千年戦争アイギスの世界に催眠術師として転生したので好き勝手したい!   作:天河 龍汰楼

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*エフトラ

王国軍は、実に個性的である。

妖怪はいるし、亜神はいるし、アンデッドはいるし、果てには魔物までいる。

懐の深すぎる王子のせいで、前世の九龍城もびっくりするほどに人種が積み重なっている。

そんな中でもなお、オンリーワンの個性を持っているのが目の前にいる。

 

「……ってわけだ、わかったか? エフトラ」

 

「なるほど。だからシビラと王子は仲がいいんですね」

 

抜けるように白い肌を、黒のぴっちりとしたスーツで覆っている少女の名はエフトラ。

古代文明で生まれた強化人間にして、世界を渡りながら超巨大生命体と戦い続けたという異色の経歴を持っている。

で、なんとか超巨大生命体をぶっ飛ばしたので、なりゆきで王国軍の仲間をやっている最中である。

この時点で属性過多なのだが、まだまだ序の口。

 

「ほかに質問はあるか?」

 

「では、先代の……」

 

わりとたわわなおっぱいに、クール系の顔立ちをしていながら、この世界の常識がとぼしい。

それは知識が少ないというだけでなく、経験も少ないのである。何もかも。

ぶっちゃけ、マジで子供のような扱いをしてしまうのは、仕方のないことであろう。

そんな扱いをしていたせいか、彼女から色々と知識をつけてくれと頼まれてしまったのは一生の不覚。あの王子、自分の教育係だったし適任だろうと押し付けてきやがった。

てめーの仕事だと突っ返せれば良かったのだが、ここ最近暇が増えてきているのも事実。

 

「この恋愛小説のこの描写についてなのですが……」

 

「あー、これはな。昔の演劇からのパロディでな……」

 

世間話を織り交ぜながらの子守を押し付けられても拒否できない、窓際の悲哀を押し殺して美少女との交流で心を癒やす。

なんか腹立ってきたし、ちょっとくらい催眠しても……バレへんか。

無防備に体を摺り寄せてくるエフトラからの甘い匂いが、俺の理性を崩そうと鼻先をくすぐる。

無知シチュにかこつけて、エッチな教育を施してやっても、きっと何とでもなる。

そうと決まれば、この新雪のごとく白い肌を丁寧に俺色に染めてやろうじゃないか……。

 

(……できるか? いや、無理だな)

 

残念ながら、二秒ほどの思考で俺の理性は無理やり帰宅させられた。

だって、エフトラ本人はワンチャンあるが、相棒のイムラウが無理すぎるもん。

いや、本人だって記憶操作のできる古代文明の遺産である、俺のちゃちな催眠術がどれくらい効くのかは実に怪しい。

 

「どうかしましたか?」

 

エフトラの青い瞳が不思議そうに丸まる。

何でもないよ、と微笑んで彼女の頭をなでる。

……こんなふうに無邪気に慕ってくれる人に催眠プレイしようとした自分に、ちょっとどころではない罪悪感を覚えてしまう。

俺は最低のクズです……。本当にすみませんでした。

 

***

 

もうちょっと、でしたね。

そう心の中で呟いて、頭の上に乗った彼の手のひらを堪能します。

心地よい温かさ、髪を乱さないようにと気遣いながらも、男らしいごつごつとした手。

異性、というものが近くに存在したことのなかった私にとって、新鮮なものです。

ですが、それだけならば、王子でも違いはありません。

 

彼は、私を忘れなかった。

ただそれだけのことが、私が彼に心を寄せるには十分でした。

催眠術により一度記憶を封印することで記憶操作をまぬがれ、その後自ら封印を解くことで記憶を保持する。

聞いた時にはなるほどと思ったものですが、同時に不思議な、言葉にできない感情が胸の中に渦巻きました。

 

『よくかんばったな、もう大丈夫だ。世界はキミの味方だから』

 

その感情の正体を知ったのは、彼からのそんな言葉がきっかけでした。

一緒に戦ってくれる。私を忘れずに、私とともに戦うことを望んでくれる。

私たちを、肯定してくれる。

全ての戦いが終わるまで、この人は間違いなく私の味方であり続ける。

私のことを、ずっと待っていてくれる。

数多の別離を繰り返してきた私にとって、甘い蜜であったことは言うまでもありません。

 

「また、いろいろなことを教えてくださいね」

 

「もちろんだ。いつでも来い」

 

時間ならたっぷりとあります。

ちょっとばかり恋愛への忌避感があるようですが、問題はありません。

着実に、彼の心の中に入り込んでいる手ごたえは、あります。

数百年も、数千年も戦い続けてきたのです。いまさら数年程度の駆け引きに焦れることはありません。

私はゆったりと歩きながら、かつてであれば考えられないほどの甘い微笑みを浮かべて、私の存在を刻み付けるために何をするか、思考を巡らせるのでした。

 

 




・エフトラ
幼女扱いされている。最終決戦仕様ならともかく……。それを否定せずに都合よく使っているしたたかな女。と同時に真っすぐで純粋な恋心も持っており、実は一番恋愛関係に近い。
ただ、彼女には足りないものがある。(寿命への)危機感だ。
周りの人たちが寿命を超越しすぎてるせいで、時間感覚がちょっとずれてます。

・術師
記憶消去について、作中で言っているのは半分勘違いで、術師は前世知識によって無効化しただけ。実際に効果があるのかは……わかりません。
自己評価が低いだけで女心がわからないというわけでもなく、ちゃんとアプローチされれば結構揺らぐ。それはそれとして命を懸けるのはやめないし、貞操観念はかなり強く、王子と結ばれることのほうが幸せだと信じている。
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