いつかあの疾走を夢見て   作:高科奈紗

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TURN-1

 

「キミ、どうしたの?」

「……………………」

 

 降りしきる雨の中、架橋の下で縮こまって座っている少女が1人。

 かきあげた前髪に、ストレートな赤い髪、首元には焼鉄色のチョーカー……そして、突き刺さるような鋭い目。

 服装と見た目からして、デュエルアカデミア初等部の子なのだろうとは思うのだが……そんな子が何故、大雨の中、ハイウェイの高架下で座っているのか。

 

「……家出」

「家出?」

 

 少女がボソッとそう呟いた。

 家出。

 こんな大雨の日に、か。

 度胸があるのか、無鉄砲なのか……。

 

「……………………」

 

 少女はそう言って、視線を下に戻した。

 もう放っておいてくれ……と言わんばかりの態度と雰囲気が全開だ。

 

「仕方ねぇ……」

 

 俺はすぐ近くに止めてあるD・ホイールのメットインから予備のヘルメットを取り出し、少女に差し出す。

 

「ほら」

「……?」

 

 少女は再び顔をあげ、脳天のいくつもの疑問符を浮かべて首を傾げる。

 

「しばらく降りっぱなしだろうし、ずっとここにいるのも危ないだろ。

 ……後ろに乗りな」

 

 少女にヘルメットを持たせ、俺は自分のメットを被り……自分のD・ホイールに跨る。

 ヘルメットを受け取り、しばらく呆然とした様子でそれを見つめていた少女は……ゆっくりと立ち上がり、後部座に腰掛けて、肩を掴んできた。

 

「よーし、しっかりと掴まってろよ!」

 

 エンジンを起動させ、アクセルを踏み込み……迅速かつ安全運転で、帰路についた。

 

 *

 

「なんだかねぇ〜……」

 

 自分の家のリビングでそう独言る。

 大雨の中、バイト帰りの途中で推定10歳ぐらい女の子を拾って、自分の家に連れ込む。

 そんでもってその少女は今、風呂に入ってシャワーを浴びてる。

 

「……完全に事案だろ、これ」

 

 高等部3年が、推定初等部の女の子を自分の家に連れ込む……もう、アウト以外のなにものでもない。

 

 ふと、机の上に置いてあるチョーカーに目を移す。

 焼鉄色のチョーカー……まるでネームチョーカーにも思えるようなデザインのそれを手に取って眺めていると……

 

「それに触らないでっ!!」

 

 不意に聞こえた少女の声に驚き、慌ててチョーカーを机の上に置く。

 男物のTシャツと短パンを身に纏った少女は鋭い目付きで歩いてきて……机の上に手を伸ばし、チョーカーを手に取って首に付ける。

 

「わ、わるい……」

 

 出来心というか、ひょっとしたら名前とか書いてあるかな……と思っていたのだが。

 

「……お風呂、ありがとう」

「ん? ああ……別に、それぐらい」

 

 さて、これからどうするか……ハイウェイパトロールに届け出るか……。

 

「……服、男物のしか無くてすまないな」

「いい」

 

 少女はそう言いつつ、もぞもぞと体を揺らしている。

 少女が着ていたものは現在、洗濯中だ。

 乾くまでの一時しのぎとはいえ……慣れない男物の下着や服装は窮屈なのだろう。

 

「あっ、そうだ」

 

 1つ、天啓が降りた。

 そういえば冷蔵庫にアレがあったな。

 

「……?」

「これ、食べるか?」

「っ!?」

 

 キッチンの冷蔵庫からある物体を取り出し、それを机の上に置く。

 その物体を見た瞬間……少女の目が大きく見開き、キラキラと輝きだした。

 

「い……いいの?」

「おう、食え食え」

 

 正直、財布ポイントにダメージはデカイが……まあ、仕方あるまい。

 

「っ……い、いただきます……」

 

 ゴクリと喉を鳴らし、スプーンでソレを掬い……口の中に運ぶ。

 ゆっくりと、噛み締めように味わい……ずっと険しかった少女の表情が、二へ〜っとした表情に様変わりした。

 

「えへへ……やっぱりトリシューラプリンは美味しい……」

 

 トリシューラプリンが嫌いな女の子はいない、歴史書にもそう書かれている。

 ……こういう笑顔見てると、やっぱり子供なんだなって思わされる。

 

「ごちそうさまでした」

 

 空になった容器にスプーンを置き、手を合わせてお辞儀をする。

 所々の所作から、結構な良家のお嬢様なんじゃ……という疑惑が浮かび上がってきた。

 

「……キミ、名前は?」

「ユミ」

「ユミ、か。いい名前だ。……年は?」

「10」

 

 名前と年齢は分かった。

 名前はユミ、年齢は10歳……やっぱり初等部の子だったか。

 

「家に帰る気は……」

「……………………」

 

 少女……ユミはフルフルと首を横に振る。

 どうしても家には帰りたくないらしい。

 

「どうして?」

「パパが……私にライディングデュエル、させてくれないから」

「えっ?」

 

 ライディングデュエル……D・ホイールを用いて行われる特殊な形式のデュエル。

 通常のスタンディングデュエルと同じぐらい、普及している形式だが……

 

「いやいや……そりゃあ、お父さんの言う通りだって」

 

 D・ホイールを運転するにはライセンスが必要。

 そして、そのライセンスを取得できるのは満16歳から。

 ……反対するのは至極当然な反応。

 

「……私、子供じゃないもん」

 

 ユミはいかにも子供っぽい表情で頬を膨らませる。

 

「私だって、パパや師匠みたいにD・ホイールに乗って風を感じて疾走(はし)ってみたい……」

 

 完全に夢見る少女の表情を浮かべている。

 本当に、心の底からライディングデュエルに憧れているんだ。

 

「ここに居たって、その願いが叶うわけじゃないよ」

「っ……それは……でも……」

 

 理解はしていても、納得はできない様子。

 まだ10歳の子供なんだ、自分の感情を完全にコントロールなんて出来やしない。

 

「まあ、なんだ。……ほとぼりが冷めるまでは居ていいから」

「え……いいの?」

「いつかはちゃんと家に帰るんだぞ」

 

 ユミはコクンと小さく頷く。

 どうせ子供の癇癪だ、すぐに収まるだろう。

 ……なんてタカを括っていたのが全ての始まりだったのだと、後々で思い知らさられる事になるとは思いもしなかった。

 

「そういえば……お兄さんの名前」

「ん? ああ、名乗ってなかったか」

 

 そういえば名前を聞いておいて、こっちから名前を教えてなかった。

 すっかり失念していた。

 

(あきら)、高等部3年の18歳だ」

「暁……これからよろしくね」

 

 呼び捨て。

 ……いやまあ、別にいいのだけど。

 

「暁もライディングデュエル、するの?」

「おう。まあ、下手の横好きだけどな」

「ふーん……」

 

 何か思うところがあるのか、ジッとこちらを見つめてくる。

 

「……D・ホイール、運転させないからな?」

「わ、わかってる」

 

 コイツ、あわよくば使わせてもらえると思ってたな。

 ……やっぱり子供だ。

 

「スタンディングデュエルで我慢しなさい」

「……スタンディングデュエルなら、いいの?」

「へっ? ……そりゃあ、ライセンスも要らないんだし」

 

 室内でやるから、デュエルディスクじゃなくてプレイマットでする事になるけれど。

 

「じゃあ、デュエルしようよ。暁」

「おう、望むところだ」

 

 机の上にプレイマットを置き、その上にデッキを置く。

 ユミも手持ちの鞄からデッキを取り出して、同じようにデッキを置いた。

 そして、首に付けているチョーカーに手を当てて……目を瞑る。

 数秒後、目を開いてこちらを力強い視線で捉える。

 

「「デュエル!」」

 

 暁:LP 4000 vs ユミ:LP 4000

 

「先攻はユミに譲るよ」

「そう。じゃあ、私のターン……ドロー」

 

 ユミはデッキの一番上のカードに指を置き、目を瞑る。

 そしてそのままデッキの山からカードを抜き取り、手札に加えて目を開ける。

 

「ジャンク・ブレイカーを召喚」

 

 ジャンク・ブレイカー(☆4/ATK 1800)

 

 ユミがカードをプレイマットの上に置くと、イラストから立体映像が浮かび上がる。

 デュエルディスクよりも小規模だが、ソリッドビジョン機能が搭載されているプレイマットだからだ。

 

「カードを2枚セット、これでターンエンド」

 

 モンスターを召喚し、カードを伏せる。

 まずは様子見、と言ったところだろうか。

 

「次は俺のターンだな、ドロー!」

 

 相手が8つ下の初等部の子供だからといって、手加減するつもりはない。

 

「自分フィールドにモンスターが存在しない時、このカードは手札から特殊召喚することができる。カイザー・ブラッド・ヴォルスを攻撃表示で特殊召喚!」

 

 カイザー・ブラッド・ヴォルス(☆5/ATK 1900)

 

「……………………」

 

 俺が召喚したモンスターの攻撃力は、ユミが召喚したモンスターの攻撃力よりも上。

 それなのに眉ひとつ動かさない。

 冷静なのか、ポーカーフェイスなのか……

 

「続けてランサー・デーモンを召喚!」

 

 ランサー・デーモン(☆4/ATK 1600)

 

「……………………」

 

 新たなモンスターを召喚されても、表情を全く崩しはしない。

 あくまで冷静な態度のまま。

 

「バトルだ! カイザー・ブラッド・ヴォルスで、ジャンク・ブレイカーに攻撃!」

 

 カイザー・ブラッド・ヴォルスが、ジャンク・ブレイカーを一刀両断。

 

「……………………」

 

 ユミ:LP 4000→3900

 

 攻撃を受けてもなお、無表情のまま。

 ここまでいくと、コイツに感情というモノがあるのかどうか疑わしいレベルだ。

 だが、どんな表情だろうが盤面は変わらない。

 ユミのモンスターゾーンが空になった事実は揺るがない。

 

「カイザー・ブラッド・ヴォルスは相手モンスターを戦闘で破壊した場合、攻撃力が500ポイントアップする!」

 

 カイザー・ブラッド・ヴォルス(ATK 1900→2400)

 

「ランサー・デーモンで、ユミにダイレクトアタ……」

「罠カード、発動。奇跡の残照」

 

 ユミは、俺が攻撃宣言をし終わる前に伏せていた1枚のカードをオープンする。

 奇跡の残照……戦闘で破壊されたモンスターを復活させるカードだ。

 

「この効果で、墓地のジャンク・ブレイカーを特殊召喚」

「ランサー・デーモンの攻撃力じゃあ、ジャンク・ブレイカーは倒せない……ここはバトル中止だ」

 

 罠を張っていたか。

 思ったよりもちゃんとデュエルをする。

 

「カードを1枚セットして、ターンエンド」

「私のターン……ドロー」

 

 ユミは再び、最初のターンの時と同じようにデッキに指を置いて、目を瞑り……そのままドローする。

 祈っている……いや、もっと別の感情を込めているような気がしてならない。

 

「チューナーモンスター、チューン・ウォリアーを召喚」

 

 チューン・ウォリアー(☆3/ATK 1600)

 

 ユミが新たに呼び出したモンスターでも、パワーアップしたカイザー・ブラッド・ヴォルスには敵わない。

 だが、ユミの目に諦めの気持ちは全く感じられない。

 

「チューナーモンスターってことは……」

「レベル4のジャンク・ブレイカーに、レベル3のチューン・ウォリアーをチューニング」

 

 ☆4+☆3=☆7

 

「集いし星の軌跡が、闇夜に浮かぶ灯火を導く。光差す道となれ! シンクロ召喚……切り裂け! セブン・ソード・ウォリアー!!」

 

 セブン・ソード・ウォリアー(☆7/ATK 2300)

 

 シンクロ召喚。

 チューナーモンスターと、それ以外のモンスターを用いて……レベルを合計した数値と同じモンスターを、エクストラデッキから呼び出す召喚方法。

 メインデッキに入るモンスターよりも、強力なステータスや効果を持っている場合が殆どだ。

 

「それでも、カイザー・ブラッド・ヴォルスの方が攻撃力は上。ランサー・デーモンを狙うつもりか?」

「……装備魔法、神剣-フェニックスブレードをセブン・ソード・ウォリアーに装備。装備モンスターの攻撃力を300ポイントアップ」

 

 セブン・ソード・ウォリアー(ATK 2300→2600)

 

 セブン・ソード・ウォリアーの攻撃力が、カイザー・ブラッド・ヴォルスの攻撃力を上回ってきた。

 

「セブン・ソード・ウォリアーは1ターンに1度、カードを装備した時に800ポイントのダメージを相手に与える。イクイップ・ショット!」

「くっ……」

 

 暁:LP 4000→3200

 

 攻撃力を上げるだけじゃなく、効果ダメージまで与える。

 どうやら……ユミのデッキは、シンクロモンスターと装備カードを主軸にした攻撃型のデッキらしい。

 

「……ふっ」

「……? 何を笑っているの?」

「いや、何でもない。さあ、まだユミのターンだろ」

 

 ユミは怪訝な表情を浮かべる。

 ……ユミのデッキは、俺のデッキとは最悪の相性だ。

 残念ながら。

 

「……セブン・ソード・ウォリアーは、自身に装備されているカードを墓地に送る事が出来る。私は神剣-フェニックスブレードを墓地へ送る」

 

 セブン・ソード・ウォリアー(ATK 2600→2300)

 

「装備したのに、わざわざ自分で解除するのか?」

「1ターンに1度、自身の装備が解除された時……相手モンスター1体を破壊する効果をセブン・ソード・ウォリアーは持っている。カイザー・ブラッド・ヴォルスを破壊」

 

 なるほど、それが狙いだったか。

 

「それは困るな。だから罠カードを発動させてもらおう、身代わりの闇!」

 

 セブン・ソード・ウォリアーから放たれた剣閃は、カイザー・ブラッド・ヴォルスを包み込む深い闇に阻まれた。

 

「カードを破壊する効果を無効にして、デッキからレベル3以下の闇属性モンスターを墓地へ送る」

 

 デッキを広げ、1枚のカードを墓地に置く。

 

「墓地へ送られた絶対王 バック・ジャックの効果を発動、デッキの上から3枚捲って確認、そして好きな順番で戻す。

 更にバック・ジャックを除外して、もう1つの効果も発動! デッキの一番上のカードを確認し、それが通常罠だった場合は自分フィールドにセットできる」

 

 デッキの一番上のカードを表にする。

 そのカードは、闇・道化師のペーテン。

 

「あーら、残念。モンスターカードだったか〜」

「……白々しい」

 

 そりゃあ、そんな反応にもなるか。

 デッキトップを操作して、ワザと外したのだから。

 

「違った場合は、墓地に送られる。

 ……だけど、ペーテンは墓地に送られた時に自身を除外して、同じモンスターをデッキから呼び出せる。

 2体目のペーテンを特殊召喚!」

 

 闇・道化師のペーテン(☆3/DEF 1200)

 

「モンスターを破壊しようとしたら、無効にされたうえに増えた」

「ふっふーん、どうだ?」

「……神剣-フェニックスブレードの効果。墓地のジャンク・ブレイカーとチューン・ウォリアーをゲームから除外して、墓地にあるこのカードを手札に戻す」

 

 相変わらず無表情で、淡々と……機械的な手付きでプレイを続ける。

 

「神剣-フェニックスブレードをセブン・ソード・ウォリアーに装備。そしてファイティング・スピリットも発動、これをセブン・ソード・ウォリアーに装備」

 

 セブン・ソード・ウォリアー(ATK 2300→3500)

 

「ファイティング・スピリットは、相手のフィールドに存在するモンスター1体につき攻撃力が300ポイントアップする装備魔法カード……モンスターを増やしたのがアダになったかな」

「……バトル」

 

 こちらの言葉なんて気にも留めず、バトルフェイズへ移行する宣言をした。

 

「セブン・ソード・ウォリアー、カイザー・ブラッド・ヴォルスに攻撃。

 セブン・ソード・スラッシュ!」

 

 ユミの攻撃宣言を受け、セブン・ソード・ウォリアーが剣を振るう。

 カイザー・ブラッド・ヴォルスは無情にも引き裂かれた。

 

「っ……」

 

 暁:LP 3200→1800

 

「カイザー・ブラッド・ヴォルスを破壊したモンスターは、血の呪いを受けて攻撃力が500ポイントダウンする!」

 

 セブン・ソード・ウォリアー(ATK 3500→2700)

 

 カイザー・ブラッド・ヴォルスの効果、そしてこちらのモンスターが減った事でセブン・ソード・ウォリアーの攻撃力は大幅に低下した。

 

「……カードを1枚セットして、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 

 ユミは相変わらず、無表情のまま。

 ……さて、その鉄仮面を剥がすとするか。

 

「チューナーモンスター、変容王 ヘル・ゲルを召喚!」

 

 変容王 ヘル・ゲル(☆1/ATK 100)

 

「っ……」

 

 ユミの眉がピクリと動いた。

 

「ヘル・ゲルの効果! ペーテンのレベルをコピーし、そのレベル×200ポイントのライフを回復する!」

 

 変容王 ヘル・ゲル(☆1→3)

 暁:LP 1800→2400

 

「そしてレベル4のランサー・デーモンに、レベル3となったヘル・ゲルをチューニング!」

 

 ☆4+☆3=☆7

 

「天頂に輝く死の星よ、地上に舞い降り生者を裁け! シンクロ召喚……降臨せよ、天刑王 ブラック・ハイランダー!!」

 

 天刑王 ブラック・ハイランダー(☆7/ATK 2800)

 

「ブラック・ハイランダーの効果! モンスター1体を選択し、そのモンスターが装備しているカード全てを破壊! そして1枚につき400ポイントのダメージを与える!」

「っ!?」

 

 セブン・ソード・ウォリアー(ATK 2700→1800)

 ユミ:LP 3900→3100

 

 フェニックス・ブレードとファイティング・スピリットが破壊され、セブン・ソード・ウォリアーの装備カードは全滅。

 そしてユミは装備カードを2枚破壊された事で800ポイントのダメージを受けた。

 大きく目を見開き……そしてすぐさま、元の表情に戻る。

 

「でも、セブン・ソード・ウォリアーの装備が解除された事で効果が発動。ブラック・ハイランダーを破壊」

「死者蘇生で、破壊されたブラック・ハイランダーを復活。

 更に、ブラック・ハイランダーが存在する限りシンクロ召喚は行えない」

「っ……」

 

 ユミは目を細めて、唇を噛み締める。

 これでユミのデッキの主軸である装備カードとシンクロモンスターは封じた。

 少し大人気ないかもしれないが……子供に翻弄されっぱなしなわけにはいかないからな。

 

「これでトドメにしよう。速攻魔法……超獸の咆哮(デカネローグ)

「!?」

 

 超獸の咆哮(デカネローグ)を場に出した途端、ユミの表情が青ざめた。

 このカードの効果を知っているのだろう。

 そして、これから何が起きるのか……理解したのだ。

 

「相手と自分のモンスターを1体ずつ選択して破壊する。俺が破壊するのは、ペーテンとセブン・ソード・ウォリアー!」

 

 ペーテンとセブン・ソード・ウォリアーが同時に破壊される。

 だが……

 

「破壊されたペーテンを除外して、3体目のペーテンをデッキから特殊召喚!」

 

 闇・道化師のペーテン(ATK 500)

 

「……………………」

 

 ユミのフィールドに壁となるモンスターはいない。

 そして、こちらのモンスターの総攻撃力は3300。

 ユミのライフポイントは残り3100。

 

「バトル、ブラック・ハイランダーでダイレクトアタック! 死兆星斬(デス・ポーラ・スレイ)!! 

「う……!」

 

 ユミ:LP 3100→300

 

「ペーテンで、ダイレクトアタック!」

 

 勝った。

 そう思った瞬間だった。

 

星墜つる地に立つ閃珖(スターダスト・リ・スパーク)!」

 

 ユミがオープンしたカードから1筋の光が立ち昇る。

 その光の柱にペーテンの攻撃は阻まれた。

 

「相手の特殊召喚されたモンスターのダイレクトアタックで、自分のライフポイントが0になる時……その攻撃を無効にして、1枚カードをドローする!」

 

 ユミは目を瞑って、1枚のカードをデッキから引き抜く。

 

「そして……エクストラデッキから、シンクロモンスター1体を特殊召喚する。

 いでよ、閃珖竜 スターダスト!」

 

 閃珖竜 スターダスト(☆8/ATK 2500)

 

「スターダスト……? いや、それにブラック・ハイランダーがいるのにシンクロモンスターを!?」

「ブラック・ハイランダーが無効にするのはシンクロ召喚だけ、カード効果での特殊召喚は無効にできない」

 

 ブラック・ハイランダーの効果の穴を上手くついてきた。

 コイツ……シンクロ封じの対策をしてたのか。

 

「師匠が言ってた。シンクロ召喚を封じられた時の対策を講じておけって……」

「なるほどね。でも俺の有利には変わりない。

 カードを1枚セットして、ターンエンド」

「私のターン……」

 

 ユミは右手の人差し指と中指をデッキの一番上に置き、目を瞑って親指で挟む。

 すると口角が僅かに上がったように見えて……ゆっくりとカードを引き抜いた。

 

「ドロー」

 

 目を開いて、ドローしたカードを見遣る。

 

「ふふ……」

 

 笑っていた。

 初めて見た、少女の笑顔。

 あどけない顔立ちに、無邪気な笑顔。

 純粋にデュエルを楽しんでいる目。

 

「装備魔法、ジャンク・アタックをスターダストに装備」

 

 ジャンク・アタック……モンスターを戦闘で破壊した時に、その破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与えるカード。

 効果を発動できれば大ダメージを見込めるが……スターダストの攻撃力は2500、対してブラック・ハイランダーの攻撃力は2800。

 スターダストではブラック・ハイランダーは倒せない。

 ペーテンを破壊しても、ダメージは微々たるもの。

 ……ユミの狙いは何だ? 

 

「バトル。スターダストで……ブラック・ハイランダーに攻撃。シューティング・アサルト!」

 

 スターダストがブラック・ハイランダーに目掛けて特攻を仕掛けた。

 攻撃力が劣るモンスターで攻撃するなんて、正気か? 

 ……いや、何か策がある! 

 

「速攻魔法、超獸の咆哮(デカネローグ)! ペーテンとスターダストを破壊する!」

 

 ペーテンとスターダストに光が降り注ぐ。

 フィールドは土煙に包まれ……次第にそれが晴れる。

 フィールドに存在しているのは、ブラック・ハイランダーと……それに特攻している途中のスターダスト。

 

「スターダストが破壊されてない!?」

「ソニック・バリア。スターダストは1ターンに1度、自分のカード1枚を破壊から守る事が出来る」

「っ……それでも、ブラック・ハイランダーの方が攻撃力は上!」

「速攻魔法、武装再生! 墓地のファイティング・スピリットをスターダストに装備!」

 

 閃珖竜 スターダスト(ATK 2500→2800)

 

「攻撃力が並んだ!?」

「いけ、スターダスト!」

 

 ブラック・ハイランダーとスターダスト、互いの攻撃がぶつかり合う。

 攻撃力は互角、相打ちだ……と思った瞬間だった。

 

 閃珖竜 スターダスト(ATK 2800→2500)

 

 ブラック・ハイランダーは破壊され、スターダストは破壊を免れた。

 代わりに破壊されたのは、装備していたファイティング・スピリット。

 

「ファイティング・スピリットは、戦闘での破壊を肩代わりしてくれる。そして……ジャンク・アタックの効果!」

「ぐっ……!」

 

 暁:LP 2400→1000

 

「予想外のダメージだったけど……これで攻撃は終わった」

「罠カード発動、シンクロ・オーバーリミット! 相手モンスターを戦闘で破壊したシンクロモンスターは、戦闘後に破壊される代わりにもう1度攻撃を行える!」

「なっ……連続攻撃!?」

「スターダスト! 響け……シューティング・ブラスト!!」

「っ……負けた……!」

 

 暁:LP 1000→0

 

 負けた。

 初等部の女の子に、負けた。

 

「はは……いやー、ユミ!」

「っ……」

 

 ユミの肩がビクッと跳ねる。

 

「お前、強いな! 負けるとは思わなかったよ」

「……暁も、強かった」

「デッキの相性が悪かっただけだ。その相性を覆しちまうんだから、ユミは凄いよ」

「んぅ……」

 

 わしゃわしゃと頭を撫でると、目を瞑って顔を伏せる。

 まるで子ウサギみたいだ。

 

「……なあ、ユミ」

「ん? ……なに?」

 

 ユミは顔を上げて、こちらを見据える。

 閃珖竜 スターダスト……スターダストの名を冠するモンスター。

 スターダストと言えば、知らない人は居ないあの伝説のデュエリストのエースカード。

 

「お前のお父さんって……不動 遊星?」

「……うん。私は不動 遊未(ゆみ)……不動 遊星の娘だよ」

 

 ユミはバツの悪そうに目を下に向ける。

 ……マジか。

 大雨の日に拾った家出少女は、かつて世界を救った英雄の娘でした。

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