相澤先生……!バスケがしたいです! 作:ヤマアラシ
「ここが……雄英かぁ!」
見上げるほどに大きい校門の前に仁は立っていた。行きにも、無論この場にも多くの受験者が足を運んでいる。
当然だ、ここは雄英高校……倍率300倍、偏差値79、数多くのプロヒーローを輩出てきた、ヒーロー目指すなら絶対に抜けたい門でもあるのだから。
しかし、中にはあまりやる気の感じられない受験者もいる。記念受験者だろうか?しかし……仁には関係ない。仁はやれるだけの事をやるだけだ。
仁はスタスタと歩き続ける……なかなか前に進めないが、すると、近くにに足をもつれさせて転びそうになっている緑髪の受験者が居た。
「「っ?危ない」」
不意に、一人の少女と声が重なる。仁は、首元の触手を伸ばして、少年を掴み支える……その少年はかなり軽く……いや、むしろ少年の体はふわふわと浮いていく。
「わ、わわわっ!?」
「わ、被っちゃった。」
「だな。」
仁はそう言って、両手を合わせるボブカットの少女と顔を見合わせてから緑髪の少年を見る。すると、少女は笑顔を向けながら言葉を上げる。
「でも良かった!転んだりしたら縁起悪いもん!」
「あぁ……大丈夫か、緑髪。」
「あ、アリガトウゴザイマス!!」
随分と硬い様子で少年はあたふたしながらお礼の言葉を述べる……仁は少し考えると、2人へと声を掛ける。
「なぁ、助けたついでに一つ聞きたいんだけどよぉ……良いか?」
仁はなんでもないようにさらりと問い掛ける。
「全世界焼き立てたこ焼き早食い選手権の会場ってここか?」
「「違うよっ!?」」
息ぴったりに二人はその様に声を上げる。仁はその息のあいようにふふっと笑いながら、言葉をつぶきながら先を急ぐ。
「ジョークだぜ……お互い頑張ろうな!」
仁のお世辞にも柔らかいとは言えない……ともすれば鋭い目つきのせいで怖いとも思われるような顔で、流れるように出たジョークに二人は唖然としながら、先を行く彼の後ろ姿を見送ったと言う。
午前の筆記試験はさらりと終わり、本題となるのは雄英高校の実技試験だ。会場に集められると、舞台の上でプレゼント・マイクによる実技試験の内容の説明が行われる。
内容を要約すると、受験生達は入試会場にて3種のポイント付きの仮想ヴィランを撃破してポイントを稼ぐのが基本ルール。
他の受験者への妨害や攻撃などはご法度。アンチヒーロー的な立ち回りもまた同上……兎に角仮想ヴィランを倒せば良い。仁にとってはこの上なくシンプルで楽なルールだ。
すると、メガネのいかにも真面目系な男子がきれいな挙手をして、質問を投げかける。
「プリントには
言われてみればそうだ……兎にも角にも倒すだけだと思っていた仁は気づかなかった。その脳筋思考を相澤が聞いたら縛り上げている事だろう。
(そもそもあの人の事だからこのぶっ飛ばせばオーケーの入試自体賛成しなさそうなんだよな。)
ヒーローはヴィランを倒すだけが仕事ではない。相澤の
「それとそこの緑髪の君!さっきからボソボソと気が散る!物見遊山のつもりなら即刻ここら立ち去り給え!」
「す、すいません!」
先程仁が助けた緑髪の子が注意されてしまった……まぁ、仁の方向からは聞こえなかったのだが、あまりにもボソボソが酷かったのだろう。
そして、プレゼント・マイクは改めて四番目の仮想ヴィランについて説明を始める……曰く、その仮想ヴィランはポイントなしのゼロポイントヴィラン。暴れるだけのお邪魔虫との事……所謂ギミックなそうな。
「俺からは以上だ!最後にリスナーには我が校の校訓をプレゼントしよう!」
――かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った。
――真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者だと。
――さらに向こうへ……PlusUltra!
その激励の元、その場にいた本気の受験者達は己のタスキを再度締めて、受験会場へと向かうのだった。
しかし……
『んじゃ、スタート。』
先程の激励とは裏腹に、受験始まりの合図はあまりにもあっけなく落とされた。
『おらどうしたどうした急げ急げ!実戦にスタートの合図はねぇんだよ!
その動き出したリスナーとは誰の事なのか?
……それは、無論……仁だ。
生憎、仁はスタートのない訓練ならば何度も行っている。それに実戦やヴィランとの遭遇に合図がないのも
仁は一度駆け出すと止まらない……生憎仁には索敵能力はない為、目の前に突然仮想ヴィランが現れる。事もある……
「標的発見!!死ネェェェェェ!!!」
その怒涛の掛け声に、向けられたほんの僅かな殺気……普通なら、ほんの僅かでも怯む物だ。
「遅ぇッ!!」
しかし仁は一切の迷いなく、首元の触手を伸ばして、目の前の仮想ヴィランを突き刺す。仁は触手でヴィランを切り抜いて先へと進む。
止まっている時間はない……時間は有限、索敵手段のない仁は、スタミナを管理しつつ動き続けて仮想ヴィランを見つけなければならない。
「標的見ツケタ!クタバリヤガ――」
「くたばるのはテメェだァッ!!」
仁は触手を伸ばして、仮想ヴィランを巻きつけると、他に集まっている仮想ヴィランへと投げつける。
時はムチのように相手を叩きつけたり、時に剣のように相手を切り裂いたり、時には捕縛布の様に相手を捕まえたりする仁の帯状の触手……個性だ。
仁は、首元の触手をつかみマフラーのようにして口元を隠しながら叫ぶ。
「今宵も
ここで、仁の個性について説明しよう……例にならないプレゼントマイク風に!
【
首から二本の柔らかくしなる触手――柔剣を生やす事ができる!!この柔剣は、しなるムチにもなれば、相手を捕縛する布にも、相手を切り裂く剣にもなる!多様な使い方ができる個性なのだ!】
「――って、ナレーション入ったら格好いいなぁ!」
……仁は、一人脳内でそんなシミュレーションをしながら近づいてくる仮想ヴィランを触手――柔剣で切り裂居て行く。
「さぁて〜相澤先生が見てるんだ!全力でやらせてもらうぜ!」
そう言って、仁は市街地をもした会場を、柔剣を唸らせながら、駆けていく。
駆ける場所……それは、地面だけではなく、柔剣を使って猿のように電柱に登って周りを見渡したりして索敵をしながら、入試を続けていくのだった。
――場面は変わり、とあるモニター室。そこでは、雄英の職員達が、今年の受験者の動きを見ていた。
職員達は、どうやら今年はかなりの豊作のようだと受験者達の動きを見て唸る。現在上位にいる金髪の子は、一人掌を爆破させながら仮想ヴィランの迎撃を続けている。
だが、話題はもう一人の暫定上位者について盛り上がっていた。モニターに映るのは、柔剣を操りながら仮想を撃破する仁についてだ。
「おいおいこのリスナーヤベェな!もう10ポイント稼いでらぁ!」
「ウム、個性を使って縦横無尽に動き回りながら、スタミナ管理は怠っていない……」
「しっかし、あの動き……まるでイレイザーみてぇな動きだなぁ!」
教師陣が各々反応を示すと……まるでイレイザーの様な動き、といった所で女性の教師が一人言葉を落とす。
「あら、知らないの……あの子、仁剣はイレイザーの秘蔵っ子よ?」
「「「えぇっ!?」」」
その言葉に、教師陣は一丸となって驚く。すると、その場にいた雄英の教師である相澤は、はぁと静かに溜息をつく……すると、直ぐ様相澤への尋問が始まった。
「イレイザー!お前いつの間に弟子なんか取ってたのかよ!?」
「弟子じゃねぇ……それに秘蔵っ子でもありません。」
相澤は淡々と注げる。
「……以前奴はとあるヴィランの事件に遭遇した事があります。子連れの母親を狙いその子供を母親の目の前で惨殺するイカれたヴィランでした。」
その事件は、数年前……丁度、仁が中1の頃に起きた事件だ。その事件は子どもを必要に狙う残虐性から、ヒーローの記憶に新しく残っている者も多い。
「……これは何処にも公表されてませんが、そのヴィランが路地裏で母子を襲っていた所に出くわしたのが仁でした。」
その新事実に、教師陣は息を呑む。
「彼は路地裏の中、只管にヴィランの気を引き続け……その間に母親と子はなんとかヒーローを呼ぶことができた……その時に呼ばれたヒーローが私です。」
そう言えば、あの事件を解決したのはイレイザーヘッドだったと教師陣は改めて思い出す。すると、相澤は少し思い出すに、少し上を向くと、さらりとつぶやく。
「そこからヴィランに殺られ瀕死の仁を助けて……いつの間に懐かれました。」
「「「いつの間に懐かれた。」」」
相澤がいつの間に懐かれたと言う事実が面白いのか、少し笑いを抑えた教師陣。相澤は話を続ける。
「あいつは自分の個性が私の捕縛布の似ているからと教えを請いにきました。初めは断り続けたのですが……いつの間にかMsジョークとも知り合いになり、二人で私に弟子入りを懇願してきました。」
Msジョークと言えば、スマイルヒーローとして有名なヒーローだ。まさかそんな所とも繋がりがあるとはと、教師陣は軽く驚く。
「面倒なので一回だけチャンスを与えたら、ヤツはそれを軽々と合格した……見込みがあると判断した。だから鍛えた。それだけの話です。」
すると、相澤と仲の良いプレゼントマイクが、相澤の合理主義を知っている山田ひざしが、再度仁の実力について触れる。
「しっかしあれだなぁ!イレイザーが弟子に――じゃなくて、面倒見たってことは、かなり見込みアリそうだな!……おっ、早くも25ポイント目!」
プレゼントマイクがそう言えば、相澤も、真剣な表情でモニターに映る仁をみる……そんな相澤の姿を見て、皆は相澤が弟子を心配しているのだと思い込んでいた。
(ったく、弟子が心配ならそう言えよな。)
(まったく、素直じゃないわねイレイザーは!)
しかし、相澤はモニター越しに、電柱に乗る仁――脳内では、格好いいナレーションを流している――を見ながらあることを考える。
(アイツ今変なこと考えたな。)
相澤の中では心配よりも、くだらないことを考えているであろう仁への呆れが勝っているのだった。
弟子になるまでの流れ
仁「弟子にしてください!」
相澤「嫌だ。」
数日後
仁「弟子にしてください!」
ジョーク「弟子にしてやってください!」
相澤「増えた……」