二人旅日記   作:鍵主(ゴミ虫)in Hell

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前作を読んでくださればわかるとおり、なんか明るい感じで終わったのですが、


埃と汗

まあ、あの会話をした後になんやかんやあって敵対したらしいキャロル。自分はどちらの勢力にもつかない日和菌よりも厄介な立ち位置の人間だ。だからこそ、キャロルの選択を最後まで見届けた。

 

キャロルは人類を愚かな存在、だが一考の価値はあると結論付けたらしい。そして私に連絡をくれた。これからシティを去ると言う。そしてその旅についてきてくれないか、と言ってくれた。もちろん私は快諾した。

結末がどちらへ転ぶかはわからなかったが、どちらにせよ旅立とうとはしていたので荷造りにはさほど時間がかからなかった。

 

 

それから1年。

物理的には私だけだが、私たちはシティの端の端にある居住区にいた。立ち寄ったのは別の街へ行く道中近くを通ったからというだけである。

そこは既に廃墟と化しており、誰もいなかった。

降り積もった埃、割られた窓、散乱した家具、誰かの血痕。全ての建物が荒れ果てていた。その中からひときわ高い建物の屋根に登る。そこでスクラップになったACを眺める。ここら一帯が廃墟となったのはシティが焼き尽くされたからだろう。かつてここに住んでいた住民たちはここに戻ってくることはもう二度とないのだろうか。

 

「みんなどっかに行っちゃったんだね」

 

イヤホンのマイクに話しかける。キャロルの返答はイヤホンを付けている私にしか聞こえないので、きっと誰かが見たら幻覚を見てる気狂いか二重人格者にしか見えないのだろう。どうせ誰もいない、普通の人に話しかける声量で話す。

 

『劣化具合をみるに、シティが焼き尽くされてから直ぐにここから立ち去ったようです』

 

おお〜! さすが高性能AI、カメラ越しからでも周囲を観察できるとは・・・すごいな。

 

「ふーん、そうなのか。じゃああっちにある壊れたACもそうなの?」

 

『いえ、あれはシティが焼き尽くされてからもう少しあとに壊れたもののようです。私のデータには保存されていないので、シティから離れていた間に登録された機体かと』

 

自分で言うのもなんだが、想像以上にどうでもいい話だった。キャロルは真面目に答えてくれたので、どう返事を返して良いのかわからず、私は「へー、そうなんだ」としか返事できなかった。

 

『・・・・もしかしてですが、この話題に興味を無くしたんですか』

 

さっすが高性能AIだ! 話が早い。とはいえ、自分はキャロルをAIとはほとんど思っていないので罪悪感が重くのしかかる。

 

「うん。まあ、そうだね。自分から聞いといてごめん」

 

『いえ、主任の時も同じようなことが多々ありましたので、慣れてます』

 

あーっ! 主任と同じことしてたか。

あの激ヤバ主任と同じことをしていたと言われてかなり落ち込む。

 

「あーあ、ちぇー・・・・」

 

その瞬間、誰かが肩を叩いた。

 

ここに来るのはたいていが人攫いか人殺しかの二択だ。驚いて顔を真っ青にしながら振り返ると、そこにはガタイのいい青年がいた。

 

「あー、ごめんね。そこまで驚かすつもりはなくてさ・・・・ところでキミ、どうしてこんなところにいるんだい? 昔の住人には見えないが・・・」

 

青年は人当たりの良さそうな笑顔で少しだけ謝罪した。

 

「別のところに行く道中に立ち寄っただけです。昔シティに住んではいましたけど、ここには住んでませんでしたね」

 

私の話を聞いた青年はほんの少しだけ口角を上げる。

 

「俺はローグ、世界平和を目指す機関『ビーハイヴ・ファミリー』ってとこのAC乗りだ。よろしく」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

手を出されたので反射的に握手をしてしまった。大きくガッシリとした手はACに乗ること以外で鍛えられたものだとわかった。

 

「なあ、ここで話すのもなんだしビーハイヴの拠点に来てみないか? あっちには水も飯もあるからよ」

 

心臓がドッと跳ねる。最近は味気のないレーションしか食べていなかった自分にとっては最高の提案であった。だが、そうはいかないとばかりにキャロルが言う。

 

『ビーハイヴ・・・聞いたことがありません、我々が旅立った後に設立されたようです。AC乗りがまさかここにもいたのですね。ここは接触を最低限とし、もうシティから脱出するべきでは』

 

キャロルが私に行動を提案した。珍しい、こういうことを言うのはほとんど無いのだ。言うのはだいたいは危険が迫っている時ぐらいだ。私が命を落とすというのは自分も死ぬ、ということだからだが・・・・理由がわからない。とはいえこの見知らぬ人物の前で聞くわけにはいかない。これからのことも考えて、もう旅立ったほうがよいと私も結論づけた。

 

「あー、私もう行かなきゃならないんですよ。だから、その、」

 

「まあまあ、いいじゃないの。ほら、行こ?」

 

握手した手が解けない。手を解かないままズリズリと私を引き摺る。近くにある乗り物に乗らされるのだろうか。そしてそのまま、た、食べられちゃうんだ・・・・! キャロルが行動を提案したのはこれが理由だったんだ・・・!

 

「いや、大丈夫です! 私は大丈夫ですので! ね!」

 

大声で行かないと意思を述べるが、聞く耳を持たない。引き摺られながらローグの顔を見るとそこには笑顔があった。普通こういうことをする人は笑顔になんかならない。

やばいやばいどうしようどうしようたすけてたすけてだれかだれかだれでもいいからだれかたすけて

視界がグルグルとぼんやりし始める。呼吸が浅くなっていく。それなのに血液は濁流のように目まぐるしく身体中を駆け巡る。

 

 

『落ち着いてください』

 

キャロルが優しく声をかけた。

 

『まずは深呼吸をしましょう』

 

言われるがままに深呼吸をする。吸って、吐いて、吸って、吐いて。

安心して状況を理解できるようになった。が、もう目の前に乗り物があった。零れ落ちそうな涙を掴まれていないほうの手で拭う。

 

「手を離してください。私は貴方がたのところへは行きません。あなたが所属する組織は平和を目指すのでしょう? それならば一個人の気持ちを尊重するのが普通なのでは」

 

さっきより冷静に、ハッキリと拒否をしめすことができた。

ローグはその言葉を聞いてハッとした表情になった。

 

「そっか、ごめんね。気づけなかった。本当にごめん」

 

手を離して困り顔で頭を下げているのを見るに、本当に反省しているようだった。

 

「ご理解いただけたようで、それでは」

 

このあとに何かを言われないように後ろを振り向かずに早足で立ち去る。追いかけてはこなかった。

 

 

 

 

かなり離れたところの建物の影で尻もちをつく。

 

「あー・・・焦った。ありがとね、キャロりん♡」

 

『・・・・・・・いえ、貴女に何かあったら私にも危険が及ぶことになるので、言ったまでです』

 

「も〜、素直じゃないんだから〜♡」

 

『貴女・・・・主任に似てきましたね・・・・』

 

「そうかな、そうなのかな?」

 

主任に似てきたとは・・・・つまりあの、ヤバい性格に似てきたってことか!? おちゃらけた言い方をしているが、内心はかなり焦った。

それからは何事もなかったかのように、この先どこに行くかのルートを決めた。

 

 

『では、ここで少し休憩を取ったらシティを出ましょう』

 

「そうだね。んじゃ、きゅうけーい!」




2024/9/1
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