何度も転生する主人公が、死ぬたびに周りを曇らせていく話。   作:ルヴレ

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原神本編の時空に突入します!今回、曇らせはまだないです!


業障のせいとか、散々言ったけれど

 

「あなたは、本当にそれでいいのかしら?」

「……うん。それで、いいよ?」

 

 草神の従者は、マハールッカデヴァータに跪き、こくりと一つ頷く。マハールッカデヴァータは、困った顔で小さく笑った。あまりにも、残酷な最期だ。スメールを守り続けた草神の従者としては、あまりにも。

 けれど、彼女自身はそれを望んでいる。それなら、マハールッカデヴァータができることは一つだった。

 

「私は私の決断を後悔しない。だって、これが草神様のためになるんでしょう?」

「えぇ、スメールの未来は、あなたに託すわ」

 

 マハールッカデヴァータは、寂しい感情を見せないで、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい今世も無事地獄ですありがとうございました」

 

 私は天井を見ながら、ははは、と乾いた笑いを漏らした。

 最近の転生ガチャは割と当たりを引いていた……と思っていたのだが。いや、一回死体に転生したし、ハズレか……? まぁ、それはともかく。

 今世は本当に散々だった。

 

 何が散々かって言うと、お察しの通り親である。

 ちなみに、今世は小さい時から記憶があったので、より地獄を経験する羽目になった。

 

 スメールで生まれた私が最初に経験したことは、赤ちゃんから転生系もの特有の、羞恥プレイ…………ではなく、放置プレイだった。

 ────つまり、お腹空いてもほとんどガン無視だった。

 

 そんな子供に無関心な親が、何をしてたかと言うと、研究である。

 今世の親はスメールの学者らしい。それも、研究のことしか考えていないタイプの学者だ。私が生まれた原因も、研究で試してたらできちゃったから、っぽいし。

 

 私は放置されながらも、草を食べて生き延び(薬学学んでたおかげでなんとか生き延びた)、きのこを食べ(きのこも大体見分けれる)、川の水を飲み……草食動物みたいな人生を送っていた。

 ここ、知恵の国スメールじゃないんすかー! 文明ランク全人生中最下位っすよー! と文句を言いたいが、その知恵の国の神のナヒーダは、もっと可哀想な目にあっているので、何も言えない。

 

 キノコや草を齧ってギリギリ生きる毎日……楽しいわけがなかった。

 

「そろそろ成長してきたし……逃げどきかなー」

 

 そんなわけで、暇だった私は、フォンテーヌまで薬を売りながら旅をすることで、途中から馬車に乗ってフリーナに会う作戦を計画していた。

 フォンテーヌに行く理由は、前世はフリーナに会えなかったので、次こそは、と思ったからである。

 

 

 けれど、最初に地獄だと言った通り、人生そう簡単にうまくはいかない。

 旅に出ようと小銭を稼いでいたのに、私の両親がとうとう缶詰知識に手を出し始めた。そしてもちろん金欠になり、缶詰知識と私を交換しやがった! 

 

 そして、今に至る、と言うわけである。

 ちなみに、交換先は商人とかじゃなくて、ファデュイ! 

 

 こんなの、誰でも終わった、と思うだろう。いくら私でも絶望である。しかも、私は今のところファデュイが原因の死因が、二回もある。ファデュイの恐ろしさは身に染みていた。

 

「この子供、ガリガリだな。本当に研究素材になるのか?」

「いや、博士様曰く、このくらい生活環境の悪い子供の方が、普通よりもよっぽど丈夫らしい」

「ふーん、それも一理あるな。いいサンプルになるだろう」

 

 あっ(察し)

 私、実験台確定っすね。あー、泣きそう。泣いてもいいと思う。

 く、缶詰知識さえなければ、フリーナと今頃お茶会でもしてた予定なのに! 

 

 私は案の定鎖みたいなのを手首につけられ、そのままどこかに連れていかれた。

 暗い建物の中を歩き続けると、小さな牢屋みたいなところに雑に投げ入れられるように、入れられる。

 そこには、あともう一人子供がいるみたいだった。暗くて見えないけど、すぐ横に気配を感じた。

 私はファデュイが牢屋に鍵をかけて、遠くに去っていくのを確認してから、恐る恐る声をかけた。

 

「えーっと……はじめまして?」

「……誰だ」

 

 わー、警戒心マックスだ。仕方がないことである。私と違ってこの子は人生一回目みたいだし。

 そういえば、声からして女の子っぽい。私の外見年齢と同じくらい……だろうか? 

 

「シャーレ……だっけ? シャールだっけ? 確か、そんな名前っすよ」

 

 私はなんとか頭を振り絞って、名前を思い出した。

 名前なんて両親から数回呼ばれた程度なので、今世の名前よりも、よく使う蓮花の方が出てきてしまうのだ。

 私は暗闇の中、なんとかかき分けて女の子を探す。すると、ぺたりと人の肌らしきものに当たった。

 

「えっと、きみの名前は何っすか……」

「あたしに触んな!」

 

 女の子の警戒心マックスな声に、ピシリと固まって、私は手を引っ込めた。

 どっかで聞いたことあるセリフと声だなー……。

 

 もしかして、この子コレイちゃんだったりする? 

 

 顔は暗すぎて見えないからわからないけど、コレイちゃんな気がする。ファデュイの実験台で、この男の子っぽい話し方……多分、そうだ。

 コレイちゃんは漫画版を読んでた身としては、実装されたときの感動は凄かった。そのせいか、コレイちゃんは、フリーナの次くらいに好きなキャラだった。

 ん? コレイちゃんが居るってことは、ようやく魔神任務が始まる時期に近づいてきた……ってこと!? 

 え? 煙緋ちゃんに会える? よっしゃー! 早く会いたい! ……でもここに辿り着くまで長すぎて、色々と実感湧かないー。

 

「えっと、ごめんっす。驚かせて。でも、怪我してるでしょ? せめて薬だけでも塗る?」

「薬……ってことは、お前、いいところの出なのか?」

「え? 違うと思うっすよ?」

 

 確かに、その辺の人が薬を大量に懐に忍ばせてるなんてこと、ないわー……。

 私は大量の薬を、髪のお団子の中や、ポケットや、服の袖の中や、更には靴の底の中から出して、そっと端っこに置いた。

 

 あ、ちょっと引いてるな。コレイちゃんがスス、と後退りする音がした。

 

「なんでそんなに持ってるんだ……?」

「え? 家出したとき薬を売ろうと思って、忍ばせてたら、そのままここに売られちゃったんすよ」

「阿呆なのか?」

 

 コレイちゃんが半目で訝しげに見てる……気がする。

 

「アホじゃないっすよ! 私は悪くないもん!」

「あー、そうか分かった」

「絶対わかってない声してるっすよ!」

 

 コレイちゃんの適当な返事にむすっとしていたら、コレイちゃんがぷっと小さく吹き出す声が聞こえた。

 わ、笑ってくれたー! 

 嬉しくてニヤニヤしてしまうが、コレイちゃんは私の顔が見えていない。ニヤニヤし放題である。

 それにしても、割とまだ早い時期だからか、コレイちゃんのやさぐれ度が低い。

 これならまだ仲良くなって曇らせれ……ゴホン! 友達になれる! 

 ……この通り、今世も業障は健在である。体の痛みも常にあるレベルだ。世界は私に厳しい。

 

「……お前、ここがどんな場所か知っているのか?」

「ファデュイの実験場……多分、博士のっすかね? 魔神の残滓を入れる実験でしょー? 知ってるっすよー」

 

 軽く、息を呑むような声が聞こえた。空気が途端にピンと張り詰める。

 あちゃー、詳しく話しすぎた。そりゃ入りたてでこんな知ってる人なんて居ないよなぁ……。

 

「お前、あいつらの協力者か?」

 

 コレイちゃんがそう言った途端、部屋が少し明るくなった。コレイちゃんの顔がはっきり見える。緑の髪に、紫の瞳。そんなゲーム通りのコレイちゃんの体からは、蛇のような模様が浮き彫りになって、ぎらぎらと光っていた。

 

「協力者じゃないっすよ。私は逆に、ファデュイは嫌いな方っすね」

 

 二回殺されてるからね! 弟を誑かしやがったし! 

 とは言えないので、理由は話さずに黙っていたら、コレイちゃんも特に聞いてきたりはせず、そのまま黙りこくった。

 

 結局仲良くなれかけたのに、また距離が遠くなって、一日目は終わった。

 

 

 

 

「お前、早く起きろ」

「ふぁぁ……肉まん釣りは難易度高めっすよねー。まだモンドの川の方が、釣りやすいけどスメールはね……」

「どんな寝ぼけ方なんだ!?」

 

 肉まん釣りって難易度高いよね……。個人的には、カレーうどんの方が難しいと思────────

 はっ! 私、何言ってるんすか!? 

 ようやく夢から現実へ戻ってきた。

 

 真っ暗なジメジメとした牢屋の中で、座りながら眠っていた私は、コレイちゃんに言われて起き上がった。

 

「おはようっす」

「………………朝ごはん、食べろよ。今日は、お前も実験台にされるだろうし」

「それもそうっすねぇ。ところで、朝ごはんはどこー?」

 

 当然のように挨拶はガン無視され、目の前に何かを置かれた。恐らく、この目の前に置かれたのが、朝ごはんだろう。

 私は皿の上に乗ってるらしいパンを、頬張った。

 

「味は期待しない方がいい。あいつらはあたしたちのことなんて、何も考えてないんだ。実験ができればそれでいいと…………」

「えっ美味い何これ」

「は?」

 

 私は食べた途端、思わずつぶやいた。今世の私の食べていたものを思い出そう。

 クッソ苦い草、無味のキノコ、あと運が良ければザイトゥン桃が食べれるくらい。

 つまり、パンってだけでご馳走である。

 

「文明の味がするっすねー」

「お前、どんな生活してたんだ?」

 

 コレイちゃんの鋭いツッコミが走るが、関係なく、私は勢いよくパンを齧った。

 もそもそとした食感。ややしけってるような気もするが、なんと言っても味がある。ほんのり塩の味がするので、ものすごく味覚が反応するのだ。

 それだけで泣けてくる。前まで普通にパンどころか杏仁豆腐を食べていたはずなのに……! 

 

「うまいっす。ファデュイ、マジあざまるっす」

「お前は嫌いな敵に感謝するのか……?」

「はっ、確かに! やっぱ今の取り消しで」

 

 慌てて取り消した私は、かぶっちを返せー! と叫んでおいた。……と言っても、タルタルとかお父様は好きなキャラだったし、少女ちゃんのために原石を貯めてたんだけど……。それとこれは別なのだ。

 うるさそうにしているコレイちゃんを無視して、また残りのパンを食べようとしたところで、誰かがこの牢屋に近づいてきてる音がした。

 

「静かにしろ。できるだけ逆らっちゃダメだ」

「了解っす」

 

 コレイちゃんが、助言してくれる。冷たく接してくるが、やっぱり優しい。

 私は大人しく口を閉ざした。

 

 コツ、コツと足音が近づいてくる。ファデュイたちは、私たちの牢屋の前に来ると、ぴたりと足を止め、牢屋の鍵を開けた。

 

「ついて来い」

 

 その一言だけを言ってきたファデュイの手には、武器が握られていた。

 私はごくりと喉を鳴らした。武器を持っていない時に、武器を構えられると、つい身構えてしまう。人類と言う名の動物として、当たり前のことだった。

 コレイちゃんと私は、大人しくファデュイについて行った。そうするしか、なかった。

 

 連れて行かれた先には、たくさんのファデュイの研究者が並んでいた。コレイちゃんは、私と違うところへ連れて行かれ、私はひとり取り残された。

 

「……ぶぇっ」

 

 濁点がなかったら可愛らしいはずだった悲鳴をあげ、私は目を押さえた。

 突然、明るくなったから、目をやられたのだ。気分はかの有名な大佐である。目が、目がーッ! 

 私が眩しがっているのなんて関係なく、ファデュイは私の四肢を押さえてきた。

 

「こいつに魔神の残滓を入れろ。腕に打ち込め」

「分かりました!」

 

 ファデュイが近づけてきたのは、注射器。小さい時の私の天敵だ。

 中身は明らかにヤバそうな、紫色の液体。コレイちゃんに入れられた、魔神の残滓だろう。

 正直コレを打ち込まれたら、今世はハードモードどころかルナティックモード確定な気がするので、辞めていただきたい。が、暴れたくとも手足は押さえられている。

 

「ひぇぇ……」

 

 情けない声が漏れるが、ファデュイは容赦なんてしてくれない。

 ぷち、と腕に注射器が突き刺さった。そして、勢いよく液体が体内に侵入し────。

 

「ぐああああああぁぁぁ!!!!!」

 

 痛い、痛い、痛い! あまりの痛みに頭がおかしくなる。なんなんだ、こんな痛みをコレイちゃんは経験したのだろうか? 人間が耐えれる痛みではない。

 ぐるぐると目がまわる。魔神の残滓を入れられた途端、体内に居る業障が暴れ出した。

 内臓を掻き回されるような痛みに襲われる。業障……! ここぞとばかりに暴れるなんて、最悪だ。

 

 

 ────ん? 業障? あっ……。

 

 私は急にすん、と正気に戻った。痛みは感じるが、そんなことよりもまずいことに気づいたのである。

 

 業障=魔神の怨念みたいなやつ。

 魔神の残滓=業障みたいなもの。

 つまり、業障+魔神の残滓=ヤバい。

 

「コイツ、何も症状が出ないぞ。失敗か?」

「そうかもしれないな……。今日は一応やめておいて、明日も入れたほうが良さそうだ」

「ぐ……え……いった……」

 

 業障と残滓の相性は、最悪だった。

 私は業障に取り憑かれていたせいで、魔神の残滓にも耐性があるらしい。そのせいで、コレイちゃんのように魔神の力が使えたり、乗っ取られたりはしない。

 ただ、激しい痛みが無限に全身を襲うだけだ。

 

 猛烈な痛みに、だんだんと意識が遠のいていく。

 

 

「コイツは放っておこう。俺たちの人生にはいらない存在だ」

 

 耳によく馴染む、けれど冷たい声。そんな声が、意識が消える直前に、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 何かを無理矢理、口の中に押し込まれた。その不快感で、私は目を開けた。

 

「……もぐもぐ……これなに……?」

「お前、起きたのか? これは朝ごはんのパンだ。お前、昨日はずっと寝てたから、ちょっとでも栄養を取らないと、死ぬぞ」

 

 コレイちゃんが、パンを食べさせてくれていたらしい。私はパンを飲み込んでから、コレイちゃんの全身から漂う血の匂いに、顔を顰めた。

 

「怪我してるっすよね? ちょっと待って欲しいっす」

「怪我はしてるけど……。って、あたしに何をする気だ!」

 

 私は端の方に置いていた薬を取って、傷薬らしきものの入れ物を取り出した。確か、薬によって包んでる葉っぱの種類を変えてたから、手触りでわかるはずだ。

 

「薬を塗らないと、病気にかかったりしたら、大変っすよ? せめて消毒だけでもしないと」

「お前、医者でもやってたのか? ……いや、医者ならここまで貧しくはないか……?」

「医者と言うより、薬屋っすね。医者もやれるけど」

 

 私が足首に雑に巻いていた包帯を外して、コレイちゃんの傷口に薬を塗ってから付けていく。

 コレイちゃんは、今日は暴れたりしなかった。ただ、無言で私に薬を塗られるのを受け入れていた。

 

 全ての傷口に塗り終えたら、コレイちゃんはようやく口を開いた。

 

「お前も、あの薬を入れられたのか?」

「うん……まぁ。でも、耐性があったっぽいから、次も入れられるらしいっすねー」

「そうか。……その、痛くないか?」

「痛いっすねー。これを耐えてた君は偉いと思うっす」

 

 コレイちゃんは、小さな声で、ありがとう、と早口に言った。

 私は、人生で一番とまでも思える痛みに、無言で地面にうずくまった。

 業障+魔神の残滓は、マジで痛すぎる。気を抜けば、業障に乗っ取られそうだった。

 

「あぁ、なんて素敵なんでしょう」

「ん? なんか言ったっすか?」

「え? 何も言ってないけど。空耳じゃないか?」

 

 誰かが、私の耳に囁いた気がして、私はぐるぐると辺りを見回した。あまりの痛みに、耳までおかしくなったのだろうか? 

 それとも……まさか、業障に乗っ取られかけてたりする……? 

 ぎゃー!! それだけは嫌だ! 

 私は顔をぶんぶんと振り回した。そうすれば、なんとなく正気に戻れる気がしたからだ。

 

「よし! 私、平気! 大丈夫! 無敵っす!」

「いきなりどうしたんだ?」

 

 コレイちゃんに心配されるが、これは必要なことである。多分。

 顔を振り回していたら、またコツコツと足音が聞こえてきた。ファデュイが来たのだ。

 私は仕方なく頭を振るのをやめて、地面に座った。

 

「おい、お前だけこっちに来い」

「え? 私っすか?」

「そうだと言っている。早く来い」

 

 ファデュイは、どうやら私だけをお呼びらしい。私はファデュイに、昨日と同じ場所に連れて行かれた。

 そして、また同じように手足を押さえつけられる。

 

「この残滓は、数倍に凝縮したものだから、流石に今回は成功するだろう」

「えっ数倍? 無理無理無理! マジ死ぬっす!」

「うるさい。静かにしろ」

 

 私の抵抗虚しく、注射器の針が、腕に突き刺さった。

 あまりの痛みに、まさかの声すら出ない。息ができない。苦しい。酸素が足りない。

 息をしようと、自然と口が開く。きっと私は今、無様な顔をしていることだろう。

 でも、そうしないと、これは本当に、死ぬ。

 

 遠のいた意識の中、膨大な知識がいきなり流れ込んできた。

 

「コイツは放っておこう」

「あの子、何言ってるかマジわかんなーい。キモいわー。ふしぎちゃんアピール? エセ天然とか、嫌悪しかないんだけど?」

「あの子、両親から無視されてるんですって、かわいそうに」

「自殺だけはしちゃダメだよ、としか言えないねぇ。警察にギリギリ通報できないラインだから」

「これが本当の虐待かもね。かわいそうに、本当に」

 

 急にたくさんの声が聞こえて、私は混乱した。

 聞いたことがある。この全ての発言も、声も。どこで聞いた? 

 そうだ、日本だ。私は、高校生だった。アルバイトのお金で、原神の課金をしてた。いじめをずっと受けていた。両親と話したことはなかった。ひとりぼっちだった。みんなから哀れまれていた。

 

 

 あぁ。全部、思い出した。

 

 

 

 

 

 日本で生きていた時、私に向けられた最大の好意の感情は、かわいそう、だった。

 

 私の両親は、私に無関心だった。食べ物はくれたし、スマホだって与えてくれた。

 でも、私は両親と話したことは一度たりともなかった。

 私は両親に無視をされていた。だって、二人とも子供に興味はなかったから。でも捕まりたくはないから、私にごく一般的に与えるものは、雑に私の部屋に置いてあった。

 それが、さらに私の人生の過酷さを加速させていた。

 

 幼い時、誰とも話さなかったせいで、私は常識に欠けていた。だから、小学校では友達ができなくて、いつも一人。中学生では案の定いじめられて、高校はさらにエスカレートした。先生は、自分がやられるのを恐れて、何もしなかった。

 

 近所の人たちは、そんな私をかわいそうだと言った。いじめまでは知らなかったみたいだけど、両親からの冷遇は知っていたからだ。

 ある日、私にこう言ってくれた。

 

「死んじゃ、ダメだよ。もっと大きくなったら、きっと幸せになれるから」

「本当に、かわいそうだけど、何もできないんだよ。ごめんね」

 

 私は、誰から見ても、「かわいそう」な子だったことだろう。

 普通は、絶望して自殺なんて、全然あり得たんだろう。

 

 

 でもね、私、おかしかったんだ。

 

 私、かわいそうな自分が好き。

 それから、幸せになれない私が好き。何もできなくて、悔しそうにする周りが好き。周りが、自分の臆病さに曇っていく様子が好き。

 

 もっと、もっと、もっと、曇らせたい。

 近所の人たちに、可哀想だと言われて、そう思った私は──────次の日、学校の前に遺書を貼り付けてから、同級生の目の前で電車に轢かれ、自殺した。

 

 

 

 

「え……。私……は」

 

 息が自然と荒くなる。普通に呼吸する方法を、体が忘れてしまった。

 じゃあ、私が魈が苦しむのを見て楽しんでいたのも、ウェンティの悲しむ姿を想像して喜んでいたのも、かぶっちが怒るのに満足したのも、フリーナに死んだことを知られなくてガッカリしたのも、全部全部、業障のせいなんかじゃなくて。

 私が、おかしいから? 

 

「業障……は。違う。業障のせいにきまってるよ。私は普通。普通に決まってる。そうだ。そうに決まってる」

 

 私は頭を抱え込みながら、ぶつぶつと呟いた。ファデュイたちが効かないだとか、いろいろと湧き立っているが、そんなものは気にならない。

 ただ、自分に対する深い失望で埋め尽くされていた。

 

 

 

 

 

「コイツは耐性が強すぎる。要らないから、捨てておくか」

「そうだな。そこらへんに捨てておくとしよう」

 

 絶望した少女は、ファデュイに連れられて研究所から外に出される。

 そして、雑に放り投げられ、そのまま放置された。そのとき、ガン、と強く頭を打った。少女は頭を押さえて気絶した。ファデュイはそんなことは気にせずに、研究所へ戻って行った。

 少女はしばらくして、むくりと起き上がる。

 

「ん? ここどこ? なんか見たことある風景だなぁ……。

 

 も、もしかして、原神? この感じだと、ようやく原作時空? しかも、スメールかな?」

 

 希望に満ちた瞳で、少女はくるりと回った。

 

「日本で曇らせるだけじゃ、飽きてたから丁度いいかー! ガンガン曇らせるぞー!」

 

 ペタペタと、裸足で雨林の草花を踏み締めて走り出す。

 そんな元気な仕草とは反対に、少女は、まるで死んだような目をしていた。




曇らせはないけど、薄いようでいて割と濃い内容。
感想欄で一話目から主人公の正体を当てられて、めちゃくちゃ内心びっくりしてました。ようやく業障君にかかっていた冤罪発覚。かわいそうに。
次回からは曇らせありです。

どんなエンドがいい?(イフエンドも書く予定)

  • バッド(主人公にとってハッピー)
  • ハッピーエンド
  • その中間くらい
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