ラスボスキャラに転生したので原作以上に覇道を進む事にした   作:城之内

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第25話

 

 身体の調子はかつてないほど良かった。

 

 生まれ変わった気分である。全能感に酔いしれそうになるが、理性で己を律する。

 

 新たな力を試すため、何より昨夜恋人の命を危険に晒された事に静かに怒っているブラストは、因縁ある相手の姿を探しに街に繰り出した。

 

 てっきりまだ子爵の側にいると思い、彼に仕える騎士の何人かを締め上げた所、既にこの場を離れたという。

 

 ハーズの街はもはや暴動やデモを通り越して反乱の形相だ。だとしたらもう街を離れたかと焦ったが、ブラストは安堵した。

 

 領主の館に程近い神正教の教会。

 

 ゴシック様式のとげとげした外観は驚くほど高く聳え、領主の館にすら勝る。中はいうと荘厳さと神聖さが溢れた造りとなっている。

 

 天井付近にある鮮やかなステンドグラスから日の光が差し込んで、祈りに来た者をいつでも暖かく迎える。

 

 ブラストはその天井付近にあるガラスに飛び乗り、中の様子を覗いた。

 

 祭壇にて、神官服に身を包んだ騎士が一人佇んでいる。

 

 見る限りではジゼル以外に人間の姿はない。だが耳を澄ませると誰かと会話しているようだった。

 

 祭壇の中央に置かれた台座に、大きな水晶玉が置かれており、それから老人の声が響いていた。

 

『……今回の件、ご苦労だったな。ジゼル』

 

 外では既にこの街を治める領主の館に多くの人間が詰めかけ、怒号の嵐が聞こえてくる。

 

 そんな物騒な気配とは裏腹に教会内は静かである。

 

「簡単でした、と言えれば良かったんですが。予想外の事もありました。昨夜子爵の屋敷を襲撃してきた二人組が最たる例です」

 

『だが、そんなイレギュラーをもお前は見事に利用した』

 

 未来を視れるジゼルは、彼らに子爵側の戦力を削らせて、結果として民衆の反旗を促しこの状況を整えた。

 

「……あとは平民の誰かが直接子爵を殺せば、偉業が世界に認められて我らが神から固有魔法を手にする事ができます」

 

『そうなれば新たな【世界を正す者達(スティグマ)】の候補者となる』

 

 既にハーズの街しかり、帝国内では国教となる程の勢いで【神正教】の普及が進んでいる。

 

 領民の大多数が信徒なので、誰が殺しても信者が固有魔法を得る可能性が高い。

 だから教会側としても今回の件をやってみる価値はあった。

 

『ここまで来たらこの実験は成功も同然だ。ジゼルよ、一度本部へ帰還しろ』

 

 だがその上司の命令にジゼルは首を横に振った。

 ユリフィスやブラストが教会の騎士を逃すつもりはないのと同じく。

 

 この教会の騎士にとっても、半魔を生かし続ける事は自らの信念に反するようだ。

 

「……申し訳ありませんが、僕はまだこの地でやる事があります」

 

『……何だと?』

 

「仕留めそこなった獲物がいるんです。生かしておけば必ず我々の害になる化け物です」

 

 ジゼルはかつて、家族を魔物に皆殺しにされている。

 

 その魔物と人が交わり、生まれるのが半魔。

 生きている価値がない者共。

 

 ジゼルにとって唯一の計算外は、そんな二人の半魔を逃してしまった事である。

 一人は正体不明で、凄まじく強かった。

 

 真正面から戦ったら、未来視をしたところで素の身体能力に差がありすぎて負けていた。

 

 もう一人は大鬼の半魔だ。

 

 彼もまた、どういうわけか以前とは違うだろう。

 

 自らの固有魔法をもってしても、仕留められるかは分からない強者達。

 ジゼルの固有魔法<未来視認(フォアサイト)>は二つの能力に分けられる。

 

 命の危機が訪れる未来が近付くと、魔力の半分を消費して自動的に発動する【危機予知】。

 そして数秒先の未来を能動的に視る【予知眼】。

 

 先ほど【危機予知】が発動した。その未来はジゼルにとって忌々しいものだった。

 

(だけど、僕の行動次第で未来は変えられる)

 

 先の子爵邸を襲撃してきた二人組。その片方であるユリフィスに本来ジゼルは殺されるはずだった。

 

 しかし、策を弄してその未来を回避した。だから今も生きている。

 

 つまり、視た未来はいくらでも自分の行動で変える事ができる。

 今までだって、何度もそうだった。

 

 劣勢を優勢に変え勝利してきた。どんな魔物に対しても。

 

 あの半魔を捕らえ、もう一人の居場所を吐かせて殺すまで帰る事はできない。

 特にもう一人の方は、今回の機を逃したらどれほど恐ろしい事になるか。

 

『……いいだろう。多少の勝手は許そう。だが、アレは寂しがっていたぞ。まだ帰ってこないのかとな』

 

「……」

 

 ジゼルは無言で、教会の【正導院】という戦いの教育をされる場所で出会った同じ境遇の少女を思い出した。

 自分を兄と慕う、その存在を。

 

 家族を失ったジゼルにとって、彼女は当然本物の家族の代わりにはなれない。

 

 だから慕われていても、思い返すと冷たく当たる事も多かった。

 だが、どうしてか彼女の顔が脳裏に浮かんだ。

 

 帰ったら、もう少し優しく接してあげてもいいかもしれない。

 

 水晶玉の明滅が止まり、声も聞こえなくなる。

 

 上司からの許可を得て、ジゼルは背負った十字剣の柄を握る。

 それと同時に、ステンドグラスを割りながら角が生えた灰色髪の青年が降りてきた。

 

 辺りの床に割れたガラスが散乱する音が甲高く響く。

 

「……親しい奴との別れは済ませたか?」

 

 冷たい声で、ブラストは教会の騎士を睨んだ。

 

「今のは上司だ。生憎と僕に家族はいない。お前たちに殺されたんだ」

 

 同じような声音で返しながら、ジゼルは半魔の青年に剣先を向けた。

 

「……どういう意味だそりゃあ」

 

「僕は十歳の時、魔物に家族を皆殺しにされた」

 

「俺はやってねえ」

 

「……知ってるさ。復讐は既に済んでいる」

 

「……だったら筋違いってもんだ」

 

「いや、まだ仇は生きている。魔物という存在は、この世界からなくならない」

 

「俺は……俺たちは魔物じゃねえッ」

 

「いいや、魔物だ。その紅い眼が何よりの証拠だよ」

 

 ブラストは歯を剥いて獣のように唸った。

 

「……馬鹿がッ」

 

「馬鹿は君だ。勝てない相手に勝負を挑むなんて、まさに理性のない化け物の行動だ」

 

「……以前の俺とはちげえと早く気付くんだな。じゃないとすぐ終わっちまうぞ?」

 

 ブラストの身体が変化していく。

 

 角はより長くなり、牙が発達して肌が赤く染まっていく。

 【鬼化】の発動。

 

 最初から本気になった相手に対して、ジゼルも応えるように瞳を蒼く輝かせた。

 

 数秒先の未来を視る。

 

 そしてどちらからともなく走り出す。

 相容れない二人は、教会の中で静かに激突した。

 

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