何度も転生する主人公が、死ぬたびに周りを曇らせていく話。 作:ルヴレ
この話は蛇足な気もしますが、作者の曇らせたい欲が爆発したせいで入れました。
ぷすりと、腕に薬を打たれる。実験台の少女は、それを拒むことすらせずに、無表情で痛みに耐えていた。
「これで、身体能力が神の目持ち以上に強化されるはずだ。成功するといいが……」
「博士様が作ったんだぞ、成功するに決まってるだろ?」
少女は、そんな会話をぼんやりと聴いていた。しんしんと雪が降り積もるのが、鉄格子の窓から見えた。
「まずは、稲妻にある施設に送るのが…………」
何か言っているファデュイに対して、少女は、全部どうでもいい、と思った。どちらにせよ、暴れたら痛い目に遭う。痛いのは、嫌だった。
けれど、こうも思う。────この地獄から救い出してくれる者が現れたら、どれほど良いだろう、と。
自分で考えておきながら、少女は結局夢物語だと、早々に考えるのを辞めた。
「うぉぇぇぇ……」
「ミサクラ……!?」
はい。転生開始早々前世がヤバすぎて吐きました、前世死体に乗り移ったやべー奴っす。
……うん。前世何があったのか説明すると、ティカとして死んだ後に自分の死体に転生した。
もう一回言う。
死んだ後に自分の死体に転生した。
もう意味がわからないよ。自分の死体に乗り移るとか二度とやりたくないし。死体に乗り移った感覚は、本当に気持ち悪かったし。まさかの人外転生とか聞いてないし。それに私は死ぬ前に人間のクズみたいなことを言った。
なぜか、魈に告白したのだ。
お前、どうせ魈のこと好きなんでしょ? とか思ってたら、間違い。私は多分、友達として魈が好きなだけ。まず、恋愛とか……よくわからないし。恋愛にしては、ちょっと抱いてる感情黒すぎるし。でも、もし告白して死んだら魈がめちゃくちゃ曇ってくれるかな、私のこと思ってくれるかな、なんて思うとついやっちゃっ……た……。
「うえぇぇぇ……」
「ミサクラぁぁっ!!?」
まずい。業障め、私の思考まで操りやがって……。
前世のクズっぷりが本当に酷い。嘘はつくし約束は破るし……クズのオンパレードである。
ぜんぶ業障のせいだ! うん、そうに決まってる!
「ミサクラったら……」
二回吐いたところで声をかけられ、急に正気に戻った。
転生して早々ゲロ吐くのはやばくないか?
私は慌てて周りを見渡した。畳に低い机。目の前にはにんじんの煮物とご飯と味噌汁、それから焼き魚。
私は巫女服みたいなのを着ている。周りの巫女たちが心配そうに私を見ていた。
あ、これ稲妻に転生したな。私は瞬時にそう判断した。
モンドとフォンテーヌとかだったら一瞬迷うけど、稲妻は分かりやすい。それにしても、稲妻とはなつかしい。かぶっちの時以来か。
私は知らない同じ巫女服を着た女の子に、背中をさすられた。
「そんなににんじんが嫌いなら、早く言ってよ。私が貰ってあげるから」
そう言われて、なるほどと思う。どうやら今世の私は人参を丁度食べていたらしい。そして、その瞬間に私が憑依して吐いたようだ。確かにこれではにんじんが嫌いで吐いたようにしか見えないだろう。
誤魔化さなくていいし、ラッキーだ。ちなみに本当ににんじんは嫌いである。
「え、貰ってくれるんすかー? ありがとうっす!」
「えっどうしたの?」
あれれー、おかしいぞー? 目の前の女の子がめちゃくちゃびっくりした顔でこっちを見てる。え? そんなに今世の私、喋り方違ったの?
「ミサクラ……。無理矢理明るくならなくても、いいんだよ? いつもみたいにそっけなくても、誰も気にしてないから! ね? 私だって、いつものミサクラが好きだよ? そんなに私、信用なかった?」
────最悪だ。
私は自分のゲロを拭きながら、絶望する。
今回はいつもみたいに自由に話すと、周りが曇る。それで、その曇った顔が……なんというか、めちゃくちゃくる。業障のせいで。
くっ、やりたくないけど、リーリエの時はできたんだ! やればできる!
ちょっと様子を見て、そっけなく接してみよう!
「ぐすん…………」
「ミサクラ、泣かないの。ごめんね、ちょっと強くいい過ぎたかも」
「……私のことを気にかける必要はない」
ガラガラ……と私のキャラが崩れる音がした……気がする。
だって、私はあの「……っす」と言う話し方で、ギリギリ原神の伝説任務のモブに出てきそうなキャラくらいを、保っていたのである。ちなみに顔はモブ顔とプレイアブルの中間みたいな顔で固定なので、どう足掻いてもモブ以上にはなれない。
それが、今や冷たいけど実は優しい(多分)系キャラの話し方である。魈とキャラが丸かぶり。なんか原神を汚してる気分になるし、嫌にも程がある。嫌われてるモブランキングTOP50くらいに入りそうなキャラだ。
「それにしても、最近ファデュイって言う人たちが村を襲ったりして、物価も高騰してるんだから、勿体無いなぁ……。
次はにんじんと、ミサクラの好きなお豆腐と交換しよう?」
なんか手伝ってくれてる女の子が色々と呟いているが、ショックすぎて耳に入らない。
でも、曇った顔でテンションが上がる(意味深)よりは、普通に過ごした方が、罪悪感が刺激されない。
ぐぬぬ……、覚悟を決めるんだ! 今キャラを定めておかないと、あとで後悔する……! 無口口下手クールキャラ……それが今世の私っぽいし! 急にキャラ変わったら怖いだろうし!
そんなくだらないことを考えていたら、誰かが私に近寄ってきた。
「汝が新戸部御桜じゃろう?」
「はい……………………にとべみさくら?」
八重神子さん!? 話し方と特徴的な髪の色で、すぐに分かった。声には出なかったので一安心だ。つまり、ここは鳴神大社ってことか……。鳴神大社の周りは争い禁止なので、死ぬ心配は無さそうだ。珍しく今世はゆっくりできそうである。
そういえば、反射的に返事をしたが……にとべみさくらが私の今世の名前らしい。漢字がよくわからない。苗字と名前の区切りもわからない。多分、下の名前はみさくら、だとは思うけど。
「妾の神社を汚したのじゃから、汝には罰を与えねばならないのう?」
「……はい?」
なんかよくわからないけど、頭を下げて肯定した。
「こっちにくるのじゃ」
八重神子に手招きされ、仕方なく私は八重神子について行った。
嫌な予感しかしねぇ……。私はぶるりと身震いした。
八重神子は一つの小さな部屋にたどり着くと、その部屋の扉を開けた。
そこから出てきたのは、一面の服。それも男物。
私は嫌な予感が的中したことを感じ、一歩後ろに下がった。
「妾は最近、一人の少女が男装し、敵を倒すと言う小説を愛読しているのじゃ。汝はその主人公によく似ておる」
「……。お許しをっす……じゃなくて、やめて……」
私はじりじりと後退して八重神子から逃げるが、八重神子はにやりと妖艶に笑いながら一枚の男物の服を取り出した。
八重神子……私に男装させようとしてる!? 一回女だけど男の娘とか言うよくわかんないジャンルやったから、もうお腹いっぱいだよ!
ただでさえ、女子力のかけらもない私が男装なんてしたら……なんか全部吹っ切れそうである。私は全力で否定した。
「さっき言ったばかりじゃろう? ……これは、罰じゃよ、童」
「……………………はい」
私は渋々男物の着物を着たのだった。
「やはり、汝は鶴見にそっくりじゃ」
「…………あ、そう」
鶴見って人がその小説の主人公らしい。返事を返した私は、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしていたことだろう。
けれど、他国から仕入れたという鏡の前に立たされ、思わずフリーズした。
モブ顔……じゃない、だと!?
今世の顔、普通にプレイアブルに居そうな顔をしている。ジト目に無表情に肩まであるラベンダー色の髪。うむ、いかにも無口系だ。私のキャラにあって無さ過ぎて、呆然とした。
けどこの顔、なんか見たことあるんだよな……。こんなキャラいないと思うんだけど。
私は不思議に思って、自分の顔をガン見した。
「似合っておるじゃろう?」
私が見惚れているのと勘違いしたのか、八重神子が新しい服を取り出した。
慌てて私は全力の速度で巫女服に着替え、着物を八重神子の手に押し付けた。
「も、もう罰は終わったはず……。それでは、失礼するっすー……」
私は全速力で八重神子から逃げ出した。
けど、どこに逃げればいいか分かんないな……。鳴神大社、無駄に広いし複雑だ。私はドアが沢山あるせいで右往左往した。
「ミサクラー! こっちこっち!」
「…………感謝する」
私はさっきの同僚らしき巫女の女の子に手招きされ、迷いなくその子に早足でついて行った。
「八重様に目をつけられちゃうなんて……運がいいんだか、悪いんだか……」
「間違いなく、悪いっす……じゃなくて、悪い。……鶴見って人が主人公の小説、知ってる?」
私がさっき八重神子に言われたことを思い出し、同僚ちゃんに聞いてみたら、納得したように頷かれた。
「あー、最近流行りの小説だよね? 確かに、主人公がミサクラに似てるかも」
「そう……」
自分で聞いたくせしてそっけない? 知らんっすよ。そういうキャラらしいし。そっけなくしないと、同僚ちゃんの顔が曇るし。
そういえば、なんだか今世は体に違和感がある。無駄に体が軽いっていうか、いつもよりしっくりくるっていうか……。言葉で表すのは難しいけど、なんかいつもと違う気がするのである。
「それより、よければ儀式の練習でもしない? 八重様も流石にこれ以上は追わないだろうし。私たちは見習いだから、まだ参加はできないけど……」
「……うーん、君がそうしたいなら」
私は彼女にそう頷いた。よく見たら、外はもう暗い。今は夜のようだ。巫女の仕事は全て終えた後なのだろう。
儀式とかよくわからないけど、なんか楽しそうである。でも、正直巫女なんて早く辞めて、璃月に戻って帝君たちにあって、謝りたい。たぶん、前世の葬式とかもやってくれただろうし……。あと、フリーナとも会う約束をしたから会わないとダメだし、かぶっちとも会いたいし…………うっ、やりたいことがあり過ぎて、計画がまとまらない。
え? ウェンティ? 私なんかが会う権利なんて無いと思う。以上。
「ミサクラー、ほらこれ持って。ミサクラは初めてだろうし、私の動きを真似してね」
私は同僚ちゃんから白い紙のついた棒を受け取った。巫女さんがよくお祓いの時に振ってるあれである。
私は同僚ちゃんの動きを真似して、棒を軽く振った。
「えっ」
とたんにひゅん、と鋭い風が巻き起こる。神社の壁に風穴が空き、夜風が私の足元を通り抜けた。
もう一度言う。棒を振ったら、壁に穴が空いた。
ぽかん、と立ち尽くすしかない。同僚ちゃんも笑顔のままフリーズした。
まじかー。
私は手で棒を強めに握ってみた。その途端に棒にメキメキとヒビが入った。
うん、間違いない。
今世の私はクッソ怪力のようである。うーん、それでも夜叉の時よりは力がない。ただ、夜叉の時と違って、体が加減を知らないので、風穴を開けてしまったようだ。
今世、色々とやらかすのが早すぎる。苦笑いをしたら、同僚ちゃんにまた困った顔で見られたので、慌てて無表情をキープした。
「み、ミサクラ……。よくわからないけど仕方がないし、ここは私が岩元素で一回覆うから、逃げよう。八重様に見つかる前に……」
「……すまない。感謝する」
同僚ちゃんは頭を振った後、すぐに神の目を取り出して、穴の空いた壁に岩の膜みたいなのを貼ると、私の手を掴んで走り出した。
同僚ちゃんは岩元素の神の目を持っているようだ。そういえば、同僚ちゃんの顔、モブっぽくないんだよなー。髪も緑色だし。うーん、こんなキャラいたっけ?
同僚ちゃんは走りながら、私に提案を持ちかけた。
「ミサクラ、取り敢えず一回寝室に戻ろう。早く寝たふりをすれば、バレな……」
「寝たふりとは、なんのことじゃ?」
ぎぎぎぎ、と言う音が鳴りそうなほど、私と同僚ちゃんはガタガタした動きで後ろを振り向いた。
後ろには桃色の髪の妖艶なケモ耳美女……つまりバレたらやばいダントツNo. 1の八重神子がいた。
「や、八重様。えー、えっと……ははは。こんばんは。今日はいい天気ですねー?」
「……うーん、今日は雨っすけど」
「ミサクラ、一旦黙って!」
冷静に突っ込んだら同僚ちゃんに小突かれた。私は大人しく口を閉じた。
「潜、御桜、妾は今ちょうど、岩元素で穴を覆ってある妙な部屋を見つけたんじゃ。……汝らは何か知っているじゃろう?」
「……残念ながら、知らないですねー」
ふむ、どうやら同僚ちゃんはひそか、と言う名前らしい。
おっと、それよりも八重神子である。絶対私たちが穴を開けたと分かっているだろうに、なぜかめっちゃ追い詰めてくる。
な、何がしたいんすか? と私は同僚ちゃん……改め潜ちゃんと一緒に後退した。
「妾はあの部屋から慌てて出ていく汝らをみたのじゃが……それでも関係ないと? そういえば、巫女で岩元素の神の目を持っているのは、潜、汝だけじゃったなぁ? それに、潜。汝からは岩元素の強い跡が……」
「……私がやりました。すみません」
潜ちゃんが責められるのは本意ではないので、私は慌てて名乗り出た。
そうすれば、案の定八重神子はニヤリと笑い、とある約束を持ちかけてきた……。
「ミサクラ、次はこの服でどうじゃ?」
「どれでもいいよ」
あれから約二週間。八重神子は頻繁に私を着せ替え人形にし始めた。私は服とかは全くもって興味がないので、辞めて欲しい。服なんて、ジーパンにTシャツで十分である。
八重神子の持ちかけてきた約束とは、3日に一回だけ八重神子の着せ替え人形になることである。多分、私が嫌がってるのを楽しんでいるのもあるけど、小説のアイデアなんかを書いてる時がある。
……そっちが目的だと思いたい。
「やはり、こっちかのう?」
八重神子は、そう言いながら、いつもよりめちゃくちゃ男の人っぽい着物を見せてきた。
なんか、最近悪化してない? と思うし言いたいけど、ミサクラの体は、あまり私の言うことを聞いてくれない。
八重神子が着物を着せようとしてきたところで、誰かが勢いよく部屋に入ってきて、叫んだ。
「八重様ーっ! しょ、将軍様が来られましたー!」
「ん? あぁ、そうじゃ。今日はその日じゃったか」
八重神子は何かを思い出したかのように、そんな報告に頷いた。そして、残念そうに着物を仕舞い、私の頭を撫でながら言った。帝君とか帰終様に撫でられるのとは真逆に、身の毛がよだった。
「残念ながら、今日はお預けじゃな。ミサクラはここで待っておるんじゃ。……将軍様が、汝に興味をしめしているからのう」
「……え、しょ、将軍様が……?」
影ちゃんが、私に興味を……? 私は歓喜のあまり、勢いよく顔を上げた。八重神子は明らかな態度の差に呆れた様子を見せるが、嫌われている原因はそっちのせいである。
八重神子はゲームの中だと妖艶で綺麗だし、煙緋ちゃんには敵わないけど、生足が良……ゴホン、とにかく魅力的だけど、現実に居たら普通に苦手なタイプだ。意地悪だし、仕方がないのである。
それはともかく、影ちゃんだ。影ちゃんは一心浄土という空間で永遠について考えているから、私なんて興味がないと思っていたけど、もしや私、影ちゃんと友達フラグが立ったのでは……?
とか思ったのが間違いでした。
「あなたが、神子の言っていた新戸部御桜ですか。頭を下げる必要はありません。私はあなたの顔を見たいのですから」
「……は、はい」
ビリビリと黒焦げになりそうなほどのオーラが私の体を震わせる。
ダメだ。旅人はなんか普通に話してたけど、強者オーラあり過ぎて、絶対友達になれそうにない。多分、私がめちゃくちゃ弱いから、こんなに怖いんだろうけど……。
「あなた、その声は……! もう一度、話してください。声を確かめたいのです」
「……何を話せば?」
「そうですね……自己紹介でもしなさい」
自己紹介っすかー。やべー、怖過ぎて何も思いつかない。てか、なんで私の声が聞きたいの? お世辞にもいい声ではないと思うんだけど……。
「お初にお目にかかります。私は新戸部御桜。鳴神大社の見習い巫女です」
「ふ……。やはり、そうですか」
私が適当な自己紹介をすると、雷電将軍は微かに笑った。
え? 何? なんか変なこと言った? そう思って八重神子を見るけど、八重神子も微かに笑ってきた。
いや、笑われても分かんないっすよ……。私テストの点39点以上取ったことがないバカだから、察しは悪いし。
「あなたを一心浄土に入れて差し上げましょう」
「……へ?」
雷電将軍がそう言った途端に、景色がどんどん遠のいて行った。怖くなって手を伸ばすが、何も掴むことすらできず、そのまま意識は神社内から遠のいて行った。
遠のいた瞬間、間を置かずに私はおかしな空間の中にいた。
赤い大きな月のようなものがある禍々しい空。周りには神社の鳥居が大量に並んでいる。
「ここどこっすか……」
あー、ここ一心浄土かー。呟いてから気づいた。雷電将軍の負けイベ、負けイベじゃないかと思って何度もリセットした思い出がある。懐かしいなー、ストーリーやったの大昔だから、すっかり忘れてた。
「久しぶりですね」
「え?」
急に影ちゃんの声が聞こえて、ピクリと体を震わせた。影ちゃんは、いつの間にか目の前に立っていて、ふんわりと笑っていた。影ちゃんは、あのビリビリとしたオーラはない。ただ、帝君とよく似た強い威厳が満ち溢れていた。
「えっと……将軍様と会ったことなんて、なかった気がするんすけど……」
「いえ、一度モラクスと宴会をした時に、あなたと出会いました。直接話してはいませんが、あなたのことは、モラクスから聞いています」
モラクス……帝君と、宴会……?
しばらく考えてから、ようやく思い出した。
ウェンティと遭遇事件の時だ……! 確かに、あの時影ちゃんとは話してないけど、大声で叫んでいたから私の声は聞こえるはずである。だから、喋らせようとしてきたのか。
ちなみに私の声は、生まれ変わっても変わらない。顔とか髪の色なんかは基本的に同じだが、今世のようにガラッと変わる時なんかもある。
「あー、あの時っすか。お久しぶりっす。それで、将軍様はなんの御用っすか?」
「あなたは死んだ時、黄泉の国で私にそっくりな人物を見かけませんでしたか」
──あー、納得。
影ちゃんの姉、雷電眞はすでに死んでいる。影ちゃんは眞さんの死によって、深く悲しみ、永遠を求めるようになる。
そんな影ちゃんが大好きな眞さんに、私が会った可能性があったら問い詰めるだろう。それこそ、いちいち将軍を神社に出向かせてでも。
「残念っすけど、私は死後の世界には行かずにすぐ転生してるから、会ってないかなぁ……」
「そうですか…………。
しかし、転生とは永遠に近いものでもあると、私は考えています。もしよければ、あなたの転生している原因を教えてください」
明らかに残念そうにした影ちゃんは、すぐに切り替えて次の質問をしてきた。
転生した理由かぁ……。まず最初が日本で死んで、璃月に転生でしょ? 多分、日本で死んだときから原神の世界に転生してるから、まずはそこを思い出し………………。
「あれ、私ってなんで死んだんだっけ」
むむ……日本での死因が思い出せない。というか、それ以外を思い出そうとしても、靄がかかっているようで、何も思い出せない。思い出せるのは、「原神」に関連することだけ。
あれ? なんかおかしくないか? トラ転と勘違いしてたけど、そうじゃなかったっけ?
私は、確か女子高生で、原神にハマってバイトの金をほとんどゲームに注ぎ込んでる廃課金者で、クラスでは……クラスでは……あれ、どんな性格だっけ? こんな変な話し方だっけ? そもそも、親はいた?
「私……は……」
思い出そうと考え込んだ途端、何かの情景が私の脳内で映し出された。
私は喜んでいた。殴られて蹴られたせいで痛むけど、その痛みすらも喜びのひとかけらでしかない。
いちいち帰りは人の多い時間を選んだ。そのせいか電車が駅のホームを忙しなく横切る。
同級生が次の電車に乗ろうと立ち止まっているのを、見かけた。
丁度いい。彼女の前だったら、一応復讐にはなるだろう。
「ああ、ここにしよう」
私はそう決めて、同級生の後ろに並んだ。
駅のアナウンスが、すぐに電車が通過することを知らせる。遠くから、ものすごいスピードで回送列車が走ってきているのを見て、私は心をワクワクとさせた。
「……さよなら」
「え?」
私は前の同級生にそう耳打ちしてから、線路に身を投げ出した。ガタンゴトンと、電車が近づいてくる。
あぁ、ようやく死ねる。
「自殺かーい!?」
思い出して早々、私はそう叫んだ。驚いたのか影ちゃんがピクリと体を震わせた。
トラ転とか思ってたけど、自殺だったよ! しかもめちゃくちゃ事情が重そうだし! 私ってそんなキャラじゃないはずでしょ!?
もしかして、怪我してたし、いじめられてたりする? それで追い詰められて自殺とか……うん、あり得る。
「じ、自殺、ですか?」
「あ、うん。自殺したら、いつの間にか璃月に転生したんすよ。うーん、でもやっぱ転生した原因はよくわからないなぁ」
「そうですか……。では、何か思い出したら、神子に言ってください。将軍がまたここに来ますから」
影ちゃんは、転生が永遠に近いものだと思っているらしい。
実際、私は神や人外と仲がいいから、永遠のように感じるけど……ある意味、転生は永遠に程遠いとは思うけどなぁ……。
そんな考えを正直に言えるわけもなく、私はこくりと無言で頷いた。
「また、お会いしましょう」
影ちゃんのそんな優しい声が聞こえて────風景がどんどんと元の神社内に戻って行った。私は何か動いて変なところに行ったら困るから、そのまま立ちすくんでいた。
そして気がついたら、私は手を伸ばしたポーズのまま固まっていた。
「影とは会えたか? 影のことじゃ、どうせ永遠に関係する話じゃろ?」
「……うん」
私は手を下ろしてこくりと頷いた。
将軍は私を横目で見ると、何も言わずにすぐに背を向けて、神社から出て行った。
「それでは、私も失礼します……」
私は八重神子の部屋からそっと出て行った。八重神子は何かを考えていたのか、特に返事をしなかった。
「今日は汝に渡したいものがある」
影ちゃんと会って二週間くらい経った頃、八重神子は、私の手を掴み、何かを手渡した。
私はそれを見た途端、眉間に皺を寄せた。
「大きい傘……いや、刀? ……これ、何?」
「これは鶴見が使っている武器じゃ。本当は八重堂に飾らせようと思って作ったんじゃが、残念ながら一度盗まれかけてからはやめたんじゃ。捨てようとも考えたが、勿体無いじゃろう?」
「宮司様がそんなのでいいの……?」
鶴見……誰だっけ? あ、そうだ、私に似てるとか言う小説の主人公か。
私は結構大きめの、和傘の持ち手から出てきた大きい刀にちょっと引いた。
まず、鳴神大社は武力禁止、戦闘禁止なのにその宮司が武器を手渡すのはどうなのだろうか……。
「バレなければ問題ないじゃろう?」
八重神子は楽しそうに笑った。こっちは全然楽しくない。もし巫女追放とかになったら……なったら…………待てよ、これ悪くない気がする。
まず、私はこんなところに滞在している意味がないし。フリーナとも会う約束もしてたし? うーん、追放も割といいかも。自分からやめますって言うのは、なんか勇気が無すぎて言えてないけど。今までで一番平和だし、どうしても自分に甘くなってしまうのだ。
「分かりました……」
私は傘をそっと地面に置いた。赤い桜の模様の入った和傘は、とても一見武器には見えなかった。
八重神子の部屋は、珍しく窓が開いていた。そこから夜風が吹き込み、八重神子の桃色の髪がふわりと揺れた。一瞬、私はそんな様子に見惚れた。八重神子、見た目はいいんだよなぁ……。そんなことをぼんやりと思った。
「汝は、永遠を求めるべきだと思うか?」
急に真面目な声で聞いてきた八重神子に、私はビビって顔を硬直させた。永遠についての答えは、原神をやっていたらおのずと答えは出ていた。でも、うまく言語化するのは難しくて、少し考えてから答えた。
「永遠なんて、死んでいるのと同じ。変化のない人生など、人生と呼べるだろうか。……だから、永遠を求めることなど無駄。私は……そう思うっす」
「……そうか」
私の考えを聞いて、八重神子は少し難しい顔をして、また考え込み出した。私は答えてから今頃気づいた。あ、これもしかして稲妻の魔神任務に関係してたり? 影ちゃんを止めるか迷ってたりする?
私は慌てて言葉を付け足した。
「でも、これは私の考え。八重様は、八重様の思うことを信じればいい。八重様は意地悪だけど、私なんかより、将軍様と稲妻のことを思ってる。そんな八重様のやることなら、きっとみんなも賛成してくれる。
少なくとも私は、八重様を、信じる」
八重神子は一瞬目を大きくさせて俯いた。まるで誤魔化すように私に背を向ける。それから、突然大声で言った。
「ああ、そうじゃ! せっかくじゃから、その服でお使いでもしてくるといい。妾はきつねうどんが食べたい気分じゃ」
「え? い、いや……流石にそれは……」
しかし、八重神子はニコニコと笑いながら私にモラを押し付け、ドンと扉を閉めた。
私は傘を持った男装の姿のまま、立ち尽くす。そしてボソリと呟いた。
「あの、クソババア…………!」
「何か言ったか?」
「あ、……な、なんでも……ないです」
八重神子の地獄耳、恐るべし。私は慌てて八重神子の部屋から離れた。
だから、八重神子がどんな表情をしていたのかも見えなかったのである。まぁ、どうせ後で他の巫女に聞けばなんとなく分かると、私は思っていた。
けれど、「死」とは案外突然来るものである。
「きつねうどん……私、嫌い」
「それ、八重様に言わないように気をつけなよ?」
私と潜(道連れにした)は八重様にパシられ、神社のしたにある店で、きつねうどんの材料を買いに行っていた。まぁ、今日はお使い当番だったし、丁度いいけれど。
潜は紫色の吊り目がちな目を細め、ため息をついた。
「それより、油揚げだよ。いいものを買わないと、絶対何か言ってくるでしょ?」
「……一理あり」
私は傘をぶらぶら振り回しながら、頷いた。八重様は油揚げガチ勢。八重様にとって油揚げとは私にとっての杏仁豆腐と同じ……つまり、下手なものを買ってきたら、買い直しの可能性がある。
私たちは、悩みながら油揚げを選んだ。周りからの微笑ましそうな目線が痛い。多分、男女がデートしているように見えてるのだろう。だが、残念。私は女子である。あ、私が女子だと気づいて、百合だと思って見てる人もいるのか。……居るよね?
「ミサクラって男装似合ってるよね」
「……それ以上言ったら、流石の私も傷つく」
突然の爆弾発言に私は潜を睨みつけた。潜は動じずにクールに笑った。
そして、潜は油揚げとうどんの入った袋をゆらゆらと揺らしながら何歩か歩いて、突然立ち止まった。
その顔はどこか不安そうだった。
「ミサクラ、私たちは生まれ変わっても友達だよね?」
「……急にどうした。────でも、まぁ、そうだといいね」
「だよね。急にごめん」
え? 何、潜ったら死亡フラグ立てたいの? こんなの完全なる死亡フラグである。今、急に心臓刺されたりしない? まぁ、潜とはそこまで話していない。好感度で言うと、フリーナの十分の一くらいだろうか? 好感度が低かったら、死亡イベントなんて面白みもなさそうだ。
そんな冗談を思っていたところで、一人の男の叫びによってそれが現実になることを察した。
「ファデュイだ! 散兵を名乗る男が向こう町を攻めて来た! 今こっちに来てるぞ!」
私は思わず立ち止まった。潜も驚いて私の腕を掴み、散兵の居る方向と、逆方向へ走り出そうとした。
けれど、私は動かなかった。
散兵。原神ではかぶっちがファデュイに属した時のコードネーム。
つまり、かぶっちの闇落ちは止められなかったかもしれない。で、でも今なら、かぶっちを止められる可能性もある。私が蓮花だと言うことを明かせば、かぶっちもファデュイを辞めてくれるかも……?
でも、止めに行ったら絶対死ぬ。何度も死んだ私が言うんだから、間違いない。かぶっちに会える前に、死ぬ可能性もある。
一瞬、平和な生活とかぶっちを取るかで迷った。けれど、迷ったのは一瞬。
クソっ、仕方ない。今回は捨て回だ。
「ミサクラ、早く帰ろうよ! このままじゃ、巻き込まれて死んじゃうよ!」
「ごめん、潜。私は……やるべきことがあるっす!」
「ミサクラっ!」
私は潜の手を振り払い、八重神子のくれた傘に見える刀を握り、走り出した。
潜の止める声が聞こえるが、死を恐れていない私を止めることは不可能に近い。
「かぶっちじゃないといいけど……」
もしかしたら、原作改変されて、違う散兵の可能性もあるし? かぶっちがファデュイに入ったと言う、確信はない。
そのためにも、確かめたい。今回はここで動かなかったら、神社でのんびりと過ごしちゃう気がする。
みんなと逆方向に走っているので、中々散兵の居る方向に走れない。
私は人をかき分けながら、全力疾走した。不思議なことに、ミサクラの体はこれだけ走っているのに疲れることがない。
やはり、ミサクラの身体能力はめちゃくちゃ高そうだ。なんで今世だけこんなに色々と違うのか……気になるけど、今はそれどころではない。
「自分からこっちに向かってくるなんて……。馬鹿な稲妻人も居たもので……」
「一花多果」
少し走ったところで、ようやくファデュイを一人発見した。何かセリフをペラペラ話していたが、ガン無視して隙を付き、傘から刀を抜いて斬りつけた。今まで両刃剣ばかりを使っていたので、刀はやや使いにくい。神の目も今世はないので、思う通りには動かない。
「な……」
けれど、ファデュイは一撃で膝をついた。……いやー、神の目ないはずなのに、ミサクラの体、強すぎ。病弱な薬屋の蓮花時代と比べると、天地の差だ。
私はファデュイの首筋に刀を突きつけた。
「……お前は散兵を知っているか?」
「散兵様……? なぜ、そのことを……ひぇっ」
私はさらに切先を近づけた。こいつ、散兵のことを知ってそうである。
「散兵は大きな傘を被って居る少年の姿? それとも、違う?」
「そ、そうです! 大きな傘を被って居る少年の姿をしていて、あと……兄がいた? とか? 確か、蓮花って名前の……」
「場所は」
「えっと、ここから更に先のところに……」
生きるために、ファデュイはペラペラと話し出した。蓮花という兄、というワードで確信する。
かぶっちの闇堕ちは止めれなかったということに。それなら……今から止める。それしかない。
そうじゃないと、かぶっちが将来、世界樹から自分の記憶を消してしまう。そして、世界樹の記憶から消すと、旅人とナヒーダ以外から忘れ去られてしまうのだ。
恐らく、それは私も例外ではない。このままいけば、私はかぶっちのことを忘れてしまうことだろう。
それは、何があっても嫌だった。
「そう。情報提供感謝する。──口封じに殺してあげる」
「え? そ、そんなの聞いてな……」
私は、心臓を刺した────フリをして殺気で失神させ、そのままファデュイを置き去りにして走り出した。
私は、弱い。もちろん、魈や甘雨よりも、よっぽど弱い。神の目を持つちょっと強い人間にも負けるレベルに弱い。
けれど、威圧と時間稼ぎだけは得意である。その無駄に上手い技術のおかげで、夜叉のときは割と長めに生き残っていたのだ。
「かぶっち……どこかな」
ファデュイに言われた方向へ突き進むが、その情報が本当かどうかは分からない。どうしようもない不安に駆られた。
「あららー、まさか自分から人間が来るなんてね?
人間が僕を倒せると考えるなんて……勘違いも甚だしい」
「……久しぶり、っすね」
背後から、散兵の──かぶっちの声が聞こえた。その話し方は、完全に昔のかぶっちの面影がなくなっていて、私は思わず泣きそうになった。
けれど、この歳で泣くのは恥ずかしいのでグッと堪えた。
「かぶっち。君はあの後も、きっと酷い目にあったのだろうね」
「……は? 何を、言っているんだい?」
かぶっち、と口にした途端、明らかにかぶっちは声色を変えた。そういえば、今世だけ見た目が違うから、ウェンティや帝君の時のように、容姿で気づかれることはないだろう。言葉で兄だと言うことを、なるべく伝えなくてはならない。
私は慎重に言葉を選びながら、かぶっちに話しかけた。
「かぶっちの兄を名乗っておきながら、守れなくてごめんね。私は……君の側に居てあげたかったっすよ。
君がファデュイに入る前に、ね」
私は着物の上着を翻しながら、振り向いた。かぶっちは呆然とした表情で私をして見ていた。よかった、あの様子だと、私が蓮花だと気づいてくれたらしい。このまま話し続けたら、もしかしたら…………。
「兄さんまで……僕を裏切るのか!?」
「えっ何でそうなるの」
予想外の方向に話が持っていかれ、次は私が呆然とした。え? 私何か言った? 思い当たること……君がファデュイに入る前にね、って言ったこととか?
うーんいや、確かに今のセリフ、ファデュイ死すべし、みたいな意味に聞こえる気もしてきた。私は弁明をしようと、口を開いた。
「いや、私は……かぶっちを裏切らない……」
しかし、私の言葉を遮り、かぶっちは語り出した。
「僕は三度裏切られた。
一度目は、僕の母親。二度目は僕の親友。三度目は僕の家族──僕が人を信じることなど、もう二度とない。そんな馬鹿馬鹿しいことは、やめたからね」
かぶっちが攻撃を仕掛けてきたので、私は慌てて避けた。……速い。今のはかろうじて避けたが、運が良かっただけだ。殆ど目で追えない。
私に攻撃をしたかぶっちは、嘲笑を浮かべていた。転生した、まではわからないかもしれないが、かぶっちの様子からして、私が兄だと言うのは間違いなく分かっている。
けれど、私を信じていない。
あぁ、遅かったのだ、と呆然と思う。何もかも遅かった。かぶっちはすでにひどい目に遭いすぎたのだ。それこそ、私をちっとも信じられないくらいに。
「うっ……」
ものすごい勢いで迫ってくる雷を避けきれず、左手を負傷した。急いで袖の中に隠し入れていた、暇な時間に作った自作の薬を取り出して、傷口に雑に塗った。
その薬を見て、かぶっちはまた表情を一瞬だけ固まらせた。この薬は確か、私のあげた本に載っていたはずだった。そして、一緒に作ったこともあった。
「君がどう思おうと……私はかぶっちの味方……っすよー?」
「黙れ、裏切り者が……!」
かぶっちが攻撃の手を緩めないので、仕方がなく攻撃を避け続ける。こういうときに、私が落ち着かせようと攻撃をするのは地雷行為である。もちろん、逃げるのも「僕から逃げた」と思われるので、地雷だ。
だから、私はただただ攻撃を避け続けるしかない。
「かふ……」
情けない声が漏れて、口から血が溢れてきた。
──避け続けて大体2分も経たずして、私はボロボロになっていた。……弱いとかいうなー。私は所詮、ちょっと強いモブ程度の強さなのだ。
「かぶっち……」
あー、ダメだこれ。そろそろ死ぬや。直感的にそう感じる。
何度も死んでいる私がそう言うのだ。間違いはないだろう。戦っても死ぬし、逃げても出血多量で、多分死ぬ。
かぶっちは、攻撃の手を緩めない。けれど、表情はとにかく顕著だった。私を傷つけるたびに、自分が傷ついたかのような表情をして、泣きそうな顔をする。ゲームでは、スカラマシュがこんな顔をしたのを見たことがない。
……あぁ、これは可哀想なことをしたと思う。かぶっちは本来よりもほんの少し、性格が善良なままでいるのだ。私が彼に優しく接しすぎたから。
「けほ……、あのね、かぶっち。ファデュイなんて、やめて、しあわせに……なって……。さいごの……お願い」
「なんで……僕を攻撃しなかった。僕はずっと、殺す気で攻撃していたのに──君は頭すら回らないのかい?」
スカラマシュはそう言いながら、嘲笑った。その笑いは、どこか余裕がないように見えた。
バクバクと、心臓が何度も脈を打つ。血液が瞬く間に全身を駆け上がり、ゾクゾクとした快感が全身を駆け抜けた。表情を抑えるのはすでに慣れている。その感情が顔に出ることはなかった。
「かぶっち。不甲斐ない兄でごめんっす」
私はかぶっちが顔を歪めるのを見て、内心ほくそ笑んだ。
そのまま意識が飛んでいくが、抗うことなく私は死を享受した。
「…………」
スカラマシュは、思わず頭を抱えた。ぐるぐると、考えが回っていく。僕が、殺したのか? あれほど好きだった兄を。いや、でも兄は僕を裏切った。ファデュイのことを嫌っている様子だった。しかし、そもそもアレは兄だったのか? 違うかもしれない。そもそも兄は死んだはずだ。それに、兄はいつも女物の着物を着ていたし、あんな見た目ではなかったし、それに────。
兄が目の前で死んだ時が、脳内でフラッシュバックする。そのときの兄の死体と、目の前の少年の死体が重なった。
「──汝があの時の人形──いや、今は散兵じゃな?」
頭を抱えてしばらく立ち止まっていたスカラマシュに、一人の女性が声をかけた。独特な話し方に、その声。
かつてスカラマシュを捨て、兄や村を見捨てたあの女の眷属──八重神子であると、すぐにわかった。
「汝の名前を聞いた途端に、御桜が危険な方向へ走っていったと────久岐潜からきいておる。
御桜は人の子が経験するには充分なほどの、残酷な目にあったんじゃ。せめて妾が幸せにしてやろうと思っていた矢先に──汝が殺すとは……のう?」
八重神子のそんな言葉を聞いて、スカラマシュは驚いて息を呑んだ。
また、あの兄は不幸な目にあったのか、と思った。あの兄は、前世では虐待され、挙げ句の果てには惨殺されるような……そんな不幸な男だったのだ。
「御桜に何があったのか、気になるようじゃな? 妾が話してやろう」
八重神子は、笑った。けれど、その笑みは全身の血が凍るような、そんな冷たい笑みだった。
八重神子は、語り出した。
「御桜は、生まれたときからファデュイの実験台じゃった」
「な……」
スカラマシュはそれを聞いた途端、言葉をなくした。今世の兄は、妙にファデュイを嫌っているようだった。それも納得がいく。ファデュイの実験がどれほど残酷なものか……スカラマシュはよく知っていた。
「そして、身体能力を無理に上げられた御桜は、稲妻に送られた。しかし、その途中で御桜は逃げた。御桜が逃げ隠れているとき、妾は御桜と出会ったんじゃ。
御桜を鳴神大社で預かることにしたんじゃが……最初は無表情でのう。じゃが、最近は彼女も少し笑うようになったんじゃ。
それも──汝のせいで、全てが水の泡じゃが」
「かの……じょ?」
スカラマシュは、驚いて聞き返す。八重神子も驚いて一瞬だけ目を大きくさせたが、蔑んだ目で笑いながら言った。
「新戸部御桜は────女じゃよ」
六話でスカラマシュが稲妻にいた理由です。六話のすぐ後に主人公と会ってます。
次の話くらいから、ゲーム時空に行く予定です。
どんなエンドがいい?(イフエンドも書く予定)
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バッド(主人公にとってハッピー)
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ハッピーエンド
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その中間くらい