人間が常に赤ちゃん扱いされるような上位種に生まれたら自分だけおいてけぼり   作:苺のタルトですが

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3話とある公務員の長い一日

各所、とある出来事が真面目な職につく男達に起きていた。

 

それは一本の通信から始まる。

 

『応答願いますっ!こちら〇〇署!〇〇です!』

 

「こちらは〇〇署。なにかありましたか?」

 

切迫した空気に、対応する職員および周りの者達も緊張で顔が強張る。

 

『現在、誘拐事件が発生!』

 

「わかりました。そちらに増員をかけ」

 

『誘拐犯は本官を拉致している模様ですっ』

 

言い終える前に、慌てて付け足される情報のせいでコールセンター対応職員は目を店にする。

 

「……えー、と」

 

『これはイタズラではありません!本当に神輿のように担がれております!』

 

懸命に伝えられてはいるが、警官を拉致してなんになるというのか。

 

この無線は警察官の専用回線。

 

ここは警察本部。

 

日々、いろんな通報がコールセンターには寄越される。

 

が、犯人が本職警官を誘拐。

 

その情報は些か真実味に欠ける。

 

「た、待機をお願いします。今から本部へ情報を流しますので」

 

コールセンター職員は、とりあえず回線を待機中にした。

 

「現在進行で拉致を受けてるってマジ?」

 

隣に座る同僚が面白そうに笑った。

 

対応した職員Bも苦笑して首を捻る。

 

イタズラと怒られるのは自分なのに。

 

仕方なく、規定なので本部にログを送った。

 

 

 

 

 

 

『た、待機をお願いします。今から本部へ情報を流しますので』

 

「待機って、動いていると──き、切りやがった!?おい、おいってば!切るなあああ!頼むからあああっ」

 

振動に耐えてなんとかレシーバーで連絡を取ったのに、無視された。

 

と、今現在謎の美男美女達に拉致されている男は叫ぶ。

 

「どこに運ぶ?」

 

「柔らかいところに決まってるでしょ」

 

「それにしても働き過ぎだ」

 

「私数字数えたわ!8よ、8!」

 

「なんって酷い!死んでしまうじゃあないかっ」

 

長耳の人型達にせっせと運ばれる現職警官(39)男性。

 

この道に入って20年近くになるが、わっしょいわっしょいと運ばれるのは生まれて初めてだった。

 

いや、待てよ。

 

父親の肩車があった。

 

あれももう随分と昔だ。

 

現実逃避を始めた脳は、男を非現実から切り離してくれなかった。

 

(最初は質問責めだけだった)

 

この状況が、出来上がるまでの回想が思い出される。

 

話しかけられたのは、およそ1時間前。

 

集団が己を取り囲んだ時、流石に驚いた。

 

近年海外の渡航者や旅行者が交番を頼り、有名になった建物の看板にあるKOU BANを目印にしている。

 

それにしても、美形だ。

 

見惚れていると矢継ぎ早に質問を浴びせられた。

 

「ねえ、お名前は?」

 

最初、本気で学んだ言語を可笑しく覚えてしまった類の人間かと思っていた。

 

「名前、ですか。ゴトウですが」

 

「ゴトウですってぇ!かわいい」

 

「はいはい!おいくつ?」

 

「年齢?はぁ、えっと、39になります」

 

年齢はあまり言いたくなかった。

 

けど、期待に満ちた目を見ると秘密にはできなくて。

 

「うそぉ、39?見えない見えない。かわいすぎてなにもみえないっ。えーっとリリシヤによれば39ぅはぁ……」

 

盛り上がる面々。

 

なにか紙を取り出した、耳が長い女は探すように目を動かす。

 

「うっそ、待って、まってまって。人間って平均年齢90と少しって書いてあるわ!!大変よみんな!かれはあと50年しか生きられないって!」

 

(はぁ!?)

 

突然、意味のわからないことを叫びだす。

 

「他にも書いてあるぞ?はは、見落としたなお前っ。落ち着けよぉ、たく。えーっとなになに?働けるのは65までなので、注意???」

 

「あ、あ、あ、大変よおおお!みんな!かれを保護しなきゃっっ。確保よ確保!!」

 

というわけで、なにがなんだかわけもわからず、担ぎ出された次第だ。

 

やがて降ろされたが、円状に囲まれて逃げ場なし。

 

「本官を直ちに解放しなさい!」

 

「いやーん!威嚇してるっ。かーわーいーいー」

 

「生き急がないで?お兄さんと喋ろうか?な?ほら、これ、建物でもらったキャンデーという菓子で甘いぞぉ?まずはこれを食べて落ち着くのだぞ」

 

(なんでおれがなだめられてんだよっ)

 

警棒をチラつかせたが、効果はびっくりするほどなかった。

 

不良達がバカにするために連れてきて囲っているのとはなにか、次元が違う気がする。

 

「ほーら、アーンして?」

 

「や、やめなさ、やめろ!」

 

「ちょっと、怒ってるのに無理矢理食べさせてはいけないのよ?」

 

別の女がやめさせるが、なんとなく釈然としない説得内容。

 

「もう8時間も健気に、必死に働いていたら、気もトゲトゲになるのは仕方ないことなのよ、きっと!刺激してはいけないのよ、多分。うーん、今はあの子がいないから私たちには気分を安らがせる方法が難しいわ?」

 

「私の養い子は、怒ったことなんてないから、野良の人間の落ち着かせ方法を知らないのよねぇ」

 

「あっ、自慢したいだけだよなそれ?羨ましいからそこ変われよっ」

 

「やーよ。養い子の椅子視点になっていつも見守るのは、私の特権よーだ」

 

警官39歳を惚けさせる、気の抜けた会話が目前で繰り広げられる。

 

「警備員という職業を聞いてみたら、さらなる専門職があると聞いて、貴殿のところにきたのだ。許せ。ところでその制服はカチカチしててかっこいい。どこで買えるんだい?」

 

「アタシも気になるわ!着せたいのよねぇ。絶対似合うもの!」

 

人間の男が質問をされたものの、答えようにも答えられない質問に顔をしかめる。

 

それは、コスプレだ。

 

と。

 

やっぱり、このよくわからん集団はバカにしているのかもしれない。

 

「ねぇ、もしかしてもうお喋りできないくらい弱ってたり、してなあい?」

 

あまりにも無口でいるとそのようなことが、囁かれだす。

 

「や、やっぱり残りの寿命を使い切り出してるのよ!大変!うちで保護しなきゃぁああ!」

 

「よし、任せろっ」

 

「うわぁ!やめろ!」

 

空間が歪んで、その穴に連れて行かれそうになった。

 

「くおおおおらあああああ」

 

足が八割入ってしまっている、間抜けな状態になったところで、低音ボイスが場を引き締めた。

 

「私がせっかく有名なコーヒーチェーン店で、今世ですら言ったことのない、呪文らしい呪文で苦労してやっと注文したコーヒーを味わおうとしてるときに、なぁに、してんのぉ?」

 

女の手には、某チェーン店のロゴ入りプラスチックカップが握られていた。

 

「あら、リリシヤ。いえね?この子が死にかけているからこちらで保護してしまおうかと、ねえ、みんな?」

 

全員よい笑顔で頷く。

 

「いや、どこも死にかけてないし。すっごい暴れてて普通に元気だし」

 

警官は同意度100パーセントだったので、首を激しく上下させる。

 

「でも、この子、もう39ですって……なのに、交番という箱に8時間以上せかせかとずっと動いてるのよ?人間の心臓は鼓動回数が決まってるらしいじゃない」

 

「医学的な知識の前に、人間の知識先にインプットしろや」

 

ど正論のツッコミがなされていたが、誰一人まともに聞いちゃいない。

 

「とりあえず、離してあげて」

 

「いやよ!いくらあなたの頼みでも!目の前で寿命をけずる子を手放すなんてっ」

 

まるで、老猫の散歩をストーキングする飼い主のようだ。

 

座った目で女、リリシヤは杖をくるりと回す。

 

警官は周りから少し離れた位置に立っていたので、目を白黒させた。

 

「気にするんなら、なにかしてあげれば?」

 

「なに?なにがすきなの!?」

 

耳長、のちにエルフと名乗る彼らに詰め寄られて、答えねば離れないという気迫に押し出される。

 

「あー、市民のみなさまのえがおがすきです」

 

「ビールらしいよ」

 

「よし、びーる、買いに行くぞ!皆のもの!我に続けー!」

 

「「「おおおお!!」」」

 

どたどたと居なくなるエルフを唖然と見送る警官の男。

 

リリシヤと呼ばれていた女に最後ぺこりと頭を下げられて騒動は一旦終わる。

 

「え?白昼夢か?」

 

呆然としながらも家に帰宅する時刻になり、屋内へ入ると部屋いっぱいにビールがあった。

 

「うわああああ!無駄に高いビールが詰まれてやがるううう!」

 

怖いけれど、これを通報する気になれない。

 

実はコールセンターに見放されたのを、根に持っていたゴトウであった。

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