消えゆく世界の最終戦線   作:乃木宮秤

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第13話:Cleaning & Clearing

現在60階の位置に先生。そこから階下の32階にネルとホシノ。階段を駆け上がりながら熾烈な攻防が繰り広げられる。

 

先行するネルは突然振り返って牽制の銃撃を放つが、ホシノは壁を蹴り上げて飛び越える。

盾を構えて空中機動。ネルを圧し潰そうとするが、ネルは階段から飛び降りて通路側へ退避。

その隙に先行するホシノ。階段を駆け上がって33階へ。ネルが叫んだ。

 

「待ちやがれ!」

「考えたんだけど、私が先生担いで走れば全部解決するよね」

「だったらそれまで距離稼がねぇとなぁ!!」

 

34階――35階――

数段飛ばしで距離を稼ぐホシノはネルを置き去りにして、その姿は完全にネルの視界から外れた。

追いかけるネル。次のフロアの床面が見えて頭が出た――次の瞬間、ネルの後頭部に向けられた銃口。36階で待ち構えていたホシノからの先制攻撃。

 

「ごめん、やっぱ担ぐの面倒だよね」

「てめっ――」

 

言い切る前にショットガンの三連発。ネルは何度目かの銃撃を頭部に受けて一瞬意識を失う。

 

本来ならとっくに倒れているはずの怪我だった。それでも痛みが、怒りが、ネルの闘志に火をつける。

次いで放たれる銃弾は避けすらしない。腹部から胸元にかけてクリーンヒット。息が詰まって目が裏返り、瞳の奥で火花が散った。

 

だが、それでも腕は上がる。引き金は引ける。膝が笑ってもまだあたしは立っている――!!

 

自らが放ったマズルフラッシュと共に鳴り響く爆音で完全に意識を取り戻したネルは、再び視界に敵を納めた。

 

「楽しいよなァ! お前もそうだろう暁のぉ!!」

 

額から滴る血を強引に拭いながらマガジンリロード。大きく飛び退るホシノを追ってチェーンを振るう。

37階――38階――39階――

ホシノは40階へ続く階段へと足をかける――その時だった。

 

「お待ちしておりました、侵入者様」

「え……っ」

 

思わぬ声に階段の先を向くと、そこには柔和な笑みを浮かべたメイドがひとり。それから降り注ぐ無数の手榴弾――

 

コールサイン『ゼロスリー』、室笠(むろかさ)アカネ。

生粋の爆弾魔。全てが火薬と破壊に帰結する狂ったエージェント。

 

「邪魔者は、排除します」

「ッ!!」

 

爆発する手榴弾を咄嗟に壁を蹴って回避。再び39階。38階から上がって来たネルとアカネが合流し、ホシノは欄干側へと追いやられる。距離を取るべく後ろへ飛ぶと、明らかに床とは違う何かを踏んだ。

 

「マズっ―ー!?」

 

右足で踏んだのはタイルに偽装された地雷。かちりと音が鳴って雷管が刺さる。

 

瞬間、ホシノは欄干の向こう側を一瞬だけ視た(・・)

中央の穴の大きさ。対岸までの距離。自分が全力で飛んだときに辿り着くであろう飛距離とその全てを。

 

――行ける(・・・)

 

呼吸は深く、周囲の全てがスローモーションとなっていく。

右手側からはネル。リロード中。射程距離から離脱可能。

正面からはアカネ。逃げ場を削るように手榴弾を追加で投擲。

 

振り返って欄干の向こうを視認。右足で軽く飛んで欄干に左足をかける。左膝を落としてホシノの意識は穴を飛び越え対岸の欄干その一点へと集束される。

息が止まる。踏み切る。地雷が爆ぜる。靴底から僅かにゴムの臭いがして、周囲の時間が加速した。

 

爆発。銃声。誰かの声。

その全てを置き去りにして空へと飛び立つ暁のホルス。

しかし、その瞬間(・・・・)こそを待っていた者が居た。

 

「目標を捉えた」

 

42階から飛来した弾頭が、正確無比にホシノの左脇腹を撃ち抜いた。再び39階へと叩き落とされるホシノ。

それは対物スナイパーライフルによる一撃。煙る銃口、銘はホークアイ――飛ぶ鳥を落とす者。

 

「やっと活躍できた、かな」

 

コールサイン『ゼロツー』、狙撃手の角楯(かくだて)カリンは金色の瞳を細めて呟く。

 

「う――ぐぅ……ッ!!」

 

痛みに悶絶しながら床に投げ出されたホシノの前にはリロードを終えたネルとアカネ。欄干側すらカリンの射程圏内。

39階――地雷と爆薬が無数に仕掛けられたこのフロアこそがC&Cの用意したキルゾーンだった。

 

「な、なんでネルちゃんだけなんだろって思ってたけどさ……」

 

――最初からこれを狙って?

 

無言の問いかけに返ってくるのは鮫のように獰猛な笑み。

 

C&C(あたしら)相手に消耗を抑えてだとか考えていたのか? だったら随分と舐められたもんだよなぁ?」

「……そうだね」

 

ネルちゃんの言葉はまさにその通りだった。

最初から無傷で通ろうという考えそのものが間違いだったのだ。

 

(怪我を抑えてだなんて、考えが甘かった)

(前哨戦みたいに思ってたんだろうな……。まだゲヘナやトリニティがあるって)

 

だから弾薬を少しでも多く残してなんて慢心があった。

力量を見誤って、何だかんだ勝てるなどという愚かな思考を持ってしまった。

 

――違った。私がいま相手にしているのは学校(・・)だって言うのに……。

 

顔を上げて二人を見る。障害物などでは無く、私に立ちはだかる敵として正しく二人の姿を捉える。

 

「ごめん、間違ってた。正直舐めてたかも知れない。だから――」

 

だから、もう気にしない。私一人でこの三人を釘付けにする。

先生を前へ進ませるために、私はもう、()()()()()()()()()

怪我? 弾薬? それがなんだ。ここで負けたら終わりだと言うのに、死力を尽くさずしてどうする。

 

全力で戦うというのはつまり、自分の退路に割く余力すら残さず戦うということ。

生き残ろうとすればするだけ銃口がブレる。ブレれば負ける。必要なのは後のことではなく今この瞬間、刺し違えてでも勝つという意志――

 

「……ユメ先輩。少し借りるね」

 

それは静かなる宣言だった。

盾からサブアームを取り出す。ゆっくりと立ち上がる。

 

プレートキャリアが無い以上、サブアームの使用は盾を持たないという意志そのもの――

 

異様な気配に気が付いたアカネが引き金に指をかける。瞬間、ホシノが盾をネル目掛けて蹴り飛ばす。

舌打ちと共に回避行動を始めるネル。その刹那――ネルの瞳に映ったのは、盾を蹴り飛ばすと同時に片足立ちで姿勢を落したホシノの姿。まるで限界まで引き絞られた弓の弦のように、ぎり、と鳴る左足。近付く盾。躱して一瞬視界が塞がれる――

 

次の瞬間、ホシノは常軌を逸したスピードでアカネへと肉薄していた。

銃を構えたまま反応すら出来ないアカネ。その襟首を掴んで一息に壁際まで引き倒すホシノ。ネルが躱した盾が壁に突き刺さる。同時、アカネに叩き込まれるホシノの拳銃1マガジン分。

意識を消し飛ばされたアカネを置いて、ホシノが床に落ちたショットガンを拾いに走る。対するネルの銃撃。転がって初弾を回避。ショットガンを拾ってネルへと接近。左手を伸ばしてサブマシンガンの銃身を握り締める――

 

「てめっ――」

 

掴んでいないもう一方のサブマシンガンは左肩で押すように銃口を逸らす。

サブマシンガンの銃撃に抉られる肩。そうしてこじ開けられたワンインチ。無茶な体勢で突き付けられたショットガンを躱すことなど出来るはずもなく、散弾が炸裂する。

 

全弾受けて呻くネル。銃の反動に顔を顰めるホシノ。そのままネルが放った蹴りを腹部に受けて、再び両者の距離は離される。

共に満身創痍。どちらかが先に燃え尽きるかのデスマッチに、ネルは満足気に呟いた。

 

「はっ……楽しめそうだな、暁のホルス」

「そんなに楽しみたいなら最後まで付き合うよ。だから、全力で行くね」

 

ネルvsホシノ、最後の戦いが始まる。




――次回 第14話:在りし日の喧騒
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