お待たせしました!『鋼鉄戦士アイアンソウル』   作:冬霞@ハーメルン

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日頃より拙作をご愛顧下さりありがとうございます、不肖冬霞です。
残念ながら新キャラ登場ならず。一回ここで切らせて頂きます。個人的には戦闘シーンをもう少し工夫していきたいですね。
また細かい点で間違いありましちあらご指摘ご協力お願い致しますm(._.)m


第7話 『潜入! 闇の坑道』

 

 

 

 普通のゲームとは違いBGMの響かない洞窟の中は、現実と同じように静まりきっていた。

 これが森などのフィールトであるのならば木擦れの音や小動物の唸り声など自然のBGMが流れているものだが、この階層の迷宮区は果ての見えない穴蔵。鎧や武具が触れ合う音が何処までも反響し、広がっていくのは自然と恐怖や不安を呼び起こす。

 坑道の壁にはところどころ不思議に発光する鉱石が埋め込んであり、それが照明の代わりになっている。坑道も最初の方は人の立ち入った形跡があるという設定なのかランプがあったが、奥の方はこのように不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

 

「‥‥ここが分岐点みたいね。右に曲がればボス部屋だっけ?」

 

「うん、そう。あの時は軍と聖竜連合、あと私たちソロの混成部隊で攻め込んでも結構時間かかったな。地面に潜る変則的なボスだったから」

 

「ボス攻略、参加したことないのよね。まぁ参加する気もないけど」

 

「いいわよ、攻略するのは私たちの仕事だもの。代わりに良い武器、期待してるから」

 

 

 右の道は暗く深いが、左の道は今までとあまり変わらない景色が広がっている。単純に先に進むというだけならばあからさまに怪しい右の道は危険過ぎると考えるところだろうが、危険な場所にいるボスを攻略して迷宮区を突破するという使命がある以上は危険な方こそ進む道である。

 しっかりとボス部屋へ繋がる、と分かる道しるべがない以上は片方を調べてからもう片方というのが常套手段だ。よって先ずは怪しい方から、ということで右の道に進んだ攻略組が順調にボス部屋へと到達出来たのは、幸運だったのか不運だったのか。

 先の攻略を急ぐという観点からは僥倖だったのだろうが、結果として片方の道の攻略は後回しにされてしまっていた。もっともそれも、攻略組とはいかないがゲームを真っ当に生き抜いている他のプレイヤーたちにとってみれば、おいしい獲物ということで残るものもあっただろうが。

 

 

「ここまでの道ではあまり良い鉱石は出なかったのう。アスナさん、右の道を進むとボス部屋まではどのくらいかかるのですかな?」

 

「丁度今までの道のりより少し長いくらいですね。この分かれ道ではまだこの迷宮区の半分も達していないはずです」

 

「ほぅ‥‥今までの迷宮に比べて随分と長い道程ですな」

 

「その代わりモンスターのレベルはそこまで高くなかった気がします。ボス攻略の時は途中に出現するモンスターを掃討する班をつけるんですが、彼らも殆ど消耗しないまま辿り着けましたから」

 

「ボス攻略に一日以上かかったって聞いたけど?」

 

「それは道中を合わせての話よ。私はボス攻略組だったから食料は持たなかったけど、私たちの分の食料まで運んでくれていた護衛班のアイテムストレージは半分以上が食料だったらしいし」

 

「‥‥古いRPGゲームとかのダンジョン攻略が懐かしいな。あんな風にボクたちも食べ物とか睡眠とか考えないで攻略出来れば良かったのにさ」

 

「ご飯も寝るのもなしでこんな世界に数ヶ月もいたら、あたしは頭狂っちゃうわ」

 

「‥‥まぁ確かに」

 

 

 当初の目的通り、躊躇もなく左の道へと一行は歩を進める。ボス部屋へと繋がる道は殆ど探索され尽くしているだろうから、おいしいアイテムなどは残っていないだろう。

 坑道とはいっても採掘ポイントは至る所にあるというわけではなく、どちらかといえば何もない道の方が長い。特に今までの採掘ポイントではろくな鉱石がとれなかったことを考えると、お目当てとするアイテムを得るためにはかなり奥まで潜らなければいけないようだ。

 基本的に鍛冶師が鍛え上げる武器の性能は鍛治スキルの熟練度と使う道具のレベル、材料とする素材のレア度や組み合わせ、あとはリアルラックに影響されると言われている。リアルラックに関しては当然ながら明確な数値などないが、俗に言う物欲センサーのようなものを内臓しているのでは、という程にSAOでの生産系スキルは過酷な単純作業の繰り返しだった。

 今はまだ少ない生産系職人の中でもリズベットの腕前はかなりのものだが、そrてでも安い鉱石で良い武器は鍛えられない。ちょうど在庫もきれていることだし、ここらで一つ良い鉱石を採掘して逸品を鍛え上げ、自身の名声も上げておきたいものである。

 なにせ広告や宣伝方法などが非常に少ない仮想世界である。情報屋へと情報が出回るためにも必要なのは口コミで、そのためには良い武器をたくさん鍛え上げるしかない。

 

 

「‥‥何か、空気が変わったような気がするな」

 

「景色は変わらんが‥‥。何か感じるのかね、ヒデオ?」

 

「上手くは言えないけど、違う。ボス部屋へ繋がる道もこんな感じだったのか、アスナ?」

 

「‥‥いえ、確かに違うわ。ほんの少しだけど、違う。もしかしたら出てくるモンスターのレベルも違うかも。注意しましょう、もう暫く歩いた先は未探索エリアよ」

 

 

 暗く、不気味な雰囲気を漂わせていたボス部屋への道と比べて風景は変わっていない。さっきまで歩いて来た道のりと同じような見晴らしが広がっている。

 だがHiDeが感じた通り、次第に誰もが雰囲気、空気の違いに気がつき始めた。システムとして導入されているわけはなかろうが、何かが違うという感覚。緊張を促す空気が漂っているのだ。リズベットを含めたニシダ一家には初めての体験であるが、それは足を踏み入れたことがない迷宮区の最前線を攻略する時の感覚であった。

 

 

「‥‥まだ、奥に行かなきゃいけないのよね」

 

「リズ、無理はダメよ」

 

「アスナが言うことじゃないんじゃない? 噂、聞いてるわよ。最前線組にはバーサーカーとか呼ばれてるらしいじゃない」

 

「い、いくらなんでもそれほどじゃないわよっ!」

 

「‥‥かまかけたら当たった。どうしよう、やっぱりそんなカンジだったんだ。全然他人のこと言えないんじゃない」

 

「―――ッ! リズ!」

 

 

 きゃいきゃいと喧しい新たな友人を前に声を上げ、すぐさま溜息にとって変わる。確かに四六時中フィールドや迷宮区に赴いて狩をしてはいるが、狂戦士と呼ばれる程ではないだろうと。

 勿論アスナ本人は知り得ないことだが、最前線を戦う美少女剣士が噂にならないわけがない。そして同じように、彼女の戦いっぷりも、

 残念ながら本人がどう思っていようが、あるいはリズの言葉がかまかけだったとしても、実のところ容姿はともかく戦う姿への形容は大体そんなものだったりした。

 

 

「まぁまぁ二人とも、アスナさんにまで手伝ってもらって引き返すというわけにもいかんでしょう。今日は四人もおるんだし、窮地に陥っても退却するぐらいなら問題はないと思いますぞ」

 

「ニシダさん」

 

「せっかくですから進みましょう。未探索エリアだというのなら、実入りも多いはずですぞ。無論、危なくなったら即退散は心掛けて、ですがな」

 

 

 狭い坑道での取り回しが不便なのを学習したのか、昨日に比べれば幾分短めの槍を手に持ったニシダがかんらかんらと朗らかに笑う。主に互いに感情が先走り過ぎて喧嘩腰になることの多いHiDeとリズベットとの間でストッパーの役目を果たす老境の戦士は、不思議と大人に対する反抗心を抱かせない。

 偉ぶるわけでも軽んじるわけでもなく、包容力のある彼は若者ばかりのパーティーには得難い存在だった。残念ながら彼自身が若者との距離を測りかねるきらいがあるため、今のところは三人こっきりの小さなパーティーでしか本領を発揮できていないが。

 

 

「‥‥父さんの言う通りだ。ボクもここまで来て何もしないままに引き下がるのは趣味じゃないな」

 

「そう言うあんただって、いっつもそうやって突っ走り過ぎて危ない羽目になってるじゃない。少しはニシダさん見習ったら?」

 

「それこそリズには言われたくない」

 

「あたしは安全マージンしっかりとって戦ってるじゃない!」

 

「これでもかって渾身のフルスイング外したの、何回あった? 大ぶりホームラン狙いの脳筋打者がよく言うよ」

 

「一本足打法が時代遅れですってぇ?!」

 

「誰もそんなこと言ってないじゃないか!」

 

「これこれやめんか二人とも」

 

 

 今にも肩に担いだメイスを振り下ろしそうなリズベットと、そのメイスが動いた瞬間に蹴りを喰らわしそうなHiDeとの仲裁に入り、ニシダはキツメの視線で息子を睨みつける。女性には優しく、という基本的には古風な家柄の仁志田家であった。

 アスナはそんな三人を見ながら冷や汗混じりの笑みを浮かべ、こんなに穏やかな道中があっただろうかと振り返る。攻略以外ではソロで、殆ど誰とも喋ることなく孤独に戦っていた彼女にとって初めての友人がリズベットであり、この道中こそが初めてのパーティープレイである。緊張と共に、不思議な暖かさを感じるのを禁じ得ない。

 初めての体験だが、悪くない。いや、むしろ心地よい。しかし―――

 

 

「みんな、気を引き締めて。‥‥来る!」

 

 

 細かい金属の粒が撒かれるような、輝鑠が煌めく音と共に生じる光の柱。

 青白い輝きは、地の底、死者の牢獄から亡霊が喚び出されるかのようだ。そして其処から歩み出て来るのは、人ならざる異形のヒトガタ。物言わぬ、魂も魄も亡くした死した兵士。

 

 

「スケルトンウォリアー‥‥ッ!」

 

「まずいわね、アレは刺突攻撃に耐性がある。ここはあたし達のお手並み拝見ってところかしら、アスナ?」

 

「‥‥無理はしないでよね、リズ」

 

「当然!」

 

 

 頭に錆びた兜を、胴にブリキの鎧を纏った白骨死体。手には刃毀れした直剣を持ち、骨だけだからか刺突攻撃に対する耐性を持つ。ゲームシステムの問題で、ダメージが通りにくい。

 この手のスケルトンタイプのモンスターはどの層にも少しずつ出没しているから、対策は既にはっきりしている。メイスやハンマーのような殴打武器か、あるいは斧や両手剣のような重量武器での攻撃が一番効果的だ。アスナが得意とする軽量武器の刺突剣は最も相性の悪い敵だった。

 

 

「ふむ、短いものを持ってきたとはいえ取り回しがやり辛いのう‥‥」

 

「‥‥今回はボクが前衛に出るよ。隙を見て流すから、スイッチしてリズが攻撃」

 

「危なそうだったら割ってはいるわよ、HiDe」

 

「甘く見ないで欲しいな。このぐらいなら余裕だよ」

 

「油断するんじゃあないぞ、ヒデオ!」

 

 

 洞穴を風が通り抜けるような恐ろしげな唸り声をあげ、スケルトンウォリアーは一行に迫る。既に二体三体と続けて湧いて出てきているが、この狭い坑道では多くとも一度に二体を相手にすれば事足りる。背後に控える父親達のフォローがあれば、囲まれる心配もない。

 腰の後ろに引っ提げた無骨な曲刀を素早く引き抜くと、迫る白骨の兵士に呼応するかのようにHiDeも勢いよく駆け出した。

 

 

「いくぞ!」

 

「―――ッ!!」

 

 

 フッ、と短く吐息をつくと、振り下ろされる毀剣に合わせて逆手に持った曲刀で弧を描く。二つの刃がかち合う瞬間。体を裁けば、スケルトンは勢いをそのままに刃を大地に埋め、無防備にも頭部を曝け出すことになる。

 飛び出したHiDeの後ろにぴったりと付いてメイスを振りかぶった、リズベットの目の前へと。

 

 

「いっけぇぇぇええ!!!」

 

 

 重力も味方につけた渾身のフルスイングが見事にスケルトンの被った粗末な兜を直撃、大きくHPゲージを減らす。だが、勿論それだけでは終われない。SAOの戦闘はフルダイブを最も効果的に発揮するため、ターン制ではないのだから。

 

 

「まだまだぁ! 吹き‥‥飛べぇッ!」

 

 

 振り下ろした勢いを体の回転で殺し、HiDeと同じく足を捌いて大きく反転。まるで野球選手のような綺麗なフォームをとると、両手で構えたメイスが再び唸りを上げた。

 戦鎚を得物とするリズベット自らをして最も強力と言わしめる攻撃は、このスラッガーもかくやという完成されたフォームから繰り出すフルスイングだ。HiDeも茶化していたように外すことも多いが、当たれば比類なき破壊力を発揮する。

 最初の大きく振りかぶったぶちかましで受けた衝撃に下がった頭蓋を元に戻そうと、踏ん張ったスケルトンウォリアーは絶好のベストポジション。言わばストライクゾーンのど真ん中に来たラッキーボール。

 トラックでも迫ってくるのかという程に大気を裂いてスピードに乗ったメイスの一撃を受け、たまらずもんどり打って吹き飛ぶ白骨を、さらにリズベットの背後に陣取っていたニシダが追撃する。

 

 

「トドメだわい! ちょりゃあぁぁああ!!」

 

 

 吹き飛び、地面に伏してしまうのを待たない速攻。パーティープレイではコンボとも呼ばれる反撃を許さぬ複数人による連続攻撃。ひゅおん、と空恐ろしい音を立ててしなった槍の穂先が、瞬く間に三度の刺突でスケルトンを上空へと打ち上げる。

 槍スキルの中でも敏捷値と武器の重さで使えるかどうかが決まる特殊な技、〈バーチカルフラッシュ〉。本来ならば巨躯のモンスターの前面にある急所を隈なく撃ち抜くための技だが、軽いモンスターが相手なら効果はこの通り。

 哀れ、骨身の兵士は再び大地に足をつけることなく空中で硬直し、無数のポリゴン片となって四散した。

 

 

「ま、軽くこんなものよね! 残りもバシッと片付けるわよッ!」

 

「さぁ行くぞいヒデオ! スイッチ!」

 

「ちょ、ニシダさん待って! 経験値欲しいから、あたしの分も残しておいて下さいよっ?!」

 

「おお、なるほど。ではトドメは任せましたぞリズベットさん! はぁいやぁッ!!」

 

 

 早くも二体目と三体目を同時に受け持ち、舞うように拳や蹴りを混ぜて攻撃をいなしていたHiDeの元へ駆けつけるニシダに続いて、メイスを肩に担ぎ直したリズベットも走り出す。そんな三人を見て、先ほど感じた暖かさとは違う衝撃を覚えたアスナは半ば呆然としていた。

 おそろしく見事なコンボだった。ここまで息の合ったパーティーは攻略組にもいないだろう。いや、そもそもコンボという概念自体が決して一般的なものではない。

 モンスターの反撃を許さぬ連続攻撃といえば簡単に聞こえる。しかしタイミングは非常にシビアだ。早過ぎれば味方が振り回した武具に引っかかってしまうし、遅ければ今度はモンスターがダメージを受けた後の、ごくごく僅かに生じる無敵時間に被ってしまう。

 そしてその無敵時間を過ぎれば、コンボとは言わない。ガイドに記載されているわけではないから確かな情報ではないが、コンボにはダメージボーナスがあるのではないかという調べはついていた。ならばコンボの判定が終わってしまえば、それは単なる連続攻撃で、手強いモンスターならば反撃に移ってしまうのだ。

 ただでさえノックバック効果のある強力な殴打武器の一撃に合わせて、機械よりも正確なのではないかと疑うタイミングの突進と、針の糸を縫うかのような初撃。ニシダもさるものだが、追撃を予想して僅かな入り身で隙間を作ったリズベットも同じくらいに凄い。

 単純に個々のステータスならば最前線を戦い抜くプレイヤーには劣ろうが、チームプレイとして纏ってここまで強いパーティが最前線にいるだろうか。今までずっと最前線で戦ってきたアスナも見たことがない。

 

 

「最後の一体! ニシダさん! ヒデ!」

 

「だからボクはヒデじゃなくてHiDeだって言ってるだろッ! だあらっしゃあ!」

 

「ちぇりゃあッ!」

 

 

 空恐ろしくなる当て勘で、再びフルスイングを命中させたリズベットが叫び、それにHiDeとニシダが応える。

 アバターの持つ柔軟性を発揮して地面すれすれまで身を屈めたニシダが振るった槍と、宙高く飛び上がったHiDeの足刀が、それぞれスケルトンの急所である足と頭蓋を斬り裂き、穿った。

 

 

「一丁あがり、かしら? どんなもんよ!」

 

「‥‥そうやって調子に乗るクセ、どうかした方がいいと思う」

 

「なぁんですって?!」

 

 

 最前線よりは下層とはいえ、湧くモンスターは十分に手強い。しかし小手調べとばかりに三体出現したスケルトンウォリアーは、驚く程スムーズに片付けられてしまった。

 先ほども称したように、一人一人のステータスならば多少ならず時間はかかったことだろう。個々の力量自体は最前線組に比べると劣る。だが、チームプレイの鮮やかさは目を見張るものがあった。見事の一言に尽きる。

 あっけらかんと笑うリズベットも、呆れたように皮肉を零すHiDeも、穏やかに二人を見守るニシダも、まるで本物の家族で、歴戦の戦士。既に数ヶ月を経過したSAOというデスゲームの中でも自然体で毎日を生きているようだ。

 必死に、がむしゃらに戦い続けていた自分とはスタンスからしてまるで違う。思わず、鞘を握る手にも力が入った。それは羨ましさでもあり、妬ましさでもあったかもしれない。けれど、決して負の気配は纏っていなかった。どこはかとなく、清々しい。

 

 

 

「ねぇどうだったアスナ? 一緒に戦うのに不足はないかしら?」

 

「‥‥十分よ。三人パーティーだったら、今すぐにでも最前線に行けるわ」

 

「ホント?! やったぁ! ねぇヒデ、たまには最前線に鉱石探しに行ってみるべきかしら?」

 

「危険なのはイヤだよボクは。あと、ヒデじゃなくてHiDeだから」

 

「うむ、まぁ怖気付いて悪いことではないよ。ワタシも最前線は流石に尻込みするからのう」

 

「冗談よ冗談、本気にとらないでよ」

 

「キミはフラッと出かけて行きかねないからな」

 

「‥‥人のことをなんだと思ってるのよ」

 

 

 よし、と気合を入れて歩き出す。暖かさ、居心地のよさに肩の力も抜けるが、同じくらい手足に喝が入ったような気もした。体が、いや、心が軽い。こんなに楽しい気持ちで迷宮区を歩くのは初めてかもしれない。

 でも最前線を戦ってきた自分はちっぽけながらも矜恃はある。今までソロで攻略を進めてきて、危険なことも多々あったし、危機に対する勘も磨かれてきた。ならばこの気持ちのいい家族の手助けにもなれるはずだ。

 

 

「まだまだリズが満足する鉱石が手に入りそうにないわね。採掘ポイントも見当たらないし、もっと奥まで進みましょう」

 

「アスナ、スケルトンが多いみたいだからあたし達が前衛に‥‥」

 

「大丈夫よリズ。これでも最前線組だもの、少し相性が悪いくらいなら問題ないわ。今度は私の実力も見せてあげないと、ねッ!」

 

 

 インターバルを挟み、少し遠くに湧いて出てきた新たなスケルトンに向かって走り出す。一歩一歩が信じられないくらいに速い踏み込みに背後で息を呑む音が聞こえた気がしたが、今は目の前の敵に集中する。

 むきになったつもりはない。傲慢であるつもりもない。ただ自分の力をあるがままに見せる、ただそれだけのために。

 

 

「やあぁぁぁぁああ!!」

 

 

 突進の速度と重みを利用しての、刺突。正確無比に鎧の隙間、露出している背骨を貫き通す。

 相手を押し戻す、吹き飛ばすノックバックに大事な要素は武器の重量以外にも、速さや攻撃箇所も影響する。現段階ではプレイヤー最速とも謳われるアスナの閃光と見紛う一撃は、速度に加えてシステム的な急所であるスケルトンの体幹を真っ直ぐに捉えていた。

 

 

「おお! 速い!」

 

「これが、最前線組の実力‥‥!」

 

 

 目にも留まらぬ圧倒的な速度。最初に貫いたスケルトンが押し戻されている間に、隣に湧いた二体目の敵へ素早く二連突き。そして一旦バックステップで距離をとり、続けて立ち直った一体目にも腰を据えた四連撃を叩き込む。

 一撃一撃が鋭い。そしてモンスターの急所を正確に、素早く貫くことで攻撃の軽さを補っているのだ。明確なシステムの説明が少ないSAOにおいて、勘とセンスと経験で磨いた攻撃は、あっという間に相性の悪いはずのスケルトン二体を葬っていた。

 

 

「ざっとこんなものね。‥‥どうかしら?」

 

「どうって、凄いよアスナ! 全然見えなかった‥‥!」

 

「流石はアスナさん、素晴らしいの一言ですわい!」

 

「たまげた、まさかこれ程とはね」

 

 

 悪戯めいた笑顔を浮かべた友人に興奮するリズベットと、ぽかんと呆けるHiDeに拍手を送るニシダ。攻略が進んでいるのはまだ下層とはいえ、まさに圧倒的な実力だった。自分たちなら最前線でもやっていけるのでは、と少しでも考えてしまったのが恥ずかしいぐらいに。

 ソロとして戦ってきたが故の、刹那の見切りによる位置取り一つとってもレベルが違う。自分達は猪突猛進、一気呵成に攻め続ける戦い方だが、アスナは攻めては退き攻めては退きと緩急付けながらも苛烈な戦法。かなり洗練されている。比べることすらおこがましい。

 先ほどアスナはチームプレイにおいてニシダ一家を一流と称したが、戦術全体に関して言うならばやはりアスナの方が一枚か二枚は上手であった。

 

 

「これなら安全に奥まで進めそうだわい。まぁ勿論‥‥」

 

「安全第一、危険と感じたら即退散」

 

「分かっとるじゃあないか。無理は禁物だぞ、ヒデオ」

 

「だから、分かってるってば。ホント父さんは心配性だ‥‥なッ!」

 

 

 血のりがつくわけでもないが、気分として血振りをしてから細剣を鞘に収めたアスナを先頭に坑道を進む。スケルトンの持つ刺突武器への耐性云々が杞憂と分かった以上は、最前線や未探索エリアの攻略に長けたアスナが先頭で警戒した方が効率が良かった。

 もっともいざ戦闘となればニシダ親子が真っ先に飛び出し、逐次アスナの指示で動くことになる。ニシダ一家のチームワークを乱すためアスナも漠然とした指示しか飛ばせないが、実に安定していた。アスナがこの三人のチームワークに馴れ、自身も混ざれるようになれば恐ろしい突破力と安定感を得ることだろう。

 攻撃と移動のスピードはアスナに劣るが、非常に小回りが効き、体術も織り交ぜた曲芸紛いの動きでモンスターの間を飛び回るHiDe。広範囲を薙ぎ払えるニシダ。一撃の威力が大きく、当て勘に優れるリズベット。そして一行では最もプレイヤースキルに於いて優れるアスナ。

 実際、倍を超える十体のモンスターが出現しても傷一つなく立ち回ることが出来ていた。多くのプレイヤーが慎重を心がけるあまりに足をとめ、堅実に立ち回ろうとしている反面、この四人はどこまでもアグレッシブだ。結果、恐ろしいまでの殲滅スピードと驚きのノーダメージを達成出来ているのは、普通なら危なっかしくて仕方がない戦闘方法が何故か安定してしまっているが故である。

 

 

「‥‥どうかね、リズベットさんや?」

 

「うーん、微妙ですね。だんだん良い素材が出るようになってるけど、まだまだ。一度潜ったんだから、せめてもうちょっとランクの高い鉱石が欲しいところです」

 

「結構良い鉱石出てるとは思うけど、やっぱり違うもの? ボクはもう十分じゃないかとも思うけどな」

 

「鉱石自体のランクは高くなってるけど、実際鍛冶に使うとなると上のランクの武具が鍛えられるランク帯みたいなのがあるのよ。この鉱石はさsきのよりも良いものだけど、鍛えられる武器のランクはさっきと同じ。これじゃあ意味がないのよね」

 

「‥‥職人プレイヤーのスキル感覚は、よく分からないな」

 

「そりゃあね、こっちも明確に数値化されてない要素が多すぎて困っちゃってんだから、素人にホイホイ分かってもらっちゃ困るわよ。ほら、あたしが借りてる工房のメモの数は見たでしょ? 全部ああやって一つ一つ調べていかないといけないんだから、職人系プレイヤーが少ないわけよ」

 

 

 基本的にこのSAOでは、説明書というものが非常に少ない。いや、殆どないと言ってもいい。基本的な情報はプレイ前に入手しておくが、それ以上となると攻略サイトもない以上は伝聞情報や自身の経験から法則やリストをまとめなければならない。

 コアなゲーマーならばむしろ大歓喜の玄人向けシステムだが、生き抜くことが第一であるこの世界では二の足を踏むプレイヤーが多かった。最近では色々なものが安定してきたからか裁縫スキルや鍛冶スキル、料理スキルなどの代表的な生産系スキル以外にも手を出すプレイヤーが増えては来たが、依然として数は少ない。

 情報交換なども限られているからか、厳しい生活を強いられていた。もっとも、それに喜びを見いだすタイプの変人もそれなり以上にいたのだが。

 

 

「もう一ランク上の鉱石が必要となると‥‥。リズの言うとおり、もう少し奥まで行かなきゃいけないわね」

 

「‥‥まぁ回復ポーションも十分持ってきてるし、退却の余力を残しさえすれば問題はないか。もう結構深く潜ってしまってるが」

 

「時間はそこまで経ってはおらんよ。吃驚するぐらいスムーズにここまで来られたからの。モンスターはそれなり以上に湧いとったはずなんだが」

 

「まぁアスナの指揮が的確だったし、そもそもあたし達、なんだかんだ猪突猛進な戦い方してるしねぇ‥‥」

 

「あぁ、うん、それはなんとなく分かるわ‥‥」

 

 

 採掘ポイントから鉱石を掘り尽くし、アイテムが出てこなくなったのでツルハシをアイテムストレージへと仕舞う。このアイテム、以外にストレージの容量を圧迫するので、鉱石と相まって荷物の重さが中々に難しい道中だ。なにせ、個人が持てるアイテムの容量は限られている。

 入り口近辺の採掘ポイントで採取した、所謂クズ鉱石は既に捨ててしまっているので問題ないが、予備のマトックも詰め込んでいるのでアイテムストレージの圧迫具合は半端ではない。壊れてしまったマトックもあるが、鉱石が増えるので結局は問題なことには変わりない。余分な鉱石をここで捨ててしまうのもいいが、後で掘り当てた鉱石が今持っているものより低いランクだということも考えられるから判断は難しいところだった。

 

 

「‥‥マトックの方が先になくなるんじゃないか?」

 

「うーん‥‥」

 

 

 奥の方に進めば、採掘ポイントは入り口近辺に比べると多く感じる。分かれ道や窪みが増え、採掘ポイント一つあたりの採掘量は少なくなるが種類は豊富になってきた。しかしリズベットのお気に召す鉱石は出てこない。正確に言えば出るといえば出るだが、今ひとつというか、満足するものではなかった。

 というか最初こそ良かったが、だんだん採掘ポイントが少なくなってきている気がする。今マトックを振り下ろした亀裂など、鉄に似た鉱石の原石が二つ出たら反応がなくなってしまった。何かがおかしい。

 

 

「なぁリズ、もしかしたらこれ以上奥に行っても鉱石は出ないんじゃないか? もう三つ四つぐらいこんな有様じゃないか。こんなの絶対おかしいよ」

 

「確かに、普通の採掘ポイントならクズ鉱石入れても四つぐらいは出るものね。いくら確率にも左右されるからって、こんなに採掘量が少ないのはおかしいわ。‥‥もしかしたら、何かイベントとか、フラグがある?」

 

「ふむ、そう考えるのが妥当かもしれんのう。しかしそうだとすると少々厄介ではないかね? フラグ‥‥条件だったか、それを満たすには情報が足りんし、イベントだとしたら謎解きか戦闘か‥‥。どちらにしても、今まで以上に注意をせんと」

 

 

 右手を宙に走らせ、情報屋から入手出来た数少ないマップ情報を調べる。もちろん未探索エリアであるから、情報はまったくといっていい程に存在しない。ところどころ埋めてあるのは先ほど自分たちで入手したアイテムなどの情報で、これはあとでアスナが馴染みの情報屋で売って来てくれるという。

 何かのイベント、あるいはフラグが必要だというのなら、それは前情報抜きに探索できるものではない。この坑道の何処かで満たさなければいけないフラグだったとしたら今までの道中で隈なく見て回った中で何か発見出来たはずだし、もし別の場所でイベント発生条件を満たさなければいけなかったというなら完全にお手上げだ。

 過去には特定のアイテムを持っていないと、特定のNPCと発生条件になる会話をしていないと入ることすら出来ないエリアもあった。また特定のモンスターを倒してドロップアイテムをアイテムストレージの中に保有していないと発生しないイベントもあるという。SAOのイベントの発生条件は数えきれないほど多岐に渡り、何をどうすればいいか、という情報すらないのは厳しい。

 

 

「‥‥まぁ、進むか」

 

「そうね。一応転移結晶も人数分なら持ってるわ。ここまで来て帰るのもアレだし、情報を集めるにしても先ずは投げて打ってみないと分かんないもの」

 

「キミも大概脳筋だよな。ボクはまぁ、別に構わないけどさ」

 

 

 既にここまで来るだけでもかなりの時間がかかっている。慎重なのは大事だが、ニシダ一家における慎重とは情報のない場所に突っ込むか否かではなく、ライフと手持ちアイテムの多少で判断する程度のものでしかなかった。いや、当人達は真面目に慎重を心掛けているつもりなのだが、結局は話し合いが話し合いの体を成していないのが殆どである。

 今も油断せずに、慎重を期してという言葉こそ使ってはいるが、結局のところ危険を確認しただけで常に結論は全力前進、ガンガンいこうぜ。アイテムが尽きる前に撤退、という程度の話し合いなら最初からしない方がマシなのだが、もちろんニシダ一家とのパーティはこれが初めてのアスナの知るところではない。

 

 だが、道のりとしてはかなりの距離を進んできた。この先が単純に行き止まりという結末もあり得るが、アスナ曰くボス部屋へのルートに比べても難易度が高めに感じることから、無意味な道である可能性は低い。

 何かのイベントがあるフロアーが待ち構えていることは間違いないだろう。そしてその難易度は間違いなく今までの道のりに比例して高い。気合も入る。新たな鉱石、アイテムへの期待も高まる。言葉に出さないままに、ニシダ一家の心中は一致していた。

 新たなイベント、新たなアイテム。そして新たな出会い。

 実は予想もしていないシステム外の出会い(イベント)が待ち構えていることを、誰もが知らないままに奥へと進んでいくのであった。

 

 

 

 

 




次話にて漸く新キャラ登場となります。頑張って執筆していきますので、応援感想ご指摘など宜しくお願い致します!!
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