ラスボスキャラに転生したので原作以上に覇道を進む事にした   作:城之内

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第23話

 

 ハーズの街は、異様な熱気に包まれていた。

 

 民衆が声高に訴えるのは、子爵に対して溜まりにたまった憎悪の念。

 この雰囲気の中、呑気に眠っていられるほどユリフィスは鈍感ではなかった。

 

 奇しくも両手に花の状態――フリーシアとマリーベルに心配げに肩を支えられながら、ユリフィスは宿の一室に備わっているバルコニーに出て眼下に見える街の様子を見つめた。

 

 至るところで民衆が列を成して叫んでいる。

 

『――解放の英雄に続け! 今こそ子爵の支配から解放される時だ!』

 

『傲慢で愚かな変態貴族に鉄槌を!』

 

 反逆する意思を固めた領民たちの姿にユリフィスは眼を細めた。

 

 貴族と平民の力の差を考えれば貴族側が弾圧する事など容易い。ただそれは本来ならばの話。

 

 今は子爵を守る騎士達や一族の者達が軒並み動けない。今ならば子爵を討てると確信したのだろう。

 

「……俺が寝ていた間、色々と事態が動いたようだな……」

 

 欠伸を噛み殺しながらのユリフィスの独り言に、背後に控える隻眼の老騎士ガーランドが答えた。

 

「我々が囚われていた娘たちを保護している間も、街の中の様子は異様だった。公爵家の家紋が描かれた鎧を身に纏う我々にも襲い掛かってきそうな程。それだけ子爵の館を強襲した二人組の存在に勇気を得たのか。または子爵に、ひいては貴族に対する不満が大きくなっていたのか」

 

 ガーランドの言葉の途中、縄でぐるぐる巻きにされながら部屋の隅に座っているブラストが口を開いた。

 

「……ちッ、あのクソ貴族は俺の手でぶち殺したかったんだがな」

 

「……ちょっと待て。誰もツッコまないから俺が言うが、何だその恰好は」

 

 ブラストは神妙な顔で口を開いたが、生憎と格好がついていない。

 彼の隣に立つ赤髪ポニーテールの美少女が呆れたように頭を振った。

 

「……コイツ、眠ってるユリフィス様を見て仇を討つんだってすぐベリル子爵の元へ行こうとしてたので縛っておきました」

 

「……仇って。俺は死んでいないが」

 

「……言葉の綾だ、お前が傷を負った責任取ろうとしただけだ」

 

 肩をすくめてユリフィスが告げると、口をへの字に曲げてそっぽを向くブラストの姿に内心苦笑する。

 

(……この傷を受けた甲斐があったな)

 

 彼に一生分の恩を売った事の方が大切である。

 身を挺して大切な人を庇った。

 

 そのおかげで彼の中で、自らに対する忠誠心が芽生える土台を作り上げた。

 ()()()()忠誠心が大事なのだ。

 

「……それはそうと、本当にありがとうございます。聞けば、わざわざあたしを救うためにこの街に来て、コイツに力を貸してくれただなんて。言葉では言い表せません」

 

「気にするな」

 

 ブラストの恋人だというレイサから心底申し訳なさそうに礼を言われ、ユリフィスは首を振った。

 

「ふふ、すっかりヒーローだね、ユリフィス。この街の領主に捕まってた女の人たちも口々にお礼を言ってたよ。とっても怪しいけどめちゃくちゃ強い黒衣の騎士様に救われたんだって」

 

 そうマリーベルがユリフィスが襲撃時に被っていた仮面をひらひらと振って、からかうような笑みと共に讃えてくる。

 

「……ヒーローか」

 

 思わず微妙な表情になる。

 

 ユリフィスとしてはラスボスである自分がそう呼ばれる事に戸惑いを隠せない。

 元々、ブラストを配下に加えるためだけに行った救出劇である。

 

 囚われていた娘たちを解放したのは、ただの成り行きでしかない。

 

「……な、何でしょう。貴方様が皆から感謝されるのは、何だか自分の事のように嬉しいです……」

 

 隣で身体を支えてくれるフリーシアが胸に片手を添えてはにかんだ。

 

(もう勘弁してくれ……)

 

 何となく良い奴だと見られるのが後ろめたいユリフィスは、首の裏をかきながら話題を反らした。

 

「……それはそうと、これからどうするかが問題だ」

 

 隣で同じように街の様子を眺めるフリーシアが口を開いた。

 

「……できればですが……子爵には罪を償っていただきたいと思っております。ただ、そのためにこの流れを無理に止めようとは思えません……」

 

「いんがおーほーってやつだもんね」

 

「そうだな。だが……」

 

 ユリフィスは子爵が死ぬ前に、彼に対してどうしても尋ねたい事があった。

 何故教会の騎士が子爵に協力していたのか。

 

 子爵側は教会勢力から武力を貸りていた。それは良い。

 では教会側は子爵から何を得たのか。

 

 金銭だけでこんな愚かな行いに手を貸すだろうか。

 

 加えて、あのジゼルという名の騎士。

 

 固有魔法でどんな未来を視たのかは分からない。だが、レイサが狙いである事は少なくとも分かっていたはず。

 

 だったらユリフィスに対しても、彼女を人質にとって降伏を促せば良かっただろう。何故ベリル子爵家の戦力をユリフィスに削らせるような配置を取らせたのか。

 

(……いや、そもそもだ)

 

 こうなった以上、普通に考えて彼は子爵を見限り逃走する可能性が高い。

 

 しかし絶対に逃がす事だけはできないのだ。

 半魔を嫌う教会勢力はユリフィスにとって紛れもない敵だ。

 

 それだけではなく、原作で教会はフリーシアの死の原因にもなる。

 

 何よりも、ジゼルにはまだ役割が残っている。

 

 ユリフィスはそっとブラストに目配せをする。

 すると、当然のように彼は頷きを返した。

 

「……ユリフィス。お前はその怪我だ。手を出さなくていいが、俺は少し行きたいところがあんだが?」

 

 縄で縛られた状態ながら、その眼光は鋭い。

 やはり彼自身、あの教会の騎士に思うところがあるはずだ。

 

 けりをつけたいのだろう。

 

「……どこへ行くのも自由だ。好きにすればいい。だがその前に、俺の魔法をお前にかけさせてくれ」

 

 鬼化すればブラストにも十分勝ち目はあるが、万全を期すために少し力を貸す必要があるだろう。

 

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