人間が常に赤ちゃん扱いされるような上位種に生まれたら自分だけおいてけぼり   作:苺のタルトですが

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8話ボクシングジムなんだから当たり前なんだけど怪我を治療したいと押し寄せるエルフ

エルフ達が地球の施設で大変なのだと、それしか言わずめんどくさすぎて無視していたら強制的に連れて行かれてしまう。

 

やろうと思えば好きなように飛ばし、好きなように自分で帰って来れるからたいしたことじゃないんだけど。

 

「リリシヤ、ここよ」

 

しゃらりと人間のマネキンを模したピアスをした女エルフを見る。

 

それは似合わないというか、見ているとガチャガチャの小さな人形をぶら下げているようにしか見えない。

 

耳を見た時に、これみよがしに「見てみて、これ可愛くなぁい?」などと聞いてきたので耳から取る仕草を真顔でやった。

 

相手はクスクス笑いお茶目なんだから!と意味のわからぬことを言われて、言う気を失くす。

 

連れて行かれた建物の看板を読む。

 

「ボクシング教室……」

 

「人間ちゃんたちが喧嘩して、ずっとみてたんだけど、止めないの」

 

そりゃ、ボクシングジムだもん。

 

「ボクシングジムってそういうところだから。戦って買ってお金をもらう。仕事ね仕事」

 

説明してもへばりついている。

 

ボクシングジムのドア越しだけど、顔を窓に張り付かせていた顔を並べている姿は壮観。

 

ボクシングにいる人たちが及び腰だ。

 

ボクシングジムに習いにきている人たちが、恐れている顔を向けている。

 

ただでさえ、美男美女で怖いだろうに、よりにもよってここにへばりついているのだから。

 

「ねえ、ほらみて。あんなに怪我をしているわ。腫れてるの。みてわかるわよね?」

 

「はいはいわかるわかる」

 

「おざなりよ」

 

「青あざまでできてるんだぞっ」

 

「殴り合いなんて、怪我が悪化したらきっと苦しいわよ」

 

「そーよ」

 

わーぎゃーわーぎゃーと騒ぐエルフら。

 

耳を塞ぐ。

 

エルフの耳は長い。

 

耳の中の大きさは地球の人間と同じくらい。

 

横長なので、みんなは好きに色々つけている。

 

人間のピアスも自由なのだが、微妙な気持ちになるのだ。

 

あまりつけないで欲しい。

 

言っても聞きやしないからもう言わないけど。

 

でも、あまり良い気分にならない。

 

人間がぶら下げられているみたいで、正直悪趣味なピアスだし。

 

猫とか犬とかなら、可愛いで終わる。

 

普通にこわい。

 

人間にそれを見せながら話しかけたら、逃げない人だって逃げるかも。

 

話しかけてきたエルフの耳を先ずは人は絶対に注目する。

 

特徴的なものだし、まさにエルフたる所以みたいなものだし。

 

そしたら、人間を模したものがぶらぶら揺れてるんだよ。

 

絶対「ひっ」て悲鳴をあげたりそんなもの付けてると怯えたりする。

 

リリシヤならば近寄らない。

 

変人の域だからだ。

 

考えている間にボクシング教室は休憩になったのか、人が戦うのは見なくなる。

 

戦うのを辞めたことに安堵したエルフらはそろそろと、なんてことはなくこれみよがしに堂々と教室に傾れ込む。

 

エルフ津波やめろ。

 

一人や二人、十人なんて人数ではない。

 

教室が満杯になってもおかしくない面子が揃っている。

 

「うわ!入ってきた」

 

「通報するか?」

 

「でもあれって、例のエルフって人種じゃ」

 

「隕石を地球から守ってくれた恩人だぞ」

 

「そうだ。おれらを助けてくれたんだ」

 

「なら、平気なのか?」

 

「近寄ってきた!?」

 

「な、ななな、なんなんだ!?」

 

彼らは一様に様子を窺っては、こちらを推測して観察してきている。

 

まだマシな対応だ。

 

エルフ達が歓喜する人々に虐げられた異世界にいる人達ならば逃げたり、反抗したりしてなかなかな態度だが、そうではないボクシング教室の人達は怯えながらもエルフのことを知ろうとしている。

 

前にあった使われていない建物にいた彼らの時なんて、武器を向けられていたから。

 

まあ、エルフ達は気にもしなかったけど。

 

「ななななな、なんでしょうっ!」

 

責任者らしきオーナーみたいな人がエルフらの前に出て、問いかけてくる。

 

「ん?私達に話しかけているのかしら?震えてるわ?可愛い」

 

「可愛いわ!私がもらう!」

 

エルフの女が腕に囲い込む。

 

「ぎゃああああ」

 

「「ひゃあああああ」」

 

エルフ達は魍魎跋扈の妖怪扱いだ。

 

男のオーナーっぽい人がエルフの胸に呑まれる。

 

「人間ちゃああああん」

 

「直して!あ!げ!る!」

 

「うわあああ」

 

「にげ、ぶにゃ!」

 

叫ぼうとした人達にも、遠慮なく飛びつくエルフら。

 

混沌、カオス、パニック。

 

パニック映画で、次々モンスターに襲われる人間と同じシーンを見たことがあるなぁ、とリリシヤは他人事に教室の外から眺めていた。

 

しかし、エルフ達は顔を治癒すると彼らに作った鏡を見せて治ったわと伝えると、男達はエルフ達の行動の真意を自ずと把握していく。

 

綺麗に、古傷さえ治っていた。

 

「嘘だろ?」

 

オーナーが手を眺めている。

 

「昔、怪我してダメになったのに……動く、動くぞっ!?」

 

彼は言いながら手をグーパーグーパーさせ、滝のように涙を流し始める。

 

「オーナー!?塩崎さん?あの」

 

近くにいた女性がそろそろと近寄る。

 

彼女はステータスを見るとこのボクシングの心理学の医師免許持ちらしい。

 

ふーむ。

 

メンタルをケアする人らしい。

 

塩崎、オーナーと呼ばれた人も含めて全員を診ていたというのが正解だろうね。

 

「あら?あなたも治してあげますわ?」

 

オーナーを胸に埋めたエルフの近くいた違うエルフが女性に手をかざす。

 

「え?え?どこも悪くないですよ?」

 

医師の女性は怪訝そうに見る。

 

あー、違うよ人間。

 

外見の話じゃないんだよね。

 

「これで元気な赤ん坊が生まれますわよ!楽しみにしてますわ!おーっほっほっほぉ」

 

高笑いする女エルフに女性はふらりとなる。

 

それを支えたのはオーナーの男。

 

「わ!大丈夫か?カナ」

 

親しいなこの二人。

 

「あら?どうなさったのかしら?」

 

「仲睦まじいことです」

 

エルフ達はとろけた顔で二人を見遣る。

 

「オーナー!カナさん!」

 

ガヤガヤとゾクゾクエルフたちに顔や傷、神経を治された人達が二人の間にあつまる。

 

それを挟まりたそうにするエルフ達に規制テープを貼って近寄れないようにした。

 

物理的にであり、人間は通行可能な代物だ。

 

エルフ侵入禁止のホログラムである。

 

「きゃあ、リリシヤったら!今いいところなのにぃ」

 

「それはこっちのセリフ!」

 

今いいところなのは人間側だ。

 

絶賛ヒューマンドラマが始まってるんだが?

 

そういうところが人外っぽさがあるんだよね。

 

豪快なんだけど、繊細な配慮などない。

 

まあ、リリシヤ的には一度も気にしたことはないけど。

 

なんせ、彼らは上位存在だから。

 

優しくしましょうという気持ちがあるだけ、奇跡的なことだよ。

 

「あ、塩崎さん。私、赤ん坊産めるって」

 

「なに?ほ、ほんとか?」

 

エルフ達は同じ動作で頷く。

 

塩崎はボクシングで手を負傷しダメになっていたが、カナは女性ボクシングでお腹を負傷しそこでなんらかの問題に触れていたらしい。

 

「よかったな!二人とも!」

 

「なら、結婚を受けてくれるよな?」

 

カナは塩崎との子供が無理だと思っていたし、塩崎がめちゃくちゃ子供好きなのでと知っていたから結婚を何度申し込まれようと二人は夫婦にならなかった。

 

二人とも人間としては若いわけではないから、子供は養子でいいとか色々模索していたが、やはりカナ的には実子をと懸念ばかり考えて二人は進展ができなかった。

 

全てステータスに書いてある。

 

「あ、ま、まず、検査しなきゃ、です!」

 

「おれの手が治ってるんだぞ?お前のここも、もう大丈夫だ!そんで、たとえ違ってもおれはお前と結婚する!幸せにするから頷いてくれ」

 

オーナーはカナを支えながら伝えた。

 

周りのジム生徒達も二人のことを知っているのか深く頷き、女性の肩を揺らしたりして勇気づける。

 

「はぁ、しゃーなし、今回はエルフ達の後始末かな」

 

リリシヤは絶対にエルフ達ができないようなやり方で、ことの終わりを結びつけることにした。

 

杖を出して二人に向かって映像を見えるように出す。

 

映るのは赤子を抱くカナと相手の男の姿。

 

カナは入院着を着ていて、オーナーは両腕で重そうなベビーカーを持ち上げて幸せそうに話している。

 

怪我をしていたら持てない光景だ。

 

「これはっ」

 

「う、うそ、私たちの、赤ちゃん?うそ、うそうそうそ」

 

首を振って画面に釘付けになる。

 

音声が一つ入った。

 

『おかーしゃん、おとーしゃん』

 

舌ったらずの声を聞いた面々は固まる。

 

映像の中の夫妻はベビーカーを下ろして赤子を少し高くすると、そこにとすんと乗る小さな子供。

 

「えっ!?あの子は第二子なのっ!?」

 

女性はもう口から嘘と吐くことはせずに、震える体で画面を見る。

 

「二人目、わたし、一人でも無理って思ったのにあなたの子を産めるの?」

 

「ああ。これが幻でも構わないっ」

 

しかし、塩崎は治った手でしっかりカナを支えていたので誰よりも実感した。

 

カナのお腹も正常になっていることを。

 

カナが塩崎に初めて、産んであげられないと泣いて叫んだ日を忘れたことなどない。

 

「結婚してくれ。おれと世帯をもってくれねぇか」

 

カナは薄くなる映像を見終わると、男に頷いて嬉しさの涙を見せた。

 

ワッとボクシングジムの中が、おめでとうの嵐により湿度ごと上がる。

 

エルフたちもよくわからないけど、番がつがったのねと、空気をぶち壊しかねないことを言うので。

 

おまけに産んだら、一緒に住みたいとか言い出す奴ら。

 

規制テープを口に張り付けたリリシヤは、今日がんばったねって褒められていいと思う。

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