TS転生者が推しを救うために暗躍する話   作:はめはめぐーりぐり

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色々書き直したりしました。実質初投稿です。


出会い

 

 人類生存圏の首都、帝都。

 そこに今、一人の青年が辿り着いた。

 

 彼こそは『武装学園最弱ランクの無双ランサー』の主人公、黒田一鶴。

 このトチ狂った世界をぶっ壊すことで救う頼れる男である。

 

「ついにこの時が来たな……」

 

 双眼鏡で黒田一鶴が帝都の門をくぐった事を確認した私は一人ごちる。

 

 苦節十余年、強くなければ人権が無いこの世界で生き抜くため必死こいて鍛錬を積み、無い頭絞って内政チートを目指し、悪目立ちして潰されない様ヘラヘラしつつ、けれども舐められないようやりたくも無い暴力的行動を行い凌いできたが、

 

 ついに

 

 ついにこの時が、あの社会の破壊神がやって来てくれたのだ!

 

 まあ、色々吹っ切れて暴れまくるのはまだ暫く先だが、だがそれでもあのムカつくゴミどもが青ざめる時がもうすぐそこだと思うと、顔がにやけるのがやめらんねぇなあ!

 

 うへへうへうへ

 

「お目当てのもんが見つかったようで何よりっすねー刀華お嬢様」

 

 来る日の妄想でトリップして居ると、買い出しに行っていた部下が戻って来ていた。

 

「お帰りーポン子、いやーついに始まっちまいますよ、血湧き肉躍る学園物語が!そして! 我々によるめくりめく暗躍の物語ってやつが!」

 

「そーすか。お嬢がやるってんなら、あーしはなんにだって付いて行くんで何でも良いっすけど」

 

 ポン子は買ってきたダンジョンサツマイモを食べながやる気のない相槌をかえしてくる。

 

 何だか主従間での温度差に不安になるがまあいい。

 こいつはこう言う奴だ。

 

「ではこれより!『推しの3章ヒロインちゃん救出andついでに帝都滅亡危機回避大作戦』を開始する!」

 

 

 

*****

 

『原作主人公』黒田一鶴視点

 

 

 帝都西門から少し歩いた所

 そこで『武装学園最弱ランクの最強ランサー』通称学ランの原作主人公、黒田一鶴は通りの真ん中で腕を組み悩んでいた。

 

(うむ、完全に道に迷ってしまった。どうしよう)

 

 山奥にある地元から長い旅路の末帝都へと辿り着いた黒田一鶴だったのだが、初めて訪れる都会の喧騒に乗せられてしまい、ついつい要らない寄り道をしていた所、気付けば目的地への道順が完全にわからなくなってしまったのだ。

 

(門に居た人には目の前の大通りを真っ直ぐ行けば辿り着くと言われていたのだが……)

 

 迂闊だった。

 

 一鶴は道中で購入した串焼きを頬張りながら後悔する。

 

 これから通う事になる東郷学園の学生寮、そこへの道ぐらいなら道ゆく人に軽く尋ねれば問題ないと思い、軽率に移動していたのだ。

 しかし、道を尋ねようにもどうやら自分は周りから避けられているようで、一鶴が目を向けると慌てて顔を逸らされてしまうのだ。

 

 無理やり捕まえて聞き出すと言うのもどうも気が引けた。

 

 しかしこうしていても埒が開かない。

 時間が差し迫っている訳でもなし、適当に歩いていれば辿り着けるだろう。

 

 残った串を吐き捨てて移動を開始する。

 

 そんな自分を避けるように道を開ける周囲の人々、どうにも悪目立ちしているようで心地が悪い。

 

 都会は田舎者に冷たい。そう故郷で耳にしたことはあったが、この扱いに自分はこれからやっていけるのだろうかと一鶴は胸中に不安を募らせていた

 

 そんな中

 

「おおっと! 何やら道に迷っていそうな可愛そな田舎者を発見!」

 

 唐突に背後から声をかけられた。田舎者という自覚がある一鶴は振り返ると、そこには個性強めな少女が自分のことを指差していた。

 

 やや小柄な体躯に黒のショートカット、しかし前髪は長く片目を隠す程に伸ばしている。服装は東郷学園指定の黒を基調としたものを身に付けており、女生徒なのにズボンであること以外は違和感はない。しかし学ランだけが明らかなオーバーサイズで着ている、というより引っかかっているという印象である。

 あと気になるのは学ランについた『風紀』のワッペンと腰に下げた一本の刀だろうか。

 

 ここまでの道中武器の類を身に付けている人は見なかったため、彼女は身なりからして少し特別な人間なのかもしれない。

 人目を気にし、一鶴も愛用の槍は布に包んで荷物と一緒に背負う事にしているのだ。

 

 振り返った一鶴と目のあった少女は、大げさな身振りで腰に手を当て胸を張ると大きな声で語り出した。

 

「お困りかい?お困りだろうな!そんな田舎者君に私が手取り足取り、都会どうりを案内してあげようかと思うんだけど、どうだい?」

「……あ、ああ。そうしてくれると助かり、ます?」

 

 少女の勢いに押され、一鶴は彼女に案内を頼む事にした。

 断る理由は無いのだが、少女のあまりの押しの強さと会話の勢いに一鶴は行き道以外の不安を覚えるのだった。

 

(都会はこんな感じで交流していくのだろうか…もしそうなら俺は都会でやっていけるのだろうか……)

 

 

 

*****

 

 

 

「私の名前は西園刀華だ。刀華と呼んでくれると嬉しいぞ」

「黒田一鶴だ。よろしく刀華、俺も一鶴でいい」

 

 お互いに自己紹介をし握手を交わす。

 

 その事に問題は無かったのだが、西園刀華が名を名乗った直後、周辺で俺たちを避けていながらも活動していた人々が蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。

 

(これは……もしかしてかなりヤバい奴に絡まれたのか?)

 

 当の刀華は気にしていないらしく、行き先を指差しながら案内を始めている。

 何処となく不安を感じた一鶴だが、逃げ出そうにも逃げ場所が分からないので彼女について行くことした。

 

「ここら辺は市民区画って言って非魔術士の人達が暮らす区域なんだよ。だから魔術士の通う東郷学園の生徒は住民から避けられるんだ」

「なるほど?やはり俺は避けられていたのか」

 

 西園刀華は一鶴の一歩前を歩きながら話しかけてきた。

 

 会話から察するに、どうやら帝都では魔術士は非魔術士に避けられるのが当たり前の様だ。

 それにしたって西園刀華という少女の避けられようは異常な気がしたが、本人に聞くのは気が引けたのでやめておく事にした。

 

(彼女以外の生徒にあったら聞いてみよう)

 

「ところでさ、一鶴は外部組だろ?わざわざ帝都外からやって来るなんて、魔獣の危険もあるのに何故なんだ?」

 

 確かに地元の山村からここ帝都までの道のりは魔獣に襲われる危険もあり安全なものではなかった。

 地元以外の事をあまり知らない一鶴だが、安易な理由でやって来る人は少ないのだろうと想像できた。

 

「少し前から村に魔術士が必要になる事情ができてな。たまたま魔術士の才能もあってちょうど15になった俺が居たものだから、俺が学園に通って魔術士に成ればいいという話になったんだ」

 

 

 東郷学園への入学資格は、魔術士の素質を持つ事15歳である事の2つだけでありその門戸は広く開かれている。

 お陰で一鶴の様な田舎者でも、村長が書いた身元保証の書状さえあれば入学を許されるのである。

 

 それと東郷学園に入学する以外で魔術士になる事は出来ないとか。

 本音を言えば出身の山村を離れたくは無かった。だがそういう訳にもいかずこうしてここまでやって来ているのだ。

 

 

 原因は去年の夏の出来事だった。

 

 

 急に帝都から、魔獣から村を守るためにと魔術士の男がやって来たのだ。

 一鶴のいた山村では魔術士が居らずとも生活できていたため、別に魔術士を必要とはしていなかったのだが、だからといってやって来る者を拒む理由もなく、その魔術士の男を村は受け入れる事にしたのだ。

 しかしその魔術士の男は自分が魔術士というだけで山村の人間を見下し傲慢な態度を取った。

 農作業や狩りを手伝わず、その癖飯だけは一丁前に要求して来る。村の住人を召使の様に扱い時には軽い暴力も振るってきた。

 不満を覚え追い出そうとする住人も居たが、帝都から来た役人だからと村長がそれを押し留めていた。

 しかしある日のこと、男が「村の人間の態度が気に入らない」そう言い出し、ついには見せしめとして村の住人を殺害したのだ。

 

 結果その日のうちの魔術士の男は始末され、今では土の下で眠っている。

 

 それで問題は解決したのだが、今後も変な魔導士が帝都からやって来ても困るから俺が魔術士になる事になったのだ。

 

 

 

(流石に帝都から来た魔術士を埋めた事は話さない方がいいよな?)

 

 現在に至る原因を思い出すと一鶴は(村長が慌ててたしどんな理由であれ役人殺すのはまずい事だよな?)と考え詳細を口にするのはやめる事にした。

 

「そうかぁ、村のためかぁ。とはいえそれは大変だな、3年はこっちで暮らさなきゃいけない訳だし」

「仕方ない。村の中では俺にしか出来ない事なのだからやらないという訳にはいかないだろう」

「そうか?私だったら村のためだけに帝都行くなんて絶対しないけどな?」

 

「……そういうものか」

 

 少し考えてから一鶴はそうとだけ返した。

 

 山村では助け合わなければ生きて行けない、それが一鶴の常識だ。一鶴にとって刀華の言葉は理解し難いものだったが、同時に一鶴の考え方も帝都暮らしの刀華には理解し難いものなのだろうと一鶴は思い言葉を飲み込んだ。

 

(村長にはついでに帝都で見聞を広げてこいとも言われたし、刀華の様な考え方を知るのも大事なのかも知れないな)

 

「そういえば、帝都に行く事に全く私欲が絡まないという訳ではないんだった」

 

 ふと思い出し一鶴は口に出した。

 

「ほほぉ?分かったぞ!私の様な可愛い女の子とのラブロマンスを求めてだな!」

「いや違う。魔具という物に興味があったんだ」

 

 魔具 ーそれは始まりの魔術士が発明したとされる道具であり、かつて人類の脅威であった魔獣との戦いで大いに活躍したと伝えられている物だ。

 

 村にやって来た魔術士はその魔具を何処からともなく取り出し、その魔具から放った風の刃で村人を殺害して見せたのだ。

 魔術士殺害後、彼の荷物をくまなく探したがあの時みた美しいナイフは何処にも見当たらなく、一鶴は人知れず肩を落としていた。

 

 そんな魔具は東郷学園への入学に際し、生徒全員が手にする事が出来るらしいのだ。

 普段槍を愛用する一鶴だが、あの美しいナイフを貰えるのなら東郷学園への入学も悪くないと思っていたのだ。

 

「なんだ魔具か…」

 

 一鶴の言葉に刀華は肩を落としていた。

 自分を引き合いに出した恋バナの振りをガン無視されたのが辛かったのかも知れない。

 

「それならこれも魔具の一つだよ」

 

 つまらなそうな顔の刀華はそう言って腰に刺している刀に手をやった。

 

「ん?魔具というのは小洒落たナイフでは無いのか?」

「なんだ、他の魔具見た事あるんだ。けど魔具の詳しい説明は聞いてなかった感じか」

 

 そういうと刀華は刀を鞘ごと引き抜くと鯉口をきり、一鶴に刃をなかほどまで見せてくれた。

 一鶴の地元では一生拝めない様な綺麗な刃紋の刀だった。

 

「魔具ってのは一人一人違う形をとるんだよ。所有者に合わせた道具に変化してそれ以降は一生変わらないんだと。私みたいに刀の形の奴も居ればナイフの奴もいる。同じ武器種でも見た目や細部はバラバラさ」

 

 そう言うと刀華は流れる様な動作で刀を腰にしまい直した。

 その所作だけで彼女が長く刀を扱って来た事が見て取れ、一鶴は今彼女とし合えばどうなるのかが少し気になった。

 

「珍しい奴だと鎧が魔具の奴なんかも居るぞ。まあ大体は一般的に想像されるような武器の形になるんだがな」

「そうなのか。それなら俺は槍がいいな、ずっと槍を使って来たし今更他の武器を修めるなんて嫌だ」

 

 一鶴も最初は魔術士の男が持っていた小洒落たナイフが欲しかったが、あんな物を一生の相棒にしたい訳では無い。

 あんな短いリーチでどうやって戦えと言うんだ。

 

 果たして俺は槍の魔具を手に入れれるのだろうか…

 

「どうしよう…不安になって来た」

「まあ魔具は所有者に縁のある物の形をとるらしいから一鶴は大丈夫だよ、たぶん…」

「そこは断言してくれ」

 

「そういえば刀華は刀を扱って長いんじゃ無いか?」

「…そうだよ。やっぱ所作から滲み出てたかー私の剣豪っぷりが!」

「ああ、その刀の刃の美しさも理想的だった。俺も刀華の様な自分に合ったそれでいて美しい魔具が欲しい物だ」

「そうだろう、そうだろう!」

 

 一鶴の言葉に刀華は満面の笑みを浮かべた。

 

 そして一鶴はどの様な魔具がいいか想像を膨らませる。槍なのは大前提として、十文字槍や鎌槍の様に穂に刃以外が付いているのも楽しそうだし、柄に装飾などが付いているとカッコいい。配色はやや沈んだ赤色がいいし、刀華の様に刃紋がも欲しい。

 などなどまだ見ぬ己の魔具に思い馳せるのだった。

 

 

 

 

 そうやって一鶴と刀華が連れ立って暫く歩くと、特別ひらけた交差点が現れた。交差点を跨いだ向こう側は、今まで周りを囲んでいた景色とは少し様子が違っていた。

 

 建物の様式や間隔が広く、見晴らしがいい。自分たちの様な東郷学園の制服を来た人が多く、それ以外の人もどこか身なりが良い物を着ている。

 先ほどまでいた市民区画とは別の区域に来た事が伺えた。

 

 

「それでここからが学生区、東郷学園の生徒の主な活動区域だな。学生区で大体の物は揃うし基本的に此処から出る必要はないな」

 

 歩みを進め、学生区内に入ると周囲の人々の視線を感じた。

 それは一鶴の事を品定めする様な少し不快な視線だったが、隣で歩く刀華に移ると皆一様に顔を逸らしていくのだった。

 

(やはり刀華はこの帝都の人間の中でも特別な存在なのだろうか?)

 

 一鶴は学生区の人々の反応から、改めて刀華について考えた。

 

 それなりに話もしたし、それなりに仲良くなれた様に一鶴は感じていた。しかし一鶴は刀華に関して何も知らないのだ。

 帝都について右も左も分からなかった自分に対して、わざわざ案内を買って出てくれた少女。田舎者故の無知な質問にも一つ一つ答えてくれる面倒見がいい彼女なのだが、しかし周囲の反応は冷ややかなものだ。

 市民区画でも学生区でも刀華の存在は避けるべき、関わるべきで無いものというようだった。そんな周囲の反応は刀華にとって当たり前の事のようで気にも留めていない。

 

 西園刀華とは一体何者なのだろうか。

 

 刀華に直接聞けば素直に教えてくれるかも知れない。

 しかし刀華に対して言語化できな不自然さを感じていた一鶴はそうする事ができなかった。

 

(視線か……そういえば帝都に来てからずっと何かに見られているよな気がしていたな…)

 

 てっきり田舎者丸出しの自分を観察しているのだと思っていたが、そもそも市民区画の人々は俺を見ないようにしていたのではなかっただろうか?

 

 そして刀華が現れて視線は減った。

 

 それは刀華に怯えて人々が散ったからだと思っていたが……

 

「そういえば俺をずっと監視していた様だが何のためだったんだ?」

 

 思い付きで一鶴は刀華に鎌をかけてみる事にした。

 成功してもこの得体の知れない少女はこちらの追求をうまく躱してしまいそうだったが、やるだけやってみるの精神だった。

 

 そしてそんな一鶴の思い付きの行動に

 

 

「ファ!?」

 

 

 西園刀華は奇妙な叫び声をあげると目を見開いて硬直してしまうのだった。

 

 

 少しの静寂。

 

 その後固まったままだった刀華は、錆びた機械が動く様なぎこちない動きで一鶴に向き直ると、目線を明後日の方へやりながら言葉を発した。

 

「な、ななんのこと?かしら??」

「カマをかけといてなんだがいくら何でも分かりやすすぎないか?」

 

 一鶴はあっさりとネタバラシをした。

 

「かまかけかー!」

 

 すると先ほどまでの余裕のある態度は何処へ行ってしまったのか、西園刀華は衆目も気にせず顔を覆って叫び声を上げる。

 

 なんなら身を捩って苦しんでいるようだ。

 

 この西園刀華という少女は一鶴に優しく、聞けば何だって答えてくれていたが、その実隙のない人物だった。

 帝都の人間の中でも何やら特別であるらしい彼女に、一鶴は好感を抱くと同時に何故わざわざ自分に構うのだろうかと、不審に思っていたのである。

 

(しかしこの滑稽な姿からみて、怪しくはあれどやましい事を考える人間ではないのかも知れないな)

 

 身悶え激しく後悔する刀華に一鶴はそう評価を改めるのだった。

 

「それでどうして俺のことを監視していたんだ?」

 

 まあだからといって理由を聞かない訳は無いのだが。

 

 

*****

 

『オリ主』西園刀華視点

 

 

「そ、それはーそのー、えっとーあのー」

 

(や、やべーーーー!!!!)

 

 西園刀華は焦っていた。

 

 彼女が何故黒田一鶴を監視していたのか。その答えはひとえに彼が原作主人公であるからに他ならない。

 原作主人公であり、今後の活躍が約束された一鶴と無名の内から仲良くなっておき、いつか都合よく利用しようと考えていたのだ。

 

 冒頭で黒田一鶴を見つけた刀華はずっとタイミングを伺っていたのだ。黒田一鶴と出来るだけ自然な形で仲良くなれるタイミングを。

 

 その後一鶴は道に迷う事になり、それをたまたま通りかかった刀華がそれを助ける、という自然な流れに持って行けたのは監視の成果であった。その事から刀華は『黒田一鶴を監視する』という試みは大正解であったと確信していた。

 つい先ほどまでは。

 

(そのまま正直に話すのは絶対なしだ!かといって何て誤魔化せばいいんだ??一目惚れとか??)

 

 監視がバレる。そんな想定を刀華はしておらず、それはもう滅茶苦茶に焦っていた。

 マジで一目惚れが有効な言い訳だと思い始めるくらいにはテンパっていた。

 

 このままでは刀華は一目惚れした男を監視し続け、相手を助けるフリしてお近づきを狙うキショいストーカーになってしまう。しかし空回りを続ける彼女の脳内では他に良い言い訳が浮かばない。

 

 未来のために刀華はキショいストーカーになるしかないのだ。

 

(お、お慕い申しておりまする…これだ!これしかない!言え!言うんだ俺ぇーー!!)

 

「……」

 

 しかし刀華の内心とは裏腹に口は動いても喉が震えてくれなかった。元とはいえ男としての心とイマジナリーちんちんが拒否しているのだ。

 

「?」

 

 自分を見つめながらただ鯉のように口を開け閉めする、そんな刀華を見て一鶴は首を傾げるばかりだった。

 

 そんな二人の奇妙な沈黙は第三者によって破られることとなった。

 

「それは刀華様が風紀委員長だからっすねー」

 

 やって来た第三者、それは刀華の専属従者であるポン子だった。

 

 風紀委員、それは刀華が新設した学生区内での治安維持を目的とした集団で、学園規則を守らない者や意味のない暴力を振るう者を取り締まる事ができる。

 それら以外にも学園や生徒を守る為の特権が与えられている。

 

 確かに風紀委員としてなら第三者の一鶴を監視していた事にも言い訳がたつ。

 

「そうなんだよ!私ってば風紀委員長だからね!それで、その…色々怪しい奴は監視したりとか、色々してんのよホントに……」

 

 従者からのパスに全力で乗っかる事にした刀華は、自身の制服に付けられた『風紀』の腕章を一鶴に見せつけると言葉を何とか紡ぐ。

 しかし

 

「俺はその風紀委員長とやらに監視されるほど怪しかったのか……?」

「え!?あ…えっと、違くて!あ、いや違くはないけど…」

 

 とっさに刀華が述べた風紀委員らしい監視理由として怪しい者だから見張ったのだと主張したが、一鶴は暗に不審者に見えていたのだと言われ強いショックを受けているようだった。

 

 慌てて否定した刀華だったが、否定すると監視の理由が無くなってしまい、つい怪しいという事を肯定してしまった。

 

 黒田一鶴はかなりの偉丈夫である。

 身の丈は180以上あり、よく見れば衣服越しにでも分かるほどに筋肉も発達している。顔は整っているのだが目付きが鋭く、体と合わせると非常に威圧感があり、近寄りがたい見た目ではあった。

 

 これで15歳だというのだからさすがファンタジーといった感じだ。

 しかし刀華は前世の平均と比べてもやや小柄な体格なのだから世界の残酷さを感じさせられる。

 

 ともかく一鶴の見た目は客観的に見て、不審者とは言わないが、一般人として見過ごされるには適さない見た目である事は確かだった。

 だがそれをそのまま伝えるのは一鶴が可哀想でなかなか口に出来なかった。

 そんな刀華の様子に見かねたのか、彼女を見守っていたポン子が前に出て話し始めたり

 

「そりゃー怪しいっすよ。帝都外から来た外部組な上、明らかに武具っぽい長物持ち歩いてる人は怪しいっす。ねー刀華様?」

 

 外部組、それは東郷学園への入学に際して、帝都外からやって来た生徒の事を指す言葉だ。それの反対として内部組という言葉もあるが、これには貴族と一般魔術士がひと纏めにされている為反感を買いやすくあまり使われていない。

 

 上手い。

 ポン子の説明に刀華は素直に感心した。

 

 自然な形で一鶴への外見への中傷を、立場と持ち物による誤解へとすり替えたのだ。

 

 私は急いで頭を縦にふり肯定した。

 

「なるほど、確かに外からやって来る人間への警戒は当然だな。しかし自衛の為の武具を持ち運ぶ事も怪しい事なのか?」

 

 一鶴は外部組を怪しむという点には納得してくれたが、自衛の武器を持ち歩くのが怪しまれる事に納得いかないようだ。

 

「あー、ここでは魔具を持ち出して行動する事は特別な役職でない限り禁止何すよ。そんで紛らわしいから一般の魔術士は武器を持ち歩かないんす」

 

 

 魔具を持っての行動禁止、これには深い理由があるのだ。

 

 昔、偉大な魔術士が言ったのです。

 

「殺せる手段が手元にあると、カッとなった時つい殺っちまうんだよなぁ」

 

 そしてその言葉の通り、これを禁止するまでの間魔術士の不意の殺害は非常に多く。このルールを設けたところ魔術士の死者数は大幅に減少したとの事でした。めでたしめでたし。

 

 やっぱ魔術士って頭おかしいや。

 

 

「なるほど。それで俺は帝都についた当初から刀華と君に監視される事になったのか」

「そうっす、そうっす。ね、刀華様?」

「ウン、ソーダヨ」

 

 え、私の部下優秀すぎ!?

 

 上司の不始末をこうも完璧にカバーして見せるとは、こんなのポンコツのポン子だなんて呼べないわ。ポンコツの部下のポン子様よ。

 

 よし、ここは一旦優秀な部下に任せて相槌だけうっとこう。なんかそれが一番丸く治る気がするわ。

 

「そういえば名乗り忘れてたっすね。初めまして黒田一鶴さん。あーしの名前は蟲園落葉って言うっす。見ての通りしがない刀華様の従者っす」

「ワタシのジューシャのポン子様ダヨ。 スゴイデショ」

 

 そう言ってポン子は頭を下げる。

 すごい、なんかポン子がいつもの5割り増しでカッコよく見える。やっぱりうちのポン子はすごいんだ。

 

「知っているようだが、俺は黒田一鶴だ。よろしくな落葉」

「ヨロシクー」

 

「ああ、刀華様。度重なる疲労から幼児退行しちゃったんすね。お労しいっす」

「イタワシー」

 

 言葉とは裏腹に笑顔のポン子に頭を撫でられた。流石に主人として抵抗しようかとも思ったが、先ほどの醜態を思い出すとそんな気力も無くなってしまった。

 美少女の頭なでなでは嬉しいし、抵抗する事が重罪なので無抵抗でええやろ。

 

 心に多大なダメージを負った俺は少しの間、かわいいポン子からのよしよしを堪能することにした。

 

 そんな私たちの様子に微笑ましいやら、呆れたやら複雑な表情で一鶴は口を開いた。

 

「なんかアレだな、刀華よりも落葉のほうが凄いというか、しっかりしているんだな」

「ウン、シッ

 

 あ、まず

 

 

 その発言の何がポン子の逆鱗に触れたのか、それともそれ以前から溜まっていた苛立ちが爆発したのか、

 

 隣に立つポン子の魔力が荒ぶるのを感じ、俺は慌てて腰に下げた刀を引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 鉄と鉄がぶつかる音が響く。

 

 

 ギリギリ間に合った様で俺は安心から息を吐いた。

 幸いにも背後のポン子は虚を突かれて固まっている様だ。

 

(やっぱり……

 

「まさか止められるとはな。凄いんだな刀華は」

 

 そう言う一鶴は先ほどまでの精悍ながら静かな雰囲気とは程遠い、獰猛な顔で笑う。

 そしてポン子の目を狙って繰り出した槍の穂先を手元に引き戻すのだった。

 

 こんな危険な奴との会話は責任持って俺がすべきか…)




 えーリメイクにつきましてポン子ちゃんの号泣なでなでタイムは無くなりました。
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