刻印師がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:好きになった作品ほど更新されない
魔法。特殊なものではない限り、1人につき3つまでしか使えない特別な力。それも全員が習得できるわけではなく、使い捨てで魔法を習得させることができる魔導書を使用するか、レベルアップによって覚えるかのどちらかしか存在しない。魔導書は流通数が限りなく少ないため億の価値がついておいそれとは手に入れることができず、レベルアップによる習得も運でしかない。故に回数制限があり高価ではあるものの魔導書ほどでもないため誰でも魔法が使える魔剣は人気があり、何百万という価格をつけられていても基本的に品薄になる。
だから魔法は特別な物であり、それを持っているだけで羨ましがられるほどには貴重な物だった。そう。
その常識が覆されたのは迷宮都市オラリオにて暗黒期と呼ばれる時代だった。殺しや略奪を行う
そんな時代の中でも悪を良しとするような組織ばかりではない。力なき存在のために悪を打ち取ろうとする組織も存在していた。特に表立って行動していたのはその時には最強の一角を担うことになったロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリア、治安と警護を主務とするガネーシャ・ファミリア、そして正義を掲げたアストレア・ファミリアだった。フレイヤ・ファミリアは積極的ではなく闇派閥の討伐に力を貸している状態であり、実質的にはロキ・ファミリアとガネーシャ・ファミリア、アストレア・ファミリアの3組織がメインで動いていたが、すべてを救うにはあまりにも数と力が足りていなかった。救うための手の数が少なく、救い上げるための力も足りず、救ったはずの人たちから罵倒を浴びせられることも少なくなかった。
しかし、そんな中で突然力をつけた組織がいた。青臭いとすら言われていた正義を掲げていたファミリア、アストレア・ファミリアだった。
ある日を境にアストレア・ファミリアのメンバー全員が使えると聞いたことのない魔法を使い始めたのだ。魔剣を使った魔法ではない、それも1つや2つではなく上限であるはずの3つどころか4つ以上も扱えるようになっていた者もいたほどだ。さすがにその力は強大ではなかった上に弱いとすら思えるものもあったが、それでも戦場において使える手札が増えたと言っても問題ないほどだった。
基本的に味方ではあっても過度な干渉は控えていたロキ・ファミリアたちだったが、さすがにおかしいと思い事情を確認したのだが、返ってきたのは教えられないの1点張りだった。主神が好かないこともあってかこの非常事態にどういうことだともっともな言い分で攻めるロキ・ファミリアだったが、アストレア・ファミリアにも教えられない事情があった。
まず第一に、これを作った人物はすでにこの街から出て行っていること。本人曰くこうなっていることを知っていれば来ることはなかったし、死にたくはない。そもそも旅をしていただけであり、冒険者としての力に興味がないことからオラリオから早々に出ていったとのことだった。この力を悪用される可能性も考慮してアストレア・ファミリアの主力メンバーの手で街の外に出た上にしばらくは来ないことも嘘ではなかったため少なくともこの暗黒期が明けるまでは来ないだろうとのことだった。
第二に、その人物の素性を聞けなかったとのこと。たまたまアストレア・ファミリアの主力だったアリーゼ・ローヴェルとリュー・リオンの2人の巡回で行き倒れていたところを助け、その礼として魔法を使えるようにしてもらったのだとか。その際に素性を聞いたのだがバレバレの偽名を、それも嘘を見抜ける神の前で堂々と告げるだけでなく魔法を使えるようにしたのだから聞くなと堂々と言われたのだから聞くに聞けない状態だった。
そして第三に、この魔法は好きに使ってもいいが自分のことは誰にも言うな、と言われたことだった。さすがに自分の力の異常性は理解していたのか室内でも常にフードで顔を隠し、睡眠の際も水浴びの際も徹底して見られないように注意していたとのことだった。もしこれを破ればこの力を返してもらうと言われれば口を閉ざすしかなく、声と背丈からある程度性別と種族は推測はできるが、それでも行き倒れていたところから救ってもらったにも拘らずそこまでしていたことに呆れすら覚えていたとはゴジョウノ・輝夜の言葉だった。
以上のことを聞いたロキ・ファミリアたちは渋面を隠そうともしなかった。裏で闇派閥と繋がっていたらどうするんだと聞きたかったがそれを聞かなかった不手際を犯すはずもない。自分のところが最初に見つけられていれば、と巡回する人数を増やすべきだったかと後悔してももう遅い。結果としてアストレア・ファミリアに今以上に動いてもらうこととその人物のことは口外しないこと、緊急時以外では3種類以上の魔法を使わないことを条件にその人物について聞かないことを決定した。
本当のことを言えば糾弾してでもその人物について聞きたかったのだが、今のアストレア・ファミリアが過去以上に強くなっていること、そしてなによりその人物にへそを曲げられて闇派閥に就かれては本末転倒だという結論になったためそれもできなかった。
そして、その力もあってかどうかはわからないがオラリオの暗黒期は2年と半年で明けることとなり、
これで心置きなくアストレア・ファミリアに魔法を授けた人物について探すことになったが、アストレア・ファミリアに聞いても追加された情報は男性であること、そして理由はわからないがエルフを異様に嫌っていたことの2つだった。特に恨みがあったのか王族については罵詈雑言とすら言えるほどの悪態をつき、それにリューがキレてケンカになりかけることもあったこともあっておそらく高慢なエルフに嫌味でも言われたのだろう
アストレア・ファミリア曰く、この刻印は身体に刻んだものではなく表面に書いただけで消そうと思えばいつでも消せるものだとのことだ。その消し方も教わっていて実際に目の前で刻印が消されたとのことだが、さすがにそれを実演してもらうわけにはいかず他に情報がないかを確認していた。
そしてわかったことは、刻印は文様で書かれていること、好きなところに刻んでもらったとのことだったことでこの刻印はどこに刻んでも問題ないらしいこと、文字と思わしきものはあり、おそらく規則性も存在しているが神であっても読み取れないことだけだった。試そうにもどうやって文様を刻印したのかわからず、
最初はこの事実を知っているファミリア全員が血眼になって探していたが、何年も経てばその熱も収まることとなり、いつしかそれを知るのは一部の人物と神だけとなるのだった。
実際に見た者以外にもはやこれを信じる者は誰もおらず、うっかりと酒で口が軽くなった者が口を滑らせて都市伝説程度に認知されるようになっただけとなった今、誰も探すようなことはしなくなった。
そして、それを思い出すようになったきっかけは暗黒期が明けてから5年が過ぎ、とある田舎の少年がその刻印を胸に刻みオラリオへ訪れたことだった。そして、それこそが刻印魔法が世に出回ることとなるきっかけでもあり、同時にエルフ嫌いのエルフの青年が表舞台に出ることになるきっかけでもあった。
文字通り、その少年こそが物語を動かす上でのキーマンになることを、この時誰もが、それこそ後に刻印師と呼ばれるようになる青年ですらわからなかった、異端が混ざった物語の始まりだった。