古びた映画館がある。看板の文字は掠れ、原型すら分からなくなっている。そんな映画館から音がする。
カチリ、カチリ、ガーッ、ガーッ
古い機械なのか、時折り音が止まる。耳に入ってくるのは機械の音と自分の足音だけ。いつも話している友人は黙っている。風に攫われてきた砂と、床に散らばった硝子片を踏む音が聞こえる。
パキッ、パキリ、ざっ、ざりっ
機械の方へと向かう。当時は気品あふれる姿だったであろう扉を開けた。少し暗い部屋には赤い背もたれの椅子が段になって幾つも置いてある。それのどれもが古いはずなのに、最近掃除されたかのように清潔に保たれている。その一つ、真ん中あたりの席に座る。カラカラと空回りしていた音がガチャリと止まる。今度は何かが付けられて回っている音に変わった。部屋の電気が消え、真っ暗闇になる。
映画が、始まる。
明るい曲と粘土細工を使ったオープニングとタイトルコールが流れる。映画は家族3人とその飼い犬が子供2人の母親に文句を言い始めるところから始まった。犬頭良すぎ。それにしても、この男性…父親の声どこかで聞いたことがあるような。そのまま映画は進んでいき、父親が家族を守るためにドスの効いた声を発したシーンで思い出した。この声、主任に激似だ。声帯を共有しているのでは、と勘違いしてしまうほど激似だ。
友情というものは時に裏切るものなのだと知った。それでもやっぱりボクたちはお前を信じるよ、と消えるものではないということも知った。自分の時はどうだったのかな。
家族愛、というものは裏切らないことを知った。信じることは善であり、それが揺らぐのは家族愛が消えた時なのだと思った。
あっという間に映画は終わった。少し寂しいハッピーエンドで心がほんのりと暖められた。最後に出てきた焼肉を見ていると肉が食いたくなってきた。エンドロールが終わり、真っ白な画面に切り替わる。それをじっと眺めていた。ずっと眺めていた。
ハッと目が覚めた。場所はさっきと同じだったが、周りは埃まみれで立ち上がると尻にたくさん付いていた。さっきまでの映画も空気感も全て覚えている。狐に化かされた気分だ。狐ってなんだろう。
「おはようございます」
「おはよう」
どことなく怒気を感じる。
「いきなり埃まみれの建物に入るかと思うと、私の話に耳を貸さなかったのはなぜです?」
「う〜ん・・・実はそこらへんの記憶が曖昧でさぁ。映画を見たことは覚えてるんだけど」
「映画なんて上映されていませんよ」
「でも機械音とか聞こえたし、なんだったんだろ。そうそう、映画に主任と全く同じ声のキャラクターが出てきてさぁ。声帯を共有してるんじゃないかってほど似てて、すごく吃驚した」
「夢ですね」
「う〜ん・・・・それとは違う気がするんだよねえ。その映画に美味しそうな焼き肉が出てきたから晩御飯は肉だよ」
恐怖より食い意地。いかにも私らしいな。腹の虫も鳴ったのでどこかでいい感じのを捕まえてくるか。映画館を後にする。どうなっているかを確かめようと翌日も訪れたが、見つからなかった。
2024/11/15