これではやっていけない。
探索者ギルドに来る前から分かっていた事ではあったが、実際に換金された金額を見てしまうと改めて実感してしまった。
つい最近、具体的には二日前まで4人パーティーだったのが2人になったのだから収入が半分になるのは許容できたのだが…1/4にも満たない。
7層から4層に落としたとは言え、1層から11層はダンジョンによって出てくる魔物の順番が異なるだけ、しかも4層から7層は最大3匹も変わらないのだから本来稼ぎがそこまで変わることはない筈なのだか現実には激減してしまった。
理由は分かっている。昨日亡くなった友人のドワーフ、バルタとその奴隷、ファティエが魔物に与えていたダメージの方がはるかに大きく、自分と自身の奴隷であるアナンタのダメージの方が少ないのだ。
そもそも友人と2人でやっていた時も自分が魔物を引き受け友人が攻撃を行う方法で戦ってきたのだ。
奴隷を買ってからは最大三匹の魔物に対して自分と奴隷達が1対1で引き受け友人が攻撃するスタイルで戦ってきた。バルタのハンマーとファティエの剣士のスキル、スラッシュのダメージに対して、自分やアナンタの攻撃力では足りないのだ。
そもそも二人とも盾がメインでさほど攻撃していなかったのだから1発のダメージが低い上に同じ時間での攻撃回数も少ないときている。
4層とはいえ3匹出ると、どうしても1対2で戦わなくてはいけないのでさらに攻撃回数が減ってしまった。
結果が一日の収入の激減だ。
これは明日以降も続くとみて良い。
それだけではない。4層とはいえ、二人で魔物の部屋に入ったら今度こそ確実に死ぬだろう。
今までになかった迷宮に入ることに対する恐怖を感じてしまった。
友人が亡くなったことへの恐怖、魔物の部屋の恐怖。
今日、戦っているとあの時の光景が出てくる。
それでも、体に染みついた反応で何とか戦ったが…結果は見るも無残だ。
アナンタを買った時の事を思い出す。
奴隷に情が移りすぎるのも良くない。そう思い猫人族の奴隷にした。それだけだった。
それでも三年をともに過ごし、体を重ねてきた。情も湧く。
その上、奴隷としては当たり前なのかもしれない…けども命の恩人である事は変わりあるまい。
手放したくない。そうは思う。だが、この減少した稼ぎ、そして迷宮への恐怖を抱いた状態で借金残を返せる見込みはあるのだろうか。
バルト分も含めて借金残5万4千ナール。手持ちには14万ナール以上あるが10万ナールを切れば税金が払えず自身が奴隷落ちだ。アナの税金や減少した収入を考えれば16万ナールはないと返済は厳しい。
アナンタを見つめる。「ご主人様何か?」
「アナンタ、すまない」
「ご主人様が謝られるようなことはございません。何かありましたでしょうか?」
いつと同じ表情のアナンタが返事をする。
「俺は探索者をやめて実家に帰ろうと思う。アナンタを手元に置いておけない」
「私はご主人様がお決めになられたことに従うだけです。謝られることではございません。」
本当に表情が変わらない。何を考えているのかいまいちわからない。だけども…
「今日で最後だ。伽をお願いする。」
「承知いたしましたご主人様」
やはり表情が変わらない。
次の日、商館の門をたたく。
「これはマティンさま、次の返済日にはもう少し日にちがございますが、それにバルタ様がおられないようですが」
「今日はシラー様にご相談があってまいりました。シラー様はお見えで」
「おりますのでお入りください」
俺はとアグルスと話、部屋に入り椅子に座ってシラー様を待つことにした。
後ろでアナンタが立っていた。
そのままいつもの部屋で待っているとしばらくしてシラーがやってきた。
「シラー様、お忙しい中お時間を取っていただきありがとうございます。」
「マティン様、ご相談があるとのことでしたが。」
私は迷宮でおきたこと、そしてアナンタを売却したい旨をシラー様に伝えた。
「そういう事でしたら承ります。非処女ですので通常の戦闘奴隷として買い取らせていただきます。3万5千ナールというところですが、マティン様もお亡くなりになられていれば当方も丸損のところでした。ここは、借金残と相殺という形をとらせていただきます。」
「それでお願いします。」
借金の証文が消されインテリジェンスカードを操作されアナンタが連れていかれる。
「アナンタ」思わず私は呼びかけてしまった。
「ご主人様。三年間ありがとうござました。」
アナンタが少し悲しそうな顔をしながら頭を下げた。
私は何も言い返せなかった。微妙な静寂の後、アナンタが奥につれていかれた。
胸が苦しい。何なのだろうこの思いは…
「マティン様、御取引ありがとうございました」
シラー様に声をかけられて我に返る。
「こちらこそ、三年間ありがとうございました。」
こうして商館を出た俺は実家に向かうために冒険者ギルドに向かいながら思った。
この5年間は何だったのだろうと。
実家に頼んでアナンタだけでも…いや考えるまでもない。奴隷出身の子供をつくれない女と許してもらえる筈がない…奴隷としても雑役奴隷としてしか…。それにアナンタはそれが嫌で戦闘奴隷になったことを嬉しく思うと言っていた。やはり無理だったのだ。
ああ、実家に帰らねば。バルトのご両親にはなんて報告すればよいやら…
14万ナールもあれば大丈夫と思われるかもしれないので。
時期的に税金を払う直前ですので、税金10+1万ナールを引くと3万ナールの手持ちになります。
更に季節の変わり目のシラーへ借金返済金額がバルト分も含めて合計1万8千ナールに必要なので、1万2千ナール程が実質的な手持ちです。
これ、魔物の部屋の武器を売った上ですので相当に厳しい事が分かって貰えると思います。
トラッサ4層はコボルトが混ざる為、撃破数の減少以上に収入が減少していますので、実際ここで迷宮探索を諦めなかった場合、自分もその内に奴隷落ちです。
因みに、借金残は5万4千ナールなのでシラーは1万9千ナールのおまけをしていますが、現在までの借金返済で損をしてはいませんし、追従§011 採用や§044 合格を読んで貰うと分かるのですが、在庫の戦闘奴隷としてはアナのスペックはそれなりに高いので長期在庫にはならないとシラーも考えての事です。(と言う設定)
以下二人の購入金額と支払い状況
※アナの頭金5万ナールはシラーの仕入れ値と仮定、アナの初期価格は20万ナール交渉で19万ナール(一括払い)22万5千ナール(分割払い、5万頭金、残14万ナールに分割手数料
で25%加算17万5千ナール、返済は1季1万ナール、端数の5千ナールは支払い済(初回)。7層到達時点で5万ナール、そこで半年戦い残3万ナール。)
※ファティエ 初期値16万ナール交渉で15万ナール(一括払い)17万7千5百ナール(分割払い、頭金4万ナール残11万ナールに分割手数料で25%加算13万7千5百ナール、返済は1季8000ナール差額の1500ナールは支払い済み(初回)、こちらの残債は3季2万4千ナール
※二人とも18季払い(初回のみ端数払い)
アナの引き取り金額について
※この世界仕入れの4倍で売るようですので結城君の買値14万ナールのアナの順当な身受け金額は3万5千ナールとしました。上記の仕入れ値=頭金も同じような設定からです。(多分、高額な商品は違う。比率が下がっても実際の儲けは大きいと思うので 例:ナズ 身受け50万ナール売値80万ナール)