消えゆく世界の最終戦線   作:乃木宮秤

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第8話:先生救出作戦

「ねぇねぇアルちゃん。あれ、さっきの子じゃない?」

「……へ?」

 

マコトによる人狩りが行われているゲヘナ自治区の一角。

ファストフード店で食事を取っていた便利屋68のアルは、外に見える飛行船を見て呆然としていた。

 

「ももももしかして私たち……とんでもないのと一緒に居たんじゃ……」

「ハルカちゃんも心配してたし、やっぱそうなんじゃない?」

「だってゲヘナの危険因子って聞いてたから! てっきり指名手配ぐらいなものだと……!」

「あぅぅ……すみませんすみません!」

 

何故か謝るハルカを宥めながら、アルの方こそ頭を抱えたくなっていた。

 

(依頼してって言っちゃったじゃない私~~!! あの二人何をやらかしたの!? テロリストとかそういうの!?)

 

依頼してなんて言っておいて後から断ったら報復されそうで流石に怖い。

かと言って引き受けることだけは絶対に違う。便利屋68がテロに加担するなんて会社の信用が失墜する。それ以上に皆をこれまでとは比べ物にならないような危険に巻き込んでしまうかもしれない。

 

「ぅぅぅううう~~~~!」

「あははっ! 悩んでる悩んでる!」

「なんでそんなお気楽なのよ! そんなことよりカヨコ長いわね……」

 

お手洗いに立ったカヨコは未だ戻って来ず、アルとしては今後の相談をしたかったところである。

そこでおずおずと口を開いたのはハルカだった。

 

「あの……ウンコでは無いでしょうか……?」

「駄目だよハルカちゃーん。ウンチ、でしょ」

「ちょっと二人とも! 食べるところでウンコだのウンチだの言わないの!」

「あの、お客様……」

「あっ……ごめんなさい……」

 

しょぼしょぼと項垂れたアルはテーブルに突っ伏して携帯を眺める。どうしてこんな面倒事に首を突っ込んでしまったのかと。

その時、丁度カヨコがテーブル席へと戻って来て、席に着いた。

 

「お待たせ。何かあったの?」

「ううん。なんでも~」

「そ。社長、ちょっと話が……」

「ひっ!? な、なに? ちゃんと断るわよ?」

 

慌てふためくアルの姿に首を傾げるが、すぐに合点がいってカヨコは溜め息を吐いた。

 

「あの、そのことなんだけど、先生たちのことについて匿名で連絡があってさ」

「匿名?」

 

きょとんとした顔で聞き返すアルに、カヨコもまた訝し気な表情を浮かべたまま内容を告げる。

 

「先生と一緒に居た子なんだけどね、小鳥遊ホシノ(・・・・・・)って名前で間違いないみたい」

「それってアビドスの生徒会長と同じ名前じゃない。……それで?」

「何でも、先生はそのホシノって子を助けるためにゲヘナと戦ってるんだって。で、ホシノって子も先生を助けるためにゲヘナを相手に立ち回っているみたい」

「…………そ」

 

カヨコが話した瞬間、アルがわなわなと震え始めた。

いやカヨコ自身、話したらこうなると分かっていたのはそうなのだが、その想像を描くようにアルは勢いよく立ち上がる。

 

「それって! すっごいハードボイルドじゃない!!」

「……やっぱりね」

「え、え!? だってお互いがお互いを救うために学校へ引き金を引くんでしょ!? 絶対勝てるわけないって分かってるのにそれでも大事な人のために命を賭けて戦うなんてもう最高じゃない! そんな二人を私たちが運んだの!? これ絶対運命の導きとかそういうのよ! ああもうやだ、熱くなっちゃった!」

 

ぱたぱたと手で顔を仰ぎながらもアルの興奮は冷めやらない。ムツキは笑って、ハルカもその興奮に当てられてショットガンをぎゅっと握った。

そんなタイミングで鳴る携帯の着信音。慌てて取ると、そこにはメッセージが一件。

 

【アル、助けて】

 

「来た!!」

 

受信を確認次第すぐさま返信を返す。【何でも言って!】【最高!】【あなたたちに協力するわ】と並びたてられる賛辞の言葉。

そこから続いたのは、先生側の状況と何をして欲しいかの依頼であった。文面を眺めていたカヨコが難しそうな顔をして呟く。

 

「アーケードは戦車で封鎖中。先生と小鳥遊ホシノは別行動中で、先生の指示に合わせて私たちが先生をアーケードから脱出させる……厳しいねこれ」

「しかもこれ~、ゲヘナ学園までそのまま運ぶんでしょ? すっごい妨害されそう」

「ぱ、万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)と風紀委員会を相手にしなくちゃ……ですね」

「あ、改めて見ると凄いことになってるわねこれ……」

 

いくら風紀委員会にヒナがいないとしても、流石に敵が多すぎる。

それに先生を脱出させることだけであれば(・・・・・・)問題ない。本当に難しいのはそこからゲヘナ学園まで連れて行くことだった。

 

「ねぇカヨコ、何か良い案無いかしら?」

「うん、そうだね……。じゃあこうしよう」

 

アーケードが戦車で封鎖されている以上、車で強引に先生を救助するのは不可能。

であるなら、必要なのは潜伏。そこからの奪取。

 

「先生の奪還組と逃走組の二手に分かれよう。奪還組は万魔殿の生徒を適当に襲って制服を手に入れてアーケードに潜伏ってどう?」

「そうねぇ……。ムツキ、ハルカ、頼めるかしら?」

「くふふ、まっかせてアルちゃん!」

「アル様のためなら! 必ず遂行します!」

 

二人が頷くのを見て、カヨコは言葉を続けた。

 

「じゃあ私と社長で逃走用の車を手配だね。ルートはこれから考えるとして、道中確実に前からも後ろからも追われ続けるから……」

「あ、あの……。で、でしたら、皆さんと合流するまでの道に爆弾を設置しておきます……」

 

皆を伺いながら手を挙げたハルカがぼそりと呟く。アルが「流石ね!」とハルカを撫でて、ハルカは恥ずかしそうに身を縮こまらせた。

 

「問題は前の方だね~。あらかじめ地雷でも仕込んでおく?」

「そうだね。正直ロケットランチャーぐらいは欲しいけど……伝手ある?」

「待ってちょうだいカヨコ。だったら戦車も奪っちゃえばいいじゃない。ハルカ、あなた戦車の操縦出来たわよね? 主砲とか撃てる?」

「はっ、はい! 出来ます!」

「いつの間に……」

 

カヨコが呆れたような感心したような表情を浮かべる。それに対して不満そうに頬を膨らませたのはムツキだった。

 

「ええ~。じゃあ私が運転するの~?」

「あなただって出来るじゃない……。というか、何で出来るのにやらないのよ」

「だってだってぇ~面倒じゃーん?」

「だ、だったら私が運転もやります!」

「分身でもするつもりなの!?」

「アル様がそう仰ったら!」

 

賑やかになってきたところで、カヨコがテーブルの上の萎びたポテトを口にする。

ともかく、方針は決まって来た。

 

「それじゃあ社長、改めてまとめようか」

「……! そうね、じゃあまずハルカとムツキは万魔殿の生徒から制服を手に入れてアーケードに潜伏してちょうだい。もちろん逃走ルートに爆薬をセットすることも同時進行で。私とカヨコが逃走用の車両と戦車を調達。対風紀委員会用の地雷は私たちでセットするわよ。準備が出来たら、合流地点から離れた場所で待機するわ」

「先生を拾ったら合流地点で全員集合~!」

「そしたら私とカヨコで逃走車両に先生を乗せて学校に向かうわ。二人はそのまま戦車の隠し場所まで走って乗り込んで、私たちのアシストを頼むわね」

「は、はい!」

「カヨコ、ここまでで漏れはないかしら?」

「うん、大丈夫」

 

全員の動きを確認し、アルは「よし」と意気込んだ。

 

「それじゃあ、先生救出作戦を開始するわよ!」

「「おー!」」

 

そして便利屋は動き出す。真のアウトローたるあの二人を助けるそのために。




――次回 第9話:ゲヘナ殲滅戦(2)
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