何度も転生する主人公が、死ぬたびに周りを曇らせていく話。 作:ルヴレ
稲妻の景色。久しぶりにこれを見ると、どうしても思い出す。
脳裏に張り付くほどに恐ろしいことも、スカラマシュの人生の中で唯一幸せだったことも。
「スカラマシュ様? 立ち止まって、どうしたんですか?」
「特に理由もないよ。君が僕の感情を理解できるとでも思っているのかい?」
当たり前のように、暴言が口からこぼれ落ちる。けれど、そう。数百年前は、そんな暴言は一つも吐いたことがなかった。
兄や友のために助けを求め──しかし雷電将軍がたたら砂を見捨てた、あの日まで。
スカラマシュはその時、兄と共に暮らしていた。
おかしな兄だった。女物の服を着て、聞いたこともない変わった話し方で話す。顔立ちだって、女の子みたい。けれど、彼はあくまで男を自称するのである。
最初、彼がスカラマシュを引き取ることが決まってからは不安だったけど、スカラマシュは彼で良かったと思っている。
彼は変わり者だけど、優しくて、何よりスカラマシュのことを、心から愛してくれていたから。
「蓮花。それ、誰に書いてるの?」
「これ?」
ある日、スカラマシュは蓮花が手紙を書いているのをみた。蓮花は何度も同じ主から手紙をもらっているのか、机の上には同じ便箋の手紙がいくつも転がっていた。
「これは、魈に書いてるんすよー」
「しょう? しょうって、誰? 女の子? 蓮花の恋人?」
「え? ち、違う違う! 魈は男の子だし、恋人じゃないっす!」
そう言って手を横に振って否定した蓮花の顔は、ほんのり赤い。
スカラマシュは、その時兄は同性愛者であることを、確信したのだった──!
「そういえば、かぶっち。あげるっす」
蓮花は、机の上に置いてあった一冊の本を取り出した。綺麗な花の絵が描いてある本だ。
スカラマシュは、その本を差し出され、困惑しながら受け取った。
「私が描いた本なんだけど、もしよければ使って欲しいっす。かぶっちは刀鍛冶志望みたいだし、要らないかもしれないけど、薬の作り方が載ってるから」
スカラマシュは、ニコリと笑う蓮花に、こころが温かくなるのを感じた。人形である自分も、嬉しいと思うことができるのだと、その時何故か改めて感じた。
蓮花はきっと、暖かい家で育ったのだと思った。そうで無ければ、こんなに真っ直ぐな人にはならないと、思っていた。
けれど、その考えはすぐになくなった。
それは、蓮花が風呂に入っていたのに気付かず、間違えて入ってしまった時だった。
「えっ、ちょ、まっ……」
蓮花が声を荒げて、体を隠した。それでも、やはり見えてしまう。
大量の、傷痕が。
いつも常にマフラーを巻いている首筋には、何度も絞められたような跡。腕には大量の斬られた跡があって、殴られ蹴られたのか、あざが消えずに残っている。全て、服を着たらわからないような場所ばかり。顔には傷一つもない。
虐待。考えられるのは、それ以外思いつかなかった。その時、スカラマシュは蓮花から逃げてしまった。蓮花のひどく傷ついた表情が、その日のスカラマシュの頭から離れなかった。
次の日、スカラマシュは蓮花に謝り、蓮花の傷について調べた。蓮花は「あ、そっち?」と呟いてから、思い出すように遠くを見て話し出した。
「私は、親が割と毒親ってやつで、見ての通り、虐待されてたんすよー。で、逃げてきた私を助けてくれたのが、璃月の……てい……えー……あ、そうだ鍾離。鍾離って人で、手紙をくれてる甘雨と魈は私の義理の妹? 姉? 兄? ……ま、そんな感じ」
そう話しながら、蓮花はひっきりなしに首を触った。そこは、蓮花の首が絞められた痕がある部分だ。軽く話しているけれど、実際はそんな物ではなかったのだろう。現に蓮花は、何度も首を触り、また絞められないか怯えてる。多分、無意識だろう。
「僕は……蓮花を傷つけたりは、しないから。蓮花のしてくれたことを、仇で返すつもりはない。だから、僕を信じて欲しい」
「かぶっち……。大丈夫。私はかぶっちのこと、ずっと信じてるっすから」
蓮花はそう言いながら、スカラマシュの手を掴んでくれた。よく触れてみると、蓮花の指は女の子のものように細く華奢だ。
信じてくれる兄に、嘘をつくのはあまりにも忍びなかった。スカラマシュは、全てを話した。
自分は人形なこと。雷電将軍に作られ、捨てられたこと。けれど、蓮花は驚くことすらせず、頷いて話を聞いてくれた。
「実は、知ってたんすよ。かぶっちが人形だってこと。最初に会った時、手を握っても脈を感じなかったからねー」
「蓮花は……僕のこと、怖くない? 嫌いに、ならない……?」
スカラマシュが怖がっていたことを尋ねると、蓮花は驚いて目を丸くさせてから、大きな声で笑った。
スカラマシュは想像していた反応と違ったので、ぽかんとした間抜けな顔をしてしまった。
「かぶっちは、人間だよ。だって、感情があって、やりたいこともあって、食べ物の好き嫌いもあって……そこまで同じだったら、私は人形だとはどうしても思えないっすねぇ。丹羽さんもきっと、同じようなことを言ってくれるっすよ」
「でも……僕の体は、人形だ」
「うん。でも、心は人間でしょ?」
蓮花にそう言われて、スカラマシュは何だか言葉にし難い感情が胸を突き抜けるのを感じた。
人形だけど、こころは人間。
そう認められるだけで、どこかみんなと違うと思い、寂しかったこころが満たされた。
その日から、スカラマシュは蓮花のことを隠れて兄さんと呼ぶようになった。それがバレて蓮花に頭を撫で回されたのは、割とすぐだった。
蓮花はスカラマシュを弟だと思っている、と言ってくれた。スカラマシュも蓮花を兄だと思っているし、家族になったみたいで、嬉しかった。嬉しい、以外の言葉が思いつかないくらいには、本当に嬉しかったのだ。
「残念なことに……蓮花先生と丹羽様は、たたら砂を捨てて逃げました」
「え?」
だからこそ、フォンテーヌの発明家であるエッシャーにそう言われた時、何もかも信じられなかった。
エッシャーは信用できない。丹羽と蓮花に言われた言葉は、肝心な時に出てこない。スカラマシュは、本当に蓮花と丹羽がいなくなったことに絶望した。
そして、蓮花と丹羽は、本当にスカラマシュを裏切ったのだと思った。
それだけなら、どれほど楽なことだろうか。
きっと、今のように蓮花の化け物のようにぐちゃぐちゃにされた姿や、死んだ後の顔が脳裏を横切り、時折一人の部屋で発狂することはなかっただろう。
でも、そうやって苦しむ時、スカラマシュはある種の救いを感じる。
こうやって思い出していたら、きっと二度と蓮花を忘れることはないから。声も、顔も、その優しさも。
「スカラマシュ様。何だか、やっぱり顔色が悪いですよ?」
「気のせいだと、何度言えば分かる。君の頭には、綿でも詰まっているのかい?」
スカラマシュはそう言いながら、自分の手に自然と力がこもるのを感じた。
稲妻に来てから、何度も蓮花のことが頭をよぎる。それに、妙なぞわりとするような感覚があった。
「でも、そうだね。ここにいると、思い出すんだよ」
「思い出す?」
スカラマシュは、部下に向かってようやくまともに話し始めた。
「僕の兄のことを」
「兄? どんな名前なんですか?」
「蓮花。璃月だとリェンファと言うらしいけど、稲妻ではれんかと呼ばれていた」
「女の子みたいな名前ですね……」
部下にそう言われて、スカラマシュも今まで違和感もなく、その名前を受け入れていたことに気づいた。
「はぁ……これで満足かい? 早く行くよ」
「わ、分かりました!」
そして、スカラマシュは歩き出す。
その先にまた新たなる地獄が待っているとは、露知らず。
曇ってるキャラをさらに曇らせるのはいい。
どんなエンドがいい?(イフエンドも書く予定)
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バッド(主人公にとってハッピー)
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ハッピーエンド
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その中間くらい