消えゆく世界の最終戦線   作:乃木宮秤

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第6話:実行開始

真理を求めて暗闇を歩む者たちを眺めながら、男の独白が木霊する。

 

――流石ですよ先生。即興とはいえ予定通り(・・・・)シッテムの箱は彼女たちに奪われ、あなたはミレニアムの収容室へと隔離されました。

 

解析室には四人の少女。ミレニアムが誇るハッキングのスペシャリストたちが集まり、言葉を交わす。

 

「チヒロせんぱーい。物理的にケーブル抜いておけばいい?」

「そうだね。何があっても絶対に繋がないように」

「先輩、トロイ対策のソフト作っておいたよ」

「ありがとうハレ。モニタリングもお願い」

「分かった」

「コタマはソフトウェアの見直し。最悪その場で一から対策ソフト作るぐらい警戒しよう」

「はい。あの、ちなみに部長は……?」

「リオ会長と電話で話してるよ。そのタブレットが本物だったとき用の情報共有だってさ」

 

電話の先で指示を出す調月リオはミレニアムへと向かう車両の中。生徒会長運転の元、静かに言葉を連ねていく。

 

「最後にもう一度言うけれど、もしもそのタブレットがオーパーツの類いであるなら、充分以上に気を付けて」

『気を付けて、とは? そんな曖昧な言い方、あなたらしくも無いですね』

「私にも分からないことがあるということよ。特にゲマトリアが関わっているであろうオーパーツであるなら、私たちの常識は通用しないわ」

『……そうですか。まあ、陰気なあなたがわざわざ心配してくれるなんて、それこそミレニアム始まって以来の珍事ですが……』

「何かしら?」

『私は山脈を流れる清水のように澄んだ心と朝焼けを迎えた大海原のように広い心を持っているので……、そうですね。その下水を流れる濁った水のようなあなたも、多少はマシになったと言ってあげましょう』

「……らしくないわね」

『お互い様に』

 

途切れる通話。何処か考え深いような表情をして、車は走る。

 

――ええ、彼女たちは全力を以て事に当たることでしょう。セミナーとヴェリタス。本来ならば交わらない二つの組織も、未知の前では一丸となれる素質がある。確かに、先生のおっしゃる通りでしたね。

 

道路を突っ切ってミレニアム周辺。潜伏するのは暁のホルス。茂みの中に身を潜めて学園の外から様子を伺う。

ミレニアム内。警戒を怠らずに臨戦態勢を崩さないC&Cメンバー。

ひとり何処かを彷徨うアスナ。カリンとアカネは襲撃に備えて二人一組で行動中。タワーの入口に座るネル。

収容室。ひとり目を瞑る先生は、何かを待つように静かに深呼吸を繰り返す。

 

――ですが、いつの時代にも好奇心から生じる災厄の物語があるように、この世には決して触れてはいけないものもあるのです。箱に触れて良いのは正当なる所有者のみ。資格なき者が触れれば、神の怒りを買うのも必然。

 

一方、ヴェリタスのメンバーは全知の天才、明星(あけぼし)ヒマリが合流したところで準備を終えた。

特異現象捜査部の蓄積したデータと観測事象例を以て、彼女たちは目の前のそれをただのタブレットとして扱ってはいない。何が起こってもおかしくないと、何も起こっていない今からすれば些か過剰とも言える警戒心で事に当たっていた。

 

「じゃあ、接続するよ」

 

チヒロがタブレットにアクセスを試みる。その直後であった。

 

「……!!」

 

突如ミレニアム自治区全域で停電が起こった。

全てのシステムが次々と書き換えられて行き、すさまじい速さで何かに侵食されていく。

収容室の扉は一度に全てが開け放たれて、息を吐き切った先生はゆっくりと立ち上がる。

 

同時刻、ミレニアム周辺で待機していたホシノは茂みから飛び出して全速力で走り出した。

全ての機器がジャックされ、混乱に陥るセミナー。

タワーの前に座るネルは鮫のような笑みを浮かべて「始まったか」と呟いた。

 

――さあ、時は来ました。

 

――これより、ミレニアム攻略戦を始めましょう。




――次回 第7話:ミレニアム攻略戦(1)
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