消えゆく世界の最終戦線   作:乃木宮秤

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第10話:ゲヘナ殲滅戦(3)

「ようやく見つけた……」

 

連戦に次ぐ連戦で疲弊しつつあるホシノの前には、調理鍋に向かって水を注いでいる給食部の姿があった。

 

「ねぇ、ジュリちゃんとフウカちゃんだっけ? それ、止めてくれない?」

「あ、暁のホルス――!」

 

怯えたジュリが声を震わす。しかし、フウカは既に車の方へと走っていた。

 

「逃げるよジュリ! 議長が言ってたでしょ!」

「止まれ――」

「きゃあっ!」

 

ホシノの放った拳銃による一撃がフウカを足を打ち据える。転ぶフウカ。けれどもホシノを睨み返して叫んだ。

 

「こっちだってねぇ! 大事な後輩のためにやってるんだから止められるわけないでしょ!」

「……っ」

「ジュリ! 車に走って! 運転は出来るでしょ!? こ、ここは私が食い止めるから!」

「せ、先輩……」

 

そう言ってフウカは立ち上がる。手にはこれまで滅多に使われたことの無い護身用のサブマシンガン。

当然戦ったことなんて数えるほどしかない。そして相手は学校を敵に回せる戦闘能力の持ち主。

怖くないわけがない。実際足は震えている。それでも、ジュリが普通に料理を作れるようになるかも知れないのだ。

 

「行ってジュリ! あ、あんたに、ジュリの邪魔なんてさせない――!」

「ま……待ってよ。これじゃあ私が悪者みたいじゃ――」

 

思わず怯むホシノ。エンジンのかかる音。だが、頭を振って我に返る。

いずれにしたって相手は複製(ミメシス)。本物じゃない。それに私が優先すべきは偽物の生徒じゃない、最初から本物の先生ともうひとりの私なんだ――

 

「――悪いね」

 

ショットガンを構える。フウカが目を瞑る。

その時だった。ホシノとフウカ、その間に一発の擲弾が着弾して爆発を引き起こす。

即座に後ろへ下がるホシノ。フウカは爆風に巻き込まれて車の方へと吹き飛ばされる。その間に割って入って来たのは二人の影。

 

「ギリギリ間に合いましたね! 大丈夫ですかフウカさん?」

「ま、待ってよアカリー!」

 

路地から姿を現したのは、美食研究会の鰐渕(わにぶち)アカリと獅子堂(ししどう)イズミ。フウカが二人の姿を見て声を上げた。

 

「ふ、二人とも!? どうしてここに!?」

「ナイス時間稼ぎですフウカさん★ こんなこともあろうかと待機していたんです」

「ま、迷っちゃってぇ……ひぃ……ひぃ……」

「あ、ありがとう! ジュリ! 運転席代わって!」

「させないッ!!」

 

ホシノはショットガンを構え直してすぐさま突進をかけようとする。

しかしそこで阻むのがイズミの弾幕とアカリのグレネード。フウカが運転席に着く。アカリが車の荷台に飛び乗って、遅れてイズミも乗り込んだ。

 

「それじゃあ、次の調理場で会いま――」

「させないって言ったでしょ?」

「うぇ――!?」

 

急発進するオープントップのトラック。その荷台に手をかけたのは銃撃を掻い潜ったホシノだった。

狭い荷台にホシノ、アカリ、イズミが立ち並ぶ。助手席のジュリは頭を押さえて身を屈めている。フウカが踏み込むアクセル。車両の速度は既に時速180キロメートルにも達していた――

 

『給食部よ、ルートは万魔殿が誘導する。全速力で走り続けろ!』

『ホシノ! アカリとイズミを車から落として給食部を捕縛! 車は出来たら鹵獲しよう!』

 

双方の陣営に下される指令。頷く一同。

戦場はゲヘナ自治区の路上、トラックの荷台の上へと移り変わる――

 


 

ゲヘナ自治区は今やひとつのサーキット会場と化していた。

魔改造された給食部の四輪駆動。そのモーターが唸りを上げる。時速は200キロを超えている。

全ての景色が高速で背後へ流れていく中、まず動いたのはホシノ。胸元から拳銃を抜き取ってアカリへと連射した。不安定な足場であっても全弾命中。アカリが呻いて膝をつく。

 

「痛いですねぇ……!」

 

アカリがアサルトライフルを向けようとするも距離が近すぎる。銃身を踏みつけて動きを押さえたホシノが銃口をアカリの頭へ向ける――その時だった。

 

「イズミ! 助手席に飛んで!」

「いいよー!」

「飛ぶってせんぱ――むぎゅ」

 

フウカが叫んでイズミが助手席のジュリへとダイブ。直後、フウカは歯を食いしばってハンドルを操る。

アクセル、アクセル。左足でブレーキ、クラッチ、ギアチェンジ、アクセル、アクセル。再びギアを入れ直してハンドルを引き回す。

そこから引き起こされたのは時速240キロの状態で繰り出される四輪駆動ドリフト。荷台側が大きく横へと滑り込む――

 

「なっ――!?」

 

慣性から振り落されたホシノ。その全身は路上へと放り出される――が、咄嗟に拳銃を口で咥えて右手で荷台を掴んだ。

そこで荷台から立ち上がったのはアカリ。アサルトライフルを荷台を掴むホシノの右手へと向ける。

 

(まずい――ッ!?)

 

左手が使えれば銃を持ち直して撃てば済むだけのこと。しかしそれが出来ない以上これは躱せない――

――その時だった。一瞬視界に映ったのは道路沿いに設置された街灯。イチかバチかの賭けは今しか無い。

 

ホシノは荷台に足をかける。撃たれる直前に右手を放す。完全に浮いた身体。そこから一気に荷台を蹴って街灯へと手を伸ばす。

 

(――掴んだ!!)

 

飛んだ勢いはそのままに曲芸の如く掴んだ街灯、そのポールを中心に一回転。そして車の進行方向と重なるように手を放す。慣性に従って前方目掛けて吹き飛ぶ身体。その足が踏んだのは道路沿いの建物の外壁。そのまま壁を疾駆する。

 

「イズミさん!」

 

アカリが叫ぶ。頷くイズミ。

 

「ねぇジュリ、ちょっと身体掴んでて」

「は、はいイズミ先輩」

「いっくよー」

 

イズミがマシンガンを構える。そして放たれる無数の弾丸がホシノの走る壁を穿つ。しかし、掠めはしても直撃はせず――

対するホシノは壁を蹴って再び街灯を掴んだ。一気に飛び上がってトラックの直上、ショットガンを構えて空からの強襲――と見せかけたフェイント。荷台へ着地してアカリの腹部を蹴り飛ばす。

 

「くっ……!」

 

バランスを崩して荷台の端まで追いやられる。そこで追撃するのがホシノのショットガン。銃声が鳴り散弾を全身に受けたアカリは、そのままトラックから落下していく。

 

「アカリーーーーっ!!」

 

慌てふためくイズミ。そこに迫るはホルスの両目。助手席目掛けてジュリごとイズミの姿を捉える。

それを阻止せんとトラックを振り回すのは給食部部長、愛清フウカ。だが、この車両はオープントップ。荷台に立てばフウカの手元も足元も目に映る。それ故に、タイミングに合わせて前へ向かって飛び上がれば良いだけのこと――

 

「二回目は流石に通用しないよ!」

 

飛び上がったホシノはボンネットに着地。そのままジュリとイズミをショットガンで撃ち抜く――が、イズミに当たっただけでジュリは無傷。意識を失いかけたイズミの身体がゆっくりと車両から落ちていく。

 

 

「イズミ先輩!」

 

ジュリの叫び。しかしフウカは冷静に一言だけ呟いた。

 

「大丈夫、間に合ったから!」

「っ!?」

 

直後、路地を破壊しながら現れたのは巨大パンちゃん。その座標を見たマコトが高笑いを上げた。

 

「そうだ! フウカに向かわせていたのはパンちゃんの移動先だったのだ! さぁ先生よ、果たして暁のホルスはパンちゃんの猛攻に耐え切れるかな?」

「ホシノ! そっちは大丈夫!?」

 

私はインカムに向かって叫んだ。そこから返って来たのはホシノの困惑するような声。

 

『だ、大丈夫だけど……その』

「どうしたの!? まさか新手が……!?」

『じゃなくって、その……パンちゃんが車ごと給食部の二人を連れてっちゃったんだけど……』

「……え?」

 

思わずマコトを見る。マコトは愕然とした様子で目を見開いていた。

 

「「…………」」

 

一瞬この場を支配する沈黙。

 

(ん? じゃあ今そこにはホシノだけってこと……?)

 

すぐさま思考を切り替える。ゲヘナ学園まであと一区画。走って10分で走破できる距離――

 

「ほ、ホシノ! 今すぐ走って! ゲヘナ学園まであと少しだから!」

「さ、させるかぁ!!」

 

そして、先生の声にホシノは頷く。

ようやく辿り着く、決戦の舞台。サンクトゥムタワーまであと少し――!




――次回 第11話:失墜
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