何度も転生する主人公が、死ぬたびに周りを曇らせていく話。   作:ルヴレ

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TS要素はないです。勘違い要素が強めではあります。


蓮花は璃月から来た薬屋であり、女装好きの男らしい。

 

「蓮花殿、怪我をしたので傷薬を……」

「あ、怪我? いいよー? どこに違和感があるのか言って欲しいっす」

 

 私は草をすり潰して薬を作りながら、即答する。

 丹羽さんは、着物の袖を捲り上げて、傷口を見せて来た。私はそれを消毒しながら、大量にある棚から、傷薬を選び取る。

 

「それにしても、蓮花殿は名医でござるな。このたたら砂には、医者は居なくて困っていたから、蓮花殿が来てからは、みんなも安心しているであろう」

「えへへー。それほどでも? 私もまだ見習いだし。でも、力になれてるなら、何よりっす!」

 

 私はにこりと丹羽さんに向かって、微笑みかけた。

 

 そう。ここはたたら砂。璃月から逃げて来た私は、人が少なそうなたたら砂に引っ越した。

 けれど、丹羽さんが居る時点でご察し。ゲームをプレイしてた私は知っている。

 丹羽さんのいる時代のたたら砂は、数年後に大事件が起きてたくさん人が死ぬのである。

 

 丹羽さんを見つけた私は、即他の場所に引っ越そうとした。しかし、丹羽さんの一言でつい引き止められてしまった。

 

「何か、嫌なことでもあったのでござるか? もし、住民が嫌なことを言ったなら、拙者が謝ろう。だから、どうか考え直して欲しい。拙者でよければ、助けになるでござるよ」

「いや……と、特にないっす」

 

 あまりにも善意の籠ったきらきらとした目だったので、私は断れずにずるずるとたたら砂に住み続けている。

 勿論、過ごしていくうちに、私もたたら砂に愛着が湧いちゃったし、今は逃げるよりも、事件の解決の方を頑張ろうと思っている。

 放浪者が来る前に、たくさん作戦は練ったし、作戦に従って行動すれば、多分止めれるだろう。

 

「これでおっけーっす! あ、でも傷薬は渡しておくねー? お風呂の後とかには、塗ったほうが治りが早いっす!」

「かたじけないでござる」

 

 丹羽さんは、傷薬を風呂敷の中にしまった。そしてそのまま帰ろうとしたその時。

 どたどたとした足音が、ものすごい勢いで私の診察室に近づいて来た。急病人だろうか? 私は慌ててドアを開けて、患者の様子を見ようと身を乗り出した。

 そして、思わずつぶやく。

 

「……うわー。とうとう来たかー」

 

 そこには、桂木さんに肩を貸してもらっている放浪者の姿があった。

 放浪者──雷神の影ちゃんの人形で、未来にはファトゥスの散兵になり、さらに未来では記憶喪失になってスメールに住むとか言う……いろいろと設定モリモリなキャラだ。

 放浪者が来たってことは、エッシャーに変装した博士もそろそろやってくるってことだ。注意しなくてはならない。

 

「桂木さん、その男の子は誰っすか?」

「洞窟に倒れていたんだ。傾奇者と言う。念の為、この子を見てあげて欲しい。俺は丹羽様と話してくる」

「了解っす! さ、傾奇者くん、こっちに来てねー」

 

 私は放浪者(この時代では傾奇者)の手を引くふりをして、どさくさに紛れて手の脈を測った。

 脈は……やはりない。彼は人形だからだ。でも、ここで彼は人形だと公言するわけにはいかないので、嘘をつかなくてはならない。メンタルがやられる……。

 

「はじめまして! 私は璃月から来た薬屋の蓮花っす! 傾奇者くん……は言いにくいし、かぶっちでいいー?」

「か、かぶっち……?」

 

 明らかに困惑しているが、細かいことはいちいち気にしない。まず、ゲームでは放浪者にかさっちって名前をつけたから、かぶっちのほうが違和感がない。

 

「ねー、かぶっち。ちょっと聞きたいことがあるんだけどー」

「え……」

 

 私は放浪者──改めかぶっちの手を握った。かぶっちは明らかに怯えた顔をしている。

 うーん、やっぱり率直に人形なの? とか聞いたら、ここから逃げ出しそうだ。やめておこう。

 

「もし家がなければ、私の家に住まないっすか?」

 

 これは、博士を追い出すための作戦である。頭がおかしくなったとか、私が放浪者推しだとか、そういうわけではない。私の推しは煙緋ちゃん。何度でも言おう。…………コホン。話が逸れた。

 

 作戦といっても、割と単純な作戦だ。博士の目的の一つは、雷神の人形のかぶっちのこころを傷つけること。

 なら、博士を見張ればいいじゃない、というのがこの作戦の内容だ。かぶっちと一緒に住めば、かぶっちに信用されたい博士は、私の家に行かざるを得なくなる……つまり、博士を見張れるも同然である。

 

 え? 私の割に賢い作戦だって? そりゃそうだ。これ考えたの、甘雨と魈だし。

 甘雨と……特に魈とは今も毎週のように手紙を送り合う仲である。返事が返ってくるのは予想外だったので、嬉しい。

 流石にここがゲームの世界であることは、伏せてあるし、私が日本からの転生者であることも、内緒だけど、死ぬ直前に未来を見た、とだけ伝えてる。

 嘘をつくのは心が痛むが、仕方がない。

 

「い、一緒に住む……? でも、僕たちあったばかりの気が……」

「人生、そんなこともあるっすよ。多分」

 

 診察をしながら、曖昧に返す。このまま押し通せるか? と思っていた矢先に、桂木さんと話し終えた丹羽さんが、必死に止めてきた。

 

「男女が二人で住むのは危険でござるよ! 傾奇者の家に関しては、拙者が用意するから、問題はござらぬ」

「あれ? 私……女なんて言った? 女とは一言も言ってないっすよ?」

「え? つ、つまり……蓮花殿は……」

「ふふ」

 

 私はニコリと悪戯っぽく笑った。丹羽さんから私の胸元に視線を感じる。

 え? お前、男だったのかよ! と思うかもしれないけど、普通に女子だ。胸に関しては、胡桃よりもよっぽどない……てかまな板なので、見られてもバレる気もしない。絵を描くのが上手い、杏仁豆腐を作るのが上手いに続く、私の数少ない長所(?)である。

 

「かぶっちも、いきなり一人暮らしはきついでしょ? もしうちに来るなら、私がいろいろ教えてあげる。任せてっすよ! 

 勿論、仕事は何についてもいいからねー? 医者を無理やり継がせたりはしないから、安心してっす!」

「そ、それなら……。分かりました。よろしくお願いします!」

 

 やったー! と喜びたいところだが、一言いいだろうか? 

 

 かぶっちの性格、ゲームとの差が凄すぎて脳がバグる。

 

 

 

 

「かぶっちー。杏仁豆腐いるー?」

「僕、甘いものは嫌いだって、言わなかった?」

「あ、そうだった。ごめんごめん。魈に手紙書いてたら、作りたくなっちゃったんすよー」

 

 私は皿の上に入った大量の杏仁豆腐を見て、ため息をつく。私は大食いなほうだけど、この量を美味しく食べれる自信はない。

 

「その魈って人、甘いものが好きなの?」

「そうなんすよ!! 普段はカッコいいし、そのギャップがいいんすよー!」

「それを言うなら、蓮花も男なのに女装してるし、ギャップ? それがあるんじゃない?」

 

 私が自慢げに話すと、かぶっちは微妙な顔をした。

 

 あれから一年。それなのに、私は男と勘違いされたままである。

 それどころか、噂はさらに悪化。私が男らしい話し方なのが悪かったのだろうか? 

 

 私は女装趣味の璃月の薬屋の男というイメージがすっかり定着していた。

 

 ……どうしてこうなった。まず、先に言っておくけど、私はかぶっちに一瞬入浴しているのを見られたことがある。下半身は偶然風呂に浸かっていたからバレなかったけど、上半身は……普通に見えていた。

 そして勿論、かぶっちは私を見た途端呆然として、そのまま走り去った。

 

 いやー。バレたか、と思ったのに、次の日には言及すらされず、

「僕は……蓮花を傷つけたりは、しないから。蓮花のしてくれたことを、仇で返すつもりはない。だから、僕を信じて欲しい」

 と、急にそう言ってくる始末。どゆこと? その場のノリで乗り切ったけど、もしやバレてない? まぁ、気づかれない方が都合はいいけど。そのあとはなんか恐る恐る僕は怖い? とか聞いてきたから、怖くないよ、と言ってあげた。

 その日から、なぜかかぶっちの警戒心がなくなった気がする。

 

「かぶっち、それじゃなくて、この薬草の方がいいっすよー? そっちだと、副作用強めになっちゃうし」

「うん。分かったよ」

 

 かぶっちは、結局私の弟子になった。最初は刀鍛冶をやってたけど、住んでから一か月くらいで、突然弟子にして欲しいと言ってくれ、今に至る。

 かぶっちは薬学も刀鍛冶も続けているから、忙しそうだけど、丹羽さんと仲良くなって楽しそうだ。

 

「私、丹羽さんのところに杏仁豆腐分けてくるから、この薬を一人で作ってみてっす」

「うん! いってらっしゃい!」

 

 私は杏仁豆腐を持って、丹羽さんの家に向かった。丹羽さんの家は、私の家から割と近い。

 でも、みんなから、「蓮花君! 見てほしいところが……」とか「蓮花先生! いつもありがとうございます!」とかいろいろ声がかかるので、結局着くのは時間がかかる。

 やれやれ。人気者は困るぜ……と思いたいけど、残念ながら、「蓮花ちゃん」と呼ばれたことはない。

 男と思われるのは微妙な気分だ。かぶっちが住んでるし、否定ができないから余計に辛い。

 

 

 

 

 

「丹羽さーん!」

 

 何十分もかけて、ようやく丹羽さんの家に辿り着き、私は丹羽さんの家に辿り着いた。

 いつもならすぐに出てきてくれるけど、今日はなかなか来ない。

 私は疑問に思って、丹羽さんの家のドアを開けた。まさかの開けっ放しだ。鍵をかけ忘れるなんて、丹羽さんらしくない。

 

「丹羽さーん、探した……す……よ……」

「蓮花殿! 丁度エッシャー殿に紹介しようと思っていたところでござるよ」

「で、で……で……」

 

 出たー! と口に出すのを堪えて、私は丹羽さんの横にいるフォンテーヌ人の男を睨んだ。

 この男……エッシャーこそ、ファトゥスの博士だ。多分ファトゥス1残酷で頭のおかしい人。これからかぶっちを傷つけるとなると、殺気を発してしまう。

 

「初めまして。フォンテーヌの発明家の、エッシャーと申します。今日からたたら砂でお世話になります。あなた様は……蓮花先生、でしたかな?」

「うん。私は蓮花。蓮花先生でも、蓮花君でも……まぁ、好きに呼んでくれたらいい。こう見えて、男だ。

 名前の通り、私は璃月の出身でね、ここでは薬屋を営んでいる。外国出身同士、協力し合おう。私の家は診療所にもなっているから、困った時はいつでも来ればいい。勿論、来ない方が仕事がなくて助かるけどね」

 

 お前、話し方変わった? みたいな顔で丹羽さんから見られる。しかし、この変な話し方も、作戦の内。お前は信用してないよ、と言う態度を示している。名付けてこいつやべー作戦である。

 私はこのセリフを放っている間にも、夜叉の時に使っていた殺気を、全力でエッシャーに向けて放っている。

 そうすることで、私は警戒されて私の家に来る頻度は確実に減るからだ。殺気を放ってくる人の家に来ることはないだろう。うんうん。

 

「ふむ……なるほど。蓮花先生、ですか」

「さてー、丹羽さん、杏仁豆腐食べて欲しいっすー! つい作りすぎちゃってー」

「え? あー、わ、わかったでござるよ」

 

 急に態度が変わった私に、引き気味で丹羽さんは頷いた。そんな私の姿を見て、余計にエッシャーは目を光らせる。

 いい感じだ! この調子で原作改変するぞー! 

 

 

 

 

「蓮花先生。実は困り事が……」

「へー。そうなんだー。すごいねー」

 

 と思ってたのに! 

 何もかもうまくいかない。エッシャーは私の家に頻繁に訪ねてくるし、みんなにも信用されないし! エッシャーの持ってきた機械の炉心は、汚れを発し、そのせいで未来には大量の死人が出る。

 そう説明したのに、誰も信じてくれなかった。確かに、私は一端の薬屋でしかない。説得力なんて、ないけど……丹羽さんすらも少し考えさせて欲しい、と言うだけ。

 このままじゃ、原作通りかぶっちが散兵になってしまう。

 

「蓮花先生、聞いていますか?」

「聞いてるに決まってるから安心して」

「蓮花先生……」

 

 エッシャーが面倒くさそうな顔でため息をついた。エッシャーは巧みな話術でみんなから信用されている。エッシャーを疑っているのは、今や多分私だけ。エッシャーも早く私を手玉に取りたいのだろう。手玉に取ろうとするのは予想ガイアである。

 

「私は私の正しいと思うことを貫く。かぶっちを幸せにしてみせる……」

「蓮花先生? どうしたのですか?」

「いや……ただのひとりごと」

 

 私はエッシャーに相変わらず殺気を放ちながら、そう答える。エッシャーは、私を面白そうな目で見た。じろじろと観察する視線が全身に突き刺さり、イラッとする。なんだか最近、私らしくない。

 業障のせい……とか? 気のせいか。

 

「そういえば蓮花先生。傾奇者が隠れて先生のことを兄さんと呼んでいるのはご存知で?」

「え? え? にいさん? 私のこと? え? マジっすか?」

 

 エッシャーの急な爆弾発言に、私は死んでいた目を復活させ、勢いよく立ち上がった。

 姉さん……じゃないのは仕方ないとして、お兄ちゃん呼び……だと!? 

 今すぐかぶっちを撫で回さなくてはいけないようだ。

 

「ごめん! 私、用事ができたから、失礼する!」

 

 私はエッシャーに背を向けて、走り出す。

 

 その時、エッシャーが恐ろしい顔でニヤリと笑ったことに、私は気づかなかった。

 

 

 

 

 

「かぶっち──! 今日も可愛いっすねー!」

「ちょ、ちょっと、やめてよ。兄さん。丹羽さんの前なんだから」

「ふふ、気にしなくていいでござるよ。それより、蓮花殿。エッシャー殿のことであるが……」

「ん? 何?」

 

 あれから、かぶっちは私のことを兄さんと呼ぶようになったし、時々甘えてもくるようになった。可愛い。

 私はわしゃわしゃとかぶっちの頭を撫でながら、何やら資料を広げてきた丹羽さんの顔を覗き込む。

 あまりにも、真面目な顔をしていたから、私はかぶっちの頭を撫でるのをやめた。

 今日は、丹羽さんに大切なことがあると、呼び出されたのだ。

 

「丹羽さん。この資料は……」

「エッシャー殿の持ってきてくれた炉心は画期的なものであろう。しかし、蓮花殿の言う通り、怪しい汚れを発し、最近では死人が出ている。

 ……すまない、蓮花殿。拙者は蓮花殿の言うことを完全に信じきれなかったでござる」

 

 それは、炉心による死亡者のリストだった。私はゲームと同じ展開になってしまったことに、少し落ち込んだ。

 しかし、まだやれることはある。

 

「丹羽さん。悪いけど、エッシャーたちは追い出した方がたたら砂のためだと思うっす」

「やはり、そうなるであろう。拙者もエッシャー殿について調べたが、エッシャーという科学者は、フォンテーヌに存在しなかったでござる」

「え? そんな……。でも、丹羽と蓮花のいうことなら、そうなの?」

 

 純粋に信じてくれるかぶっちがあまりにも可愛い。私は思わずにやにやしてかぶっちを撫で回した。

 

「ちょっと、蓮花、やめてよー! 丹羽も、早く助けて!」

「蓮花殿は相変わらずでござるなぁ」

 

 助けを求めても、丹羽さんはおっとり穏やかに笑うだけ。かぶっちは恨めしそうに丹羽さんを睨みつけた。

 

「さて、話を戻そう。拙者もこのままでは不味いと思い、何人かを将軍様の元へ遣わせた。

 しかし、……これは公言してはおらぬが……外へ助けを求めた者は誰一人として帰らぬ」

「……丹羽」

 

 かぶっちは、キリリとした決意のこもった瞳で、丹羽さんを見た。私はかぶっちのその表情で、全てを悟った。

 このまま、かぶっちはゲーム通りに丹羽さんと離れた隙に博士に騙されて丹羽さんを恨んでしまう。

 しかし、ここでかぶっちの決意を否定することは、何よりも最悪なことであることも、同時にわかっている。

 

「僕が、将軍に会いに行く。僕はこの羽を持っている。だから、将軍も流石に僕の話を聞いてくれるはずだ」

「……こんなことは言いたくないでござるが……今や傾奇者しか、頼みの綱はいない。友よ、頼めるか」

「待って」

 

 私は慌てて止めた。止めたくないけど、止めないと後悔する気もした。

 

「私もついていくっす」

「兄さん。兄さんは、本当は病弱でしょ? 血を吐いてるの、見たことあるからね?」

「え? い、いつの間に……」

 

 しかし、いつのまにか握られていた私の弱みによって、それは阻止される。金色の羽を握って決意のこもった瞳をしているかぶっちは、とても止めれそうになかった。

 私は、かぶっちが出かけていくのを見送ることしか出来なかった。

 

 

 

「確か、このあとはエッシャーと丹羽さんが話をして、殺されるんすよねぇ。よーし……私が止めないと」

 

 話が終わり、家に戻った私は、一本の剣を握っていた。それは、夜叉時代に愛用していた大剣にそっくりなもの。実は、内緒で璃月から持ってきた。

 簡単に振り回すが、今世の病弱な体では、中々上手くいかないし、大剣を構えるのすら一苦労だ。

 

「せめて、神の目があればなぁ」

 

 夜叉時代は、草元素の神の目があったから強く戦えたけど、今世は神の目をもらっていない。これでは博士に瞬殺されるだろう。

 

「なぜ、神の目が必要なのですかな?」

「は?」

 

 後ろから、コツコツと、足音がする。稲妻の草履の音ではなく、外国の靴が地面とぶつかる音だ。誰かが無断で私の家に入り、近づいてきている。

 私は振り向かなくても、それが誰なのかはすぐにわかった。

 

「なるほど。確かに私を先に殺した方が、合理的かもしれないっすねぇ?」

「何を言っているのですか、蓮花先生」

「そんなフリはしなくて結構。お前の正体は、最初から知っていたっすから。

 博士」

 

 私が大剣を構えて博士に突きつけると、博士は鼻で笑った。とうとう本性を見せてきたらしい。

 

「お前如きに私が殺せるとでも?」

「そんなの、やってみないとわからないっしょ?」

 

 私は心臓を狙って全力で駆け、斬り込んだ。しかし、博士に難なくかわされ、逆にナイフをお腹に刺された。

 

「ぐ…………。まだ、やれる」

 

 できるだけ大きな音を立てて戦闘したら、多分誰かが気づいてくれる。そして、エッシャーの本性が明るみになる。

 ああ、でも私は死ぬだろうな。大剣を支えにして立ちながら、ぼんやりと思い、同時に死ぬことを嬉しく思った。

 だって、今回の人生ではたくさんの人と仲良くなった。つまり、たくさんの人を曇らせることができる。それって最高に幸せだ。

 

 でも、足りない。

 

 私は心底思う。足りない。ただ死ぬだけでは、あまりにもつまらない。もっと、もっと、もっと酷い目にあって、可哀想だと思われて、限界まで病ませて死にたい。

 

「お前は最初、殺気を放ってきたな。あれは、傾奇者の正体を隠すためだとすぐにわかった。しかし、私は狂人を殺す趣味はないのでね。お前を殺すのは後回しにした」

「誰が……狂人…………なんすか?」

 

 私は全身に力が籠るのを感じた。業障を乱暴に動かして、私は無理矢理自分の傷を塞いだ。

 

「その量の業を使役するなど、お前の他に誰がいる」

 

 私は大剣を構えた。まるで夜叉時代に戻ったように力が湧いてくる。今なら、殺せるかもしれない。ぎゅっと持ち手の部分を握り、そしてかつての動きをなぞるように動いた。博士は私の一撃をギリギリのところで受け止めた。

 

「少しはやるようだな」

「褒められても嬉しさゼロっすよ」

 

 博士と激しく撃ち合い、動いていくうちに、私は自分のお腹の傷が広がっているのを感じていた。

 私が、圧倒的に不利。それは間違いなかったし、私は自分が病弱なのをすっかり忘れていた。

 

「……が……ゴホッ」

 

 私は戦闘中に立ち止まり、咳き込んだ。大量の血液が、吐き出された。博士は容赦なく、私のお腹を何度も何度も刺した。恐ろしいほどの激痛。

 私は一瞬にして意識を奪われ、地面に膝をついていた。

 

 

 

「はー。前世は中々酷い死に方を…………アレ? めちゃくちゃ痛くない?」

 

 あまりにすごい激痛に、私はとある可能性を考えた。

 確かめようと、私は自分のお腹をさすろうとした。しかし、腕が変な方向に折られていて、動かせない。目で仕方なくお腹を見ると、お腹から大量の血液が流れている。それどころか、心臓のあるところも、大きく穴が空いていた。恐る恐る覗き込むと、真っ黒な何かが心臓を模倣し、無理矢理私の体を動かしていた。

 まだ私は死んでいなかったらしい。

 

「よくわからないけど、チャンス。かぶっちに……会いに行かない……と」

 

 私は体をズルズルと引きずって、自分の家まで戻った。博士は死んだと思って、適当な場所に私を捨てたようだ。でも、家に近いところだから、なんとか行けそうだった。

 かぶっちは、予想通りに家の中にいた。けれど、その目は濁っていて、絶望した顔だった。荷物をまとめている。ここを出ていくつもりらしい。私は頑張って声を限界まで張り上げて、かぶっちの着物の裾を掴んだ。

 

「かぶ……ち。か……ぶ……っち」

「え? …………に、兄さん!? 兄さんっ!! どうして! 僕を……裏切ったんじゃ無かったのかっ!」

 

 私は体をズルズルと引きずって、折れていない方の手でかぶっちの手を握った。

 かぶっちの目は揺れ動き、可哀想なくらいに動揺していた。

 

「ごめん……ね。かぶ……ち」

「あ……あぁ……」

 

 かぶっちは化け物みたいにぐちゃぐちゃにされた私を見て、目から涙を流しながら、膝をついた。

 

「……あのね……エッシャー……は、悪い……人」

「エッシャーが、やったのっ!? 僕が……僕が仇を取るっ!」

 

 かぶっちは、憎しみのこもった目でエッシャーのいたであろう方向を向いた。その目はあまりにも暗く、憎悪と絶望に満ちていた。

 

「やめ……て。かぶっち……が、ころされ…………」

 

 そこまで話したところで、急に心臓が弱まった。無理矢理心臓を動かしていた業障を上手く制御しきれない。倒れそうになった私を、かぶっちがギリギリで受け止めた。

 

「あれ…………なんで、立てない……んだろ……。私……まだ、話したいこと……たくさん……ある…………のに」

「兄さんっ! ダメだ……! 僕を置いていくのか!? 死ぬな……! 死なないでっ!」

 

 私はとうとう、本当に死んだ。

 死ぬ直前、誰よりも絶望した顔のかぶっちが見えた。私はその顔を見て、心から満足だと思った。




風ショタばっか書いてますが、次のターゲットは普通に女キャラです。
スカラマシュはこれから先、まだ曇らせます。ちょっと物足りないので。

どんなエンドがいい?(イフエンドも書く予定)

  • バッド(主人公にとってハッピー)
  • ハッピーエンド
  • その中間くらい
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