人間が常に赤ちゃん扱いされるような上位種に生まれたら自分だけおいてけぼり 作:苺のタルトですが
その様子にぐっとなる。
失敗であり、迂闊だったが約束してしまったものは、なかったことにならない。
確かに、行くよねと聞かれてハイハイ、と安易に返事をしたわけだ。
そこは完全にこちらの失態。
ということは、ちょっとは付き合うべき、なのかも?
悩む。
悩む間に人間のスタッフらがテキパキとエルフ達を誘導し、撮影を始めている。
エルフ達は、人間にスタイリストの服の直しを受け、顔面が蕩けている。
こっちをチラチラと見ているのは、こっちから触れてないから、アリよね?という視線。
確かに、エルフ達からは今回指一本触れてない。
なるほど、考えたな。
服を整えられている。
モデルをするのだから、触れられないと始まらない。
浅知恵だけは、無駄に回る小賢しさに感服。
イラついたが、今回は正当性があるから仕方ない。
「やった!リリシヤが乗り気になってくれたな」
「お手柄よ撮影エルフ」
エルフ達はノリが良いので、あだ名で速攻呼ぶ。
撮影エルフもノリが良いので、気を悪くせず寧ろ、誇らしげにしている。
そこの感性は、よくわからないのだ。
無視して、同じように服を着て撮影される。
一番地味に見えるようにしておく。
帰って目立つけど、目立つからこそ、その時の顔をしなければいいだけだから。
これっきりの顔。
撮影が始まると、エルフ達は人に言われるがままにポーズを取る。
「めんどい」
こちらも適当に合わせておいた。
というふうに見せている。
反抗してしまったら、その分長引くだろうし。
なんとなく、付き合う。
「こっち目線お願いします」
モデルの仕事は、退屈と言える。
ずっと動いてはいけないのに動かねばならない、という矛盾だらけな方法。
違うポーズも、と次々注文。
エルフ達はそそくさと、言われた通りにやっていく。
人間に命令されて、それをやることに謎の使命感を感じているらしい。
共感不可能だ。
離脱したいなぁー。
「休憩挟みます。お疲れ様です。次は三十分後です。お願いします」
「「「はーいっ」」」
目をハートにして、返事をする奴隷(エルフ)の揃えた声。
うるさいな、黙ろうよ。
「楽屋にご案内します」
「ここでいいのよ」
「ああ。我らはここで人間を見ておくから」
あなたも座りなさいとエルフ達はテーブルを勝手に設置して、部屋の端に集まる。
「え?」
案内しようとしたスタッフを捕まえて、テーブルにつかせる。
「あ、あの、ぼくは仕事をしなければと」
捕まった哀れな羊は他のスタッフに助けを求めて顔を向けていたが、他のスタッフは顔を逸らしたり、写真を撮ったりと助ける気はなさそう。
まぁ、危害を加えられるというわけもないし。
助ける必要性を感じないという。
今までの法則を考えれば、放置が一番美味しい。
テーブルには、楽屋の方に置いてあったのだろうお菓子や飲み物が置かれていた。
リリシヤはもらおうと、手を伸ばす。
しかし、ごっそりエルフ達がそれを人間の方に持っていく。
おい。
「わたしが食べようとしたのに、取らないでよ」
「いいじゃないの。人間にあげたら、喜ぶものなのだから、これはあげたいわ?」
「リリシヤにはこっちをあげるから、少し待ってて」
「天変地異起こして、人間をこの場から散らされたいんか、こいつら?」
青筋が浮かぶ。
今は日本語ではなく、エルフ語なので人間は何の会話をしているかわからない顔であちこち目を泳がせていた。
「あ、あのう。ぼく、本当に忙しいので。おやつは皆さんでどうぞ」
「まぁ!」
「働きすぎなのよ!」
「座っておきなさい」
「わたしがマッサージしてあげるから」
「ほかの人間ちゃんが働いているから、自分も働かないといけないという義務感に囚われているのかね?」
「仕事だからするんだけどね。邪魔していることが、逆にストレスになるんだよね」
ボソッという。
「そうなの?」
「え、そうなのか?」
「リリシヤは専門家だから、そうなのかもしれないわ」
皆が話し合う。
「ほら、食べて食べて」
その間にも、スタッフくんはなんとかしようとしていたが、身動きできない密度。
無理そう。
リリシヤ、リリシヤと質問してくるエルフ軍団達に適当オブ適当に対応していく。
勝手に心を読んで、勝手に考えてしてきくだろうから、こちらは無言。
それでも伝わるから、問題ない。
サクサクとお菓子を食べて、次の撮影時間まで時間を潰す。
二日時間を免除したからか、エルフ達も心持ち幸せそうに人間達をそれぞれ観察したり、休憩場所から離れて働く人間達のところへ行く。
休憩時間は、別名自由時間みたいなもの。
そう、認識しているのだ。
間違ってないし、エルフ達をここへ誘致した責任はこの場の人間にあるので、止めることはしない。
精々後悔して、二度と仕事を頼まなくなればいいや。
後悔しろー、後悔しろー。
余計なことをして、巻き込まれた恨みである。
関わり合いたくないだけなのに、そっちから関わるのならば、リリシヤは避けるのみ。
というか、自分以外なら好きにすればいい。
ごくごく飲む。
ありとあらゆる、渡されたものを消費していく。
その間もスタッフの男は諦めたのか、質問責めに答えている。
諦めの境地ってやつだな、アレ。
逃げられないことなのだ。
恨むのなら、ここにいる同僚とか世間になるかな?
「あうあうあうあう」
質問され過ぎて、目がグルグルになってきた。
そして、その光栄を撮影し続けている撮影係がずっと、あっちにいる。
この光景を、最初から今まで撮り続けていたらしい。
それを知っていたから、自分は姿が映らないようにしておいた。
映りたくない。
認識されたくないもん。
休憩時間は滞りなく終わり、撮影が再び始まる。
エルフ達は、ぞろぞろと移動。
男の人間を掴んで。
ひたすら、足場が浮いてるので無抵抗になっている。
笑えるので、何も言わない。
今回は、百パーセント自業自得空間。
エルフを呼ぶとこうなるという、教訓にでもすりゃいい。
「あのー、離してもらいたいのですがー、誰かー、助けてくれよおう」
情けない声が聞こえてきた。
エルフの前のインタビューでハグ時間をカットした関係者は、酷なことをしたものだ。
その時の光景を写しておけば、こういう事態を少しでも減らせたと思う。
良いようにカットして、良いように見せるからねぇ、ほらぁ。
「撮れ高、高いな」
「よし、いける」
「ゴールデンだったら、最高なのに」
「動画でも、いいんだよ」
「やったな」
「あいつ、給料に色を付けてやるか」
同僚、スタッフたちがコソコソ話している。
聞こえているよ。
エルフイヤーは地獄耳ならぬ、高性能耳なのだ。
普通に生贄にしていた。
それを、わざと生贄にされている人間の耳に届かせる。
顔を赤くして、離している人たちの方を見て、睨みつけていた。
終わったらどうなるか楽しみ。
人をバカにしたら、恨まれるのは王道。
給料を高くされても、嫌なものは嫌なのだ。
カワイソー。
というわけで、突発的なモデルの仕事は終わった。
終わったら即帰宅。
もうエルフ達に止められなかったので、正解だな。
全く。
肩を揉む。
疲れたのでエルフの世界での温泉に浸かる。
上がると外でエルフ達が人相手にファッションショーごっこをして、撮影していたので、分かりやすい。
ポージングを指示もせず、ひたすら可愛い、を連呼してパシャってた。
撮影文化がここにも、早くも取り入れられている。
それを見ながら、ぽてぽてと歩く。
人に見られるのって、やっぱりストレス。
最後に締めくくり、数ヶ月後に発売される予定の本を未来から取り寄せて、読むことにした。
ペラった。
「ポーズとキメ顔がよく撮れてるだけでまともに見えるの、眼福を通り越して災害」