ラスボスキャラに転生したので原作以上に覇道を進む事にした   作:城之内

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第7話 

 

 時間が経つにつれて後悔だけが募っていく。

 

 マリーベルは絶望に打ちひしがれていた。

 

 孤児院の玄関で変な匂いがする布を嗅がされた後、馬車に連れ込まれてから記憶がなかった。

 

 ただ気がつくと、両手両足を椅子に縛り付けられ、座ったまま身動きが取れない状態でいたのだ。

 

(人攫いだったんだ……)

 

 警戒せずに扉を開けてしまった事が最大の過ちだった。

 

 貧民街にある闇組織は、そういった事を平然としているのをマリーベルは知っていた。人攫いなどこの世界では別に珍しくもなく、日常茶飯事で起こるのだ。

 

 ハーフの奴隷は物好きな貴族に高く売れるらしいと、最近世話になった『不死狗』の連中が言っていた事を思い出す。

 

 黒い布によって視界さえも塞がれ、自由を奪われ、何をされるかと身体を震わせて待つマリーベルは、しかし孤児院の院長であるカーラがとても強い事を知っていた。

 

 幼い時からマリーベルは見目麗しく、結構な頻度で狙われる事が多かった。

 

 だが、その都度カーラに助けて貰っていたため、今回も大丈夫と彼女を信じる他に道はなかった。

 

「……何度も言っているだろう、これは彼女の為になるんだ。大丈夫だ、彼女の身も丁重に扱う」

 

「それは本当ですか? 信じてよろしいのですね? 本当に、本当に信頼して良いんですね?」

 

「……宰相、彼女は赤の他人なんだろう? 何故そこまで熱心に心配するんだ」

 

「愛する帝国民の一人が、外道の手で身体を汚されないとも限りませんので」

 

「……外道とは俺の事か? そもそも彼女はまだ子供だ。子供の身体に興味なんて――」

 

「彼女に魅力がないとでも言う気ですか?」

 

「……面倒くさいな、おい」

 

 扉の外から、誰か二人の言い争いの声が聞こえてきた。

 

 だが会話内容までは不明瞭で、よく聞き取れない。

 この場合、聞き取れなくて正解だったかもしれないが。

 

 しばらく話は続き、やがて一人の足音が扉の前から消えるのをマリーベルは鋭い五感で察知した。

 

 直後、誰かが扉を開けて部屋に入ってきた。

 

「――失礼する」

 

 マリーベルは身体を硬直させながらも、息を整わせて口を開いた。

 

「……誰なの」

 

「君の雇い主となる者だ」

 

 その第一声に、まずマリーベルは寒気を感じた。

 

 奴隷となるのだから、確かに彼は雇い主と言えるのかもしれない。

 だがその奴隷商人の声はまるで子供のように少し高く、不気味に映った。

 

「……あたしは……きっと高く売れないよっ、そ、素行が悪いし、礼儀とかも知らないもんっ。あ、あと結構大食いだから、しょ、食事代もいーっぱいかかっちゃう! それからそれから――」

 

「勘違いしているようだが、まず俺は奴隷商人ではない」

 

 そう言って誰かの気配が近づいてくる。

 

 身体を強張らせ、唇を噛み締めるマリーベルだったが、次の瞬間視界を塞いでいた布が取り払われて手足に結ばれていた紐も解けた。

 

 すぐに顔を上げると、そこには黒と白の頭髪を目元まで伸ばした、紅い瞳の美少年が立っていた。

 

「……半魔……」

 

 思わず印象的な瞳を見て呟くマリーベルだったが、その服装がとんでもなく上等である事に気付く。

 

「……確かに君の言う通り、俺は半分化け物の血を引いている」

 

 寂しげな表情を浮かべた彼と、帝都に住む人々から石をぶつけられて泣く孤児院にいる弟や妹たちの姿が重なる。

 

「あ、ち、違うよッ、今のは馬鹿にしたわけじゃないッ」

 

 慌てて否定するマリーベルの罪悪感を煽るように、彼は目を伏せた。

 

「……いや、構わない。差別されるのは慣れているんだ」

 

「……ち、違うの。あたしも気持ちは分かるし……ただ驚いて言っちゃっただけだから。他意はないの」

 

 マリーベルは人と違う事を理由に、誰かを蔑む行為が大嫌いだ。

 

 ハーフを侮蔑し、差別する帝国の人々。

 マリーベルが大嫌いな人たちと、自分が同じ存在だと見做されるのが嫌だった。

 

「そうか、分かるか」

 

 少年は、無表情ながらどこか満足そうに頷く。

 

「なら、こんな世の中ではさぞ暮らしにくさを感じているだろう?」

 

「……え? う、うん。それは……そうだね」

 

 確かにこの世界でハーフである自分が生きていくことは難しいと、マリーベルは子供ながら理解していた。

 

 恐らく死ぬまで貧民街での暮らしを余儀なくされると。

 

 別にそれはそれでマリーベルは構わないが、孤児院の妹や弟の将来の可能性すらも閉じられていると思うと暗い気持ちになる。

 

「まず君を手荒な真似をしてここへ連れてきた事を謝罪しよう。だが、これは必要な事だった。同じ虐げられる立場の俺が直接話をしなければ、君は聞く耳を持ってくれなかっただろうからだ」

 

 マリーベルは、確かに自分と近い立場の少年に対して警戒心を若干緩めている。

 それはこの場に彼しかいない事も理由の一つだ。

 

 もしマリーベルを攫った大柄な禿頭の男がいたら、彼女は年齢相応に泣き叫んでいただろう。

 

「俺はこの帝国の第三皇子、ユリフィス・ヴァンフレイム。夢はハーフや半魔といった者たちが差別を受けずに済む国を創る事だ」

 

「……っ」

 

 マリーベルは彼の身分が予想以上に上だった事の衝撃に加え、話のスケールが大きすぎて理解が追い付かず頭が真っ白になってしまった。

 

 だが信憑性はある。

 この部屋の内装の豪華さと彼の着ている衣服は、少年が高貴な立場である事を。

 

 そして彼の氷のように冷たい無表情とは裏腹な、瞳に宿る熱量の高さを見て本気で夢を追っているのだと。

 

 マリーベルはただ言葉を失う。

 そんな世界が実現可能かどうかなんて彼女には分からない。

 

 ただ目の前の少年は行動しているのだ。夢に向かって。

 

「そのために俺は協力者を集めている。有能だと評判の君には、是非その一人となって欲しいと思ったんだ」

 

 両手を広げて歓迎の色を見せる少年――ユリフィスの言葉に、マリーベルは僅かに興味を抱く。

 とは言え、孤児として生きた自分が必要とされる事に戸惑いを隠せない。

 

「あたしは……特別な力なんてないよ?」

 

「いや、君は素晴らしい鍛冶師のはずだ」

 

 ユリフィスは間髪入れず否定した。

 

「俺は知っている。君が『不死狗』という貧民街を根城にする闇組織に武器を提供している事を」

 

「……!」

 

 何で知っているのだと、マリーベルは驚きに目を見張った。

 それはカーラすらも朧げにしか知らないマリーベルの秘密である。

 

「その武器は今は貧民街を同じく根城にする別の闇組織に向けられているが、抗争が終わればどうだろうか。もしかしたらそれはハーフを捕まえるために使われたり、君がいた孤児院の者たちにも向けられるかもしれない」

 

「……大丈夫。あいつ等孤児院には関わらないって、それだけは約束してくれたの」

 

「彼らが律儀に約束や契約を守るとは思えないが」

 

「……でも、他にあたしのこの技術にお金を払ってくれる人なんていないの……孤児院を運営していけるだけのお金を手に入れるためには必要な事だったのっ」

 

「だから俺が君を雇う」

 

「……え?」

 

 ユリフィスにとって、彼女は絶対に手に入れておきたい理由があった。

 

「……普段は傍仕え、つまりはメイドとして俺に仕えて欲しい。必要な時は鍛冶師としての依頼を発注する」

 

「め、めいど?」

 

「ああ。まあ使用人……召使いみたいなものだ。勿論、三食付きで住み込み。更に給料も発生する」

 

「……」

 

 第三皇子の傍仕え。

 

 それはマリーベルが夢にまで見た真っ当な仕事だと言えるかもしれない。加えて衣食住が保証された仕事という事は、発生した収入をそのまま孤児院の仕送りにできるのだ。

 

「……発生した給料は何に使うかはマリーベル。君の自由だ」

 

 マリーベルの思考を見通すように、ユリフィスは言葉を続ける。

 

「君の才能を闇組織なんかに使われるのは勿体ない。どうだろう、悪い話ではないと思うが」

 

 一つだけ、マリーベルは彼に尋ねたい事があった。

 

「……それが本当なら、あたし凄く嬉しい。ただ一つだけ確認させて。ユリフィス……様が、孤児院にお金を寄付してくれてた貴族なの?」

 

「それは違う」

 

 ユリフィスは首を左右に振った。

 

「……孤児院に献金していた貴族は俺の協力者だ。彼も差別のない世界を創る事に賛同している」

 

「でも……そいつは普通の人族なんだよね?」

 

 その言葉に、ユリフィスは目を細めた。

 

 マリーベルは不意に孤児院の院長であるカーラに怒られる時を思い出す。

 

「種族全てを憎まない方がいい。人族にだって良い者と悪い者がいる。ハーフや半魔を差別しない者たちだっているんだ」

 

「……あたしは会った事ないよ」

 

「いいや、君は少なくとも一人、会った事があるはずだ」

 

「……っ」

 

 マリーベルは唇を噛んで俯いた。

 今まで見てきた中で育ての親、カーラは確かにハーフという存在に唯一嫌悪感を抱かなかった人族だ。

 

「嫌になったらいつでも孤児院に戻っていい。だが、君が生きていた世界の外にも世界は広がっているんだ。その道を自分から閉ざす必要はない」

 

 伸ばされた手をじっと見つめて、マリーベルは決断を下した。

 

 

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