消えゆく世界の最終戦線   作:乃木宮秤

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第11話:ツルギvsホシノ

ミカとミネ、二人の生徒が走っていった向こうでは、数多のビルが倒壊していた。

破壊は断続的に、けれども留まることなくトリニティ総合学園へと続く大通りを走り続ける。

 

そんな壊れ行くビルの上を走る影が二つ。通りを挟んで一影と一影。黒き翼が空を飛ぶように走り続ける。

二つの影に遅れて局地的な破壊と爆発。そこに相対するはトリニティの校門付近。一際高く、そして古い塔の上に寝そべる影。身の丈に合わない狙撃銃を構える少女が通信機に向かって口を開いた。

 

「距離1300……1200……もうじき射程圏内に入ります、ハスミ先輩」

『分かりました。イチカ、マシロの射程に入るまでは適宜ツルギの援護を』

『了解っす』

 

ビル上を走る仲正(なかまさ)イチカは走りながら手に持つアサルトライフルの引き金を引く。パラパラと飛び散る弾丸は眼下の死闘において無意味。だが、重要なのは中距離戦闘要員がここにいるというアピールであり、ダメージそのものではない。

 

黒き翼を持つ者たちがこれから破壊されるビルの上を走る、仲正イチカと羽川(はねかわ)ハスミ。

戦火を迎え撃つように破壊の進路、その先に待つのは静山(しずやま)マシロ。

そして――彼女たちに遅れて破壊の嵐を生み出すのは即ち、アビドス生徒会長小鳥遊ホシノと正義実現委員会委員長剣先(けんざき)ツルギ。

 

それは――太陽を引き連れて訪れた。

 

「きひゃひゃひゃひゃひゃああああ!!」

「――ぁああああああ!!」

 

ツルギの持つ二挺のショットガンが路地を丸ごと吹き飛ばす。飛んで躱したホシノがショットガンを向ける。その銃口から放たれるのはとてもではないが弾丸とは呼べない。光――もしくは赤色巨星そのもの。目を潰すほどの光を伴って息を吸うかのように力の中心へと吹き飛ばされた路地の欠片が吸い寄せられる。

 

爆縮――爆散。

 

戦いが始まってから強くなり続ける吹雪が、世界(ホシノ)の傷が、炎の向こうへと消えていく。

何もかもが解け消える熱量。その中へ臆することなく飛び込み、焼かれ、再生するのはトリニティの戦略兵器、剣先ツルギ。

肌は既に幾度となく炭化して、その下から新たな皮膚が生み出され続ける。本来ならば全身を覆っていたであろう自らの血液でさえも沸騰し尽くし揮発する。

 

「しゃああああああ!!」

 

燃え尽きることなくホシノへと迫る二つの銃口が捉えたのはホシノの胴部。避けようと身を引くホシノの足を狙い撃つはハスミの狙撃。バランスが崩れて止まった数瞬――ツルギの手がホシノの片腕を掴んだ。

 

「っ――!?」

「へぇひひひひひひひ!!」

 

ツルギがホシノを掴んだまま腕を振るう。ホシノの身体がビルの壁面にぶち当たり、コンクリートが破砕する。

更に振るう。道路が砕ける。更に振るう。瓦礫が飛んだ。更に、更に、更に――

ホシノの身体がひしゃげた缶のようになるその代わりに、世界を閉じ込める吹雪は更に悪化する。

 

視界がホワイトアウトした。

全ては凍てつく白へと消える。その中でホシノは静かにツルギへと銃口を向けていた。どれだけ振り回されても、一瞬の隙すら逃さないように……。

 

(――見えた)

 

白紙のような視界の中で爆ぜる一瞬、ホシノの放った致命の一撃がツルギの頭に降りかかる。

僅か数秒、ツルギが意識を失ってホシノを掴んだその手を離した。二人の位置は気付けば前後で入れ替わり、ホシノは自らの背後に学園があることを知る。

 

「……っ」

 

ホシノは走り出した。ゴールへ向かって。

 

「目標を確認――」

 

弾丸が脇腹に突き刺さるのを感じて、ホシノの身体が後方――ツルギの側すら通り抜けるように吹き飛んで、二人の位置関係は元へと戻る。

即ち、トリニティ校門側のツルギに相対する形へ。狙撃したのは学園側で待機していたマシロである。そして、マシロの稼いだ数秒はツルギの再生に充分な時間であった。

 

「ああ……本当に、嫌な()……」

 

ツルギと同時にホシノが起き上がって思わず呟く。

絶え間なく続く再生力、それだけなら夢の支配者(・・・・・)たるホシノの力があればこそ撃ち抜ける。意識を狩り飛ばした数秒さえあればツルギを追い抜き戦略的敗北まで追い込める。

それをさせないのがハスミとマシロの狙撃手二名。回復までの数秒を稼がれる。戦いは終わらず、ホシノひとりが損耗し続ける。

他の部員が居ないのは事故による致命傷を避ける為か。それ故ホシノもまた思う存分に力を振るえて、だからこそ勝利の道すがらは極めて細く感じる。

 

(――何より、イチカちゃんが邪魔)

 

ホシノの視界に常に移り続けるその姿。自らの存在を強調するかのように、挑発するかのように威圧し続ける弱者の存在こそが邪魔でしかない。

耐久力はツルギとなんて比べるまでもない癖に、軽薄に笑うその表情の向こう側で、ずっとホシノに警告し続けている。

 

――ツルギ先輩を殺すなら、その前に討ち死にしてでもお前を殺す。

 

笑顔の裏に隠れた純然たる殺意は、この場にいる誰よりも純化されていた。それを認識するホシノ自身以上に。

攻めあぐねる。完璧な攻略法が思いつかない。ホシノは自らの心臓を掴むかのように胸を掻く。自らの内を走り回るこの感情が何なのかすら理解せぬまま、この戦いに勝つ方法へと脳を回す――その時だった。

 

「待ってください!!」

 

声と共に、向かい合うホシノとツルギ、その間に影が割り込んだ。

 

一台の車両。ホシノとツルギの戦いに割って入った闖入者。

その姿を映像越しに見ていたナギサは思わず絶句して、それから遅れて悲鳴を上げた。

 

「どうして……どうしてあなたがここに……!!」

 

それは誰も認識していなかった戦場の外。誰の目にも留められていなかった意識の外からやってきたイレギュラー。

誰も彼もが彼女の存在を遠くに追いやっていた。それも仕方のないこと。彼女は――普通の生徒(・・・・・)であったから。

 

「ヒフミさん――!!」

 

阿慈谷(あじたに)ヒフミ。ナギサの友人。普通の生徒。

そうでありながら、何故か奇妙な運命の転換期に居合わせてしまう――そんな、ただのトリニティ生であった。

 


 

遡るはこの世界のホシノと彼方から先生たちを連れて現れたホシノが邂逅を果たす直前からである。

 

「うーん……留守なんでしょうか……?」

 

アビドス分校のインターホンを鳴らしながら律儀に待つヒフミは、ペロロ様を模したバッグを抱えて校門の前をうろついていた。

ヒフミはあくまでホシノ生徒会長の補佐。勝手な行動は慎むべきだと理解していながらも、目の前の相手が苦しんでいるのなら、その苦しみの理由を知りたいと思うのは何ら不思議な感情ではないのだと考えていた。

 

故に、その苦しみを伴う何故(・・)を知るべく、生徒会長が寝起きに呟いた言葉を元にここまで来たのだ。

その後のことはよく覚えて……いや、覚えてはいるが理解が出来ていない。

 

銃声が聞こえたかと思えばガラスを割るような音が頭の上から聞こえて、雪が降って、そこらから水が溢れてヒフミの身体を押し流した。悲鳴を上げる間でも無く……というよりも、半ば溺れながら流される自身の状況はまるで洗濯機に飛び込んだ小人のようであった。

 

「は、はぁ……はぁ……。ひ、酷い目に遭いました……」

 

ずぶ濡れのまま顔を上げると、そこは気付けばトリニティ自治区のすぐそば。どうやら流されて来たらしい。

濡れた服を乾かしたかった。何より、何故だか空から雪が降っている。雪が降るから気温も低く、歯の根がガチガチを鳴っていく。

 

「か、風邪を引く前に服、ですね……」

 

そう考えたヒフミが、自分の服が置いてあるのに一番近いトリニティ総合学園へ一旦戻ることを選択するのは当然の結果である。

しかし、歩いて帰るのもまた辛く、走っていくにはまだ遠い。ヒフミはふと思い至った。

 

(――そうだ! その辺の車を借りましょう!)

 

正しくは窃盗なのだが、阿慈谷ヒフミは目的の為ならば手段を選ばない自称普通の生徒である。

車を探して見つ出し、さも常識であるかのようにアサルトライフルで車の扉をぶち破ってから、エンジンの配線を繋ぎ直して車両のエンジンを掛けたりした。

扉を破壊したせいで暖房を全力でかけても少しマシ程度。それでも何も無いよりマシだったのも確かである。

 

「よし!」

 

何も良くはない。車両の窃盗は犯罪である。そんなことすら露知れず、若干ながらに温まったヒフミはアクセルを全力で踏んでトリニティへと向かうべく裏路地へと車を走らせる――が、すぐに気が付いた。ハンドルロックが効いている。つまりは一切曲がれない――

 

「うわぁぁぁぁ!! ご、ごめんなさぁぁぁい!!」

 

その謝罪は、今しがた暴走車両に撥ね飛ばされた正義実現委員会へと向けられていた。

曲がれない。ハンドルも切れない。しかして何故だかアクセルは踏み続ける。何故なら寒いから。ペロロ様バッグも多分寒がっている。だからこそ、今すぐ学園へと戻りたかった。そんな理由から。

 

ヒフミは知らない。たった今ホシノが嘆きの悲鳴を上げながらトリニティ総合学園へと続く大通りへと集うセイアたちから逃げたことを。

ヒフミは知らない。その絶望も、そこから始まるトリニティ防衛戦のことも、何も。

 

そしてヒフミ以外もまた知らない。憐れみを抱くほどの悲しい獣として破壊をもたらすホシノとは全く無関係に、適当な犠牲者を出し続ける阿慈谷ヒフミの存在を。

 

まさしく暴走。車輪が上手く瓦礫を踏んで方向を若干変えることが出来たとしても、依然としてハンドルの自由は戻らない。

そんな時だった。今しがた撥ね飛ばした生徒たちが撥ね飛ばされる直前に話した言葉を聞いたのは。

 

――アビドスの生徒会長が暴れている。

――どうしようもない痛みに駆られて、ツルギ委員長と戦っている。

 

(それは、間違っています……!!)

 

ヒフミは見てきた。苦渋を顔に浮かばせながら、アビドスの生徒会長席に座る生徒会長の姿を。

ナギサはヒフミにこう言った。生徒会長の補佐をお願いします、と。確かにそう言ったのだ。

当然ヒフミだって馬鹿ではない。見張って欲しいと頼まれたのだと認識していた。しかしてその意味合いはむしろ逆に伝わっていた。

 

――生徒会長は危ういから、どうか見守っていて欲しい。

 

ナギサが果たしてそう思っていたかはヒフミも知らない。しかし、ヒフミはナギサの言葉をそう捉えた。

 

愛。愛情。それは誰かを思いやる無償の善意。

阿慈谷ヒフミは普通の生徒だ。その普通はきっと尊いもので、誰も彼もが手に出来るものではない――奇跡のような純真だった。

 

一台の車両が、ホシノとツルギの間に現れた。

制御の効かないハンドルを握る阿慈谷ヒフミは、自らの信ずるものも手放すことなく現れ出でる。

そして叫んだ。この戦いを終着へと向かわせるそのために――




――次回 第12話:焼けた十字架
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