〜魔剣道〜転生者が女性社会のメジャースポーツの頂点を目指す話 作:四足歩行戦車団
運命の日、見学日以来久しぶりに魔剣部の稽古場に訪れた。僕の姿を見ると、先輩たちはゾロゾロと避けて道を開けて中に通してくれた。そして、その奥に鎮座していた天谷部長と目があった。彼女は厳しい顔をしたまま立ち上がると静かに告げた。
「来たか。戦う顔をしているな」
「ええ、相応の準備はしてきました」
「いいだろう。ついて来い」
それから天谷部長に連れられてリングの脇に置かれた武器台に案内された。目の前にはスポーツセンター同様沢山の武器が並んでいた。一つ違う点を挙げるとすればセンターよりも良く手入れされていることだ。そして僕はその中から曲刀を掴み取った。
「選んだか。なら森野、お前が相手をしろ」
「え、アタシ!」
「部長が相手するわけじゃないんですね」
「別にお前の魔剣道を邪魔したいわけじゃない。相応しい者か否か試すだけだ」
そう言われて少し安心した。対戦相手に指名された先輩には失礼な話だが相手が部長であれば勝つのはかなり難しいと思っていた。ただ相手は経験者であり格上であるのは変わりない。油断や侮りは敗北に直結する。そう心に言い聞かせながらリングの上に立った。一方の森野は双剣を握ってリングの上に立った。ただ彼女は面倒くさそうに言った。
「正直モチベーション上がらないのね」
「なんでですか?」
「だって、私にメリットないから。負けたら部長に怒られそうだし、勝っても部に入ってくれないんでしょ」
「なら、僕のために負けてください。怒られたらそのぶん慰めてあげますから」
「アンタねぇ〜って…良いこと思いついた!アタシが勝ったら彼氏になりなさいよ!そうしたらきちんと相手してあげる」
ふざけるなー!そこ変われー!調子に乗るなー!外野より怒号と野次が聞こえてくる。天谷部長は呆れたように額に手を当てて俯いていた。そんな部長の反応など知らずに森野は「外野は引っ込んどきなさいよ!」と先輩達に一喝していた。そして森野は僕の方を向き直すと笑みを浮かべて言った。
「それよりもいいでしょう?良いよね?」
「良いですよ。どのみち本気の貴方を倒さないと認めてもらえないようですし」
「やった!人生で初めての彼氏できちゃった!初デートはどこに行こうかなっ!」
取らぬ狸の皮算用。絶対に勝つ自信があるというわけか。まぁ、それも無理はない。この一週間で理解した。経験者と未経験者の差を舐めていたと。一週間程度の時間や努力で追い越せる薄さじゃなかった。ただ人には十分じゃなくても勝負しなければならない試練がある。
腹を下した状態で体操の大会に出場したとき。制度変更により入試テストの傾向が丸代わりしてたとき。飲み会の幹事を経験もないのに押し付けられたとき。一年目から辞めた先輩の仕事を押し付けられたとき。数えきれない試練が人を成長させる。僕が曲剣を構えると、森野先輩は交戦的な笑みを浮かべて双剣を構えた。
「よし、準備はいいようね。ならさっさく私の炎で心も体も燃やし尽くしてあげる!」
「それでは試合‼︎はじめッ‼︎」
そう告げられた瞬間、森野の魔力は熱を帯びて炎へと変化した。刈谷ほどの出力はない。
だが、刈谷の淡々と空気を焦がす炎と比べて、森野の炎は若さと勢いに溢れていた。
さらに注目するべきは相手の得物。二刀流の短剣だ。熟練の使い手と戦ったことはない。
だが、刈谷とあらゆる武器の対策と想定はしていた。
『魔剣道は基本的に魔力のぶつけ合いだが、同格の相手なら武器の相性と練度が決め手になる。そして相手が短剣ならば小回りの効く強みを活かしてくるはずだ。そういう相手には武器のリーチを活かして懐に入れない戦い方を意識することだな』
稽古の時、刈谷はそう言っていたし、試合の様子を動画で確認したが、それが正攻法であった。ただ一向に属性を纏わないことに見かねたのか森野は眉を顰めて尋ねてきた。
「ねぇ、さっきから属性魔法を纏わないみたいだけど無属性で戦うわけじゃないでしょうね」
「そうですよ。まだそこまでのことはできませんでしたから」
「舐めているの?」
「まさか。僕はいつも全力です。だからきちんと僕の魔法を見ててくださいよ。負けたあとで油断したとか言わないように」
「そういう態度が舐めているというのよ。いいわ、私の魔法でわからせてあげる!」
森野はそう言うと、さっそく魔法を使用した。
「第三赤魔法 昼蛍」
森野の手のひらから蛍のような光が溢れ出て周囲に散った。ただ、その光は手のひらから離れるとすぐに見えなくなった。不発ではないな。地雷の類だろう。剣に魔力を込めて衝撃波を放つと、直撃したのか何もないところから炎が炸裂した。派手な欠損こそしないが、運動に支障の出る火傷を喰らうだろう。それを見ていた外野の先輩たちは言う。
「空気感で場を支配しようとする森野らしい下品な魔法だ」
「と言っても圧になるかといったら威力は弱いし、同レベル以上の属性魔法でゴリ押せばそこまで怖くないのが欠点なんだけどなぁ」
「ほらほら、魔剣道で男を口説くでしょう。そんな小賢しい手を使ってないで正々堂々と戦いなさいよ!」
「うるさいわね!まだ魔法を一つ使っただけじゃないの!部外者は黙って見てなさいよ!」
飛んでくる野次に大声で怒鳴り返す森野先輩。なかなかに辛辣な言われようである。ただ、悲しい話だが今の僕はその当たり前の攻略ができない実力しかない。僕は周囲に斬撃を放ち弾幕を展開した。それに接触した昼蛍は誘爆して炎を炸裂した。その行為を見て、人々は気付く。
「おいおい、まさか属性纏いすら使えないのかぁ?こんなの横綱相撲で終わりじゃねぇか」
「属性が使えたら楽に散らせるんだけどね。属性なしだと一つ一つ処理しなきゃいけないし、森野もそんな隙を与えるほど甘くはないよ」
その言葉が届いた頃には森野は僕のそばまで迫っていた。短剣の間合いに入られた。僕は身体を大きく反らして躱すと、曲剣の反りを使って反撃を試みた。森野はまさか反撃を喰らうと思っていなかったのか、剣先が森野の頬に赤い線を引いた。
「ちっ…なんなのコイツ⁉︎」
予想外の傷に驚きながら森野先輩は自らの頬を触れた。手のひらには擦れた血の跡が付いていた。そこで僕は確信する。武器の相性は分からないが戦闘スタイルはそこまで相性は悪くないと。むしろかなり攻めれるな。
「あれ、剣技はかなり拮抗してるぞ。それに無属性であるけど真理谷の方が出力では推し勝っているよ」
「え、マジ。それってめちゃくちゃ魔力ゴリラってことじゃないですか。嫌だなーせっかく可愛い顔してるのに。自分より魔力が多いのは凹むなぁ」
思いのほかゴリ押しが通用すると判断したボクは攻め続けた。短剣の素早さは脅威であったが、柔軟さを活かして型にとらわれない動きで翻弄し続けた。そして、体勢を崩したところで森野の腕を切り落とした。
腕と握られた剣が空中に舞い上がり、短剣がリングの端に落ちた。
勝利条件は武器を10秒以上場外にすることだ。そして双剣の場合は手数の有利がある反面、片方の武器でも場外となればそのルールは適応される。ただ、その時の僕は勝負を焦ってしまった。短剣をリング外に弾き出そうと、対戦相手を前にして衝撃波を放つことを優先してしまったのだ。その選択を見て森野はニヤリと笑った。
「引っかかったわね!『第三赤炎魔法 紅刃』」
森野先輩の短剣から放たれた一撃。完璧なフェイクからのカウンターだった。刈谷曰く『第三魔法 紅刃』は赤炎属性の使い手が最も愛用する魔法だ。武器に纏った炎の火力を瞬間的に跳ね上げて斬撃を放つだけの単純な技だが、高熱の余波により射程は広く、目測で回避したら大ダメージを負うことになる。
「っーーーー‼︎」
回避したつもりだった。だが、それでも間に合わなかった。二の腕に掠める程度の一撃であったが、高熱の余波により右肩ごと焼き斬られた。
「勝負あったな」
天谷部長は静かにそう呟いた。部長からの視点だと真里谷は利き腕を斬り落とされた上に武器を見失っていた。武器は空中に舞っており、もうすぐ場外に落ちる。その武器を探そうと視線を反らしたら森野にトドメを刺されるし、森野の追撃を対策しようとも彼にはそれを防ぐ術はない。ただ、その時、部長は自らの目を疑った。彼は笑っていたのだ。
命が指にかかった瞬間、刈谷との会話が蘇ってきた。
『そういえば魔剣道って体術はありなの?』
『ありだがなんでもというわけではない。代表的なのは武器を持ってない状態で硬質グローブで剣と魔法を受けることは禁止されている。何故ならそれを許すと人力の魔法を全て防げてしまうからだ。そしてそれを犯したら当然ペナルティーがあり、故意でなければ片腕を切り落として続行、故意だったり腕がない場合は失格で敗北だ』
『なるほど。それなら硬質グローブをつけていない手や脚で仕掛けても問題はないの?』
『ありといえばありだが、パンチとか蹴りの優先度は低いぞ。なんせ魔法を放ったほうが早いし威力があるからな』
確かに刈谷の言う通りだ。前世の白兵戦なら格闘術は大いに役に立つだろう。だが今世では魔力を魔法に変えて放ったほうが遥かに強い。ただ、その常識があるからこそ、この悪手は奇策となる。
僕は森野先輩に迫り、振るったばかりの腕の手首を握りしめた。そして、体重のままそのまま押し倒した。
「え、なにこれ、ちょっ…!」
森野先輩はなにが起きたのか困惑して赤面していたが僕には時間がない。この一撃に全てを賭けるつもりで放った。
「先輩一緒にイきましょう」
「えぇ‼︎ちょっと!」
『第三紫魔法 迎雷桑原』
リングに巨大な雷の柱が降り注いだ。平衡感覚を狂わせるほどの轟音が鳴り響き、観戦をしていた者達の誰もが驚愕して口を閉じることを忘れていた。
「なんだこの魔法は…⁉︎第四クラスレベルだぞ!だけど紫天魔法にこんな魔法あったか⁉︎」
「いや、あれは農業用の魔法だ。ばぁちゃんが使ってるのを見たことある。だけど第3クラスの魔法だぞ。あんな火力じゃない…!」
これが刈谷との修行の成果だ。属性の制御をするつもりだったが、2日前にして不可能だと判断した刈谷に提案されたサブプラン。もういっそのこと制御するな。最大出力でゴリ押せ。という超弩級の付け焼き刃である。
そして雷の束の直撃を受けた僕と森野先輩は無事では済まなかった。森野先輩は真っ黒なミイラとなって即死。そして僕は数百の自爆経験により電流の受け流し方は掴んでいたものの、全身大火傷の重傷だった。
『第三緑生魔法 造肉』
ただ、僕には回復魔法がある。付け焼き刃でも使い所では決め手になるし、自爆も戦術的に使えば状況を一変できる策となる。造肉で応急処置を済ませると僕は周囲を見渡して剣を探した。
「はぁはぁ、剣はどこだ?」
魔剣道で使われる剣は特殊な合金で製造されており、念動魔法の干渉を受け付けない。なのでリング外に落ちた武器は自分で拾いにいかなければならないのだが、僕の剣と先輩の短剣は迎雷桑原の衝撃でリング外の端まで吹き飛ばされていた。
場外負けまであと何秒残っているのか分からない。先に場外に剣が場外に落ちたのは僕の方だ。早く剣をリング内に入れなければ僕の負けになる。僕は血塗れになった体を奮い立たせながら動かして剣の元に走った。そして剣を握りしめるとリングの方へ力いっぱい投げようとした。
だが、身体のダメージは造肉では補えないほど深刻で、腕を振るった瞬間、肩ごと崩れ落ちた。
両腕は失った。それでもまだ歯がある。勝利とは自分の腕で掴み取るもの。そして腕がなければ口で、口がなければ瞼で掴み取り絶対に手放してはならない。
僕は念動魔法で上体を起こすと、首と上半身をめいいっぱい振るって咥えた剣を投げた。だが剣はリングの端にまで届いたが無情にも金属音を立てて転がり落ちた。
「くそ、ここまでか」
魔力も手段も尽きて倒れかけた。地面に堕ちることはなかった。僅かに首を動かすと、そこには天谷部長がいた。彼女はふと微笑むと、力強くもどこが優しさを感じさせる声で言った。
「お前の勝ちだ」
その言葉を最後に僕は力尽きた。
のちに知った事だが魔剣道には略式判定というものがある。相手を絶命させた場合は武器がリングの内外にあろうとも勝敗が決定するらしい。つまり最後の僕の頑張りは恥ずかしくも取り越し苦労であったらしい。