何度も転生する主人公が、死ぬたびに周りを曇らせていく話。 作:ルヴレ
前世、過去1やばくね?
実は、私も前世であそこまでボロボロなのに生きていたのかわかってない。多分、意識が遠くなると、業障が出てくるのかな? ウェンティの時もそうだった。業障が勝手に体を乗っ取る。
おっと、それより今世のことだ。切り替えが早くないと、今世まで変人扱いをされてしまう。それはごめんである。どうやら今世はフォンテーヌらしい。西洋って感じの飾りが目を引いた。
「おや? どうしたのかい? もしかして僕に見惚れているのかな? ふふ、それも仕方のないことか! 僕はこのフォンテーヌの水神、フリーナだからね!」
「え、グロシ?」
「え? キミの名前はローザ・エグランティエ・セルヴァーティカと聞いているけど?」
今回もまた、リーリエと同じ憑依系転生のようだ。私は瞬時に理解する。そして、自分の名前がクッソ長いことに絶望して、顔を青くした。誰が覚えれるか! リーリエみたいに短かったら良かったのに。
今世の私の両親の服装は、はっきりと言うと変人だ。お父さんはピエロみたいなメイクをしてるし、お母さんはめちゃくちゃ変な服を着てるし。
まず、これはどう言う状況なのだろうか? フリーナが目の前にいるし、何かを相談しに来てる……とか?
「いやー、フリーナ様。すみませんねぇ、うちのバカ娘が。お詫びに手品を一つ」
私の父親らしきピエロは、どこからかトランプを取り出し、指をパチリと鳴らしてそれを紅茶に変えた。
お、すげー! グロシ……じゃなかった。フリーナも驚いた様子でパチパチと拍手をした。
「実に素晴らしい! さすがは僕の専属道化師だよ!」
「ありがたきお言葉ですぅ」
どうやら私の両親はフリーナの専属道化師らしい。そんなの、ゲームでは聞いたこともない役職だ。
「コホン。キミがローザ・エグランティエ・セルヴァーティカであっているかい? 僕の新しい専属道化師だよね?」
「え? 多分?」
私が曖昧に答えると、フリーナは一瞬ぽかんとした顔をして、次は楽しそうに笑った。
「この僕にタメ口で話すなんて、キミは勇気があるね! キミの勇気に応えて、この僕にタメ口で話すことを特別に許そう! キミは専属道化師だからね!」
「え? あ、ありがとうっす」
水神、それでいいのか? とか思うけど、両親は満足そうに頷いている。いいんだ。タメ口で。今世の私は道化師らしい。前世の薬屋との落差が激しい。転生ガチャハズレだ。ま、リーリエよりはマシか……?
てか、私が専属道化師って無理じゃない? 私の特技なんて全然ないし、面白いこともできないし、マジックなんてやったことすらない。
ま、リーリエの時もどうにかなったし、大丈夫でしょ! 偉そうにしてるけど、フリーナは優しい性格だし、どんなに下手でも許してくれることだろう。
「それじゃあ、セルヴァーティカ。フリーナ様と仲良くねー?」
「え、あ、うん」
「えー、ちょっとー、緊張してるのー?」
お母さんらしき人が私をツンツンとこづいた。なんかウェンティと似た雰囲気を感じる。ちなみに緊張しているのではなく、セルヴァーティカって誰やねん、と硬直しただけである。どうやら今世の私の名前らしい。覚えられる自信はない。
「大丈夫! 宮廷道化師は唯一平民で水神にどんな無礼をしても許されるんだから! 芸が緊張してできないなら、フリーナ様とお話でもすればいいから! ね? 簡単でしょー!」
「え、そうなんすか。なら、私でもできるかも……」
私が顔を明るくすれば、両親は安心した顔をして、荷物の入ったトランクを私の手に押し付け、部屋を出て行った。
「いい? 道化師は立場が低いんだから、冤罪でもかけられないように、気をつけるんだよ? うちの場合は、特にそうだからね?」
お母さんがそう、部屋を出る直前に行った。窓を見ると、もう夕方らしい。私も帰っていいだろう。
そう思って私もついて行こうとドアを開けたら、誰かに止められた。
「どうしたんだい? キミは今日からここに住むんだから、外に出る必要はないだろう?」
「えっ」
フリーナは、私の手を握って、ニコリと笑った。可愛い。
──じゃなくて! え、つまり毎日フリーナと会えるってこと?
やったぁぁぁ!!!
内心大喜び。多分顔にも出ていることだろう。転生ガチャハズレとか言ってすみません。大当たりっす。
……何で、そんなに喜ぶかって? 今まで主要キャラとか神とかと散々過ごした私がこんなに喜ぶのも理由がある……!
フリーナは、私の最推し煙緋ちゃんに次ぐ推しだから、である。
いやー。ストーリーで見事に心臓をぶち抜かれちゃった。部屋で一人涙を流すシーンとか、私も大号泣だった。衝撃のあまりつい持ち武器と星座完凸しちゃったもん。
ま、煙緋ちゃんは完凸してから更にピックアップのたびに引きまくって、画面に表示されないだけで五十凸しているから、流石に勝てないけど。
え? 帝君たち? 私が推すのは基本的に女子キャラかロリキャラである。帝君たちは最早キャラというより、人間として好きだから、ちょっと推しとは違う。
「フリーナ! これからよろしくっす!」
「か、神を呼び捨てとは、キミは随分と勇気があるようだね。よろしく頼むよ。セルヴァーティカ」
「あ、ごめんごめん。フリーナちゃんって呼ぶねー? あと私の名前はティカって呼んでいいから!」
私がそう言いながらフリーナの手をぶんぶんと振り回すと、フリーナは一瞬ふらついてから、「う、うん」と頷いた。ちょっと困っているのが丸わかりだ。
「ティカ! ティカの考えたゲームは最高に面白いね! 水神であるこの僕を楽しませるなんて、誇るべきことだ!」
「えへへー。気に入ってくれたなら、よかったっす!」
私はフリーナと一緒に人生ゲームをやっていた。私はマジックとか、芸とかができない代わりに、フリーナと一緒に自作のボードゲームをやったり、話をしたりしている。
ちなみに出会ってから一年が経過している。私の時間感覚もバグってきたのか、一年だけじゃそこまで経った感じはしない。
「えっへん! 私の勝ちっす!」
「う……。い、今のは偶然だ! 運が悪かっただけで、僕が弱いわけじゃないぞ! もう一回、もう一回だ!」
フリーナはむすっと頰を膨らませて、私に再戦を申し込んできた。フリーナは、割とそこまで演じず私に話してくれるようになった気がする。
でも、これは私がすごいんじゃなくて、専属道化師って役職が、そういうものだからだ。フリーナは、残念ながら私のことをそこまで信用していない。ただの守るべき国民の一人として考えているのが目に見えて分かる。
「フリーナ殿、ティカ殿。盛り上がっているところで失礼するが、そろそろ寝た方がいい」
ヌヴィレットがもう一度やろうとしていた私たちにそっと釘を刺してきた。フリーナのぴょこんと出ているアホ毛が、フリーナの感情を表すようにへにょりとした。
「フリーナちゃん、明日にもう一回やるっすよ! 私も今回はギリギリだったし、次は鮮やかに勝ってやるっす!」
「そ、そうだな! 明日やろう! これは約束だ!」
「もちろんっす!」
私とフリーナは仲良くゆびきりげんまんをした。これも私が教えた約束の仕方である。さすがに歌詞は物騒すぎるので歌わない。嘘ついたら針千本、とか言ったら、フリーナならビビっちゃいそうだし。
約束をし終わったら、私は素早く人生ゲームを片付けた。そして、自室に戻る。できるだけ、早く。そうでもしないと、おかしくなりそうだから。
豪華なベッドに横たわったとたん、ものすごい疲れが襲ってきた。
「きもちわるっ」
ベッドに横たわった途端に出てきた言葉はそれだった。この一年、業障が明らかに悪化してきて、時々私の内臓の中を動き回る。痛くて苦しいし、めちゃくちゃ気持ち悪い。つまり、魈レベルにまで到達してしまったのである。それだけではなく、あんな風にフリーナが落ち込むだけでゾクゾクしてしまう。ドSな性格が悪化していた。これも業障のせいだろう。確か、日本にいた時はこんなのじゃなかった気がするのに!
「う、お腹すいちゃった。確か向こうの部屋にクッキーが置いてあった気がする……」
結局ベッドから起き上がった私は、暗い廊下をランプで照らして歩き出した。業障のせいで、体力が減ってるから、お腹も空きやすいみたいだ。物凄い空腹を感じる。
部屋を抜け出すなんて、前世以来だ。前世はウェンティと遭遇するという地獄のような出来事があったから、夜中に部屋を抜け出すのはトラウマである。
「……うぅ……。いつまで続ければいいんだろう……。ティカに相談するくらい、許されるんじゃないかな……? だって僕は何百年も一人で頑張ってきたんだ。ただ、辛いって一言言うだけ……それくらいなら……。いや、ダメだ。僕は、水神。しっかりしないと……」
フリーナの独り言が、暗い廊下に響いた。事情をゲームのおかげで知っている私は、思わず立ち止まった。
フリーナは、本当の水神ではない。不老なだけの、神を演じる人間だ。だから水神のように振る舞っていたら、疲れてしまう。
「やっぱり、いいや」
食べ物を探そうとしていた足は、無意識のうちに引き返していた。何百年も我慢をしてきたフリーナをみたら、空腹くらいは我慢しなければいけない気がした。
「ふ、フリーナちゃん。最近、疲れてないっすか?」
「え? そ、そんなことないよ! だ、だって僕って水神だし?」
「でも私、風神と知り合いだけど、疲れてたりもしてたっすよ?」
次の日の夜。心配になった私は、ゲームをやっている最中にそれとなくフリーナに聞いてみることにした。フリーナは予想通りに誤魔化したので、私は酒を大量に飲み、酔って愚痴っているウェンティを思い出しながら、話した。
ウェンティも疲れていたことを話したら、フリーナは分かりやすく顔を明るくさせた。
────このまま、話させて、私を信用させて、死んで曇らせたい。
恐ろしい考えが、頭をよぎる。私は頭を振り回して正気に戻った。
「僕は……。う……。で、でもキミだって、疲れているじゃないか」
「は?」
思いもよらない返しに、私は体を固くさせた。フリーナに、悟られた? いや、まだ決まったわけじゃない。私は何とか気持ちを落ち着かせた。
「だって、キミは病気か何かで疲れているのを感じさせないように演じてる。僕は偽物のキミじゃなくて、本物のキミが見たいんだ。
僕は水神なんだぞ。キミが疲れているってことは、ずっと分かっているよ」
「いみが……わからない」
私は頭を抱えた。
なぜ、バレた。魈にも、帝君にも、ウェンティにも、かぶっちにもバレなかったはずだ。
なぜ、普通の人間のフリーナにバレた。
意味がわからない。
「そ、そんなわけないっすよ。私が、病気だなんて、そんなことはないっす。ね? 顔色だっていいはずっすよっ!!」
「さっきも言ったはずだ。僕は本当のキミが見たいってね!」
「嘘だ……!」
幸い、業障に取り憑かれていることはバレてなさそうだ。前世だったら博士辺りにはバレてそうだけど、それ以外はいなかったのに。
フリーナは、ずっと理想の水神を演じている。だからこそ、人の演技には人一倍敏感なのだろう。
「フリーナちゃん、このことは誰にも言わないで欲しい。ヌヴィレットさんにも、言わないで。お願い……」
「分かってるさ! 安心してくれ。僕はキミの友達なんだから、約束は守るよ!」
「ともだち……?」
私はピクリと反応した。フリーナは偉そうに胸を張って、こくりと一つ頷いた。
私はニヤリと笑った。やり返すチャンスである。
「友達なら、フリーナちゃんの悩みも話してねー? 友達って……平等じゃないと成り立たないと思うもん。安心してっす! ガールズトークとか言うやつだから」
「き、キミは切り替えが早いね……。でもまぁ、友達なら、仕方ないな。ボクの悩みを聞くことを許そう!」
チョロい……じゃなくて、素直なフリーナは、語り出した。みんなの理想の水神を演じて疲れたこと。一人は寂しいこと。
私はその話を聞き終えて、思わずフリーナを抱きしめた。フリーナは、驚いてピクリと体を一瞬跳ねさせた。
「今日からは、一人じゃないっすよ。私がいるっすから! そして、私にもフリーナちゃんって言う私の秘密を知る友達がいる。それだけで、私は安心できる! フリーナちゃんは違う?」
「もちろん、僕だってそうだよ、ティカ。ふふふ、これじゃあキミが僕の専属道化師ってことを忘れちゃいそうだ」
フリーナは、花が咲きそうなほどに明るい笑みを見せてくれた。私はその笑みを見て、心臓がぽかぽか暖かくなって、へにゃりと笑った。その笑みを見て、次はフリーナちゃんが私を抱きしめた。そして、私に言う。
「僕のことは、今度からフリーナでいいからね?」
そしてその数秒後、抱き合う私たちをヌヴィレットに偶然見られて、めちゃくちゃ気まずくなったのだった。
「フリーナは、本当にケーキ好きっすよねー」
「勿論、キミのくれた杏仁豆腐? あれも好きだったけど、やっぱり僕はケーキが一番さ!」
ケーキを食べながら、私たちは今日もテーブルゲームをしている。
私たちが話せるのは夜中だけ。フリーナのスケジュールはいつでもびっしり埋まっていて、他に話せる時間はないからだ。勿論、私も日中は仕事がないわけじゃなくて、フリーナと話すのを待っている人の相手をしたりもする。
実はマジックとかもできるようになったので、このフリーナ専属道化師って仕事も無駄に板についてきた気がする。
けれど──正直に言えば、みんなが心配だった。帝君たちは、平気だと思うけど、問題はかぶっちだ。ファデュイになっていないだろうか。ゲーム通りに闇落ちしてないといいけど……。
でも、フリーナの専属道化師を辞めたらきっと悲しむだろう。そう思うと、辞められなかった。
「ティカ。今日は、心臓痛は平気かい?」
「今日は……まだマシっす」
ナイフで引っ掻かれているように痛む心臓を、片手で抑える。ウェンティさえいればずっとマシになるだろうけど、ウェンティに会うのはやっぱり怖い。
フリーナは心配そうに眉を下げた。フリーナはあれから水神というよりは、友達として接している。そっちの方が、フリーナも喜ぶからだ。
「ティカ。ティカのおかげで、僕は毎日が前より怖くなくなったよ。ありがとう」
「えへへー、どうしたんすか、急に。でも、私もフリーナにそう言ってもらえると、嬉しいっす!」
フリーナが急に感謝の気持ちを伝えてきたので、私は照れてしまった。にっこりと笑うフリーナが可愛すぎて癒される。ゲームと本物はやっぱり違う。
このまま、フリーナの味方でいたい。このときは、そう思っていた。
ある日のことだった。私はいつも通りにマジックや最近習得したジャグリングとかを披露して、客人を相手していた。
その人はフリーナの大ファンらしく、私のことなんて気に留めず、そわそわとフリーナの居るドアを見ていた。
「つい長引いて、遅れてしまったよ。でも、安心してくれ! 僕は誰に対しても平等に話を聞くからね!」
「あ、ありがとうございます……! フリーナ様!」
そして、フリーナが出てきた途端、ぱああ、という効果音が付きそうなほどに顔を明るくさせた。
しかし、フリーナの顔には少し疲れが見えた。前の人が予言のことでも話してきたのだろう。普通の人間であるフリーナがそのことを誤魔化すのは大層疲れる。少し休憩させてあげたい。
目で合図を送ると、フリーナは一瞬目を大きくさせてから、こくりと頷いた。その瞳には私への信用がありありと描かれていた。
客人の少年は、それを驚いた目で見ていた。
「おっと……すまない。僕としたことが、この後に重要な会議があることをすっかり忘れていたよ。もう少し待ってくれるかい? 会議はすぐに終わるからね」
「そ、そんな……」
客人の少年は、見るからにショックを受けた顔をした。そしてフリーナが出て行った途端、私を睨みつけた。ものすごい憎悪のこもった瞳だ。私はビビってこけそうになった。
「あなたは、フリーナ様の何なんですか」
「あれ? 説明したはずだけど?
私は水神専属道化師のセルヴァーティカ。どうぞティカとお呼びくださいっす」
「そうじゃない。水神様を操って、何を企んでいるんですかってことです!」
え? 何言ってんのこのクソガキ。締め出したろか?
……と言いたいものの、どうやら私は世間一般的にそう見えてもおかしくないらしい。気を使って少年にお茶と茶菓子を出し始めたメリュジーヌたちが、ちらちらと私のことを見てきた。
うーん。これはちょっとやり過ぎたかも。
フリーナと仲良くなりすぎた。あまり仲良くなり過ぎても、彼みたいな人から反感を買ってフリーナの悪印象に繋がるかもしれない。
フリーナは500年もの間疑われずに神として認められる必要がある。私が関われば、ゲーム通りに行くとは限らない。下手に関わり過ぎて、フォンテーヌが滅んでしまう可能性もある。
「私はそんなことしないっすよ。フリーナ様とはそこまで仲良くないっすから」
「嘘つけ! みんなそう言ってるんだぞ!」
「……そっかぁ。みんななんすねー……」
みんな思ってるのか……。嘘かもしれないけど、確かに最近のみんなは、私を見る目がやけに冷たかったから、多分本当だ。これでは本当にフォンテーヌが滅んでしまうかもしれない。私のせいでたくさんに人が死ぬだなんて……そんなの嫌だ。
よし、決めた。私、フリーナのために、ちょっと距離を取る!
「ってことで、距離をとった方がいいかも……?」
その日の夜中、私がゲームのことは隠しつつフリーナに言うと、フリーナはひどく傷ついた顔で目を限界まで大きく見開き、立ち尽くした。
そして、下を向いて誤魔化すように笑った。
「ははは……。僕ったら、人気者だな。なんたって、フォンテーヌで知らぬものはいない、大スターなわけだし。みんなが僕のことを心配してくれてるんだ。
キミだって、僕のために言ってくれてるんだよね? キミがそう思うなら……僕もそう思うよ」
「えっと、つまり、距離を取るってことっすか?」
「…………。キミがそうしたいなら」
フリーナは、わかりやすく暗いオーラが出ているのに、無理をして笑顔を浮かべた。
私はその笑顔を見て、どきりとした。
「分かった。フリーナちゃん。ごめんっす。私のせいで、余計にフリーナちゃんを傷つけちゃうかもしれないっすから」
「フリーナちゃん、か。ははは……。僕は、大丈夫だよ。それよりも、キミの体調が悪くなったら僕に言ってくれ。水神として、キミを気遣うのは当たり前のことだからね」
フリーナ「ちゃん」と呼んだ途端にフリーナが顔を大きく曇らせた。きっと、申し訳ない気持ちでいっぱいになるのだと思ってた。でも、私ったら……ダメだ。本当に、最悪な人間だ。
だって、思わず嬉しくて顔が歪みそうなんだから。
ああ、フリーナ。なんて、素敵な顔をしてくれるのだろう。誤魔化し笑いだけど悲しみが見て取れて、それでいて私を傷つかせないように、精一杯の気を使っている。最高だ。ゾクゾクして仕方がない。
そう思って気づく。私って、ドSなんじゃなくて、いわゆる愉悦が好きなのでは?
…………いやいや、それはない! これは業障のせいだ。そうに決まってる。私はそう脳内で決めつけながら、俯いた。そうじゃないと、醜く歪んだ顔が、フリーナに見られてしまうから。
「ありがとう。フリーナちゃんも、何かあったら、私に言って欲しいっす。……私は曲がりなりにもフリーナちゃんの専属道化師っすから」
「ありがとう、ティカ。で、でも、僕は平気さ! 僕は水神だからね。人間に心配をかけるわけにはいかないよ」
「そ、それも……そうっすね」
私は気まずそうに、笑った。
フリーナも誤魔化して笑った。ただ、フリーナの瞳からはひと雫の涙が溢れていた。フリーナはそれに気づかず、強がりを言い続けたのだった。
「ローザ・エグランティエ・セルヴァーティカ。お前をフリーナ様を操ってフォンテーヌを滅ぼそうとした疑いで、裁判をする!」
「な、何でこんなことに……?」
なぜかさっきの2日後くらいに裁判にかけられた。あの感動シーンを返せ!
いやー、急展開すぎて頭がついていかない。フリーナと別れ、部屋に戻った途端に連れて行かれ、いつのまにか歌劇場にいたのだから。
フリーナは歌劇場のドアを勢いよく開き、急いで私のところへ駆けつけてきた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! ティカは何も悪いことなんてしていない! この僕が証言する! そ、それに人間が水神であるこの僕を操ろうなんて、100年早いぞ! ティカは僕を操ることなんてできない!」
「フリーナ様……。可哀想に、道化師に操られるなんて……」
起訴をした人は、あの時の客人の少年だ。くっそ、あのクソガキ。やっぱり追い出せばよかった! 私は少年を睨みつけた。少年は負けじと睨み返してくる。それに、観客からも大量のヤジが飛んできた。そうだー、だとかこの詐欺師めー、とか……。フリーナ以外、私を信用していないらしい。
「まず、お前にフリーナ様を操ったか聞いた次の日から、お前とフリーナ様は明らかに距離が空いた。
何かやましいことがあったから、距離をとったんじゃないの?」
「まず、フォンテーヌを滅ぼして、私にメリットなんてないでしょ!」
私がそう反論したら、少年は勝ち誇ったとばかりの笑みを浮かべた。背負っていた鞄から、資料を取り出した。そして、それを堂々と読み上げた。
「まず、エグランティエ家は、元々モンドの貴族だった。けど、モンドを滅ぼそうとした罪で、フォンテーヌまで追放された。そしてフォンテーヌでも冷遇され、まともな職には就けず、道化師になった。
お前の父親は一度モンドを滅ぼそうとしている。次は家族と共にフォンテーヌを狙ってるって考えても、おかしくはないんじゃない?」
「えっそうだったの?」
今回は憑依転生なので、自分の家族とかは全然覚えていない。てか、私の父親めちゃくちゃ頭おかしい人じゃないか! これでは有罪にされてもおかしくはない。だって私はまともな否定できる証拠なんて持ち合わせていないからだ。
「それはただの予想だ! ティカがそんなことをしたと言うはっきりとした証拠はない!」
「しかし、セルヴァーティカが何もしていないと言う証拠もありません」
「そ……それはっ……」
この少年、中二病なのかな? あるよね、論破する俺かっけー、みたいな時。
でも、恥ずかしいことに、本当に論破されてしまった。ヌヴィレットが、早く反論して欲しいとばかりに、無表情でこちらを見てくる。外は大雨が降っているのか、静まり返る劇場内からも、雨音が聞こえた。
「ティカ殿。このままだと、君を追放しなくてはいけなくなる。今のうちに反論するように」
「ごめんなさい……。私、証拠が無いっす。みんなからの信用も足りない。多分何を言っても無駄っすよね。分かってる。
でも、私は何も企んでいない。これだけは、言っておくねー?」
いつも通りに、私はそう言う。しかし、フリーナがぎゅっと私の手を握ってきた。私はその手を強く握り返した。
けれど、私に出た判決は、「有罪」だった。
「ティカ……。行かないでくれ。僕がキミを内緒で匿うから! お願い……。キミがいなくなったら、僕はまた一人に戻ってしまう。毎日が、恐ろしくなるんだ」
「でも、もしバレたら、困るのはフリーナちゃんっすよ。大丈夫。国外追放だし、もしフリーナちゃんが他国に外交で来たら、会えるかもしれないし。
私は、いつでもフリーナの味方だからねー?」
にかっとはにかんでフリーナの手を振り回した。まるで最初にあった時のように、激しく。
フリーナは、目から涙を溢していた。自分では気づいていないのだろう。涙を拭おうともしなかった。私はそれをうっとりと眺めていた。フリーナにその感情がバレないよう、抱きしめて顔を隠した。
私はそのまま連れられて、フォンテーヌの外……璃月まで運ばれた。
裁判のことはまるで幻覚みたいで、どうにも現実とは思えなくて、気がついたら私は璃月に立っていた。
そして、仕方がないと帝君を探しに歩き出した途端、お腹にものすごい痛みが走った。
「お前が……! お前がフリーナ様をおかしくしたんだ! 追放だけなんて、許せない! 死ね! お前は死ぬべきだっ!」
「…………さっきの少年っすか」
私はため息をついた。腹にナイフが突き刺さったのも気にせず、少年に向き合う。彼は待ち伏せしていたらしい。私を殺す。それだけのために。
彼は、一言で表すならフリーナ狂信者だ。でも──私ほど、おかしくは無い。
少年は、私の異常さに気付いたのか、一歩下がった。
私はお腹に刺さっていたナイフを引き抜き、少年の心臓に迷いなく突き刺した。
「悪いけど、きみの感情、面白く無いから嫌いなんだよねー。
私は大好きなみんなに泣いて欲しい。苦しんで欲しい。絶望してほしい。そして、そんな感情をこの目で見たい。
でも、きみはつまらない人間だから、きみに憎まれるのは、望んで無いっす。ってことで、死んでいいよー?」
私は、できることなら誰かに見られて死にたい。こんな場所、誰も見つけてくれないし、誰も曇らせることができないところだ。
くそ、こんなところで死んでたまるか。
「やっぱり……お前を殺せてよかった。こんな化け物、フリーナさまのよこには……おけない」
「はぁ……。せめてフリーナの横で死にたかったなぁ」
まだ何か言っていたので、心臓を再度刺して、殺しておく。殺し方なんて、魔神戦争ですっかり分かっているし、手慣れてる。
そして、自分が死ぬタイミングもわかっていた。
腹からの出血死。それが今世の死因になるだろう。
ただ、もっと曇らせたかった。もっと曇らせることはできたはずなのに、こいつのせいで全てが無駄だ。
無念の中、私はひとりぼっちで命を散らした。
曇らせてもつまらない曇らせを邪魔してくるモブには優しく無い主人公。容赦ないです。…これもきっと業障のせいです。
どんなエンドがいい?(イフエンドも書く予定)
-
バッド(主人公にとってハッピー)
-
ハッピーエンド
-
その中間くらい