TS転生者が推しを救うために暗躍する話 作:はめはめぐーりぐり
「やるな刀華」
ポン子の目を狙った一鶴の槍を弾く事に成功した私、西園刀華だったが内心クッソ冷や汗をかいているのであった。
そんな心境を知らないのであろう、躊躇なく槍で突き刺してくる系男子こと黒田一鶴は好戦的笑みでこちらに笑いかけてくる。
何わろてんねんコイツ…
やっぱ主役の頭おかしいよこの世界
「一鶴、私の従者が迷惑をかけた。すまなかった。」
それはそれとして、まずは謝罪する。
一見すると一鶴の暴走だが、発端は私の従者のポン子にある。何やら一鶴が気に食わなかったポン子はーー多分脅しのつもりなのだろう、彼に魔法を放とうとしていた。それを察知した一鶴が、とっさに攻撃されるよりも先に攻撃するという行動を起こしたのだ。
自分の身を守る為と考えると、突然の一鶴の行動も理解できる。
まあそれで眼球串刺し狙ってくるのはイカれてるけどな。
「ん?ああ、気にしていない。それに何か俺が気に触る事を言ったんだろう?俺こそすまんな」
そう言うと一鶴は逆に謝罪を返してきた。
身を守るのに容赦が無いだけで、基本的に良心的なのが黒田一鶴という男だ。
本当に容赦ないため、目玉はちゃんと抉り取ってはくるのだが。
さて、こんな事があった中、ポン子を連れて案内を再開するという訳にもいかないだろう。ポン子も先ほどまでは驚きで固まっていたが、今では何か言いたげな視線を送ってきているのを感じるのだ。
拗れそうだからそのまま黙っててくれ、お願いします。
「一鶴、重ねてすまないんだが急用を思い出した。学生寮はここからでも見えるあの大きな建物に隣接しているから、一鶴一人でもここからなら大丈夫なはずだ」
そう言って私は大きな時計のついた建物、東郷学園校舎を指差した。
学生寮は学園の隣に建てられており、登校はとても簡単な位置にある。しかし、学園の敷地がクソほど広いので自身の教室へはそれほど近くないという罠がある。
「そうだったのか。忙しいのに付き合わせて悪かったな刀華」
「いーや、私こそ最後まで案内してやれなくて申し訳ないよ」
謝罪をすれば謝罪が返ってくる、そんなある種前世を想起させる会話に少しの郷愁を感じながら一鶴に手を振って別れる事にした。
「そういえば」
ふと思い出した。
今回一鶴に接触したのは、彼と自然な形で仲良くなる事を目的としてだった。それに関してはトラブルもあったが何だかんだ達成できている様に感じる。
しかし、出来ればついでにもう一つ果たしたい目的があったのだ。
それは原作介入だ。
原作介入、または原作改変、それは二次創作において禁忌ともされる行動であり、同時に二次創作の醍醐味でもある。
これをする事により、原作展開への乖離を引き起こし望んだ展開へと未来を変えるのだが、私のようなオリ主と呼ばれる存在のアドバンテージである、未来知識が通用しなくなるというデメリットをはらむ行動でもある。
まあ私の場合原作介入はずっと前からやってるし、なんなら失敗したから今更だったりする。
そう今更なのだ。
風紀委員会の設立や西園家の戦力増加といった細かな原作介入はもう既に行なっている。そんな中で全てが原作通りのストーリーを辿るとは私も思っていない。だからここで一鶴と接触し、今後の彼の行動をより私に都合の良い様に誘導できないかと思っていたのだ。
「田舎から出てきて不安な一鶴に私からアドバイスをしてあげるよ」
別れ際、こちらを見送る一鶴に言葉を残す事にする。
彼の記憶に残る様に怪しく笑い、私の正直な期待を込めた目で彼を見た。
「ここは一見複雑だが、本質は田舎と変わらない。好きにするといい、その方が私にとっても一鶴にとっても良い結果になるはずだ」
そう言って私たちはその場を後にした。
郷に行っては郷に従え、などというお利口な事は一鶴には似合わない、いや相応しくないのだ。その事にできるだけ早く彼が気付ける事を私は願うのだった。
*****
一鶴と別れた私たちは、自身の学生区用の屋敷に戻り応接室で時間を潰していた。
「いやーマジもんの黒田一鶴ヤバかったねー」
お気に入りの椅子に座り、椅子ごと体を揺らしながら呟いた。
「…あんな卑怯者たいした事ねーっす」
私の近くで控えていたポン子が不満げな様な顔でそう返してきた。
ポン子は先ほどの一件以降不貞腐れており、今もむすっとした顔でそんな事を言う。
いやいや、元々不意打ち仕掛けようとした卑怯者はポン子ちゃんじゃないっすかー、とは言わない。本人もそんなことは分かっている。
今の一鶴はまだ魔具を手に入れておらず、基本的な魔術士の戦い方である強化やその他も習っていない。今二人が真っ当に戦えば勝つのはポン子だ。だからこそ不意打ちとはいえ負けた事が悔しいのだ。
それに突然不意打ちを仕掛ける程度には、私と一鶴のやり取りに苛立ちを覚えていた様だし、個人的に彼が気に入らないのだろう。
苛立ちの理由は態度が馴れ馴れしいとか、私を馬鹿にしたとか、距離が近いとかそんなところだと思う。
私のこと好きすぎかよ。
「それにお嬢の方が百倍凄いっすもん」
「へいへい、私は確かに一鶴よりも可愛くて賢くて凄いからねぇ、わかるわかる」
ちなみに私はそんなに頭は良くない。
一鶴が馬鹿なのだ。
「お嬢の方が強いっす」
「それはねーよ」
むくれたポン子はそう続けたが流石にツッコミを入れる。
なんだかなぁ、この従者は私が大好きなのは良いのだが、私を過大評価しすぎなところがある。今のポン子と戦ったら私は負ける自信すらあると言うのに。
「別に一鶴が気に入らないのは良いし、なんならやり合っても良いけどさ、本題に支障きたさないでよ?」
「そりゃあ当然っすよ。あーしってばお嬢の忠実な従者っすからねぇ」
そう言って胸を張るポン子だが、些か不安になる。
この従者は機転も効くし口も上手い、身の回りの世話もしてくれるし、おまけにめっちゃ強い。最高と言って良い従者なのだ。
しかし、興味のない事にはとことん頭が働かず、物覚えも悪い。頻繁に顔を合わせる要人の名前もろくに覚えてくれないのだ。
「ちなみにそんなポン子さんはこれから具体的に何するかとか、覚えてる?」
「……いやー分かんないっすねぇ?」
ポン子はバツが悪そうにえへへと笑い、私は大きなため息を吐いた。
「よし、予定の時間にもまだ余裕があることですし、ここいらで一度方針の擦り合わせをしとこうか!」
「わーいっす!」
そんな適当な返事でポン子は喜んだ。
「そんじゃまず『推しの3章ヒロインちゃん救出andついでに帝都滅亡危機回避大作戦』のおさらい何だけど」
「その名前正式な奴だったんすね…」
「そらそうよ。んで、この作戦の主な目標は二つだね。
一つは3章ヒロインちゃんを救う事。といってもこれはそこまで難しい事じゃないんだよねー」
「というと?」
「だってこの第一目標は最悪ヒロインちゃんを物理的に守れば良いだけだからねー。今じゃポン子はめっちゃ強くなったし、派閥も作って個人的に動かせる私兵も用意したし」
風紀委員会の設立や西園家の強化もその一環だ。戦力としてもそうだが、安易に動かさる人員は今後も必要になってくるだろうからね。
「まあ戦力拡充は第二目標にも関わるから今後も続けて行くけど、現状の戦力だけでヒロインちゃんを助けるには十分な筈なんだよねぇ」
「じゃあ問題は第二目標ってことっすね?」
「そう、そんで第二目標は帝都の滅亡回避、何だけどそれと並行して原作終了後の安全も手に入れたいんだよね。けどこれがまあまあ面倒でさ」
この世界で私たちの安全を脅かす存在は多い。その中でも個人ならともかく、組織はやはり対処が難しい。例えば原作で登場する敵組織とか、原作よりだいぶ力が増した西園本家とか、最強キャラ率いる中央派閥とか色々だ。
それらを排除、又は弱体化させたり、逆に私たちの派閥を強くして安易に手を出せなくしてやりたい。
しかし、女である私が頭を張るとなると、それだけで周囲から舐められ攻撃されるうえ、実力者は従わずなんなら乗っ取りにくるので下手に人員も増やせないのだ。
なので現状は西園本家を隠れ蓑にし潜伏して、他派閥を潰し合わせるとかで弱体化を狙いつつ、束になって反乱して来ても制圧できる雑魚を引き入れるしかやれる事がないのである。
「けど最優先は最終決戦でダンジョンの破壊を食い止める事かな」
「あー、そんなの言ってたっすね」
「いくら暗躍して他を潰しても、ダンジョンが壊れて帝都が滅んでしまえば意味がないんからねぇ」
尽きる事のない無限の恵みをもたらす、始まりの魔術師の祝福とされる場所。それがダンジョンだ。
そしてこの世界の歪みの最大の原因でもある。
ダンジョンに植えた植物は通常の何倍もの速度で育ち、その上大した管理も要らず、味も悪くない。
これにより農家が不必要になった。
ダンジョンでは無から魔獣が生まれるのだが、その魔獣は殺しても消えず、食用に適している。
これにより酪農家が不必要となった。
ダンジョンでは定期的に宝箱のような日用品が発生する。これは現代の技術力では製作不可能な精緻な細工や機能を備えるものもある。
これによりある程度の技術職が不必要になった。
このようにダンジョンでは水源、食糧、資源、なんなら鉱物だって生まれてくる。
そしてそれは尽きる事がなく人類に、いや魔術士に与えられ続けている。
当然我々はそれに依存しているのが現状だ。
「あらら、ダンジョンが無くなったらマジで帝都滅びるっすね」
「そうそう、そんで限られた資源の取り合いになって魔術士同士が殺し合う戦乱の幕開けってわけだよ」
そんなダンジョンは最終章にて敵側に破壊される事となる。物語はその後一鶴がラスボスを倒して終了だが、エンディング後の世界を想像すると碌なものではないだろう。
ダンジョンに依存する今もどうかとは思うけど、好き好んでそんな血みどろの世界で生きたいとは思わないよねー。
だからダンジョンは壊されないよう守る。その為には最終章の敵集団からダンジョンを守る。守る為には帝都全体の戦力を減らし過ぎるのも問題があったりする。
うーん悩ましいー
最終章は初動で一鶴と五条悟ポジの最強が行動不能なせいでダンジョン壊された感あるし、そこだけ変えればいけなくは無さそう何だけど、ムズカしぃねぇ。
「まあとりあえず、私たちの今後の行動としては一鶴の暴走に合わせて、潜在的な敵対勢力の弱体化と、雑魚でもいいから安全な戦力の増強を続けていくこと。あと念の為にダンジョンに依存しない物資を生産する事がかな?」
「あー、そういやお嬢が一般市民にやらせてましたね。農業とかでしたっけ?本家から猛反発喰らってましたよね」
「まーね、武人の家たる西園のやる事じゃないって喚かれたよねぇ」
あのクソジジイどもさっさと死なねーかな
「あとそもそもの疑問なんすけどいいっすか?」
「なんだいポン子くん?」
「あの黒田一鶴ってそこまで凄いんすかね?強いのはある程度認めるっすけど、なんかお嬢の想定してる自体って強いだけにしては大事すぎません?」
「あー、一鶴は強いだけじゃないからねぇ」
この世界はファンタジー作品よろしく、一人の強者が千人の弱者に勝る世界である。
この弱者が一般的な非魔術士であり、そのため非魔術士に抵抗する力はなく、強者である魔術士の都合の良い道具としてしか扱われない。
しかし、そんな魔術士にも強弱があり、中には凡百の魔術士数十人ほどが相手も一人で勝つ事ができる突出して強い魔術士もいる。
であれば最強の存在が好き勝手に生きているのかといえばそうではない。
理由は単純になもので、いかに最強であろうと準ずる者が徒党を組めば殺せるからだ。
いかに黒田一鶴が強かろうと、その強さにも限度があるものだ。
では何故一鶴がそこまでの影響力を持ったのか、それは少々複雑なのだが、
「どこから説明しようかなぁ?まず一鶴の異能が……」
コンコン
ポン子へ説明を続けようとしていたその時、応接室の扉がノックされた。
「刀華お嬢様。武園様がお越しです」
使用人の女性が扉越しにそう声をかけて来た。
もうそんな時間だったか。
そう思い時計を見るが予定の時間よりはまだ早い。
どうやら相手が張り切って早めに来てしまったようだ。
「お通ししろ」
「では失礼」
私が使用人に命令すると、間髪入れずに扉が開かれた。
やって来たのは背の高い男だった。
金髪の髪に浅黒い肌、瞳は黒く切長だが、どこかニヤついている様に感じる為、精悍というよりは軽薄な印象を受ける。
身長も平均より少し高く、体格も良いその男は帝都警邏隊の制服を着ており勤務中であることが伺えた。
「本家当主のご令嬢からのお誘いと聞きまして、この武園葉締、迷宮赤マムシを平らげてからやってまいりました」
武園葉締、そう名乗った男は下心を隠そうともせず私を見つめてくるのであった。
もっと上手くまとめる予定だったんですが、なかなか出来ずにやる気が減少するという悪循環が始まったため、やる気調達のために投稿します(正直)