この世界には珍しく、最近になってアスファルトで舗装された道路を歩く。
「なにこれ」
A4用紙5ページでホチキス留めされている書類が落ちていた。砂があまりついていないので最近落とされたものなのだろう。普通なら通り過ぎるのだが、なぜだか気になってしまった。
『もしかしたら落とし主が戻ってくるかもしれません。元の場所に戻した方が』
「でも気になる・・・!」
『またですか』
この前も落ちていた小説を読んでいて1日を過ごしたことがあった。今回は5枚のペラペラなものだからと心の中で言い訳を言う。
「いや、でも気になって・・・落とし主さん、すみません・・・!」
『今回もですか』
キャロルはそれ以降ずっと黙ってくれた。早めに読み終わらせるためだったのだろう。ありがたかった。
拾ったそれは報告書だった。1枚目は表紙。2から4枚目が報告書、5枚目は小説だった。報告書に興味はないが小説は気になる。もしかしたら小説を読むための前提となる何かが書かれているのかもしれない。道路の脇に座り、報告書を読み始めた。
表紙には固苦しい数字しか書かれていなかった。なにかしらの報告書なので分類番号なのだろう。
表紙を捲る。
報告書は、報告書という形式の不思議な傘と博士の話だった。
傘は雨に当たった時だけ曲を奏でる。それを調べる博士の話だった。
博士は悪戦苦闘する。全然雨が降らなくて実験ができなかったり、罵声を浴びせ続ける実験で突発性難聴になったり。読んでいると笑ってしまうものが多かった。
最後に、たくさんの人たちがたくさんの拍手と賛辞の言葉を送る実験があった。その実験で、傘は撥ねられたかのように壊れてしまった。
雨の中、傘が曲を奏でることはもうなくなった。そういう話だった。
最後のページ、それは後日譚だった。傘を失った博士の話で、壊れてしまった傘で意味のない散歩をする話。傘はうんともすんとも言わないはずだった。けれど最後の力を振り絞って博士に感謝の演奏をして、博士が泣いて、それで話は終わり。隠されたメッセージはなかったけれど、それでも心を打つような、そんな話だった。
読み終わってから、ずっと、ずっと俯いていた。太陽が背中を上から下へと暖めていった。
『行きますよ』
キャロルの一言で私は雨に打たれていることに気づいた。雲一つないと思っていた空は曇天で、空気も呼吸も寒々しいものへと成り代わっていた。あの紙は水に溶ける素材だったのか、溶け切ってもう読めなくなっていた。
「そうだね」
屋根のある場所を探すために、立ち上がった。
タイトル: SCP-548-JP - 歌う雨音
作者: 29mo
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-548-jp
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: カーテンコールは蕭々と。
作者: Yukko
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/lento-ma-non-troppo
ライセンス: CC BY-SA 3.0
2024/9/18