私はスピアをねじ込み、さらに深く突き刺した。

 

 クイーンの咆哮は絶叫へと変わり、触手が暴風のように振り回された。一本が私の身体を弾き、壁に叩きつける。肺が潰れるような衝撃。だが、刃は奴の頭に残されたままだ。

 

 私はそれを掴み直し、歯を食いしばって引き抜く。そして返す刃のように再度突き立てた。

 

 「死ねええええええええッ!!!」

 

 突き、突き、突き、突き……何度も何度も頭蓋を貫いた。

 

 やがて、クイーンの動きが止まった。

 

 巨体がぐらりと傾ぎ、船内に重い音を響かせながら崩れ落ちた。

 

 私は血と体液に濡れた床に膝を突き、肩で息をした。

 

 「……やった、のか」

 

 握るスピアの柄は、体液と自らの血で滑り落ちそうになっていた。

 

 私は震える腕でそれを握り直し、クイーンの死骸を見下ろした。

 

 その姿は、ただの怪物ではなかった。

 

 歴戦の獲物、私に試練を与えた存在、そして――栄光を与えた存在。

 

 「オリオン……」

 

 思わず呟いた。

 

 師よ、どうだ。私は甘さを断ち切れたか。

 

 答えは返ってこない。だが私の胸には、確かな熱が宿っていた。




エイペックス君「うおおおお!!!ゴンジ!!!」
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