何度も転生する主人公が、死ぬたびに周りを曇らせていく話。   作:ルヴレ

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どこまでも ついてくるよ 業障は


この恨み、覚えておくわ!と言ってみたい。

 

 

「うおわっ!」

 

 意味のわからない叫び声と共に、勢いよくふかふかなベッドから起き上がった。

 

「リーリエお嬢様。ローレンス家の名に恥じぬ行いを」

「え? ローレンス? この恨み覚えておくわで有名な?」

「……お嬢様」

 

 あれ? おかしいな。私、さっき死んだばかりだったと思うんだけど。あれ、もしかしてまた転生した? 

 私は夜叉の蓮花として、敵に殺されて死んだはずだった。しかし、今は見るからにお金持ちそうな家のベッドにいる。

 しかし、今の状況がわからない。それはもう、私の今世の名前すら分からない。

 もしかして、転生じゃなくて憑依……とか? ま、似たようなものか。

 

「はい、分かってるっすよ。なるほど、今世の私はお嬢様ってやつかー」

「その話し方を改めてください」

「そういえば、今魔神戦争終わってる?」

「いい加減にしてください! そろそろ、舞踏会の時間です!」

 

 そう言われて、ようやく正気に戻る。

 ぶ、舞踏会? ちょっと待って、私踊れないんだけど? マナーも全く分からない。あ、武道会なら優勝候補かもしれないけど。

 私はお腹をわざとらしく抱えた。

 

「メイドさん、私ちょーお腹痛いっす。ちょっと寝てもいいっすよね? そういうわけなんで、おやすみー」

「お嬢様……お願いです。あなたが行かなければ、私が怒られるのです」

「…………あー、そっかー」

 

 前の私はぼっちの下っ端夜叉だったから、サボるのは簡単だったけど、今回はよりにもよって貴族。しかもローレンス家。そして、多分エウルアが生まれるめちゃくちゃ前の時代だ。つまり、権力はおそらくモンド1だろう。

 私は座っていたベッドから立ち上がると、舞踏会の会場へ歩き出した。

 

 

「リーリエ様、素敵なドレスですわ」

「本当。どこで手に入れたのですか? わたくしも欲しいくらいですわ。……ねぇ? 皆さんもそう思いません?」

「えぇ、そう思いますわ」

「あばばばばば…………」

 

 運良くダンスを踊るのは体調不良という理由をこじつけて休めたが、その次に私を待っていたのが、お嬢様トーク。

 言葉の裏に一個一個裏があるのやめてもらっていいすか? あぁ、みんなに会いたい。帝君……魈……甘雨……帰終様……! あのあったかい雰囲気が恋しいよー! 

 

「ドレスを手に入れた場所は、内緒っす……じゃなくて内緒ですわー」

 

 そう言って誤魔化す。ちなみにドレスを手に入れた場所は、もちろん覚えていない。私の今世の名前もよく分かってないレベルなので、当たり前だけど。

 

「そういえば、リーリエ様、もしよければこのワインはいかが?」

「あ、貰います」

 

 私は美味しそうなワインを見せられて、即答した。私は前世で子供扱いされて、お酒を飲ませてもらえなかったからだ。

 

「やっぱりワイン最高ー! じゃなくて、大変美味ですこと」

「そ、それはよかったですわ」

 

 なんか渡してくれた子、引いてない? 気のせいか! 

 

 

 そしてそんな生活を送る事、六ヶ月。私は限界を感じていた。

 

「自由の国モンドなんじゃないのー!?」

 

 毎日毎日、舞踏会、ダンスの稽古、楽器の練習……。これなら杏仁豆腐を作って葉書を書いてたあの時のほうが、百倍はいい。てか、杏仁豆腐食べたい。魈が喜んでる姿を見たい。(前世は感想を言われることすらなく死んだし)それから、帰終様に甘やかされたい。助けて帝君! 私は八つ当たりに枕をぽすぽすと殴った。

 

「あ、そうだ、息抜きに家出しよう!」

 

 耐えきれなくなった私は、夜の間だけ屋敷から出ることにした。璃月に逃げたいけど、今世の私は夜叉じゃない。人間だ。それも、運動不足のお嬢様。おそらく、私の足では璃月に辿り着くことはできない。

 

「酒でも飲むかー」

 

 モンドといえば、お酒だしね。ということで、家を抜け出して酒場に向かうことにした。

 

 

 

「いらっしゃい。好きなところに座ってくれ」

「了解っす!」

 

 ローレンス家の警備は、甘々だった。てか、今のモンドはローレンス家の独占政治状態だ。私を見つけても、逆らうことすらできないだろう。

 

「旦那ー。おすすめのを頼むよー」

「分かった。少し待て」

 

 適当な席に座ると、横の席に座っていた人が、ポロンとハープの音を鳴らした。吟遊詩人だろうか? そう思って、私は隣の人を見た。

 

「うぇ……!?」

「どうしたの? 気持ち悪い?」

 

 ウェンティじゃん! と声に出しかけて、慌てて口を閉ざす。そのせいで吐きかけている人みたいになって、ウェンティに心配された。

 煙緋ちゃん程じゃないけど、ウェンティは割と好きなキャラの部類だった。だから、嬉しくなるし、テンションがめっちゃ上がる。勿論、今は魈や帝君に会えたほうが嬉しいが。

 

「いやー。ごめん、今の時代に吟遊詩人なんているんだーって思って、びっくりして」

「どういうこと?」

 

 やべー。適当にいい訳したけど、理由考えてなかった。ウェンティの不思議そうな目がグサグサと突き刺さる。

 

「だって、今のモンドはローレンス家が支配してるんすよ? 目立つことをしてたら、下手したら処刑もあるし? ローレンス家は傲慢っすから! おにーさんも気をつけてー?」

 

 冷や汗が内心ダラダラだ。けど、嘘は言ってない。本当のことだ。処刑ってのは少し大袈裟かもしれないけど。ウェンティは、私の言葉を聞いて、神妙な顔をした。どうやら、上手く言いくるめたらしい。

 

「……そうなんだね。重要な助言をありがとう。何かお礼……そうだ! ボクの歌を一曲聞かせてあげる」

「い、いいんすか!?」

 

 思わずウェンティの肩を掴んで揺らした。ウェンティは楽しそうに笑って、ライアーを構えた。

 

 

 ウェンティの演奏は、ゲームの中で聴いたものとは比べ物にならないくらい、上手で心に響いた。私はお酒が来たのも気づかないくらいに、聞き入っていた。

 

「うわぁ……! 凄く綺麗だった! なんていうか、その、心にジーンと来るって言うか……!」

 

 私が拙い語彙力でめいいっぱい伝えると、ウェンティは、それはよかったと嬉しそうに笑った。

 私がもう一曲、とねだる前に店主が呆れた様子で

「酒、飲まないのか?」

 と聞いてきたので、もう一曲聞くのは、明日に回すことにした。

 

 

 

 それから、私は毎日のように同じ酒場に通って、ウェンティにたくさんの曲を弾いてもらった。

 

「今日もあざまるっした! ウェンティ、お礼に私の描いた絵をあげるっす! 芸術には芸術で返せって言うよねー?」

「言わないと思うけど……。それに、キミはいつもモラを払ってくれてるし、お礼はいらないよ」

「えー。じゃあ、友達からのプレゼントってことで!」

 

 私は一曲弾き終わったウェンティに、自作の絵を押し付けた。私が毎日の睡眠時間を削って描いた絵。我ながら上手い。絵は前世に散々描きまくったのだ。自信はある。

 ウェンティは、何か悩んでから、「じゃあ、ボクも」と、白い羽の首飾りをくれた。

 

「おおー。綺麗ー! 本当に、私なんかが貰っていいの?」

「うん、友達からのプレゼントのお返しってやつだよ」

 

 そう言われると、ちょっと照れ臭い。前世では、友達っぽい人も居なかったし。

 

「えへへー、大切にするねー? ありがとう! ウェンティの音を聞いてると、なぜか心臓痛がなくなるし、いつも助かってるっす!」

「心臓痛? 体が弱いの?」

 

 今世の私は、病弱なのか時々心臓痛を感じる。しかし、ウェンティの演奏のおかげで、酒場に来てから感じなくなった。流石風神様だ! 

 

「ま、そうだけどー。でも酒場に来るくらいには元気だから、心配は要らないからね?」

「それなら、よかった! …………ねぇ、本当のこと答えてほしいんだけど、キミって貴族だったりする?」

「え? なんで?」

 

 突然、ウェンティが鋭いことを言って、私は驚いた。でも、貴族だと知られたら……しかもあのローレンス家の娘だなんて知られたら、嫌われるかもしれないし。

 私はぶんぶんと必死に首を横に振った。

 

「こんな変な話し方の、いちいち平民の酒場に来る貴族が居てたまるかー!」

「それもそうだね。キミは威厳とかなさそうだし?」

「むかー! 威厳ありまくりっすよ! ほら、見えないの? このオーラ!!!」

 

 怒りながらも、安心する。ウェンティは、いつも通りに笑った。けれど、その顔が何か決意を込めたような顔をしているのは、私の気のせいだろうか? 

 

 

 

「それにしても、綺麗な羽」

 

 次の日。休憩時間に私は角度を変えながら、ウェンティのくれた羽を見回した。思わず鼻歌を歌ってしまって、メイドに睨まれる。羽の首飾りは没収されそうになったけど、なんとか死守した。

 

「お嬢様」

 

 他のメイドが、珍しくノックせずに入ってきた。走ってきたのか、息を切らしている。

 

「旦那様が、魔龍を使って賭けをしたのですが、失敗して、モンド城を受け渡すと言ってしまったのです! そして、旦那様が激しく抵抗したのですが、平民に中に侵入されてしまい……! 

 早く、早く逃げないと、死んでしまう……」

「んー……。あー、なるほど、分かった」

 

 前世、戦場に居た私の判断力は、割と早い。状況は、分かった。今の時系列は、漫画版の原神の、プロローグのところだ。

 つまり、ヴァネッサとウェンティがローレンス家に勝ったってこと。ローレンス家の政治なんてない、自由で平和なモンドに戻ろうとしているのだ。そして、今のようなローレンス家は必要ないから、排除されかけてる……と。なるほど。昨日のウェンティの決意のこもった顔は、気のせいなんかじゃなかったんだ。

 ん? 待って、メイドの後ろに人がいない? 夜叉だった時の勘がそう言ってる。

 私は殺気を感じたので、ドアの前にいたメイドを引っ張って、無理矢理避けさせた。

 

「今のを避けさせるとは。お前が、ローレンスの娘、リーリエだな?」

「そうとも呼ばれてるかもねー?」

 

 私は、たくさんの武器を持った人たちに囲まれる中、強がって笑った。じりじりと、敵が近づいてくる。

 ああ、これ、無理だ。

 

「私の配下は、殺さないで欲しいっす。悪いのは、私だから」

「分かっているさ。……お前なら、いいんだろ?」

「うっ……」

「お嬢様っ!」

 

 私は囲まれている中の誰かに傷つけられて、腕を押さえた。軽く出血したが、そんなのは気にしない。

 それにしても──────私がここで死んだら、ウェンティは、自分のせいだと思ってくれるだろうか? 

 顔を曇らせてくれる? 泣いてくれるかな? それとも、私の葬式を立ててくれる? あぁ、想像するだけでもぞくぞくす……。

 

「ダメっすよ、私!」

 

 自分の顔を叩いて、なんとか正気に帰る。今の思考はなんだ? まるで業障みたいな症状……。もしかして私の心臓痛って、業障だったりしない? 

 転生しても、業障ってついてくるの!? 確かに、ウェンティが魈の業障を癒した、とかゲームに書いてあったけど! 

 

「あぁ、くそ…………」

 

 思わず声が漏れる。それなら、余計死ぬわけにはいかない。業障の思い通りなんかになりたくない。

 

「悪いな、お嬢様」

 

 けれど、人間の命って、案外儚い。

 

 心臓を刺された瞬間、世界がゆっくりに感じた。

 走馬灯が駆け巡り、自覚もなくいつの間にか膝を地面についていた。

 

「ウェンティっ!!! 許さない……! この恨みは絶対に果たしてやる……!」

 

 言うつもりのなかった言葉が血反吐と共に喉から飛び出して、そのまま力尽きて倒れる。

 夜叉だったら、このくらいじゃ死なないのにな。

 赤い血が、床をじわじわと染め上げていくのが、目の端で見えた。

 私は遠のく意識の中、ウェンティから貰った羽を、大切に握りしめた。




あっさりと死ぬ主人公。次回、ウェンティ視点です。

どんなエンドがいい?(イフエンドも書く予定)

  • バッド(主人公にとってハッピー)
  • ハッピーエンド
  • その中間くらい
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