雲仙冥利曰く。
「オレのやり過ぎる正義でも潰せねーど畜生」
都城王土曰く。
「同じライブを観た仲。今一度語り合いたい」
阿久根高貴曰く。
「人の弱い部分に付け入るのがうまい人。けど、それは人の弱さに寄り添えるということでもある」
財部依真曰く。
「変態。……けどまぁ、カッコいい時もありました」
贄波生煮曰く。
「………………だれ?」
黒神めだか曰く。
「私は奴ほど強い人間を知らん。誰よりも負け続け、誰よりも戦い続けるあの男を真に負けさせたことなどないのかもしれん。一時は憎しみと恐れによってその真価から目を背けてしまっていたが、今となっては私の一部のような男だ。だから、あの男を、球磨川禊という男を私の晴れの舞台には必ず立ち会ってほしい。なぁ、善吉。私のわがままを聞いてくれるか?」
人吉善吉曰く。
「めだかちゃんに言われるまでもなく、俺はあの人には出席してもらうつもりだぜ。俺にはできねーめだかちゃんとの関わり方をしてくれる数少ない人間のひとりだ。そうでなくとも、最後に会った頃にはケッコー好きになってたんだぜ、球磨川先輩」
その男がいたのは、北緯19度34分、西経155度30分。
『やぁ、善吉ちゃん。まさか君に見つかるとは少しくらい思っていたぜ』
混沌よりも混沌。
プラスもスペシャルもアブノーマルもひっくるめて引っ掻き回すマイナス。
何よりも誰よりも暗く、黒い彼はそのトレードマークとも言える真っ黒な学ランを今では着ていない。
『実を言うと誰にも見つからず、何にも記録されない、なんていう無謀な勝負を挑んでいたのだけれど、善吉ちゃんに見つかっちゃったからにはこう言わざるを得ないね』
不敵に不気味に笑う。
『また勝てなかった』
そんな彼が今、着ているのはアロハシャツだった。
「いや待てぇ!! こちとらわりとシリアスでウェッティにここまで来たんだよコッチはぁ!! なのに! なんでっ! ハワイを満喫してんだテメェ!!!!」
そらもう、星型のサングラスをかけて首にハイビスカスの飾りを下げるくらいには絶好調である。
『そんなことを言われても困るなぁ。僕は僕なりに幸せになるための行動をした結果、ここに来たんだから』
「ほうほう、そらぁどういう行動の結果なんですかねぇ」
『日本人たるもの一回くらいはハワイで観光したくない?』
軽薄で軽快で軽率な言葉の裏には、人には言わない本音が隠れている。
そのことがわからないほど浅い仲ではない。
「わかっちゃいるが、腹立たしいな。けどまぁいいか。アンタに会いにわざわざ来てよかったぜ」
『一体何の用かな? 誰も僕にメールの一つもくれないから予想がつかないや』
いっぺんぶん殴ってやろうか。
「いっぺんぶん殴ってやろうか」
『おいおい善吉ちゃん。心の声が全部漏れてるぜ』
ホントかウソかわからないが、こちらの事情を知らないのなら盛大に驚いてもらおうじゃないか。
「聞いて驚け、球磨川先輩。俺、人吉善吉は黒神めだかと結婚した!」
『へぇ、そうなんだ』
「あ、あれ? 意外と驚かないんだな」
『君らが結婚しないならもうこの世のすべてのカップルはお見合い以外で成立しないんじゃないかな? いくら絶望に寄り添う僕でも自由恋愛を否定する気はないよ。おめでとう』
「お、おう。ありがとう、ございます?」
『話はそれだけ? だったら、もう君の記憶を『なかったこと』にして去ることにするよ』
懐かしさすら感じる巨大な螺子。
現実も虚構も螺子伏せる最も邪悪な過負荷『大嘘憑き』。
「なっ……」
なんでと言う間もなく螺子が迫る。
寸でのところで避け、制止する。
「待ってくれ! 俺はアンタにめがかちゃんとの結婚式に出てほしいだけなんだ!」
『善吉ちゃん。僕はね、君やめだかちゃんを含め、あの学園で関わった多くの人のおかげで僕みたいな人間でも幸せになってもいいんだと思えた。だから、人の幸せだって祝ってあげれるよ。けどさ、僕が居たことで生まれたマイナスは今も世界中に存在している。だから、そのマイナスをすべて『なかったこと』にするまでは、僕自身の存在を『なかったこと』にするまでは、誰にも、何にも囚われるわけにはいかない』
「くっだらねぇ」
心の底からそう思う。
「何がマイナスだ、何が『なかったこと』だ。アンタがしてきたことは確かに褒められることじゃねぇ。その罪を償いてぇてんなら文句は言わねぇ。けどなぁ、だからってアンタがマイナスを否定すんのは違ぇだろうが! 人が生きてりゃよくねぇことだってある。どうしようもない不幸が舞い込むことだってある。それでも俺らはそのマイナスを乗り越えて、そのマイナスすら自分の一部として受け入れて、前に進んでるんだよ!!」
だから、
「だから、おまえをいなかったことになんてさせない!」
螺子伏せるための言葉が何ひとつ出て来なかった。
代わりに、球磨川禊の口から吐露されるのは剝き出しの言葉。
「後輩に諭されちゃ情けないな」
手にしていた螺子も風化して空に溶け消えていく。
『それで、善吉ちゃん。めだかちゃんとの結婚式だなんてそこに至るだけでも映画が一本書けちまいそうな修羅場の正念場を乗り越えた先の晴れ舞台はいつどこでやるんだい?』
人吉善吉は待ってましたと言わんばりの笑顔で宣言する。
「今日! このハワイでやる!!」
『はぁ?』
今日、この場所に球磨川禊が現れたのは単なる偶然か、神の悪戯か。
「めだかちゃんと遂行していた計画、めがかちゃんが壊してなかったことにしちまった月の再生計画『月球再生計画』。その手始めのロケットを打ち上げるためにハワイの発射場を使うんだ」
『その発射に合わせて結婚式をしようってのかい?!』
「そういうこと」
『まさかと思うけど、そのロケットにめがかちゃんは乘るつもりかい?』
「……まさかもまさかだぜ」
『ハネムーンにムーンに飛ぶなんて相変わらずとんでもないね』
そのムーンは今は無きものだが。
思わず笑わずにはいられない。
『なかったこと』を『なかったこと』にする。
それは取って付けてをするような行為ではなく、ありとあらゆる人を巻き込んで、マイナスにマイナスを掛ける行為。
『まったく、あの子には敵わないぜ』
以上で完結です。
学生時代の二人であればもっとぶん殴りあったりするんでしょうけど、大人となった今では矛を収める落としどころを提示されれば案外あっさり負けを認めてしまうんじゃないかと思います。
楽しんでいただけたら幸いです。