消えゆく世界の最終戦線   作:乃木宮秤

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第10話:夢見る真昼の礼拝招詞(2)

最後の夢へと至る道には、どこかの世界、どこかの時間で有り得た神秘の姿が集っていた。

 

体育館の第二階層では一体どうやって準備したのか、多くの屋台がずらりと並んでいる。

フロアの中央ではアバンギャルド君が設置され、エンジニア部とリオ会長、それからマコト議長が改良の案をそれぞれ出していた。

 

「キシシッ、この羽沼マコト様の目を持ってすれば、このアバンギャルド君なる秘密兵器に足りぬ物が何か一目で分かったぞ!」

「聞かせてもらいましょう、マコト議長」

「つまりだな……カラーリングだ! 目も眩むほどの金色こそ秘密兵器に相応しかろう! ……ん、どうしたエンジニア部の部長よ」

「一色だけ、なんていうのも味気ないとは思わないかい? ここは……そう、ゲーミングだ。ゲーミングアバンギャルド君00として改造するのは如何だろう」

「ねぇ、あの……」

「ならば緊急離脱装置も必要だな! 頭だけが分離して情報を持ち帰る――素晴らしいとは思わないか?」

「部長、頭に別個で自爆装置つけようか。途中鹵獲された場合のケースにも備えて」

「「それだ!!」」

「あの……ちょっと……?」

 

正直何を言っているのかよく分からなかったけれど、少なくともリオ会長が気圧され気味なところを見るにマコト議長とエンジニア部は会わせてはいけない組み合わせだったのかも知れない。

 

その近くの屋台では、何があったかは知らないが屋台の前でメグが火炎放射器を振り回してジュンコと争っていた。すぐ隣ではパンちゃんを貪るイズミの姿があり、ジュリはせっせとパンちゃんを量産していた。そうして数を増やしたパンちゃんは何故かコユキに群がっており「なんでーー!」と悲鳴が響き渡っている。

 

そのまま階段を登り続ける。シスターフッドと談笑するセミナーのユウカとノア。イオリとアイリがチョコミント味のアイスを食べ歩いて、少し離れてアコとチアキがスイーツ部の面々と並んでクレープを口にしていた。

 

その全てがきっと、どこかの世界であったはずの光景だった。どこかの世界で有り得たかも知れない光景だった。

ただ日常と青春を謳歌する少女たちのキネマトグラフが回り続ける。私もそうだった(・・・・・・・)のだ。その中に居たはずなのだ。私も。

 

そして、第三階層へと辿り着いた。

 

「ここは……」

 

誰も居ない無人の体育館。薄暗いこのフロアの舞台側にはスクリーンが降りており、これから映画でも流すのではという雰囲気であった。

 

並べられたパイプ椅子。そのうちのひとつに座ると、館内の照明が落ちていき暗闇に。

スクリーンに映し出されたのは学園祭事務局と眼鏡をかけた子、その隣に立つ黒髪の子の姿だった。

 

『準備できました。いつでも大丈夫です!』

『ねぇ、髪おかしくなってない? あ、ちゃんと撮る時どうする? カウントダウン?』

 

知らない子たちがアビドス高校の制服を着ていた。

そのことを理解するや否や何故だか急に胸が苦しくなって、気付けば自分の胸元を掴んでいた。

 

『カウントダウンにしよっか~。もう撮ってるけどね~』

『ちょっと! ホシノ先輩(・・・・・)!』

『うへ~、そんなに怒ると可愛い顔が台無しだよ~セリカちゃん』

『誰のせいで……っ!』

 

ホシノ先輩。そのたった一言に私は口を塞いでいた。

驚いたからではない。けど、分からない。この感情が何なのかも分からないまま、食い入るようにスクリーンを眺め続けた。

 

『は、始めますよ! ええーと、こほん。私は、アビドス高校一年の奥空(おくそら)アヤネです。それでこっちが……』

『く、くくっ、黒見(くろみ)セリカよ……です。覚悟しなさい!?』

『緊張しているセリカちゃんも可愛いですね~☆』

『しょ、しょうがないでしょ!? え、えーと……私たちは三人の先輩たちと一緒に、このアビドスを復興しようと頑張ってます。ほら、先輩たちも!』

 

画面外から更に二人が入って来た。

銀髪の子とおっぱいの大きい人。直後、黒髪の子が画面外へと走っていき、遅れて誰かの手を引っ張って現れた。

微睡むように気だるげに、ふわふわとした表情をしていた私が画面の中へと引っ張られて現れた。それから、銀髪の子から順番に自己紹介を始めていく。

 

『アビドス対策委員会二年生、砂狼(すなおおかみ)シロコ。よろしく』

『同じく二年生の十六夜(いざよい)ノノミだお~♣ ぶいぶいっ!』

『ほら! ホシノ先輩も!』

『ふぁ~、適当でよくない? あ、だめ? 小鳥遊(たかなし)ホシノだよ~、よろしく~』

 

やる気の無さそうに脱力しきった未来の私が挨拶をして、後は眼鏡の子が引き継いだ。

 

『私たちはアビドス廃校対策委員会です。このままではアビドス自治区そのものが無くなってしまうことは皆さんも知っていると思います。けれども、三年以上から言われ続けて今日まで何とか存続して来られたんです』

『みんなの力を貸して! 今は何とか私たちで学校の借金を利子分だけでも返しているけど、借金が減ったわけじゃないの』

『どうか私たちにご協力をお願いします! ひとりひとりの募金が集まれば、きっと学校も立て直せるんです!』

『ん、募金しないと奪いに行く』

『ちょっとシロコ先輩!! 真面目にやってよね!?』

『まぁまぁ、今はリハですから~。本番で緊張しちゃったら癖になっちゃいますからね~』

『おじさん疲れちゃったよ~。最後の締めの台詞、何パターンか撮って確認してみよ~』

『意外と先輩たちも考え――い、今のは別に先輩たちを疑ってたわけじゃ……!?』

『アヤネ……ひどい……』

『うへ~、締まらないねぇ~』

 

そこで映像は途切れた。体育館に明かりと静寂が戻って、私はひとりだった。

 

「……っ、ぅう……、はぁっ――な、なんで」

 

そしてどうしてか、私は泣いていた。

何故だか分からないけれど、涙は止まってくれない。

顔を押さえて動けなかった。この感情が何なのかさえ私には分からない。私には何も分からない――

 

なんで(■■■)私を殺し続けたの(■■■■■■■■)

 

「っ――」

 

直後、身も凍るほどの悪寒が背筋を走った。

死に逝く先輩の最期の言葉。私の罪を糾弾する悪夢の絶叫が脳内に響き渡る。

 

「わ、私は……私を罰しないと……」

 

罰を受けることにしがみ付く。贖罪を求めるのは赦されたいからで、罰がなければ赦されない。

自分で自分を赦せないから自分以外の誰かに赦しを乞う。弱い自分が自分の心臓を掴み続ける。

 

(それでも――)

 

首を振る。奮い立たせる。あの未来に辿り着けた私に私が会いに行く。全てこの目で見るのだと、そう決めたのだから。

例え下される沙汰が何であれ、私は全てを知らなきゃいけない。そうでなくては死んでも死にきれない(・・・・・・・・・・)――!

 

そして。

 

私は最上階へと辿り着いた。

 


 

夢の終着点は風が吹き荒ぶ月下の屋上であった。

向こう側で座り込んでいるのは完全武装の未来の私。周囲に積まれた手榴弾各種。そのうちのひとつを手遊びに宙へと投げては掴んで投げて、ゆっくりと私の方へと顔を上げた。

 

「意外と早かったね。もう少ししたらこっちから行こうと思っていたのに」

「……世界基底の操作にも、随分馴れたようですね」

「まぁね。おじさんこれでも天才(・・)だから」

「っ――、私は、天才なんかじゃありません」

 

過去の嫌な記憶が蘇る。顔を歪めて返した言葉を、未来の私は嗤って一言で切り捨てた。

 

「天才だよ、私は」

「…………」

「それにさ、ユメ先輩は確かに死んじゃったけど、それでも世界は滅んだりしてくれない」

「――っ!」

 

一瞬、何を言われたのか分からなかった。

ユメ先輩は私にとって世界そのものだった。それを否定することを、許せるはずがなかった。何より――

 

「お前が」

「うん?」

「お前が、それを言っちゃ駄目だろ……っ!!」

「いいねぇ~、調子も出て来たんじゃない?」

 

未来から来たそれは不敵に笑って立ち上がる。相対する私はショットガンを強く握りしめていた。

 

「ねぇ知ってる? 弱い私」

 

あくまで挑発するように、そいつはゆっくりと立ち上がってユメ先輩の盾を展開する。

もう、何が言いたいのか分かった。

 

「殴り合いなら河川敷がぴったりなんだって。じゃあ、この月の下ならぴったりじゃない?」

 

――あの月の向こうには死に逝く現実。この月の下には泥濘たる生の夢。

――彼岸と此岸を分かつは悲愁の大河。ならばこの場所、この屋上こそが死を隔てた河川敷に相違ない。

 

「ま、つまりさ。敵になってあげるよ小鳥遊ホシノ(・・・・・・)。私の弱さは私が一番分かっているからさ――!」

「お前なんか私じゃない! 私は私より弱い奴なんて認めない――!!」

 

過去vs未来。私と私。太陽の右目と月の左目が交錯する。

私にとっての最後の戦いが、今――始まる。




――次回 第11話:ホシノvsホシノ
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