〜魔剣道〜転生者が女性社会のメジャースポーツの頂点を目指す話 作:四足歩行戦車団
放課後、僕はさっそく魔剣道部の見学に向かった。魔剣道部はグランド横にある稽古場を活動の拠点としていた。稽古場には試し斬り用と思われる人形がずらりと並んでおり、その横に天下一武道会が開催できそうな石タイルのリングが二つ設置されていた。
「見学の人はこっちに来てくださーい!」
見学に来た一年生は15人くらいで、その殆どが女子だった。だが男子がいないというわけではない。男子も三人くらいはいた。そして石タイルのリングの方を見ると、女子の先輩達が試合をしていた。両者は剣をぶつけ合いながら、炎や氷の魔法を撃ち合っていた。
(おぉ、かっこいいな〜)
男子にとってチャンバラは幾つになっても唆るものがある。くわえて魔法と組み合わせて戦うのならさらなる興奮を覚える。その練習試合に魅了された僕は競技者になることを決意した。そうして男子達が並ぶマネージャーの列ではなく、女子達に混じって競技者の案内を聞いていたところ先輩から声をかけられた。
「そこの君、マネージャーの希望はあっちだよ」
「マネージャーじゃなくて選手希望ですよ」
すると周囲の人達が僕を注目した。「え…君がやるの?」みたいな空気が流れていた。そこで理解した。なるほど。あの文言は業界の慣習みたいなものであったらしい。男女ともに競技可能と言っているが、実際のところは女子専用のスポーツであると…。ただ、どうせここまで来たのなら粘るだけ粘ってみることにした。
「いや、男には厳しいでしょ。流石に魔力が違う」
「悪いことを言わないからやめておいた方が良いわよ」
「どうせ未経験者なんでしょ。オススメはできないわ」
周囲の先輩たちは全力で止めてきた。ただ試してもないのにできないと言われるのは違うと思う。
先輩の一人の目をしっかりと見つめると問いかけた。
「なら、どうやったら認めてくれますか?」
その先輩は困ったように頬を掻いたのち、ある提案をしてきた。
「取り敢えず希望者の実力を図るために身体能力と魔力の測定するから、それでビリだったら諦めてもらって良いんじゃない?」
この世界には二つの能力測定がある。一つは前世同様のあらゆる科目で運動能力を計測する測定。もう一つは魔力量やその操作技術を計測する測定である。そして反復横跳びを最後に全ての運動能力の測定を終えると、記録を測っていた先輩は言った。
「ふーん、やるじゃん。まぁ、男子で魔剣道やるなら、そのくらいやってもらわないと困るからね」
身体能力の測定は一番だった。幼い頃から自然を相手に遊んだり、早朝から深夜まで百姓の手伝いをしていたおかげで体力に自信があった。そして次に行われた魔力専用の測定だが…
「嘘だろう。魔力ゴリラかよ」
「あんなに可愛いのに、私より魔力あるなんて…」
魔法で2tのダンベルを悠々と持ち上げた。これで魔力測定は終わり。魔力測定の結果も同世代の中でトップだった。とはいえこうもぶっちぎると面白く無かったのだろう。先輩もムキになっていた。
「男というのは平和主義な生き物よ。人を殺すことなどできないはず」
先輩はそう言うと、僕をリングまで連れてゆくと真剣を手渡してきた。そして両手を広げて説明を始めた。
「このリングの上で死んだ者はあそこの復活台に魂と肉体が転移して蘇生される。魔剣道に入る覚悟があるのなら、私を斬り殺してみろ」
「はい」
横に一閃。剣を振り払い先輩の首を刎ねた。首ならば鶏の屠殺でよく落としていた。初めて屠殺をした時はびびったが、今では鶏が血を吹き出しながらも歩く様は愛嬌すら覚える。ただ先輩はいきなり殺されるのは予想外だったのか、ムキになった様子で復活台から戻ってきた。
「痛みに耐えれる覚悟はあるのか!耐えれるというのなら私の一太刀を受けてみろ!」
「勿論です!さぁ、思いっきり来てください‼︎」
僕は思いっきり両手を広げた。背中の傷は剣士の恥という言葉がある。斬られるなら向こう傷が望むところ。ただ寸前になって先輩は躊躇いが生まれたらしい。
「え、マジで斬るよ。斬って良いんだよね?」
「勿論です。ざばっとやってください!」
「き、斬るぞ、斬るぞぉ‼︎」
「さぁ、さぁ、さぁ、さぁ‼︎」
「うぉぉぉぉぁぁぉぉ‼︎」
見事な袈裟斬り。左肩から右腰骨にかけて斬られた。斬り口からは噴水のように血が吹き出してくる。
「これは…流石に痛いね…」
と言っても電車に潰されてミンチにされたほどじゃない。意識が暗転したとき復活台の上にいた。この蘇生魔法には他の魔法も複合させているらしい。斬られた服は元通りになっており、血の汚れも消えていた。そのほかに身体の異常はない。リングの上に駆け戻ると先輩達に笑顔をむけて言った。
「いやーこれで晴れて僕も魔剣道部員ですね。みなさんよろしくお願いします!」
ただ先輩達は微妙な顔をしていた。条件は悉く乗り越えた。だが心情が追いついていないらしい。
微妙な空気が流れていたところ、オールバックの髪型の女性がやってきた。その人の姿を見た途端、先輩たちの間に張りつめた空気がたちこめた。
「部長!お疲れさまです」
「おう、お疲れ。なんだ、どうした。リングに皆んな集まって。また森野と海原が喧嘩したのか?」
「違います。新入生の男子が魔剣道をやりたいって言い出しまして…」
「なにぃ…男がだと?」
そう言うと、部長と呼ばれた先輩は眉を顰めて僕を見下ろした。
「お前か?その男子は」
「はい、一年A組の真理谷斎と言います!」
「私は魔剣道部三年 部長の天谷だ。魔剣道は甘い世界じゃない。男子が参加したところで練習の邪魔になるだけだ。帰れ」
まさかの一蹴。これまでの試練はなんであったのか。と思いながらも、どう説得しようかと考えていたところ、先ほどまで話していた先輩が恐る恐る部長に話しかけた。
「でも才能はあるみたいで、適性検査は希望者の中で一番でした。度胸もかなりありますよ」
「経験は?」
「ないです!」
「論外だ。帰れ!」
なるほど。この学校の魔剣道部はガチ系の部活らしい。初心者、エンジョイ勢お断り。これも部を率いる者としての考え方なのだろう。ならばやる事は一つ。誰もが納得する結果を残すこと。
「なら経験者の人と勝負して勝てたら認めてくれますか?」
「おい、お前舐めているのか?」
天谷部長はギロリと睨んだ。ピリついた雰囲気に周囲の先輩達も息を呑んだ。ただ転生者の僕から見れば彼女もまた他の先輩達と同じ子供にすぎない。あまり気にすることなく言葉を続けた。
「だけど、それくらいしか認めさせる方法思い浮かばないんですけど、それでも不満ですか?」
「ふっ…良いだろう。剣をもってこい。この小童を斬り捨ててやる」
天谷部長は勇ましい声で先輩達に命じた。ただ僕も無策で勝負を挑むつもりはない。しかも相手は経験者であり、部の長である部長。この場で勝てるなんて微塵も考えていなかった。
「それはタンマ。その勝負、一週間後で良い?流石にルールわからないし練習したい」
「なんだ急に弱腰になったな。日和ったのか?」
「まさか。本気で勝ちを狙ってるからの提案です」
そう言って僕は天谷部長の瞳をじっと見た。その瞳は厳しく人を睨み殺しそうであったが、決して悪意や邪気を感じさせるものではなかった。僕はその瞳を逸らすことなく見つめ返していたところ部長は視線とを落とすと同時に大きな溜息を吐いた。
「……良いだろう。正式な入部日はちょうど一週間後だ。その日に再びこの場所に来い。試験をしてやる」
「感謝します。では、その試験で経験者に勝てたら入部、負けたら諦めるで良いですね」
「ああ。女に二言はない」
というわけで、この一週間一分一秒も無駄にできないことが決まったわけだが、一人の先輩が僕と部長の間に怯えながら割り込むと、小さく手を挙げながら言った。
「あの…そこは負けてもマネジャーとかじゃダメかな?真理谷君魔力ゴリラだけど可愛いからマネジャーに欲しいんだけど」
その意見は彼女一人のものではなく、他の部員達の意見を代弁したようだった。彼女の後ろにいる先輩達も揃って頷いていた。まぁ必要とされるのは悪い気はしないが、僕も負けたとしても部に居座るつもりはなかった。やりたいのは血湧き肉躍るスポーツだ。無理ならば、その時は前世でやっていた体操部にでも入ろうと思っていた。そしていつまでも未練たらし部員達に喝を入れるため天谷部長は青筋を立てると吠えた。
「やかましい。女なら覚悟を決めろ!勝てたら入部、負けたら入部拒否。それで話は決まりだ‼︎ 二、三年生共はとっとと稽古を始めるぞ!見学者は邪魔にならないよう壁際で見学するように!」
そして魔剣道の見学を程々に済ませたのちだった。学校より徒歩圏内にある賃貸の部屋に帰ろうとしたところ見知らぬ声に呼び止められた。
「おいお前。ちょっと待てよ!」
振り向くと一人の男子がいた。その男子は魔剣道部の見学に来ていた男子の一人だった。確かマネージャー志望の説明を受けていた気がする。まだ名前は知らないし話したこともない人が何の用事なのか尋ねてみた。
「見学にいた子だね。名前と用件をきいていいかな?」
「俺は大野尊。一年B組で魔剣道部のマネージャー志望だ。それよりも本気で経験者相手に勝てると思っているのか?」
「どうだろうね。取り敢えずやってみなきゃ始まらないだろう」
目的達成のため他人に無茶苦茶な目標を公言する。これは前世からの僕の美点であり悪癖だ。
ただ全く勝算がない訳じゃない。転生者だ。部活と学業を両立させることは容易く、また一人暮らしをしているので時間を確保しやすい。その時間を魔剣道に全て注ぎ込めば、可能性はあるかもしれない。
取り敢えず、ぶらりと街の中を散策して魔剣道に詳しそうな人を見つけてナンパするつもりだったが…
「無理だぞ。君は魔剣道を舐めすぎだ」
振り返ると作業着を着た女性がいた。安全第一と書かれたヘルメットをしており目元は黒いサングラスで隠されていた。見た目にして30前後のようで、彼女のそばにある電柱には不審者の注意を警告するポスターが貼ってあった。
「君の測定を遠目から見させてもらった。実に素晴らしい逸材だ。だがど素人が経験者に勝てるほど魔剣道は甘くない。翻弄されて負けるだろう」
大野は俺の一歩前に出ると問いかけた。
「アンタ、ちょっといきなりなんなんだ?」
「私か?私はこういうものだ」
その女性は胸元からネックレスを取り出すと、それを僕達に見せつけていた。ネックレスは銀に輝く金属製であり、山脈に剣が刺さったデザインをしていた。僕にはこれの意味がわからなかったが、大野には通じたらしい。彼は憧憬に囚われた横顔でそれを見つめていた。