千年戦争アイギスの世界に催眠術師として転生したので好き勝手したい! 作:天河 龍汰楼
夜。月の綺麗な夜。星は満天に、闇は万遍に。
風のほとんど無い、静かな時間の中で、ベランダに出てのんびりとワインを飲む。
雲一つない夜空を見上げていれば、なんとも落ち着いた気分になれる。
……あ、夏の大三角発見。アレガ、デネブアルタイルベガ。ソラスに怒られるな。
ぼんやりと、ただぼんやりとして、少しずつ夜が更ける。
「こんな夜に、どうしたのですか」
甘く、静かな声。
ベランダの下からでもはっきりと聞こえるのは、夜の静寂のせいかそれとも……。
「カルマか。こんな時間に散歩か?」
「はい。こんな時間こそ、私の時間ですから」
月がそのまま落ち来たのかと見間違うほどに美しい金色の瞳を輝かせて、真っ白な花嫁衣装を着たカルマが楚々と笑う。
真っ白な肌は、しかして病的なほどではなく、はちみつのような髪色と合わせて、まさにお姫様のように見える。
不死者の姫、イモータルプリンセスと呼ばれる彼女は、そんな自分のことを少し……いや、かなり卑下しがちである。
「城の中に不届き者はおらんと思うが、不用心じゃないか?」
「あら、心配してくださるのですか?」
「ああ、今からでもエスコートしてやろうか?」
もともとは一般的な村娘なので、高貴属性がついていながら接しやすい彼女のことは嫌いではない。
むしろ好ましい。と言ってもいいだろう。
カルマを嫁にしようとした吸血鬼は許さんが、その審美眼は確かなものだ。
聖母のように微笑みを浮かべる彼女を見れば、すべてを差し出してでも欲しくなるのは、男として当然のことだともいえる。
「とても嬉しいお誘いですが。遠慮しておきます」
「そうか。ならあまり夜更かしせずに、早めに部屋に帰れよ」
しかしながら、カルマの貞操観念は非常に高い。
時々誘いをかけても、この通りやんわりと断られてしまうし、当然ながら男の部屋になど絶対に入ってこない。
かつて一度だけ、仲間になりたての頃に俺の部屋に誘い込んだこともあったが……。
その時が最初で最後の催眠チャンスだったわけだ……。
「って、できるかよ。いたいけな少女の傷心につけこんだらクズじゃないか……」
ほんの少し酔いを含んだ息を吐きながら、そんな独り言をこぼす。
催眠プレイしようとしている時点でクズと言う話は受け付けませんことよ、わたくしは酔っていますので。
さっきまでカルマと話していたせいか、いつもより飲みすぎてしまったらしい。
ベランダの上と下。前世で言うロミジュリ。それが今の俺たちの距離感だ。
その距離感がちょうど良い、と言うことはできないが。
「ま、しゃあないかぁ……」
理由など分かり切っているので、この距離感に関しては甘んじて受け入れるしかない。
なんと言っても、悪いのは俺なのだ。
ちょっともったいなかったかな、と思いつつも、反省も後悔もしていない。
最初で最後、カルマが部屋に入ってきたときの誘いを断ったのは、確かな決意によるものだったから。
『同じ時を生きてください。』
俺が、どうなるかは未知数だ。
吸血鬼になったとしても、意外と何も変わらないかもしれない。
それでも、極低確率の、黒のピックアップ率くらいだとしても、この能力を失う可能性は避けたい。
「ただでさえ役立たずなんだから、サ」
自嘲の言葉は夜にほどけて、誰にも届かない。
***
「……ふぅ」
熱くなった頬を冷ますように、自らの冷たい手を押し当てる。
気づかれてはいない……はずです。
彼は、人間ですから。夜目はききませんし、ずいぶんと飲んでいる様子でしたから。
血のように真っ赤なワイン、おそらく最高級なのであろうお酒。
それ自体が王子様からの信頼の証と言ってもいいそれを、一人でさみしく飲んでいる術師さん。
「ああ。いけません、そのようなこと……」
見かけたのが私でよかった、と心底思うと同時に、私に見つかるなんてうかつな人、という思いもある。
夜に生きる者たちからすれば、彼の姿はおいしい餌そのものでしかないのだから。
それでも、かつて立てた誓いが、私をすんでのところで押さえてくれました。
それなのに、彼はいつまでたっても無防備でいる。……いてくれます。
言葉だけでなく、手も足も、視線も、その振る舞いすべてが私のことを人間だと肯定し続けているのです。
「あなたのほうが、ずっと……」
血みどろになりながら、吸血鬼に立ち向かった彼の背中を、今でも覚えています。
『たとえどんな存在になろうとも。その心のみで人は人であれるんだよ』
かつての、恐れと期待をないまぜにした彼の瞳を、今でも覚えています。
『いつか、すべてが終わったら。その時はのんびりとしてみるのもいいかもな』
何度も、何度も。彼のことを思い返しては、こうして夜を歩きます。
『イモータル。不滅にして不朽、そして永遠の存在。カルマがそうなのは、素晴らしいな』
「ふふ……」
『待って。カルマの魅了って俺のアイデンティティを奪いかねないのでは?』
「ええ。……ですから」
月光が金色の髪を梳いて流れる。
妖艶な笑みを浮かべた美女の唇は三日月に歪んでいる。
その瞳には、隠しきれない欲望があふれ出している。
かつて、月には狂気が宿るといわれていた。
月の瞳を持つ彼女の狂気は、いつまでも醒めることは無いだろう。
いつの時代も、恋の炎はその身を焼き尽くすまで消えないものだから。
・カルマ
最古参の一人。術師の部屋を出禁になった第一号。
というより自分で入らないようにしている。理由は当然、我慢ができなくなるから。
序盤からの配布黒と言うことで、術師が死に物狂いで頑張った結果、こんがりと焼けている。
交流1の時点で交流3を開放している、と言えば彼女の想いの重さはよーく分かるだろう。
そこまでやったのに術師はずっとカルマを人扱いしているので二度焼きにとどまらずにウェルダンな状態である。
・催眠術師
チート能力が使える条件がわからないので、現状維持を頑張っている。
カルマの魅了の力にアイデンティティ崩壊の危機を感じたが、術師の能力は、この世界でかなうものは存在しないものなので何の心配もいらない。
お酒には強い。王子と飲み比べができるレベル。
カルマには嫌われていると思っている。ちょっと危機感が足りませんね……。
・護衛の方々
当然ながらいつでも見守っているし、カルマが何かしようとしたら速攻で出てくる。
自己肯定感の低さについて、よぉく知っています。当然ながら、いろいろと思っていることはありますが表には出てきません。プロですから。