消えゆく世界の最終戦線   作:乃木宮秤

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第10話:星を追う者たち

「駄目ね、ミレニアムの何処にも通信が繋がらない」

 

リオの言葉に生徒会長は顔を歪ませた。

ヒマリに警告してから30分後。セミナーに連絡を入れようとして、それから気が付いたのはミレニアムの何処にも通信が届かないという事実。リオは思案するように走る車の窓ガラスから外を見た。

 

(何かをされた。いいえ、恐らく例のタブレットの自動防衛機構を作動させたのでしょう)

 

リオの持ちうる知識の上において、旧文明の支配者たちが残したオーパーツの数々は現代の自分たちにとっては解明しきれない過去からの課題そのものであった。

その一端に触れた結果ヴェリタスが――全知(・・)たるヒマリが出し抜かれることは想定の範囲内のことではある。

もしくは最悪の想定が当たってしまった(・・・・・・・・・・・・・・)とでも言うべきか――

 

「リオ会長……ミレニアムは、持ちこたえられる……?」

 

ハンドルを握りながら不安そうに呟く生徒会長。対するリオの回答はそっけないものだった。

 

「分からないわ」

「分からないって……!!」

「そもそもなのだけれど、彼らは何を目的としてキヴォトスに来たのかしら」

「――そんなの、分かるわけないじゃん。でもどうせ、この世界を滅ぼすためでしょ?」

「……そう、分からないことが多すぎるのよ」

 

リオはそっと溜め息を吐いた。

自らの記憶において、ゲヘナに突如現れ、拿捕したと思えばミレニアムを内側から食い破ろうとするかの存在(・・・・)を、果たして敵だと断定して良いのか迷っていた。

 

(私は一度間違えているから――)

 

そうして思い返されるのはかつて犯した過去の過ち。その記憶――

 

『あの子たちに不可能はない』

『あの子たちは、勇者とそのパーティーメンバー(ゲーム開発部)だからね』

 

私は一度間違えた。

ミレニアムを守るために敵を見誤り、その結果私こそが魔王になっていた。悪の魔王に。

けれど、そんな私にも欠片ばかりの救いがあった。

 

『行け、勇者よ……!』

『私たちの世界を救いなさい!!』

 

悪の魔王から勇者を送り出す最初の王へ。そして――

 

『そうだよ。リオが世界を救ったんだ』

 

■■が言ってくれたあの言葉。誰からも理解されることを諦めて、闇の中をひとり歩み続けたその時に差し向けられた、たったひとつの光明(りかい)の切れ端。

それだけで。たったそれだけで全てが報われた気がした。

間違えたこともあったけれど、それでも――それでも最後は間違えなかったと。

 

崩れ落ちるように蹲って、子供のように泣いてしまって――それから私はミレニアムで目を覚ます(・・・・・)

そう、まだ終わってはいない。アトラハシースの一件が終わっても、私にはまだ、この奇妙なサンクトゥムタワーの解析(・・・・・・・・・・・・・・・)という大役が残っている。

 

(このタワーがミレニアムにとってどんな役割を果たすのか)

 

存在することで害を及ぼすものであれば破壊する。

破壊されることで害を及ぼすものであれば守り切る。

 

以前の私であればタワーを守るために全てを投げ打って障害の全てを殺そうとしたのかも知れない。

けれども、未知へと立ち向かう道はそれだけではないと、今の私は知っている――

 

「結論を出すには早計よ。異分子の発生はどれだけ偶発的に見えても、その因果は何処かで繋がっているのだから」

 

そう言うと、生徒会長は不安そうに顔を顰めた。

 

「そうだとして。そうだとしてもだよ? 今は何かに襲われているってことに違いないでしょ!? 不安じゃないの会長は!?」

「不安……。そうね、そうだわ」

「じゃあ……!」

 

生徒会長は理解を得たと言わんばかりに、その上で悲痛な笑みを浮かべた。

けれども違う。私たちと生徒会長の視座が交わることはない。何故なら生徒会長は研究者では無いのだから――

 

「不安。見通しの立たない暗闇。そんなもの、私たちにとっては当たり前のことなのよ」

「え……?」

「研究の分野というのはそもそも、正しいか正しくないかすら分からない闇夜の中を進み続けるようなもの。人生を掛けて極点に至ったところで、これまでの全てが間違いだったなんて……そんなのよくある話(・・・・・)なのよ」

 

答えの見つからない暗闇の中を歩み続けてたったひとつの星を追い求める者こそが科学者。それこそがセミナーの首魁。

だからこそ、私は私の星(しんじつ)を探し続ける。

 

「それに、ミレニアムにはヴェリタスがいるわ」

「ヴェリタス……?」

 

戸惑ったような生徒会長の顔に、私は静かに笑みを返す。

通信手段も奪われて物理的にもミレニアムから離れてしまっている今の私に、出来ることは何もない。

けれども、与えられた命題と起こった出来事について思考を巡らせることは出来る。

 

サンクトゥムタワー。突然現れた三人。不可解な方法でのミレニアム制圧。

得るべき解。その果てへと手を伸ばしながら、リオたちを乗せた車両はミレニアムへと近付いて行く。

 


 

一方その頃、ミレニアムにて。

ミレニアムの通信機器が回復した直後、ヴェリタスの部室は歓声が上がっていた。

 

「通信機器奪取! ハッキングも止まってるよ!」

「手を引いた、という感じですねこれは……」

「みんな! メイン電源からインフラ戻していくよ!」

「電源は私の方で対応しますよチーちゃん」

「じゃあハレとマキでエレベーターの制御! コタマは私と一緒に外の基地局!」

「電波塔だけハッキングされ続けてます。リオ会長やアビドスとの連絡経路を潰すためでしょうか……」

「うっわー、ハッキング止まってるけど中身ぐっちゃぐちゃにされてるよー!」

「もうソフトウェアごと入れ替えた方が早いんじゃないそれ?」

 

騒がしくも賑やかなヴェリタスの部室。というのも当然のことだった。

ここまで大規模かつ劣勢を強いられる電子戦なんてそうそうない。

いや、ヴェリタス全員で対処してなお手に余るだなんて一度としてなかったのだから。

 

――だからこそのお祭り騒ぎ。

自分の得意分野で何一つ持て余すことなく全力を尽くして戦える。そんな状況を楽しめない者なんてヴェリタスには居ない。

 

「メイン電源の制御システム復旧しました。手伝いますよチーちゃん」

「エレベーター解放! 火災警報システムやるよ副部長!」

「コタマごめん! マキのサポート……じゃない。直接制御してる盗聴器何個か仕込んでたよね? あれ復旧させて!」

「な、何故それを知っているんですか……!」

「復旧出来たら今は叱らないであげるから。ハレは――」

「隔壁動作のプログラム作り直してる」

「そのままお願い!」

 

チヒロは叫んでその後むせた。

声を嗄らしかけるほどに張り切ってしまい、その様子を見たヒマリは笑みを浮かべた。

 

「こういうのも悪くは無いですね」

「一応言っておくけど、部長は私じゃなくてヒマリなんだからね。もっと顔出してよ。私も……、や、何でもない」

「チーちゃん……!!」

「あーもう」

「楽し気なところ悪いね二人とも」

 

その言葉と共に部室にやってきたのは、エンジニア部の部長、白石(しらいし)ウタハであった。

しかし妙にボロボロで、激しい戦闘でもあったかのようにも見える。

 

「ウタハ……! どうしたのそれ!」

「なに、私たちのロマンが牙を向いてね」

 

そう言われてエンジニア部で何があったか、チヒロは容易に想像できた。

何でもかんでも作ったものに5mm砲やら何やらを勝手に付け加えるあの(・・)エンジニア部のことだ。

ミレニアムのシステムが乗っ取られたときにエンジニア部の作品たちが大暴れしたのだろう。

 

「チヒロ、先に言っておくけど、外部への通信に関しては私たちに任せてくれ。ヒビキとコトリを既に向かわせている」

「まさか……作るの!?」

「そうさ。ハードウェアからごっそり差し替えれば機械の暴走は止まるんだ。おかげで私たちの作品は全部入れ替えることになったけどね」

 

苦笑交じりに語るウタハに、ヒマリは小型のストレージを差し出す。

中身は計測用のデータ群。作り直した後に異常が出れば、即座にデータを保全して外部との通信を断ち切る仕組みとなっている。

 

「万が一ですが、最悪解析できるようにはしておきましょう」

「流石は全知! 繋がったら連絡するから、後は任せるよ!」

 

慌ただしく部室を飛び出すウタハ。けれどもこれで、ミレニアム外との通信はもうじき復旧できそうである。

息を吐くチヒロと笑みを浮かべるヒマリ。だが、ヴェリタスの反撃はここまでだった。

 

「セミナー保安部だ! 今すぐ作業を中止して!」

 

直後、困惑した表情を浮かべながら部室の扉を開いたのはセミナーの保安部員である。

困惑した表情を浮かべながら踏み込まれて、何なら踏み込まれた側も「何故いま?」という表情だ。

互いに距離感の測れない妙な緊張感。実際、マキは叫んだ。

 

「なに!? いま忙しいんだけど!!」

「セミナーからヴェリタスへ、一切の活動を至急中断するようにと指示が出た!」

「だからどういうこと!?」

「待ってマキ」

 

そうして、苛立ちを露わにするマキを抑えてチヒロが前に出た。

 

「ねぇ、今私たちの行っているミレニアムの復旧作業はセミナーも認めているはずだけど?」

 

その言葉に狼狽える様子を見せるセミナー保安部員。

 

「わ、私もそうだと思っていたけど……ただ早瀬さんからそうしろって……」

「……わかった。みんな中止」

「チヒロ先輩!」

 

マキの声が部室内に響き渡った。だが、チヒロはあくまで冷静のまま。

 

「広い意味でのクラッキングだよ。様々な方法で相手のシステムを破壊する手法。その手段にセミナーが狙われたんだ」

「早瀬さんの他に誰かいませんでしたか?」

 

ヒマリが声を発すると、セミナー保安部員たちは顔を見合わせた。

 

「臨時特別顧問の方が……」

「分かりました。活動の中止ということならば私たちの見張りがいれば良いということですね」

「え、そっ」

「ここは大人しくしておきましょう。抵抗して機器を壊されでもしたら本当に為す術が無くなります」

 

渋々ながらに手を上げるヴェリタス部員たち。

その光景を目論んだ者がひとり――黒服だ。

 

「会長不在時における生徒会長代行権。保安組織への指揮権および逮捕権。セーフティネットへの介入権」

 

復旧したばかりのエレベーターにて特別反省房前へと下る黒服は、ひとり笑みを浮かべた。

 

「冷静さを欠いた子供であるなら容易いもの。心が痛むなんて共感、私には到底分かり得るものではありませんが、それでも理解はしております」

 

セミナーを蹂躙し、ありとあらゆる特権を簒奪せしめた。早瀬ユウカを再起不能なまでに追い詰めて、今やセミナーの機能は完全に停止していた。

 

下り続けるエレベーターと、外に映るサンクトゥムタワーの外観。

それから呟いたのは第二の古則。『理解できないものを通じて、私たちは理解することができるのか』という問い。

 

「私にとっては先生がキヴォトスの存在を慮るという行為そのものを理解することが出来ません。その上で私が得る理解とは何か。私が得るものとは何か」

 

そして「期待していますよ」と小さく零す。

エレベーターから見下ろす黒服の視線。その先にいたのは最高峰の神秘たる暁のホルス。待ち構えるは冥府のネルガル。タワーの前にて好敵手の存在を予感し続け待ち居たり、そして――

 

「随分と遅かったじゃねぇか」

「ネルちゃん――だったっけ?」

 

サンクトゥムタワー入口のひとつ、地上一階。

そこに集った両雄は、片やキヴォトス最高の神秘。片や約束された勝利のコールサイン。

 

「名乗るのは二回目だなぁ? コールサイン『ダブルオー』、あんたが来るのを待っていた」

「ふぅん? 随分と気に入られちゃったみたいだね~」

「はっ、そりゃそうだろ。分かるんだよ……強い奴の匂いってやつがな」

「動いてないのに熱いねぇ~。やっぱ、若い子の特権なのかな?」

「言ってろ同種。あんただって嫌いじゃねぇだろ、こういうのはさぁ!」

「はぁ……。仕方ないかぁ」

 

睨み合う両者。手元は互いに銃へと伸びる。

二挺のサブマシンガンとショットガン。それぞれの銃口が交錯し、ホシノは挑発するように口を開いた。

 

「暁のホルス。今はそう呼んでよ、チビメイド(・・・・・)

「ははっ……ぶっ殺す――!!」

 

ミレニアム最強とアビドス最強。

その対決が、いまここに始まる――




――次回 第11話:ネルvsホシノ
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