何度も転生する主人公が、死ぬたびに周りを曇らせていく話。 作:ルヴレ
「うぇ……!?」
最初の出会いは、そこまで大きなものではなかった。彼女がウェンティの隣に座りいきなりえずいたので、ウェンティが声をかけただけ。
そして、彼女は長い眠りから目覚めたばかりのウェンティに、忠告をしてくれた。今のモンドは、ローレンス家の独裁政治状態。あまり目立つと、罰を与えられることもあるらしい。
ウェンティは教えてくれたお礼に、一曲だけ弾いてあげた。すると、彼女は予想外にも喜んで、拙い感想を、ウェンティに伝えてくれた。
彼女が酒を飲んで、すぐに帰っていくのを見届けた後、店主がぼそりとつぶやいた。
「あれは、いいとこの出だな」
「え? そうなの?」
気づきもしなかったウェンティに、店主は頷いた。
「服や肌を見れば分かる。あまりにも綺麗すぎるからな。貴族か、大商人の娘か……まぁ、そんなところだろう」
「へー。お客さんはいないのに、人を見る目はあるんだね?」
「おい、ツケを二倍にしてやろうか?」
店主を揶揄いながら、ウェンティは疑問に思った。もし彼女が貴族だとしたら、なぜローレンス家のことを忠告してくれたのだろうか? 立場から考えて、そんなことをしたら危険な気もするが……。
「ウェンティ、もう一回! もう一曲だけ弾いて欲しいっす!」
「えー。だめ、一日一曲だけ! 流石のボクもこのペースで毎日弾いてたら、全部の曲を弾き終えちゃいそうだし」
あれから大体五ヶ月。ほとんど毎日、彼女はウェンティの元へ訪れて、曲を弾くようにせがんだ。
ウェンティはその度に、一日一曲だけ弾いてあげていた。ウェンティも、なんだかんだでここまで喜ばれると嬉しかった。
彼女は、からになったコップを、店主に渡した。
「それもそうかー。旦那ー。このお酒もう一杯欲しいっすー」
「お前、大分酔いがまわってるだろう? やめておけ」
「えー」
酒好きのウェンティでも驚くほどに飲んでいた彼女の頰は、真っ赤に染まっている。それに、目はうるうると潤んでいた。……彼女の顔はそこそこ整ってはいるが、色気が少しも無いのはなぜだろうか、とウェンティは不思議になる。
それにしても、ここまで彼女が飲んだのは、初めてだった。恐らく家を抜け出してきている彼女は、帰りを考慮してあまり飲んでいなかったからだ。
「ねー、ウェンティ」
「ん? 何?」
酔った彼女は、机に突っ伏しながら、ウェンティに問いかけた。
「私って、嫌われてるのかなぁ」
「え、どうしたの? 君、変な食べ物でも食べた?」
いつもお気楽な彼女が、珍しくマイナスなことを言ったので、ウェンティは正気を疑った。けれど、どうやら普段言えない本音が、酔いのせいで出てきているらしい。
「私、父親に嫌われてるから、普段は部屋から出してもらえないし。お嬢様たちからは、嫌味しか言われないし……友達もいないし。私のこと好きな人なんて、いないんすよ。どうせ」
「そんなことないよ」
ウェンティは、思わず大きな声になり、言った。彼女は驚いたのか、ウェンティの方を振り向いて、瞬きを繰り返した。
「それとも、ボクって君の友達じゃなかったー? ボクは君のこと、友達だと思ってたんだけどなぁ?」
「え?」
わざとらしくウェンティがにやにやしながら言ったら、予想外にも彼女は視線を右往左往させた。
そして、照れたように笑った。
「えへへ……。そっかぁー」
彼女の安心した声が、同時にウェンティの心も安心させる。いつも太陽みたいな彼女が、暗い顔をしているのは、嫌だった。
「友達なら教えてほしいんだけど、君の名前って何?」
「内緒っす」
彼女はウェンティに名前を教えてくれない。
何を聞いても内緒、の一言だけ。出会ってからずっとこうだから、なんだか今頃知っても違和感がある気はする。
だから、ウェンティは無理に聞き出すことはしなかった。
しかし、ウェンティは、このとき無理にでも聞いておくべきだった、と後悔することになる。
「今日はバドルドー祭りが開催されてるな。一応」
次の日の昼間、りんご売りに演奏をして、チップをもらったウェンティは、今日がバドルドー祭りだということを知った。
ウェンティの知る限り、バドルドー祭りは年に一度の大イベント。行かないという選択肢はない。ウェンティがこの祭りが大好きだというのもある。
けれど、それと同時に──今のモンドの状況をさらによく知る、チャンスでもあった。
「こうしちゃいられない!」
「お、おい。やめておいた方が……」
りんご売りに止められたが、ウェンティは聞かずに祭りの会場へ向かった。
風神として、モンドをこのままにするわけには、いかないのだから。
ウェンティはそこで、貴族の恨みを買ってしまい、奴隷の少女、ヴァネッサに助けられた。代わりに捕まったヴァネッサと牢屋で話し、ウェンティは、彼女に協力することを決めた。
モンドに、元の平穏を取り戻すために、貴族──ローレンス家に反抗することを決めたのだ。
「ねぇ、本当のことを答えてほしいんだけど、君って貴族だったりする?」
だからこそ、彼女が巻き込まれないように、貴族──それもローレンス家ではないかを確かめる必要があった。
恐らく彼女は貴族。彼女自身は言っていないけど、この前は友達だと認め合った仲だ。きっと、彼女は答えてくれるだろうと、ウェンティは思っていた。
しかし、彼女はウェンティに嘘をついた。
「こんな変な話し方の、いちいち平民の酒場に来る貴族が居てたまるかー!」
ウェンティは、自分を信用してくれていなかったことに、少し傷ついた。けれど、それを表に出さないように、ウェンティはからかった。
もう一度、聞くことはできなかった。彼女に無理に問い詰めて、怖がられるのは、どうしても嫌だったから。
「……ボクって、そんなに信用できないかな」
彼女の帰った後、彼女のくれた、一輪の百合が描いてある絵を見ながら、ウェンティはひとりごとを言った。
店主は、小さく笑いながら、答えた。
「そんなもの、明日に聞けば、分かることさ」
それもそうか、とウェンティは思った。
けれど──必ずしも、いつもの明日があるわけではないことを、ウェンティは思い知った。
「風神様!」
「何ー?」
「着いてきて欲しいところがあるんです!」
それは、ローレンス家に勝ち、元のモンドの平穏を取り戻した日のことだった。
ウェンティは、一人の平民から呼び出された。ウェンティは事後処理で忙しかったので、乗り気ではなかったが、仕方なくついて行った。
その平民の持っている剣には、血がべったりと付いている。……ローレンス家の人間は、多少無力化はさせたが、殆ど死者は出さなかったはずだ。
しかし、あの剣についている血の量は、間違いなく致死量だ。
「死者でも出たの?」
「はい! しかし、そこまでお気になさるような相手ではありません! むしろ、せいせいするくらいです!」
「せいせい……?」
「はい! あ、この部屋です!」
連れてこられたのは、ローレンス家の屋敷の中にある、一つの部屋。
ウェンティは、特に何も思わず、部屋の扉を開けた。
途端に鼻をつく、死臭。部屋中に血が飛び散っていて、その中心には淡いラベンダー色の髪の少女が倒れていた。
その少女の姿を見たウェンティは、心臓が大きく脈打つのを感じた。
彼女の髪と、同じ色だった。彼女も同じ淡いラベンダー色の髪だった。
「…………君、じゃ……ないよね?」
「風神様?」
ウェンティは、少女に駆け寄り、顔を見ようと、体に触れた。
冷たい。
すでに、少女は死んでいた。少女は、高そうなドレスに身を包んでいて、身分の高い人物であることが、よくわかった。
恐る恐る、ウェンティは、少女の顔を見る。
「…………え」
彼女だった。
心臓には剣の突き刺さった後があり、彼女の明るい緑の瞳は、憎しげに吊り上げられたまま、死んでいた。太陽のような笑みを浮かべる彼女の面影のない表情だった。
「嘘……だ。ボクのせいで……彼女は……」
極めつけには、彼女の手。彼女はウェンティのあげた羽の首飾りを握りしめていた。
「風神様? リーリエ・ローレンスとお知り合いなのですか?」
「彼女は……うん、ボクの知り合いだよ」
そうか、彼女はリーリエというのか、とウェンティは思う。
そこで、彼女のくれた絵を思い出した。
彼女は、百合の花の絵をくれた。そして、リーリエとは百合を意味する。
彼女はもしかしたら、ウェンティに嫌われたくなくて、ローレンス家であることを内緒にしたのかもしれない。けれど、嘘はつきたくはなくて、百合の絵を渡して、ウェンティが気づくのを待っていたのではないか。
そう考えてみるが、真実は分からないまま。だって、彼女──リーリエは、死んだから。ウェンティが、殺したから。
「彼女は……君が殺したの?」
「は、はい。リーリエといえば、悪女で有名ですから」
「彼女は、最期になんと言っていたの?」
ウェンティは、リーリエの他の噂など、気にもしなかった。だって、リーリエは太陽のように明るくて、優しい少女だと、知っていたから。それよりも、リーリエがウェンティを恨んでいないか。それだけが、怖くて、知りたかった。
「彼女は最期に────ウェンティ、許さない。この恨みは絶対に果たしてやる……と、言っていました。ウェンティって、誰のことなんでしょうね?」
「…………そう、なんだ」
ウェンティは、心の中で思う。
全て、ボクのせいだ、と。
ウェンティは、彼女に嫌われるのを怖がって、貴族であるか再度聞くのをやめた。そして、名前も数回問い詰めるだけで終えてしまった。
ウェンティが、もっと彼女に色々と尋ねていれば、こんなことにはならなかったはずだ。
もし、彼女が蘇ってウェンティを殺しにきたら、ウェンティは喜んで死を享受することだろう。
……もちろん、彼女はもう二度と、起き上がらない。ウェンティは、永遠にリーリエに許してもらえないのだ。
「ごめんね、リーリエ」
そう分かっているのに、ウェンティは謝った。
そうすれば、いつか許されるかもしれないと、幻想を抱きながら。
ウェンティ、魈よりも曇ったかもしれん…。ちょっとプロットに変更があったので、更新が遅くなるかも?
どんなエンドがいい?(イフエンドも書く予定)
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バッド(主人公にとってハッピー)
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ハッピーエンド
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その中間くらい