フジの由来
『不次』である。時間軸上の順序は無視される
『不二』である。名は存在を縛り、運命を定める。同じ名は、同じ呪いである
『不時』である。時が選ばれるのに理屈はない
――――東方LOST WORD記憶遺跡『白銀の風』より
「いや〜、ここルビコンっていうっぽいね。ルビコン解放戦線っていうのがあるみたいだし」
『解放戦線と名乗っているあたり、植民地支配されているのでしょう』
元の世界にもレジスタンスという組織があった。あちらは最後にどうなったんだっけ・・・・・思い出せない。ただでさえ忘れっぽいんだ、自分が直接関与していない事象ならば忘れても不思議ではないだろう。たぶん。
「なんかここACの残骸が多い気がする」
本当にそうだ、いくら人がいないからとはいえここにACの残骸を捨てにくるのは違和感がある。捨てるくらいなら売ったほうが金になるし。
『ACの種類に規則性がありませんね』
ACの残骸や建物だったであろう何かを通り抜けていくと比較的新しい建物が見えた。工場か倉庫だったのだろう。特に興味が湧かなかったのでまた通り過ぎる。
『西の方角に巨大なヘリコプターが墜落しています、あちらに立ち寄ってみるのはどうでしょうか』
言われたとおりに西の方角を向くと巨大なヘリコプターが落ちていた。雨風に晒され続けたのだろうか、少し赤茶色に見える部分がある。中に誰かがいたらその時はここがどのような場所かを教えてもらおう。もし誰もいなかったら荷物を漁るだけにしよう。
下心満載でヘリコプターの内部へと潜入した。
ヘリコプター内は血のような匂いで充満していた。遠目に見ていた時はところどころ錆びているように見えたが、内部は完全に錆きっているようだった。血の匂いには慣れているが、それでもこの強烈な匂いはあまり気持ちの良いものではなかった。
「うえー、すごい錆びてる。さっさと荷物漁って出よっか」
いつもなら一言ほど何か返事をくれるキャロルが何も言わなかった。そういう時もあるだろう。特に気にすることもなく内部の奥の奥までゆっくりと歩く。不用意に振動を与えると全体が崩れて生き埋めになってしまうかもしれない。少しずつ進んでいったが、得られたものは何かのデータとヘリコプターに酷似した小さなおもちゃだけだった。他のものは全て腐食して使い物にならなくなっていた。
何のデータなのか今すぐ解析をしたいところだが、場所が場所なのであまり良いものではない可能性も考えられる。
「キャロりん、ここも収穫なかったみたい」
『そうですか』
今日はずっと素っ気ない。しょぼくれながらまた歩を進める。真っ直ぐ前へと歩く。目的地など存在しないのだから。
「今日のキャロりん、なんだか素っ気ないね」
『そうでしょうか。私は普段と変わらない接し方をしているつもりでしたが』
「ふーん。そう」
余計に気になってしまったが、全くの興味を示さない気持ちもあるため返事だけしておく。
「どう? 何か見えてきた?」
自分の目では確認できないので、キャロルの高性能カメラに頼らせてもらう。もしも何かがいるならば一瞬の出来事だったとしても気づけるだろう。
『何もいません。ここまでの道中、何かがこちらへと向かってくる様子もありませんでした』
よかった。もしも近くに野生動物か何かがいたら自分はその動物の餌食になってしまうだろう。いつどこから来るのかが予測不能であるため、急いで退散する。
歩く。疲れたら休憩して、また歩く。どのくらい歩いたかわからないが渓谷に着いた。後ろは進んできた道、前は渓谷しかないので諦めて下へ降りていく。ロープを使って降りていく途中で遠くに光る物質が見えた。近づこうとすると、光っている物質は白くて青い線が入った胴体に八目鰻のように大きく口を開け、それでいて芋虫のように大量の足が蠢いている気持ちの悪い生物だった。アレには目がついていないのだろうか。そっと立ち去ろうとした時に誤って小石を踏んづけてしまった。
ジャリッ
その瞬間、アレはこちらへ近づいてきた。今までもトンチキ生物を何度も見たことがあったが、やはり芋虫系が一番苦手だ。叫びながら逃げる。
「やだーーーっっ!!!」
無我夢中で見知らぬ谷を駆け抜ける。途中で一度だけ脇見をしたが、同じような生物が見えた気がして走るのが速くなった。
『前方左側に人影が見えます。そちらへ退避してください』
キャロルの言われたとおり左へ曲がるとそこには男が一人がいた。パイロットスーツを着ていて誰かと通信をしているようだった。もう誰でもいい。泣きついてどうにかしてもらうほかない。
「すみませーーん!!!! 助けてください!!!!」
大声に気づいてこちらを向いてくれた。あっ、イケメン。じゃなくて、とにかく助けを求めて全力疾走する。
「あっ、あのっ、助けてください! あっちの方からなんか白い芋虫がっ!」
全力疾走した影響で言動があやふやだが伝えたいことは伝わったようで芋虫が来た方向を向いてくれた。
「あれは・・・・・ミールワーム、しかも大物か。見つけてくれてありがとう」
「ふぇ? あ、はあ、そですか・・・・・・」
息を整えながら汗を拭う。何か大物がどうとか言っていた気がするが、どうにかしてくれるのは確かだったので男にその、みーるわーむ?を任せて気絶した。
『起きてください』
「ん、んぇっ?」
気絶している間にあの男に運ばれたのか、知らない天井というやつだった。キャロルに起こされたのはわかったが、今の状況がわからない。ここがどこで、今が何時なのか。体を起こすと、なんだか保健室のようだった。久しくこの単語を使っていなかったな。最後に使ったのは故郷にいた時だったか。
服は患者衣、顔を触ると絆創膏が貼ってあった。誰かが治療してくれたのだろう。荷物は近くの棚にあり、中身は変わらなかった。
ガサゴソしていると、部屋に人が入ってきた。その人は私たちを助けてくれた男性だった。
「やあ、数時間ぶりだな」
挨拶されただけなのに陽のオーラが眩しい。我々ディストピアの住民が浴びたら3秒も経たずに素粒子まで分解されてしまいそうだ。
「あの、助けてくださりありがとうございました」
ベッドの上で深々とお辞儀をする。
「困っている人がいたら助けるのは普通だろ?」
眩しい。眩しすぎるほどの陽のエネルギーを身に纏っている。
「は、はは。ありがとうございます。あ、私はフジと申します。それと、」
イヤホンを操作して拡声器をオンにする。
『キャロル・ドーリーと申します。お見知りおきを』
なんとなく、この人にはキャロルのことを紹介したほうがいいと思った。理由はわからないが、とにかく漠然とそう思ったのだ。
「私の名前はラスティだ。よろしく」
それからはラスティにこの世界のことを教えてもらった。この星の名前はルビコンであること、半世紀前に大規模災害が起きたこと、最近になって資源が再発見されて企業が参入してきたこと、他にもいろいろなことを教えてもらったが何よりも驚いたのはACに関してだった。
なんと、この世界にはOWが存在しないのだという。他にもあるものが存在しなかったり、逆にないものが存在したりと自分たちのいた世界とは似ているようで全く違った。だが武器に関しては酷似しているものが存在していた。ただし開発は全て別企業だった。
例えばLB-66 MOONLIGHTに酷似しているIA-CO1W2:MOONLIGHT。なぜMOONLIGHTにこだわっているかというと、かっこいいからである。あとLR-81 KARASAWAによく似ている44-142 KRSVというものがあった。確かによく似ているが最後の一文字がWではなくVなのは、Wという文字がVを二つくっつけたものだからという理由なのだろうか。どうでもいいが。
「君はAC乗りなのか?」
ACは好きだが諸事情により乗ることはできない。仕事にACが関わるものが多いという側面が大きいのだろう。
「いえ、詳しくは言えないんですけど私はACに乗れないんです。ただACに関する仕事が多くて、それで興味が湧いたってかんじですね」
よくある理由だ。実際その理由も含まれているので嘘ではない。嘘では、ない。
『主任の影響なのではないのですか?』
キャロりん〜〜〜〜〜!!!!?????!?!?!??! ちょっっとちょっとっっっちょ!??!??!
別に主任のことを隠そうとはしていなかったが、突然そのことを話されるとそれはそれで焦ってしまう。
「あーー、確かに主任の影響は、あるかも」
「主任? 君の上司かい?」
「上司じゃなくてどちらかというと雇い主ですかね、フリーランスで事務員やってたんで」
雇われてる時は上司と呼んでも間違いではないのかもしれないが・・・上司とは言いたくないかもしない。
「フリーランスの事務員、聞いたことがないな。君はどこから来たんだい?」
絶対に言われるであろう言葉第一位『故郷はどこか』。ここから地球が近かったらありのままに話せるのだが、地球は遠い星になっていた。どのくらい遠いのかはわからないが、本当のことを言うと怪しまれるのかもしれない。とはいえ嘘をつくのはあまり得意ではない。
髪を耳にかける動作をしながらキャロルの拡声器をオフにする。オフにした理由に気づいてくれたのだろう。少しだけ話してくれた。
『嘘をつくのが下手なので諦めて言うのがいいのでは』
うーん、予想通りの回答。その後の対応は後回しにしてやはり言ってしまうほうがいいのだろうか。
冷や汗に気づいたラスティが目を細めた。
「言えないところから来た、とか?」
「いやいや、地球はそんなと、こ、じゃ・・・・・」
普通に口を滑らせた。故郷はとても平和な街だったので勘違いされたくないという思いが先走った結果だ。
破綻した思考の・・・妥当な末路だ。
「生まれが地球ということか。育ちはどこの惑星なんだ?」
「あっ、いえその、生まれも育ちも地球でして・・・・ちなみに23歳デス・・・」
言い忘れていたが私は23歳だ。
「23で育ちも地球・・・? えっ、なっ、なに?パラレルワールド出身?」
そういう系の知識がある人なようだが、信じてはもらえなさそうだ。そりゃそうだ。信じてもらえる可能性は皆無に等しいので『だろうね』程度で済むが。
「まあ、そこんとこはどうでもいいんですよ。どうでもいいんです」
この話題にはあまり触れてほしくない。帰れなかったら辛い思い出になってしまうから。
念の為、もう一度髪を耳にかける動作をして拡声器をオンにする。
「ラスティさんは何歳ですか? なんとなく聞いておこうかと」
「私は32歳だ、もうおじさんと呼ばれる歳だな・・ハハ」
反応から察するに、既に小さい子からおじさんと呼ばれているのだろうか。こんなにもイケ・・・んん、若く見えるのでかなり驚いた。だがよく見ると目のあたりに少しばかり小皺が寄っているようにも見えた。だが本当にほんの少しだけだ。
「32歳・・・そうは見えませんね。20代後半ぐらいかと思ってました」
本当にそう思っていた。ありのままに伝える方がいいだろう。
「そう言ってもらえるとありがたいよ。それにしても随分と荷物が少ないみたいだが・・・」
「元からこの量ですので。大丈夫です」
それにしても本当に持ち物が少ない。どこかの誰かも言ってたじゃないですか『ちょっとのお金と明日のパンツさえあれば何とかなる』って。ディストピアなのでもう少しだけ持ち物は必要なんですけどね。
そうこうしていると白衣を着た人・・・ではなく、なんか知らんおじさんが入ってきた。
「やあ、V.Ⅱ。調子はどうだい?」
ゔぇすぱーつー? ああ、ヴェスパー2か。
「どうもこうもありません。なんですかこの小汚いネズミは」
本人の前でそれ言うか、ノンデリにも程があるぞ。クソ眼鏡野郎。
「聞こえてますよ」
「あらら、声に出てましたか。失敬失敬(笑)」
主任のように煽ることはできなかったが、このクソ眼鏡には十分すぎるほど効いたようだ。あの怒りに歪む顔を見ると口角が上がっていく。ここまで加虐趣味があったとは思えないが、人のことを小汚いネズミと罵ったんだ。嘲笑う程度で済ませてあげていることに感謝してほしいものだ。
『この眼鏡、失礼な奴ですね。さぞ可哀想な環境で育ったのでしょう。そうでなければあのような言葉遣いにはなりません』
「ちょ、ちょっと。言うのはダメだよ。さすがにね!?」
「なんですか!? 私が可哀想だと・・・どこにいるんですか!今すぐ出てきなさい!」
『錯乱状態で見つけられるわけないのでは? どこから声が出ているのかもわからないのに見つけられるとでもお思いで?』
すげー煽ってら。見つけられるとは思えないのは事実だが、目の前のクソ眼鏡が怒り心頭で手が震えている。怒って震える人って初めて見たかも。
「ウケる」
取り繕うのがめんどくさくなってきたので思う存分煽ろうとした。その時
「まあまあ、それくらいにしないか? 無益な争いは疲れるだけだ」
ラスティが止めに入った。よく知らない人が・・・どういう関係なのだろうか。知り合い?と口喧嘩をしようとするのならば止めに入るのもおかしくはない、かもしれない。比較対象がイカれてる奴らしかいないせいでよくわからない。
「・・・・・ちぇー」
「この人も反省してるようだし、な?」
「・・・仏の顔も三度まで」
小さい声で呟く。この諺を知っていたようで、深呼吸をして落ち着いたようだ。
「・・・・次はありませんよ」
去っていった。いやそもそも誰?なんでここ来たん?ツッコミどころは多いがクソ眼鏡が退散してせいせいした。
「さすがに言い過ぎだ」
「はーい」
「キャロルもだ」
『お言葉ですが、初対面の人間を罵るようなやつを擁護するとは・・・・やはり理解できません』
「あっ、ちょっ、まっ、あれはあの人が特殊だっただけですよね?」
また『人間は理解できない、滅ぶべき存在だ』で同じことをやられてはたまったものではない。
「あのヴェスパー2って人が特殊なだけですよね?」
焦りながらラスティに聞く。
「Ⅴ.Ⅱ・・・スネイルは元からヒステリー気味な性格だ。他の人間はあんなこと言わない」
うーん、恥晒し。あのクソ眼鏡はスネイルというのか。覚えておこう。
「そういえばここってどこですか?」
「ここは私が所属するヴェスパー部隊の前線基地だ」
部隊。ラスティは軍人なのだろうか。軍にしてはゆるゆるな気がするが。
「じゃあラスティさんは軍人なんですか?」
「いや、アーキバス・コーポレーションという企業直属の強化人間部隊の第4隊長を務めている。ヴェスパーはV、数字はローマ数字で書くんだ」
「じゃあさっきの・・・・・・スネイルは第2隊長ってことですか」
『あんなのが隊長を務めているとは。世も末ですね』
すごい言いようだ。さっきからスネイルに対して当たりが強い。それは私も同じか。
「すごい言いようだな」
わかる
「じゃあここは支社なんですね。へえ・・・」
「もう元気そうだな。よかった」
そうだった。もう元気になったからには旅立たねばならない。
「そうですね。それでは、短い間でしたがお世話になりました」
「出口まで案内するよ」
歩いている間、ラスティはたくさんのことを話してくれた。
「戦友が・・・」「戦友は・・・」「戦友と・・・」「戦友に・・・」「戦友の・・・」
主に『戦友』の話だけだったが。
戦友とは誰のことなのだろうか。独立傭兵であるということ以外何もわからない。出口まで歩いているとラスティが急に目を輝かせた。
「戦友」
小さな声だったがすごい笑顔だ。目線の先を見ると頭に包帯を巻いた無表情の大男と、頬に切り傷のあるおじいさんがいた。ラスティの年齢から察するに戦友とはきっと大男のほうだろう。ラスティは小走りでその『戦友』のところへ駆け出した。
「戦友、ね。私にはいなかったなあ」
『そもそも貴女は戦ってすらいないでしょう』
「あはっ、たしかにそうだね」
彼らがなにか話している。こういう時は先に行っているべきなのだが、残念なことに私は出口を知らない。近くの壁に背中を預けて彼らを眺める。
あの人笑ってる。無表情だったけどラスティさんと話していると笑えるのか。
「平和だね」
『強化人間部隊が存在する時点で平和ではないと思うのですが』
「うーん、そういう意味じゃなくてね」
拡声器のスイッチを切ってキャロルと話す。こういう会話、結構好きだ。この時だけだとしてもキャロルと友人である気分になるのがとても嬉しいのだ。
「ラスティさんが戦友って呼んでた人、やっぱあの人もAC乗りなのかな」
『そうかもしれませんね』
「・・・・ふふ」
『笑う要素はないはずでは?』
「ううん、違うよ。キャロりんと話してる今この状況が嬉しくてさ」
『はあ』
「幸せだなぁって。それだけ」
『そうですか』
この静かな瞬間がたまらなく幸せだ。
2024/10/29
スタッフロール(出演順)
ミールワーム:ルビコニアンふつうワーム。キモい。
V.Ⅳラスティ:アラサーイケメン。好物はミールワームの串焼き。
クソ眼鏡もといV.Ⅱスネイル:伊達眼鏡。断末魔が面白い。
C4-621:識別名レイヴン。何もかもを焼き尽くす、死を告げる黒い鳥ではない。
ウォルター:ご主人でありお父さんでありお母さんでありおじいちゃんである。おばあちゃんではない。