ガンダムブレイカー4 フロンティア戦記   作:ナタタク

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第2話 新世界への誘い

「ども、士のお母はん!こんにちはー!士は部屋におりまっしゃろか?」

「ええ、会ってあげて。きっと元気を出すわ」

「元気出すって…帰ればっかり言ってまんねんけど」

夕方、洋子が迎え入れたのは薄緑色の髪でウェリントン型の眼鏡をかけた小柄な少年、朝倉泰助が家に入るとすぐにかばんを下ろすことなく、なぜか持っていた紙袋を一度外に置いてから士のいる部屋へと向かう。

士が小学5年生の時に関西から近辺に引っ越してきて、士からはタオと呼ばれている。

「不登校になっても、こうして会いに来てくれる友達が一人でもいる…幸せなことね」

 

「でなでな、ここでキラが叫ぶんよ、それでもって…」

「それは前も聞いた。何回目だよ、タオ。ガンダムSEEDの話は」

「そら、きょうびリマスター版でSEEDFREEDOMの映画の配信もあったことやねんしなぁ」

相変わらずガンダムに関してはよくしゃべる友人に背を向け、士はベッドに横たわる。

ふと、タオの視線にベッドのそばに置かれている士の車いすを見る。

彼が野球のできない体になったショックで引きこもってから8か月近く経過しており、タオは時折学校の帰りに士の家に寄り、こうして彼と話している。

最初の頃は枕を投げつけられ、帰れと拒絶されてばかりだったが、それでも何度も何度も足しげく通い、それで根負けしてくれたのか、今は話に付き合わないまでも部屋に入れてくれている。

「あ…せや。ちーとばかし見てほしいのがあってな」

「なんだ今度は。これから勉強したいんだが…」

「まあまあ、せっかくやし」

士の言葉をよそに、カバンから出したタブレット端末。

それを起動させると、画面には枝豆デザインの耳はツノのような形で頭の上の方から直接生えている、少年とも少女ともとれるデザインの人間が表示される。

「はじめまして、なのだ!」

「…ずんだもん?」

「正解なのだ!ボクは緑のマスコット、伝説のもちモンのずんだもんなのだ!」

自然な会話を披露するずんだもんを耳にし、士はタオの父親がAI関係の企業の技術者だということを思い出す。

AIが発展しつつある現在で、小中学生がAIに触れることは珍しくなくなっている。

「僕の父はんが作ってくれてな。話してるとめっちゃ楽しいで。あと、もう一つあるんやけど…これや」

「ご主人!僕が前座になるのは納得いかないのだ!」

「ごめんって、ずんだもん。ほら、見てーや、これ!」

続けてタオが何かの書類を手にすると、バンバンと士の背中をそれでたたく。

うっとうしく感じながらも体を動かして書類を見る。

「GBBBB…GUNPLA Battle Blaze:Beyond Borders?」

「せや。知っとるやろ、ガンダムバトルシミュレーター。それが進化したものやで。家からでもアクセスできて、バトル以外の楽しみもあるって…応募したら、ベータテスターに当選したんや!」

「マウントとるために来たのかよ…?」

「ちゃうちゃうって、よう見てみ」

どういう意味だと問い詰めたい気持ちを抑えて書類を改めてみる。

アクセス用の端末の到着日と使い方、そして送付先の住所と氏名を確認する。

「待てよ、タオ…どういうことだ?俺は応募した覚えはないぞ」

にもかかわらず当選しているうえに家の住所と自分の名前が記載されている。

「ええっと…実を言うと、お前のお父はんに許しをもろて、勝手に応募したんや」

「お前…!それに、父さんまで…やらないぞ、俺はそんなもの」

「そういわんと、ちょうど僕も当選したんや。一緒に遊ぼうや、GBBBB」

「ふざけるな!俺を無視して勝手なことをしやがって…!帰れ!!」

書類を投げつけ、背中を向けた士の臍が曲がった様子にさすがのタオもまずいと思い、一度書類を手に取り、机の上に置く。

「すまんかった…けど、書類は見といてくれな!」

「あわわ、すごく怒ってるのだ…」

逃げるように部屋を出ていき、ドアが閉まった後で飛んできた枕がドアにぶつかった。

 

「本当にすみまへん、士のお母はん。僕、結局余計なことをしてしもたみたいで…」

「いいのよ、うちの子がごめんなさい」

追い出される形になったタオは士が乱暴をしたお詫びということで、洋子から出されたお菓子を口にする。

クッキーを口にした後でジュースを飲み、一息ついたところでポツリと口を開ける。

「僕、士に新しい何ぞを見つけてほしいって思ってます。この、GBBBBもその一つなんです。やったことはまずかったって思ってます。けど…それでも…」

「ええ…わかっているわ。きっと、私たちではできなかったから…巻き込んでしまって、ごめんなさい。泰助君」

「僕はええんです、でも…あいつが、士が機嫌を悪くして…あの、もし士がやるって言ったら、これを渡してほしいんです」

これを投げつけるようなことがあったら困るから士に直接渡せなかったものをタオは洋子に渡す。

GBBBBをやるというなら、必ず必要となるものがこの紙袋の中に入っていた。

中にあるのはニッパーなどの工具、そしてガンプラだ。

「ガンダム・バエル…?」

「ガンプラ、作ったことないんですよね?やので、初めてでも作りやすいものを僕が選びました。もし、あいつがやるって言ってたら、渡してください」

洋子に頭を下げた後で、タオは部屋を出ていく。

玄関のドアが閉まる音が聞こえた後で、洋子はタオが残した袋を見つめていた。

 

「ご主人、ご主人!大丈夫なのだ?」

夜になり、風呂を終えて自室へ戻ってきたタオがパジャマ姿でうつぶせになってベッドに寝転がるのをデスクトップパソコンのモニターからみているずんだもんが声をかける。

パソコンにはカメラが内蔵されており、タブレット端末からパソコンへ移ったずんだもんはそれを操作して周囲を把握することができる。

士の家から出てずっと、黙り続けていたタオの口がようやく開く。

「ヘタこいた…かもしれへん。わかっとるんや、そんなんは」

「ご主人?」

「けど…このままではあかんことを一番わかっているのは、あいつ自身なんや、きっと…」

タオは時折、イワモトから士の状況を聞いている。

そして、イワモトとタオの共通認識としては何か士にきっかけを与えることが大事だと思っていることだ。

幼稚園児からずっと野球をしてきて、それを生涯続けるつもりだったかもしれない。

イワモト自身、もしかしたら士はプロ野球へ行けるのではないかと生徒びいきながらに思っていた。

だが、どんなに優れた選手であったとしても、生涯ずっと現役で野球ができるわけがない。

歴代最年長のプロ野球選手として記録に残る山本昌であっても、引退した時は50歳。

人生80年以上生きる時代で考えても、65歳定年で考えても、ユニフォームを脱いでからもまだまだ人生は続く。

やがて向き合わなければならない時を、士はわずか14歳で向き合うことになってしまった。

イワモトもタオも、そんな経験をしたことがないため、うまい手段なんてわかるはずがない。

だから、こういう手段をタオは選ぶほかなく、それに的確なアドバイスを与えることは、イワモトにはできない。

「ああ…次、どんな顔で会えばいいんや…?」

 

「GBBBB…ガンプラ…」

ベッドに転がる士は受け取った書類を目に通すことなく、ただ転がっている。

洋子が持ってきたタオからのガンプラは机に置いてあるが、開けた様子はない。

「ただの遊びだろ、そんなの…。勉強やってる方がマシだ」

机とは真逆の方向に顔を向け、目を閉じようとする士だが、ドアをノックする音が耳に入る。

「士、まだ起きてるかしら?」

「もうすぐ寝る」

「ねえ…私はあなたじゃないから、今のあなたのつらさがわかるなんて言えないわ」

もう二度と野球ができないと診断され、退院した初めての夜の士の表情は今も洋子の脳裏に焼き付いている。

眉を少しも動かさず、笑いも泣きもしない無表情でただその言葉を聞いていた。

退院し、家で過ごすようになり、その初めの夜にドアを開けて食べたいものを聞いたときに枕とともに投げつけられた『出ていけ』という言葉。

その時に見せた彼は歯を食いしばって、ただひたすらに涙を流すまいとしている様子だった。

きっと、洋子が部屋を出て、ドアを閉じてしばらくは泣いていたのだろう。

「でも…どんな形でもいいから、私は…あなたに何かをしてほしい。あなたのペースでいいから、それが見つかるのが何年でも、何十年でもかかってもいいから…」

せめて、元気に働くことのできる間だけは、それができるように、考えられるようにする。

今の洋子と、現在残業で会社にいる秀則にできるのはそれが精一杯だ。

「じゃあ…おやすみなさい」

回答を求めず、洋子は部屋を離れる。

その間、士はじっと壁を見つめるだけだった。

 

「ご主人、今日も一日お疲れなのだ!」

「おおきにな、ずんだもん」

ぞろぞろと生徒たちが校門を出ていく中、タオもそれにならうように出て、スマホに入っているずんだもんに返事をする。

まだ4月で、1年生が部活を決める期間中だからということもあるが、この中学校については水曜日は原則として部活をしない日となっている。

これに関しては自治体からも徹底するようにという指示があり、連日または長時間にわたる活動により、十分に休養がとれないことや、顧問教員の約半数が未経験の部活動を担当し、長時間勤務による多忙感が募るなど改善すべき課題が多く存在することから、このような措置が取られている。

なお、タオ本人は部活には入っていない。

1年生の頃は自分なりに部活を探して入部し、努力はしたものの、現在は退部しており、放課後はこうして帰宅している。

「ご主人、メールなのだ!士さんからメールなのだ!」

「士から…?」

スマホを手にし、士からのメールを確認する。

題名はなく、あいさつもなく、あるのは要件のみだ。

『ガンプラのリストを持ってこい。勝手に俺のガンプラを選ぶな』

「士…」

シンプルな文面で、クレームも入っているものの、それでもタオはうれしかった。

「ずんだもん!一度家に帰るさかい、急いで今売ってるガンプラの情報をまとめるんや!!あと、ビルダーズパーツについても!!それさかい…それさかい…!」

「落ち着くのだご主人!急にいろいろ言われても、困るのだ!!」

あわわわと慌てながらもタオの指示に従って情報を収集し始めるずんだもん。

家へと走るタオの目はいつもよりも輝きを見せる。

「絶対後悔させへんで、士!やさかい…見せてくれや、もう1度…もう1度!!」

 

 

 

 

 

 

 

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