消えゆく世界の最終戦線   作:乃木宮秤

22 / 67
第4話:悲愁の川の渡し守(2)

人目を避けて、合間合間に休憩を取る。

何せ、狭い車内で六人も詰め込んでいるのだ。ただでさえアビドス防衛部隊の検問は広く敷かれており、それを回避しようとすれば回り道も多くなる。

 

時刻は23時30分過ぎ。断続的とはいえ、少しでも目を瞑れたのは幸いだった。

 

「先生、もうすぐ着くわよ」

「んん……ありがとう」

 

起こしてくれたアルに感謝を告げつつも車は止まって最後の休憩に。

腕に抱えたホシノを揺すると「起きてるよ」と声が上がる。私よりも眠れていたのか心配だったが、そればかりは私から言える言葉が何も無い。疲労もあってホシノの首元に頭を落すと、ホシノは何も言わずに私に頭を擦り付ける。

 

――大丈夫。きっと何とかなる。

 

そうして車外へ出て大きく伸びをする。

ホシノも隣で伸びをして、ふと目が合ってどちらとも言わないままに笑って一息。

 

「ねぇカヨコ。あとどのぐらいで着きそう?」

「大体30分ぐらいかな。……いつもだったらこの辺で誰かに襲撃されるから、ちょっと珍しいね」

「ふふ……そうなんだ」

 

なんて私が笑うと、アルは「たまたまよ!」と叫んでいた。

そんな中、一言も発していなかったハルカがおずおずとアルへ口を開いた。

 

「あの、アル様……。その……」

「どうしたのハルカ?」

「その…………そ、その人たち、大丈夫……何ですか?」

「…………」

 

私は何も言えなかった。

ハルカの危惧は分かる。きっと私たちに関する何かを聞いたのだろう。

実際に私たちはミレニアムを消している。その事実がどのように伝播されていたとしてもおかしくはないのだ。

 

「ハルカ」

「ひっ……!」

「私たちのことは君たちがどう思うかに任せるよ」

「ぅ、あぅぅ……」

 

言える言葉はそれだけだ。戦うなら抗う他ない。けれども、もし戦わなくて済む道があるのなら――

 

「聞いてちょうだいハルカ。それに皆も」

「アル様……」

「私たちの仕事は先生たちを送り届けること――そうでしょう? 例えゲヘナにとっての危険分子だったとしても仕事は完遂する。それがアウトローの生き様よ!」

「アル様……っ!」

 

ハルカが目を輝かせてアルを見る。ムツキは笑って、カヨコが溜め息を吐く。

それが便利屋68の日常。何よりも輝かしく、私たちが取り戻すべき日常だった。

 

「さ、先生。休憩は充分かしら? あとはこのままクライアントのところへと向かうだけだけれども」

「うん、ありがとうアル。君たちを見てたら元気が出たよ」

「……? ま、まぁ良いわ! トイレ休憩は充分? さぁ、行くわよ!」

 

それから30分して、ようやく私たちはゲヘナ自治区へと辿り着いた。

過少な仮眠。あまり寝た気がしないだなんてぼやいて見せると、ホシノは苦笑したように呟いた。

 

「夢の中で寝た気がしないっていうのも何だか変だね~。……それよりさ、重くない?」

「ホシノが?」

「流石のおじさんもさ、ずっと膝の上っていうのも悪いかな~って」

 

やや照れながらはにかむホシノ。答える代わりにホシノの頭へ顔を埋めると、ホシノはまんざらでも無さそうに「うへ~」と鳴いた。

 

「ちょっと……腑抜けすぎじゃない? あなたたち……」

 

呆れたように私たちを見るアルだったが、実際便利屋68の普段と変わらない様子に救われたのが大きかった。

 

だが、タワーが減れば減るほど動ける範囲も減ってくる。

正確には私たちもこの世界も、注力すべき地域が狭まると言うべきか。

 

移動範囲が減ると言うことはつまり、私たちが隠れられる場所も減っていくということ。

物理的に物資の補給も難しくなるだろうし、そこを黒服に補ってもらうにはあまりに代償が釣り合わない。

そう考えれば、これが最後の補給になっても何ら不思議では無いのだ。

 

そして、ゲヘナの大通りの近くまで行ったところで車が止まった。

車を降りると、アルは私たちの方へと身体を向けた。

 

「さて、私たちはここまでね。クライアントはその先のアーケードにいるわ」

「うん。ここまでありがとう、アル」

「よしてよ、礼だなんて。私たちはあくまで依頼を遂行しただけ」

「それでも、ありがとう」

 

改めて礼を言うとアルは、「まったく」と笑った。そして懐から名刺を取り出す。

 

「何かあったら連絡して頂戴。仕事はいつでも大歓迎よ」

「……だったら、今すぐ依頼しても良い?」

「まだクライアントから報酬を貰っていないから駄目よ。……でもそうね、私たちの言い値で良ければメールして。請けたら返すわ」

「ありがとう。きっとすぐに依頼する」

 

そう言って名刺を受け取り懐へと入れる。

何一つ惜しむことの出来ないこの状況で、便利屋68へと依頼しないなんて余地はないのだから――

 

「それじゃあアル。また」

「そうね、また会える日を楽しみにしておくわ」

 

そう言ってアルたちの乗っていた車が走り出す。遠くからムツキが「ばいば~い」と手を振っていたのを見送って、私たちは前を見る。

 

「行こうか、ホシノ」

「うん。クライアントってのが私たちに協力してくれると良いんだけどね~」

 

そして私とホシノは誰も居ない路地を曲がってアーケードの中へと進んで行く。

誰も居ないのはクライアントとやらが人払いをしたせいか。

しばらく進んで目抜き通りへ。遮蔽が少ない分見つかりやすい。出来ればゲヘナ生には見つかりたくないところ……。

通りを伺おうと顔を出して――その瞬間、一瞬視界が白に染まった。

 

「ッ!!」

「おっ、良い顔ですね~。もう一枚撮りますよ~」

 

再度焚かれるフラッシュに、ホシノが前へ出て銃を構えた。

アーケードの続く目抜き通り。そこにはずらりと八台の軍用トラックが並んでいた。

トラックの前には引っ張り出してきたような置き方をされている六人掛けの円卓と椅子。そして――

 

「キキッ! チアキよ、続きは話し合いが終わってからにしようではないか」

「は~い!」

 

円卓に座っていたのはゲヘナ学園の生徒会――万魔殿の三人。

即ち、京極(きょうごく)サツキ、元宮(もとみや)チアキ、そして議長の羽沼(はぬま)マコト。

その姿を見て、私は思わず声を漏らした。

 

「クライアントは……マコトだったんだね」

 

私の言葉に、ゲヘナの生徒会組織たる万魔殿を統べるマコトは笑みを浮かべた。




――次回 第5話:審判
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。