消えゆく世界の最終戦線   作:乃木宮秤

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第6話:ゲヘナ殲滅戦(1)

アーケードから飛び出した瞬間、私は目抜き通りを嫌って路地へと走り込んだ。

刹那に見えたのは戦車大隊が中隊編成で散開を始めていたところだった。

ここから更に小隊編成に分かれてゲヘナ学園までの道を塞いでいくのだろう。

 

「うへ~、戦車ねぇ……」

 

正直なところ、別に戦車の一両や二両は問題ない。

そもそもの話、戦車の主砲は人を捉えるためのものではない。重量を活かして轢いてくることすら私にとっては脅威ではない以上、戦車よりもショットガンを構えた生徒が並んでいる方が厄介だった。

そんな戦車を相手取るのに私が避けたいのは、バリケードとして道を塞がれることと戦車攻略で弾薬を使わせられることだ。

道を塞がれても飛び越えればいい――ではない。飛び越えさせられる(・・・・・)のは明確な隙になる。

 

『ホシノ、ストップ。万魔殿の部員が四人、すぐ近くにいるから弾薬を使わないで制圧できる?』

「りょ~かい」

 

立ち止まると丁度建物の影から四人のゲヘナ生が現れて、「あっ! いた!」と私を指差す。

数は問題ない。「あ」のひとことすら言わさずに、先頭にいた一人目の足元に滑り込んで腹部目掛けて蹴りぬいた。

 

――まずは一人目。

 

蹴り飛ばされた万魔殿の部員が生垣に突っ込んでワンダウン。それに驚く二人目が銃を構える。その銃を右手で叩いて銃口を左へ。右手を戻しざまに頭突き。そのままショットガンの銃身を握って、下から顎をグリップで打ち据える。ツーダウン。流れるように前へ踏み込む。三人目の眼前へと――

 

「なんだよこいつッ!!」

 

動揺している三人目に至ってはまだ銃に手をかけてすらいない。一息に近づいて腕を掴んだその時、少し離れた場所にいた四人目が涙目で叫びながら手榴弾を投擲。

 

(って、味方ごとかぁ)

 

パニックになったことは傍目で分かる。

咄嗟に三人目の腕を捻って動きを押さえながら投げ放たれた手榴弾の盾にして――その時、炸裂する寸前の手榴弾、その形状を私は正しく認識した。

 

投げ放たれた手榴弾。それはサーモバリック手榴弾という名称で知られるもの――

 

「ヤバっ――!?」

 

直後、閃光が満ちて暴力的な熱波が三人目ごと私を焼き飛ばした。

散らばる火の玉。ごろごろと転がる三人目は「ひど、い……」と言いながら気絶。私はすぐに体勢を立て直すも、残った四人目はわたわたと銃を構える。

 

「く、くらえー!!」

「っ――」

 

下手に下がってまた投げられるよりも撃たれた方が傷は浅い――銃弾を無視して私は一気に突っ込んだ。

――だが、その考えは間違っていた。

 

「痛ッ!?」

 

想像以上の痛みが胸元を叩いた。それでも止まらず斜め前方へと滑り込み、相手の左膝の裏をショットガンで殴る。態勢が崩れたところで後頭部へ回し蹴り。フォーダウン。すぐさま先生へと通信を入れる。

 

「倒したけどっ……相手の武器がおかしい!」

『なんだって!?』

 

連絡を受けた先生が目の前のマコトを見ると、「キキッ」と不敵な笑みで返される。

 

「言い忘れていたが先生よ。ゲヘナで支給される銃器、弾薬の全ては万魔殿の特別仕様だ。同士討ちでもしようものなら数発で病院送りになるほどのな」

「…………ッ!!」

 

それは明らかに普段のマコトであるなら取るわけのない施策であった。

統制が取れないゲヘナ生。だからこそ全ての火力を増強するなんて、そんな危険なことをするはずがない。にも拘らず、そのことを反証するようなホシノの感覚。

 

「勝つためなら何でもする――! 例え誰が傷つこうとなぁ!!」

「どうして、そこまで……!!」

 

日用品感覚で手に入るのはキヴォトス全域で見ても過剰な武装。

もはやブラックマーケットで扱われるような非合法武装の数々を無尽蔵に生み出せるほどの軍備拡張を行うなんて、どうして……!

 

「違法だなんだとは言ってくれるなよ先生。ゲヘナの法はゲヘナが決める。そしてゲヘナとはこの偉大なるマコト様のことよ!!」

「くっ……!」

 

私は認識を改めた。この羽沼マコトは危険であると。

何が彼女をそうさせた? ゲヘナの支配者となるために商店街へと繰り出していた彼女はどこに行った?

 

マコトは通信機を手に取り、そして叫んだ。

 

「さあ、ゲヘナ全生徒よ――待ち望んだ祝祭だ! 派手に! 盛大に! 侵入者を歓迎してやれ!!」

 

シッテムの箱を見れば、既にホシノ目掛けて周囲から十数人のゲヘナ生たちが集結しつつある。

 

「ホシノ! 今すぐその場から離脱を!」

 

マーカーを打ち込み退避経路をホシノへ示す。路地を巡ってゲヘナ学園から引き剥がされていく。

その全てを見えているかのように、マコトは示されたその道を嘲笑う。

 

「ほう? 大通りを抜けるつもりか? まぁ行ってみれば良かろう?」

 

不敵な笑みを崩さないマコトの言葉。その意味を理解したのは、ホシノが大通りに差し掛かったときだった。

 


 

角を曲がる。走る。狭い路地――戦車、引き返して回り道。

迷路のように入り組んだ中であればゲヘナ生たちとも遭遇し辛い。しかし、大通りを最低でも二本は抜けなければゲヘナ学園に近づけない。

 

「先生! 次はどっちに!?」

『ビルを抜けて裏口から大通りへ!』

「分かっ――」

 

答えようとした瞬間、横から私に気付いたゲヘナ生の声。私は足を止めずにビルへと走る。

私を追いかける全員が違法改造された銃器を持っていた。弾もホローポイント弾や劣化ウラン弾と、少なくとも元の世界ではブラックマーケットを漁らないと手に入らないようなものばかり。

当たったからと言ってすぐ戦えなくなるわけじゃないけど、食らい続けるのは本当にマズい。何より数が、敵の数が多すぎる――!

 

「先生、地上からじゃ大通りは抜けられない! 上から行けるルートは!?」

『じゃあそのビルだ! ホシノなら最上階から大通りを挟んだビルまで飛べるはず!』

「それしかないよ、ねッ!」

 

ガラスを体当たりでぶち破って(・・・・・)転がりながらビルの中へ。

エレベーター……いや閉じ込められたら終わりだ――非常階段へと向かって防火扉の先へと飛び込む。

三歩で各階の踊り場を駆け抜けながら上へ、上へ。

 

ビル全体へ断続的に揺れが走る――私は気付いた。

 

(戦車は私を撃つためじゃない……私が逃げ込んだ建物を壊すためのものだ!)

 

車体はバリケード。主砲は私の入った建造物を壊すため。そうならばこうして私が屋上伝いに進もうとしていることは――

 

「まっずい……ッ!!」

 

三歩から二歩間隔で階段の踊り場を駆け抜ける。

最上階への扉が見えて防火扉を押し開ける。廊下に出た瞬間、地面が揺れた。いや、傾き始めた。ビルが崩れる――

 

「ぅ、ぁあああああ!!」

 

走る。目の前のガラスまで十数メートル。左腕を支えにショットガンを構えてガラスへ連射。ひびが入る防弾ガラス。息を深く吐き切る。そして、そのままの勢いでガラス目掛けて飛び込んだ。

 

「――――ッ!!」

 

瞬間、ガラスを突き破った私の身体は上空300メートルにあった。

眼下の大通りにはゲヘナ生が35人。遠くからは四輌の戦車――先ほどまでいたビル目掛けて砲撃中。正面には隣のビルの屋上。ショットガンを胸元に。五点着地の体勢を整える。

 

そして、重力が私の身体を掴んだ。

 

「――っ」

 

足裏が屋上に触れた瞬間に全身を使って転がるように着地に成功。どこか痛めた場所も無い。

 

「っ――はぁ……!! はぁ……!」

 

大きく息を吸い直す。あと一本大通りを横切る必要はあるが――そう思って私はふと、空を見上げた。

 

「…………なに、これ」

 

見えたのは三隻の飛行船。そこに映し出されたものを見て言葉を失った。

 

――だって、まだこの世界に来てから一日も経っていないのに……。

 

飛行船に映し出されているのは、私の顔が映った画像。アーケードで取られた私の写真。

 

――ミレニアムからまだ半日も経っていないのに……っ!

 

そして明らかに浮いているポップ体でこう書かれていた。

 

【キヴォトス最強を捕まえよう! 鷹狩祭り開催!】

 

……鷹狩りって鷹で狩る方じゃなかったっけ?

……そんなことよりさ! 早く捕まえて勧誘しようよ!

 

大通りからゲヘナ生の声が聞こえた。

明らかに準備されていたとしか思えないこの状況。

手を組もうだなんて、この光景の後にはどう考えても嘘でしかない。

 

アーケードからそれを見た先生は絶句した。

全ては最初から、いや、始まる前から用意されていた。

私たちがこの世界に来ることを事前に知ってでも無ければ、こんな――

 

「ど、どうやって……」

「キキ……そちらが最高の戦力で来るのなら、こちらは最多の戦力で磨り潰す。それが私の計略よ!」

「君は――」

 

どの世界から再現されたマコトなの? そう聞こうとして飲み込む。聞き方が違う。こう聞くべきだ。

 

「君は――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「全てだ。教えてやろうか? 私が見てきた全てを」

 

マコトの瞳に仄暗い怒りが揺らめく。そして彼女は語り始めた。

 




――次回 第7話:あの日
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