朝の通勤・通学ラッシュで混雑する電車。学生の身分である郁代も例になくその中の一つである車両に乗っていた。
吊革に掴まり揺れに身を任せながら空いた手でスマホを操作する。ホーム画面に戻った時、ふと見慣れないアイコンが目についた。
こんなアプリ入れてたっけ? 身に覚えが無かったが、アイコンからは何のアプリなのか情報が得られない。取り敢えずタップし起動させてみる。
【♡ラッキースケベ発生ガチャ♡】
ドピンクで太字のHG創英角ポップ体で書かれたアプリ名がスマホ画面を占拠する。
いかにもな様子からアレなアプリだと即刻理解した郁代は慌てて閉じようと操作するが何故か一向に終了しない。電源を切ってみようともしたがそれも効かず、そうこうしている内に怪しげなガチャが始まってしまった。
【初回限定3連ガチャ結果】
SSR パイタッチ
R 胸チラ
R パンチラ
(ぱいたっち? って何かしら??)
内容はなんだかよくわからないが、レアリティ的にどうやら良いものが当たったらしい。アプリの名前からして如何わしい単語なのだろうか?
ぺかぺかと光っていた派手な演出が終わると遅れてアプリが閉じる。え、これで終わり?
何はともあれアプリは閉じることができたし、ウイルスだったりしたら嫌だからアンインストールしておこう。スマホを操作しようとしたその時、車内に最寄り駅に停車する旨のアナウンスが流れた。やむを得ずスマホを鞄にしまい、降車する。続きは教室についてからにしよう。
もやもやを少し抱えたまま改札を出ると、見慣れた猫背を視界の端に捉えた。人混みを器用に避けながら、しかしのそのそと歩くその愛らしい姿を見つけ、堪らず駆け寄る。
「ひとりちゃんおはy──!?」
いつものように後ろから軽くハグをする予定だった。が、ひとりまであと数歩という所で足が縺れてバランスを崩してしまう。そのタイミングで郁代の声に反応したひとりが振り向き──
「あっ喜多ちゃんおはようござっ!?」
「わぷっ!」
──結果、郁代はひとりの胸元に顔を埋める形となった。
(な、なにこの柔らかさ!? 凄いわ……! でもジャージが少しごわついているのが惜しいわね)
顔から伝わる秘められし双丘の感触で頭が一杯になっていると、ひとりが心配そうに声を掛けてきた。
「だっ大丈夫ですか?」
「──はっ! えっ、ええ! ごめんねひとりちゃん!」
我に返り慌ててひとりから離れる。郁代に怪我が無さそうなことを確認したひとりは、ほっとしたのか小さく笑う。
「あっいえ、喜多ちゃんが無事でよかったです」
調子に乗った時のだらしのない笑顔とは違う穏やかな笑みを受け、罪悪感がのしかかる。
(ひとりちゃんが純粋に心配してくれてたっていうのに、そんな中おっぱいのことを考えていたなんて私は……!)
郁代は申し訳なさそうに、
「本当にごめんね、ひとりちゃん。お詫びに帰りにオススメの柔軟剤をプレゼントするわね……」
「えっ? あっありがとうございます?」
どうして急に柔軟剤? 疑問符を頭上に並べながらひとりはお礼を述べた。
***
駅を出て学校へ向かいながら雑談を交わしていると、珍しくひとりから話題を振ってくる。
「そっそういえば昨日、久しぶりにギターヒーローの収録をしたんですよ」
「へぇ~、今度は何の曲を弾いたの?」
「あっ最近流行ってるラブコメアニメのOPです」
「ラブコメ! いいわね、アニメはそんなに見ないけど流行っているなら見てみようかしら?」
するとひとりはあたふたしながら両手を振り出した。
「あっいや! ラブコメって言っても男の人向けのちょっとえっちな奴なんで!」
「えっ、えっちなの? そんなアニメの曲アップしちゃって大丈夫……?」
少し頬を染めながら郁代が不安気に聞くと、ひとりは更に慌てながら必死に弁明しだす。
「いっいえ、ちょっとだけです! あの、ラッキースケベでパンチラとかパイタッチが少しある程度なので、ちゃんと全年齢だから大丈夫ですよ!?」
聞き覚えのある単語がひとりの口から出てきた。そうだ、さっきの怪しいアプリのガチャで当たった奴だ。
「ねぇひとりちゃん、ぱいたっちってどういう意味?」
「うぇ!?」
予想外の問いにひとりが狼狽える。ひとりは少しだけ迷った後、目線を大げさに外しやや照れながらぼそぼそと説明してくれた。
「あっえっと、おっぱいをタッチ……触ることです……」
「そっそういう意味なのね。……言い辛いこと聞いてごめんね?」
「あっいえ」
暫し気まずい間が空いてしまい、郁代は話を逸らすために切り出す。
「そっそれでどんな感じの曲なのかしら?」
「あっまだ編集終わってないんですけど、演奏は撮り終わってるんで良かったら聞きますか?」
言うが早いがひとりはいそいそとスマホと有線イヤホンを取り出し、片側を差し出してきた。
「ありがとうひとりちゃん!」
ひとりから左のイヤホンを受け取り右耳に着ける。ひとりも反対のイヤホンを左耳に着け、演奏を再生した。明るく軽快なメロディをなぞるようなギターの音色が聞こえてくる。やっぱりソロ弾きだと上手さが際立つ。
TVサイズなのか2分弱程で演奏は終わり、隣のひとりにイヤホンを返そうと目を向けると、一つのイヤホンを使う為に近寄っていたせいかひとりの胸元が覗き見えてしまう。
いつもなら一番上までチャックを閉めているのに何故だか今日は少し開けており、さらにスマホを操作するために少しだけ前傾姿勢だったせいか、中に着ているTシャツの胸元に空間が出来ていた。
偶然に偶然が重なり、郁代の目にはひとりの下着がばっちり映ってしまう。
(薄ピンクでフロントに黒いリボンの付いたブラ! ひとりちゃん、下着はちゃんと可愛いの着けてるのね~!!)
心の中で一頻りキャーキャー騒いでいると、ひとりがイヤホンを外し声を掛けてきた。
「あっどうでしたか?」
「凄く良かったわ! やっぱりひとりちゃんは上手ね~」
「あっへへ、ありがとうございます」
褒められて嬉しそうにニヤニヤと笑みを浮かべてひとりはイヤホンを綺麗に巻いてしまう。その様子を見ながら郁代はひとりの下着に思いを馳せていた。
(可愛いものが見れてラッキーだわ~。にしても駅での事といい、えっちなハプニングがこうも続くなんてね)
そこまで考えてふと思い出す。さっきの変なアプリの名前が『ラッキースケベ発生ガチャ』だった事を。
郁代の身に起きたひとりとの出来事も、所謂ラッキースケベなのでは?
先程起こった出来事は正に『胸チラ』だし、手ではなく顔で触れていたが駅での出来事も『パイタッチ』に該当するのでは……?
(という事は、『ラッキースケベ発生ガチャ』はガチャで出た結果が現実に作用するっていうの? いやいやいや、まさかね!)
それに最後の一つは『パンチラ』だ。風等でスカートが捲れてパンツがチラリと見えてしまうアレ。
ひとりはアー写を撮影して以来スカートの下にはジャージを履いている。例え捲れたとしても見えるのはいつものピンクジャージだ。ひとりがパンチラをする事などありえない。
やっぱりさっきの変なアプリはジョークアプリか何かだろう。郁代がそう結論付けた時、ひとりはイヤホンとスマホをしまい終わったようだったので再び学校へ向けて歩き出す。すると次の瞬間、
「おわぁ!? ジャージのゴム紐が突然切れた!?」
「えっ?」
「あぁ! 突風でスカートが!」
「えぇっ!?」
ひとりがパンチラをした。白だった。
(ひとりちゃんって下着、上下で揃えていないのね)
郁代は『ラッキースケベ発生ガチャ』は本物だと確信する。
***
「うぅ、スースーする……」
あの後ひとりはジャージを手で押さえながら登校し、学校についてから更衣室でジャージを脱いだので久しぶりに下半身は校則に基づいた格好になっていた。
(ひとりちゃんの生脚、久しぶりに見れて感動~!)
郁代は自席からここぞとばかりにガン見する。今日はえっちで可愛いひとりが見れて最高だ。それもこれもあのアプリのお陰。
(はっ! あのガチャを更に回せばもっとえっちなひとりちゃんが見れるんじゃ……?)
密かに興奮を覚えながらアプリを起動させる。先程は急いで閉じようとしていたので碌に見ていなかったが、凄く簡素な作りになっていた。起動するとタイトルが出て、少ししてからタイトルの代わりに『ガチャを回す!』と表示される。それ以外には一切文字が無い。
(これを押せばいいのかしら?)
【ガチャを回すには1回3000円の支払いが必要です】
支払いますか? はい いいえ
(えっお金掛かるの!?)
そういえばさっきは『初回限定3連ガチャ』と書いていた気がする。本来は有料だが初回だけ無料だったのだろう。しかしスマホアプリでガチャ1回に3000円は高い。
肩を落とし『いいえ』を押そうと動かした指をピタリと止める。でも、こんな人知を越えた力が1回3000円なのは安い方なのでは?
確かにガチャにしては高い。だが本来ならいくら払っても起こせない事なのだ。3000円なら払えなくもないし、こんな機会はまずないだろう。
(1回だけ、1回だけだから……!)
震える指を移動させて『はい』を押す。
【ガチャ結果】
SR 透けブラ
(透けブラ? ブラが透けて見えるって事かしら?)
ひとりのブラジャーはさっきも見たが可愛いものは何度見ても良い。しかもSRとさっきよりもレアリティが上がっている。多分もっとえっちなのだろう。
しかしひとりの上半身は赤いTシャツの上にピンクのジャージ。到底透けるとは思えない。摩訶不思議な力で突然透ける素材に変化するのだろうか?
(あっわかったわ! 2時間目の体育で着替える学校指定のジャージのTシャツは白! それなら透けるわ!)
予想が当たっていればラッキースケベが発生するのは2時間目だがひとりの服が突然透ける可能性も捨てきれない。郁代は時折ひとりに視線を向けつつ1時間目を過ごした。
***
本日の体育は男子は体育館でバスケットボール、女子は校庭でソフトボールだった。
(ひとりちゃんは隅っこで目立たないようにしてるし汗は掻かなさそう。なら、突然雨が降ってきて濡れて透けるって感じかしら?)
期待を胸に空を見上げる。
めちゃくちゃ快晴だった。雲一つない。
(ま、まぁでもさっきも突然ジャージの紐が切れたりしたし、急に雨雲が湧いて出てきてもおかしくないわよね!?)
その後、自チームの攻撃時はバッターボックスにいる時以外は応援そっちのけで天気を確認。守備時では隙を見ては念のためひとりの発汗を確認。まったく試合に集中できず、ひとりの透けブラも確認できないまま授業は終わってしまった。
(あ、あれー!?)
おかしい、絶対この時間だと思ったのに。授業が終わったらひとりはまたピンクジャージに戻ってしまう。やっぱり不思議パワーで突然透けるのか!?
郁代が授業で流した汗とは別に冷や汗を流していると、授業終了の号令が体育委員によって掛けられた。不味い、本当に終わってしまった。
だが着替え終わるまでが体育だ! 一縷の望みを懸け、絶対に見逃すことが無いようにひとりの横を歩く。
「あっ喜多ちゃんお疲れ様です。今日も大活躍でしたね!」
「そっそう? ありがとう」
正直上の空だったのであまりプレー内容を覚えていない。でも自分のチームは勝っていたしひとりの言うように活躍出来てはいたのだろう。
だがそんなことはどうでもいい。今は透けブラが見れるかどうかの瀬戸際なのだ。どうにかひとりが体操着でいる時間を増やすべく、態とゆっくり歩くことで共に歩くひとりの足も遅くさせようと足掻く。
すると天に祈りが届いたのか、はたまた規定通りなのか、まるでバケツをひっくり返したかのような水が空から降ってきた。
「ぶわっ!」
「わっ!」
「あっ下に人いた!? ごっごめんなさい!」
まるで、ではなく本当にバケツの水だった。
上階の生徒が窓の外へ捨てた水を郁代とひとりは被ってしまったらしい。上階の生徒が慌てて下へ降りてこようとしていたので、郁代は大きく声をあげる。
「私たちどうせこの後着替えるので、気にしなくて良いですよー!」
「あっ私も大丈夫なので……」
本当にごめんなさい! と頭を下げる生徒に手を振り更衣室へと歩き出す。郁代は心の中で水を掛けてきた生徒に感謝を述べた。
(Tシャツが張り付いていてとってもえっち……! ありがとう、ありがとう!)
念願の透けブラを見ることができて満面の笑みを浮かべる郁代に対して、ひとりは顔を赤くして震えていた。
(たっ大変だ、喜多ちゃんが凄くえっちなことになってしまってる!)
ひゃー、と顔を覆った両手の隙間から郁代を覗き見る。
ちらちらと互いに視線を送りながら、しかし相手に気を取られ自身の状態には気が付いていないまま2人は更衣室へ向かう。幸いにも更衣室に着くまで他の誰かに見られることは無かった。
***
3時間目、体育後で少し眠気に誘われる生徒が多いせいかやや緩い空気の中、郁代は別の誘惑と戦っていた。
(どうしよう、ガチャを回したい……!)
両手を組み肘を机に置きながら奥歯を噛みしめる。
あのガチャは素晴らしい。内容に対して1回3000円と値段も良心的だ。だが『内容に対して』なだけで高校生に1回3000円は少し大きな出費だ。そう易々と回せるものではない。
(でもひとりちゃんって基本上下ジャージで露出度も低いし、えっちな姿って殆ど見れないのよね。折角チャンスが舞い込んだんだもの、回さなきゃ損じゃない?)
スタバをちょっと我慢してバイトを少し増やせば何とかなる。これで最後だから! こっそりと机の下でスマホを操作しアプリを起動させる。
(今度はどんなラッキースケベが起こるのかしら……!?)
【ガチャ結果】
SSR おしり
(おしり? お尻が見れるの? でもパンチラと何が違うのかしら??)
しかもパンチラのレアリティはRだったのに今回はパイタッチの時と同じSSR。ならば見られるだけではなく触れるとかだろうか?
(まぁなんにせよ、えっちなことが起こるのは間違いないわ! 楽しみね~)
ひとりへのラッキースケベをあれこれ考えている内に大分時間が経っていたようで、日直であるひとりの「きっ起立!」という掛け声で授業の終わりに気が付く。郁代は慌てて立ち上がるが、居眠りをしていた生徒が多かったため幸運なことに遅れて立ち上がったことはあまり目立たなかった。
「気を付け、礼!」
号令を終え、一息ついてから着席しようとするひとりに教師が声を掛ける。教卓に呼ばれたひとりは何か紙の様なものを手渡され、受け取ったひとりはそのまま自席へ戻ると椅子を手に取り教室の後方へ運び出した。
ポスターか何かを貼る作業を頼まれたのだろうか? 郁代は純粋な親切心半分、ラッキースケベへの下心半分で手伝うべくひとりの元へ行く。
「ひとりちゃんそれ貼るの? 手伝うわよ!」
「あっありがとうございます。でもポスターを1枚貼るだけなので大丈夫ですよ」
「でも椅子に上るんでしょ? 危ないから抑えててあげる!」
「あっじゃあお願いします」
郁代が屈んで椅子を抑えてからひとりが上履きを脱いで足を掛ける。椅子に上がろうと掛けた足に体重を乗せ、反対の足を浮かせると靴下が滑ったのかひとりが後ろ向きに落下した。
「わっ!?」
「むぐっ!?」
落下したひとりは椅子を抑える為に屈んでいた郁代の顔の上に乗っかった。
(ひとりちゃん、お尻も柔らかいのね!)
高さが無かったお陰か、落下した人間を顔で受け止めたにも関わらず痛みも怪我もない。心底ひとりのお尻を堪能できる。しかしひとりはすぐに郁代の上から避けてしまった。
「あわわっ! きっ喜多ちゃんすみません!」
「あっうん、私は平気よ。ひとりちゃんこそ大丈夫?」
「あっはい。本当にすみません……!」
ぺこぺこと謝るひとりに胸を痛めるが先程の興奮はまだ冷めず、背徳感を覚えながらひとりがポスターを張り終えるのを見届ける。
(来月バイト代が出たらまた回そう)
本日最後のラッキースケベの感触を反芻しながらひとりの可愛いお尻を鑑賞した。
***
郁代は4時間目以降きちんとガチャを我慢し、放課後は真面目にバンド練習を行った。練習終わりに片付けをしている最中、虹夏がひとりに声を掛ける。
「ねぇぼっちちゃん。今日はなんだか元気なかったけど、具合でも悪い?」
「えっ! あっいや、そういう訳では……」
ひとりはぶんぶんと首を振ってから片付けの手を止め、少し迷ってからぽつりと話し出す。
「あっ、えっと、実は祟られてるんじゃないかと思ってて……」
「た、祟られてる?」
「曰く付きの祠でも壊したの?」
茶化すリョウを虹夏が軽く小突き、郁代はひとりの言葉に思い当たる節があったのかピタリと固まる。
「いっいえ。こないだ神社の前を通った時になんとなくお参りをしたんですが、間違えてふたりの玩具のお金をお賽銭に入れてしまったんです……」
想像よりも小さなやらかしで肩透かしを食らった虹夏は小首を傾げる。
「そんなんで祟られるかなぁ?」
「でっでも! 今日だけでジャージのゴムが切れたり、バケツの水を被ったり、椅子から落ちて喜多ちゃんに乗っかったりしちゃったんですよ!?」
ひとりが出来事を1つずつ口に出すごとに郁代は段々顔を青くさせていく。
「それは災難だったね」
「う~ん、確かにそんなに悪いことが起こったら祟られてるって思うかも?」
ひとりは俯いてジャージの裾を握ると、
「私だけならともかく喜多ちゃんにまで被害が及んでるから、なんとかしなくちゃと思って……」
「ま、まぁ今日だけたまたま不幸が重なっただけかもしれないし!」
「ぼっちが不安なら一応神社で神様に謝っとけば?」
「あっはい、そうしてみます……」
虹夏とリョウがひとりを励ます中、それまで一切喋らずにいた郁代は滝のように冷や汗を流し背中をびしょびしょに濡らしていた。
(ぜ、全部私のせいだわ……!)
***
片付けが終わりスターリーを出てから、家が近い先輩2人と別れて郁代とひとりは駅へ向かう。いつも道中はひとりの真横か少し前を歩く郁代が何故か後ろを歩いていた。どうしたのだろう? ひとりがちらりと目をやると、普段よりも俯き気味に何かを逡巡しているような表情をした郁代が目に映る。
そのまま暫く盗み見ていると意を決したように郁代が口を開いた。
「あっあのね! ひとりちゃんに今日起こったことは全部、私のせいなの! ごめんなさい!」
「へ?」
突拍子もない郁代の言葉にひとりはぽかんと口を開ける。郁代は鞄からスマホを取り出しアプリを立ち上げひとりに見せ、全てを一から説明した。
「なっ成程。そんなアプリがあるなんて……」
説明を受けたひとりは謎の力を持つアプリに驚き、ほへ~と、感心するだけだった。郁代は両手を大きく開きひとりに迫る。
「ひとりちゃんに沢山えっちな事をして、その事でひとりちゃんを悩ませてしまった報いは受けるわ。煮るなり焼くなり好きにして!」
「えぇ!?」
急に迫られたひとりは少し考えてから、
「あっあの、私が悩んでたのは喜多ちゃんに迷惑をかけてしまったと思ってたからなので、でも喜多ちゃんが望んでやったことだったなら悩みは解決したというか……」
あたふたと説明していたひとりは少し間を空け、頬を赤らめてはにかみながら言う。
「そっそれに、えっちな事の方は私もえっちな喜多ちゃんを見ちゃいましたし、喜多ちゃんにくっつけて嬉しかったので寧ろありがとうございますって感じ、ですね。へへ」
許してくれるどころか怒ってすらいなかった。ひとりの寛大な心に郁代は胸を打たれる。
「でも、それじゃあ私の気が済まないわ。お詫びに何かさせて頂戴!」
「えっそう言われても……」
こうなった郁代は頑として譲らない。仕方なくお詫びの名目になりそうなものをひとりは考える。
「あっ! じゃ、じゃあ私も喜多ちゃんにラッキースケベをしてみたいです!」
「えっ!」
もっと罰ゲームのような内容を想像していた郁代は拍子抜けする。
(ひとりちゃんも私にそういう事したいんだ……)
自身の鼓動が加速しているのを感じながら郁代は尋ねた。
「じゃあひとりちゃんも『ラッキースケベ発生ガチャ』、入れてみる?」
「あっはい!」
許可を貰ったひとりは早速スマホでアプリを検索する。が、一向に見つからない。
「あ、あれ? 検索に引っ掛からない……。きっ喜多ちゃんはどうやって見つけたんですか?」
「それが覚えてないのよね。今朝、たまたまホーム画面にアイコンを見つけたのよ。いつ入れたのかも忘れちゃってて……」
一応記憶を手繰り寄せようとしてみるが、やはり思い出せない。郁代はならばと自身のスマホを取り出す。
「見つからないなら私のアプリを使ってみたら? ってあら?」
ホーム画面からアイコンが無くなっている。アプリ一覧画面を開くも、やはり『ラッキースケベ発生ガチャ』は無い。
「えっ嘘!? アプリが無くなってる!?」
目を白黒させて色々とスマホを操作するがアプリの痕跡すら無くなっていた。
「ど、どうして……?」
「あっ不思議な力を持ったアプリなら、突然現れたり消えたりしてもおかしくないのかもしれませんね……」
「そういうものなのかしら? でも困ったわね、これじゃあラッキースケベが出来ないわ」
「あっその事なんですけどちょっと考えが……」
***
翌日、リョウと虹夏がスターリーの階段を降りると後輩二人がおかしな遊びを繰り広げていた。
「きゃ~スカートが風で捲れちゃうわ~(棒)」
「ふへへ、喜多ちゃんはパンツも可愛いなぁ……」
スイッチを入れた扇風機の前でスカートをはためかせる郁代をしゃがみ込んだひとりが横からにやつきながら見ている。
「今日はぼっちちゃんだけじゃなく喜多ちゃんまで奇行をする日か~」
虹夏は大きな溜息をついて肩を落とす。取り敢えず他に人が来る前に止めさせようと扇風機に近づくと、いつの間にかリョウもひとりの横にしゃがんで遊びに参加していた。
「おぉ、これが陽キャのパンツか。もっと際どい奴履いてると思ってた」
「あっリョウさん駄目ですよ! こないだのお詫びって事で私だけ見せて貰ってるんですから!」
「ぼっちのケチ」
「なんでリョウまで混ざってんだ!」
「虹夏も混ざりたいの? 郁代、虹夏も入れてあげよう」
「え~。ちょっと恥ずかしいですけど……伊地知先輩も後で見せてくれるならいいですよ?」
「見せないし混ざらないよ! えぇい、練習の前に説教だ! 全員そこに正座!」
リョウの冗談に郁代が乗っかったところで遂に虹夏がキレる。バンド練習の時間を少し犠牲にし、結束バンドの風紀は僅かに良くなった。
タイトルを「ラッキースケベ発生ガチャ?」にするか迷った