石6000しかないってマジ?
禁忌をぶっ倒した後、急いで便利屋68に戻る。
唐突に外に出ちまったから、助けてくれたお礼も何もかもできていない。
恩返しもできていない状態で抜け出してきたんだ。きっと相手側からの印象最悪だな、こりゃ。
「っと、すまなかったな。急な用事ができた」
「いや、それは良いんだけど……何やったの、今」
「化け物ぶっ潰して走って戻ってきただけだよ。それがそんなに不思議なのか?」
便利屋の皆様から心底引いたような視線がこちらに向かってきますわ!
いや、うん。ヒナちゃを見て忘れていたけど、基本的にそうだよね。そうじゃなきゃおかしいもんね。
例えヘイローを持っている人間だとしても、ただのジャンプで2階まで跳躍するのは化け物だよなあ……。
最近はミレニアムの生徒たちも俺の身体能力の高さに慣れていたし、よく会うゲヘナの生徒であるヒナも規格外の部類だ。
そう考えると久しぶりにマトモな反応をする人に当たったのでは?
自分の能力を評価してくれる感じ、キモチェェーー!!
「でも、アル社長なら出来そうだがな」
『!?』
「わっ、私!?」
急に話を振られ、アルは心底不思議そうに……そして、心底驚いたかのように瞳を丸くしていた。
おっと……ついつい心の声が漏れちまっていたな。
「そんな疑わしい視線で見ないでくれや。俺、ポテンシャルはあると思っているんだぜ?アル社長……いや、アンタら便利屋全員な」
「わわっ!私もですか!?」
ハルカは驚く。先ほどまでのアルの驚愕とは比にならない程の声量と感情で想定外を表していた。
俺ちゃんからすれば、そんな気持ちを抱く理由はよく分かんねえけど。
空崎ヒナっていう例外と比較すれば情けなく感じるかもしれんが、上位層連中を除いたら確実に上澄みだろ。
原作でのカヨコの言葉……「ゲヘナの風紀委員はヒナさえ居なければ何とかなる」発言もあるしな。
たった四人の少数精鋭グループで解決できる方が珍しいよなあ。
「それは、どこから見ての発言なの?」
冷えて、手が震えて、肺が凍りつきそうなくらいの熱度が低い視線。
知らない人から警戒対象に変更され、手元にある武器をいつでも出せる態勢を取っている。
カヨコも、ハルカも、アルも。全員が全員、俺を危険な対象として見ている。
ゲームの姿ばっかり見ていて忘れていたな……。便利屋たちの姿は決して抜けたような姿だけではない。
敵とした認識した時の容赦のなさ。間違いなく裏に繋がっている組織の心構えだわな。
「そんな構えんでくれ。俺はアンタらと敵対するつもりはない。多くの生徒の中でも上位に位置している便利屋と争いたくねえよ。それに……アナタ達は俺の命の恩人です。アナタ達に刃を向ける真似はしたくありません。不躾な発言したのは謝罪します」
「全く…調子が狂うじゃない。アオ、貴方に敵意がないのは分かったわ」
アルの言葉と共に便利屋のみんなは武装の構えを解除する。
たがまあ……警戒態勢は全然取ってくれねえな。いや、当たり前か。便利屋の情報を知っている、化け物を瞬殺できる強さ、他校の中で一番ヒナと絡んでいる。
…その三点から見ても、警戒を解く必要性はないって訳だね☆
俺がその立場だったら、絶対に解かない自信あるよ。ありまくりだよ。
…ほんと、戦わないでよかった。『聖龍』なんて仰々しい二つ名で呼ばれているけれど、戦って必ず勝てる保証はない。というか、負ける確率のほうが高いだろうな。
常人には思いつかないであろう奇想天外の発想をするハルカ。トリッキーな手段を用い、相手を翻弄するムツキ。どこまでも冷静で、俯瞰的な立ち位置でフィールドを観察し、指示を送るカヨコ。
そして……便利屋の中で最もフィジカルが高く、神秘を一点に込めることができれば、どんな装甲も破壊できるであろうアル。
どんなに俺がヒナちゃんから戦い方を教えてもらっていると言っても、便利屋達を相手に安定して勝つことなんて出来ない…。
便利屋達が他の不良達と違って温厚な部類で助かったよ。真正面から戦ったら無事ではいられなかった。
「何か困ったことがあったら遠慮なく頼んでくれ。これ、俺の連絡先な」
「はぁ…緊張した」
「あはは、アルちゃんやるじゃーん!」
「す、すごいです、アル様!あの"ゲヘナの二大巨頭"の一人とを作るなんて!」
「え?」
「社長、気づいてなかったの?竜骨アオは聖龍だよ」
「な、なっ、なんですってー!?」
「そういえば……最近身体能力上がってきたか?」
屋根を飛び移りながらの移動をしていた時、ふと疑問が降りてきた。
近頃、吐瀉物を吐いていなくても能力や身体能力の向上が起きている。
その事象に心当たりがないと言えば嘘になるが、今の段階でそれは早すぎる。俺が既に体験済みとは言え、それに至るのはもう少し先だ。
俺の知らない何かの事象か?
「なんか、モヤモヤすんな。これから起きるキヴォトスの異変。ただそれだけじゃ収まらない気がする」
自然と白棒を握る手が強まる。何も守れなかった昔の記憶が再起する。
頭であの時がよぎる度、体の中で竜と龍の力が練られていくのを感じる。
自然と歯が擦り合い、歯軋りが鳴る。感情が強く現れる。そんなもの、普段の俺らしくない。
「大丈夫、だよな…。今度こそ…今度こそ、守り切れるはずだ」
「そう、だよな?兄様。そう言ってくれ……」
毎回だ。毎回、俺はこうなっちまう。未知、脅威。それが目の前に現れる度、俺は俺を疑問に思っちまう。
そんなんだから、そんなんだから……俺は誰かを、大切な人を守ることができねえんだろうな。