相澤先生……!バスケがしたいです! 作:ヤマアラシ
仁は只管に高所に登り、仮想ヴィランを見つけては触手――柔剣で切り裂く……柔剣は視界が届くまでの範囲なら伸ばし操る事ができる。
ただし、あまり伸ばしすぎると血が出るし、遠ざかれば遠ざかるほど操るのは難しくなる。
その為、ある程度は索敵してから近づく行為が必要だ。近づくまで他の受験者に仕留められることも多い。
「あ、取られちった。次!」
しかし、それでも切り替えの速さと圧倒的な身体能力とリーチを活かして他の受験者を置いてけぼりにするぐらいには、活躍しポイントを取っていた。
「この調子でいけるか?……そう言えば、0ポイントヴィラン……」
仁は移動して索敵する最中、会場で受けた説明にでてきた0ポイントがまだ出てきていないことに気づく。ギミックと言うからには何かしらの形ででてくるとは思うのだが……
そんな事を考えながら仁が電柱に飛び乗ると、突然地面が大きく揺れる。仁は咄嗟に柔剣を電柱に巻きつけて姿勢を安定させる……。
「うおっとと……とぉっ!?」
仁は揺れの起きた方向をみては驚く……地面を揺らして現れるのは、まさに動く巨大ビル。そのままビルに足を生やした様な巨大仮想ヴィランだった。
先程まで自分達が戦っていた仮想ヴィランとは訳の違う相手、あれがギミックとされていた0ポイントの仮想ヴィランだと受験者達は理解する。
しかし、その圧倒的巨体……見下ろしてくる真っ赤な眼。ヴィランの恐怖を擬似的にでも体験させようとしてくるのが分かる。建物を崩しながら突き進む様は本当に試験なのかと疑いたくなってくる。
この恐怖を乗り越えられなければ、雄英に入る資格なし……そう言わんばかりの威圧感を醸し出してくる。仁はその巨体を見ると、電柱に留まるのを辞めて地面に降り立つ。
「や、やべぇ!逃げろ!」
「あんなのどうにかできるわけねぇ!」
案の定、道はその巨体に恐れおののいた受験者達が逃げ惑っていた……仁は、他の受験者に乱暴に押され転びそうになる受験者を助けたりしながら、兎に角避難誘導を試みる。
「みんな!落ち着け、慌てず急いで転ばずに行けば大丈夫だ!」
そう言って、仁は兎に角辺りに目を凝らす……万が一にでも助けを求める人を見逃していたならば大変だ。仁は目を凝らし、耳を澄ます。
すると……見えた。助けを求める人、助けが
少し遠くの方で、透明な少女が1人走っているのだが……その上空から、0ポイントの仮想ヴィランが動いた余波で崩れたビルのがれきが落ちてきている。
このままでは、あの透明な少女が瓦礫にうもれてしまう……そうなれば一大事だ。仁は咄嗟に柔剣を伸ばす。
「行けッ!」
伸ばされた柔剣は触手のように唸り、その透明な受験者の体を巻いて掴むと、本体である仁の元へ透明な受験者ごと高速で戻る。まるでメジャーを巻き戻す時の様だ。
「きゃっ……」
「大丈夫か?……立てるか?」
「えっ……えっ?」
透明な少女は、咄嗟のことで何が起こったのかわからない様子だったが……暫くして、先程まで自分が走っていた所に瓦礫が落ちてきたのを見て、事の次第を理解する。
「助けてくれたの!?……」
「まぁな。兎に角早く逃げな。あぶねぇから……」
そう言って仁は透明な少女を起き上がらせると、怪我がないのを確認して、そっとその背中を押して先へ行かせる。透明な少女は少し渋っていたが、柔剣で無理やり押して先へいかせた。
透明な少女はそこまでされては何もできず、ただ逃げることしか出来なかった……0ポイントの仮想ヴィランから逃げる最中、その透明な少女は、助けてくれた仁について思い返す。
(……そう言えば、名前まだ聞けてないな……聞けると良いな……聞いて、ちゃんとお礼しなきゃ!)
「……あっ!」
「痛た……」
その為には、まずこの試験を無事に終わらせなければならない。葉隠は、怪我をしている受験生を見つける。
「大丈夫?肩をかすよ!」
透明な少女――葉隠透は、先ほど自分がしてもらったみたいに怪我を負った受験生に肩を貸しながらその場から逃げるのだった。
仁はと言えば……まだ0ポイントヴィランの辺りを探していた。もしかしたらまだ助けられる人がいるのかも知れない、逃げ遅れた人がいるのかも知れない。
その一心で、仁は当たりの捜索を続ける……無論、0ポイントヴィランの巨体を避け、その目をかいくぐりながらだ。
「こっちには居ない……と。」
何故こうまでして助けられる人を探そうとするのか、路地裏の裏まで探しそうな勢いだ……その理由は単純。自分がかつて経験した事だからだ。
仁がかつて母子を狙う悪質なヴィランと対峙したという話が以前出たが、その時の場所は人気のない路地裏だった。
そのヴィランは『睨んだ相手の存在を少しの間誰からも認識できなくさせる個性』を用いて、母子を路地裏へと連れ込んでいたのだ。
仁はその当時結構ヤンチャしており、よく路地裏で喧嘩に明け暮れていた……その日も喧嘩帰りに路地裏を歩いていた所、ヴィランに襲われている母子を見つけたのだ。
仁は、見て見ぬふりができずに立ち向かったが……勝てずに大怪我を負うはめになった。
最終的にはなんとか逃げた母子がヒーロー、イレイザーヘッドを呼んでくれたので事なきを得た。
そんな事があったから、もしや……なんて事を考えてしまう。
そんなもしもは意味がないのかも知れない。プロヒーローになったらそんな余裕は生まれないのかも知れない。
だが、いまならそのもしやを探る事ができる。ならば自分に出来る範囲、最大限出来ることをしなければ、ヒーローになる意味がないではないか。
そうでなければ、相澤の……先生の一番弟子である資格がないし、せっかく自分を鍛えてくれた相澤に顔向けができない……仁はそう考える。
仁は、最後の路地裏を捜索し終える……すると、すぐ後からガシャンと大きな音が鳴るのが聞こえた。仁が咄嗟に後ろを振り返り、見上げると……
そこには、0ポイントの仮想ヴィランがその真っ赤な目を覗かせていた。仁は咄嗟に悟る……これは、ヤバい奴だと。
仁は咄嗟に柔剣を伸ばして、0ポイントの仮想ヴィランの背後にあったビルの屋上へと移動する。すると、0ポイントの仮想ヴィランは、あたりのビルごと踏みつけてしまった。
仁はビルの屋上に転がりながら着地すると、そっと0ポイントの仮想ヴィランへと振り返る……仮想ヴィランも、同じようにそっと振り返りこちらに狙いを定めようとしていた。
(下手に逃げたなら……さらに被害が拡大する。ここは……やるしかねぇ!!)
仁は覚悟を決めた目を、目の前の仮想ヴィランへと向ける……仮想ヴィランはその巨腕を仁に向けようとする。仁は徐々に近づいてくる腕に恐れを見せずに叫ぶ。
「上等だヴィラン!見せてやる…………俺の剣をッ!!!」
そう言って仁は柔剣をさらに伸ばして仮想ヴィランへと攻撃を仕掛ける……伸びる柔剣は柔らかなる剣となり、仮想ヴィランを切り裂いていく。
多段に切り裂かれた仮想ヴィランの腕はボロボロと崩れ落ちていく……仮想ヴィランは、さらにもう片方の腕を伸ばすが、次に仁は柔剣をよし激しくムチのようにしならせて、今度は一瞬でバラバラに切り裂いてしまう。
「周りに人がいないのは確認した!今なら思いっきりやれるぜ!」
仁はその様に意気こむと、ならばと仮想ヴィランはその巨大な頭を仁へと撃ち落とそうとする……この巨体でビルごと押しつぶされたらどんな人間でも普通死ぬ。
死の恐怖が迫ってくるが、仁はこんなところでは終われないと、
「甘いな!こちとらヴィランに殺されかけるなんて二度目なんだよぉ!」
そう勢いよく叫ぶと、仁は腕に柔剣を巻いて束ねる……すると、柔剣はより大きくなり、鋭く尖り、まるでランスのようになっていく。
だが、巨大に束ねた影響な、仁の首元……柔剣が生えている付け根からは出血か始まってる。だが、今更そんなのは関係ないと、仁は痛みを考えないようにする。
仁は片目を閉じ狙いを定めながら、ランスとなった柔剣を放った!放たれた柔剣はヴィランの顔に突き刺さり、ヴィランの顔面を貫く。
その光景を、その場にいた全ての受験生が目にした……巨大な青いランスが、誰も勝てないと思わせたあの仮想ヴィランを貫く場面を。
けして倒れることのないと思っていた0ポイントの、仮想ヴィランが徐々に後ろに倒れて行く様を。
『終了〜〜〜〜!!!』
そして、同時に試験終了の合図が鳴り響いたのだった。
仁はその場に腰が抜けたように座り込みながら、柔剣を戻してマフラーの様に首元に巻いた。
「あぁ……怖かったぁ。」
仁はそんな情けない声を上げるが……今は誰も聞いてないんだ。それに怖かったのも本当だ。少し暗い弱音を吐いたって良いだろう。
「相澤先生ならもっとテキパキ動けっていうかなぁ……?」
そして次に始めるのは自己反省。もう少しここの動きは効率化できただとか、そんな事を考える。仁としては、まっさきに逃げ遅れた人がいないか確認したかった。
先に仮想ヴィランを潰しては、仮想ヴィランが倒れる時の余波でまた瓦礫が降り注いで逃げ遅れた人がいたら新たな被害者となる可能性もあったからだ。
実際は逃げ遅れていたのはあの透明な少女一人だったから無駄足だったのだが、兎に角他に怪我人が居なくて良かったと仁は安堵する。
「……後半から殆どポイント稼げてないけど、まぁいいか!」
仁は呑気にもそんな事を考えながら、ビルの上に寝転がってその青い青い空を見上げるのだった。