「キミ、どうしたの?」
「……………………」
降りしきる雨の中、架橋の下で縮こまって座っている少女が1人。
かきあげた前髪に、ストレートな赤い髪、首元には焼鉄色のチョーカー……そして、突き刺さるような鋭い目。
服装と見た目からして、デュエルアカデミア初等部の子なのだろうとは思うのだが……そんな子が何故、大雨の中、ハイウェイの高架下で座っているのか。
「……家出」
「家出?」
少女がボソッとそう呟いた。
家出。
こんな大雨の日に、か。
度胸があるのか、無鉄砲なのか……。
「……………………」
少女はそう言って、視線を下に戻した。
もう放っておいてくれ……と言わんばかりの態度と雰囲気が全開だ。
「仕方ねぇ……」
俺はすぐ近くに止めてあるD・ホイールのメットインから予備のヘルメットを取り出し、少女に差し出す。
「ほら」
「……?」
少女は再び顔をあげ、脳天のいくつもの疑問符を浮かべて首を傾げる。
「しばらく降りっぱなしだろうし、ずっとここにいるのも危ないだろ。
……後ろに乗りな」
少女にヘルメットを持たせ、俺は自分のメットを被り……自分のD・ホイールに跨る。
ヘルメットを受け取り、しばらく呆然とした様子でそれを見つめていた少女は……ゆっくりと立ち上がり、後部座に腰掛けて、肩を掴んできた。
「よーし、しっかりと掴まってろよ!」
エンジンを起動させ、アクセルを踏み込み……迅速かつ安全運転で、帰路についた。
*
「なんだかねぇ〜……」
自分の家のリビングでそう独言る。
大雨の中、バイト帰りの途中で推定10歳ぐらい女の子を拾って、自分の家に連れ込む。
そんでもってその少女は今、風呂に入ってシャワーを浴びてる。
「……完全に事案だろ、これ」
高等部3年が、推定初等部の女の子を自分の家に連れ込む……もう、アウト以外のなにものでもない。
ふと、机の上に置いてあるチョーカーに目を移す。
焼鉄色のチョーカー……まるでネームチョーカーにも思えるようなデザインのそれを手に取って眺めていると……
「それに触らないでっ!!」
不意に聞こえた少女の声に驚き、慌ててチョーカーを机の上に置く。
男物のTシャツと短パンを身に纏った少女は鋭い目付きで歩いてきて……机の上に手を伸ばし、チョーカーを手に取って首に付ける。
「わ、わるい……」
出来心というか、ひょっとしたら名前とか書いてあるかな……と思っていたのだが。
「……お風呂、ありがとう」
「ん? ああ……別に、それぐらい」
さて、これからどうするか……ハイウェイパトロールに届け出るか……。
「……服、男物のしか無くてすまないな」
「いい」
少女はそう言いつつ、もぞもぞと体を揺らしている。
少女が着ていたものは現在、洗濯中だ。
乾くまでの一時しのぎとはいえ……慣れない男物の下着や服装は窮屈なのだろう。
「あっ、そうだ」
1つ、天啓が降りた。
そういえば冷蔵庫にアレがあったな。
「……?」
「これ、食べるか?」
「っ!?」
キッチンの冷蔵庫からある物体を取り出し、それを机の上に置く。
その物体を見た瞬間……少女の目が大きく見開き、キラキラと輝きだした。
「い……いいの?」
「おう、食え食え」
正直、財布ポイントにダメージはデカイが……まあ、仕方あるまい。
「っ……い、いただきます……」
ゴクリと喉を鳴らし、スプーンでソレを掬い……口の中に運ぶ。
ゆっくりと、噛み締めように味わい……ずっと険しかった少女の表情が、二へ〜っとした表情に様変わりした。
「えへへ……やっぱりトリシューラプリンは美味しい……」
トリシューラプリンが嫌いな女の子はいない、歴史書にもそう書かれている。
……こういう笑顔見てると、やっぱり子供なんだなって思わされる。
「ごちそうさまでした」
空になった容器にスプーンを置き、手を合わせてお辞儀をする。
所々の所作から、結構な良家のお嬢様なんじゃ……という疑惑が浮かび上がってきた。
「……キミ、名前は?」
「ユミ」
「ユミ、か。いい名前だ。……年は?」
「10」
名前と年齢は分かった。
名前はユミ、年齢は10歳……やっぱり初等部の子だったか。
「家に帰る気は……」
「……………………」
少女……ユミはフルフルと首を横に振る。
どうしても家には帰りたくないらしい。
「どうして?」
「パパが……私にライディングデュエル、させてくれないから」
「えっ?」
ライディングデュエル……D・ホイールを用いて行われる特殊な形式のデュエル。
通常のスタンディングデュエルと同じぐらい、普及している形式だが……
「いやいや……そりゃあ、お父さんの言う通りだって」
D・ホイールを運転するにはライセンスが必要。
そして、そのライセンスを取得できるのは満16歳から。
……反対するのは至極当然な反応。
「……私、子供じゃないもん」
ユミはいかにも子供っぽい表情で頬を膨らませる。
「私だって、パパや師匠みたいにD・ホイールに乗って風を感じて
完全に夢見る少女の表情を浮かべている。
本当に、心の底からライディングデュエルに憧れているんだ。
「ここに居たって、その願いが叶うわけじゃないよ」
「っ……それは……でも……」
理解はしていても、納得はできない様子。
まだ10歳の子供なんだ、自分の感情を完全にコントロールなんて出来やしない。
「まあ、なんだ。……ほとぼりが冷めるまでは居ていいから」
「え……いいの?」
「いつかはちゃんと家に帰るんだぞ」
ユミはコクンと小さく頷く。
どうせ子供の癇癪だ、すぐに収まるだろう。
……なんてタカを括っていたのが全ての始まりだったのだと、後々で思い知らさられる事になるとは思いもしなかった。
「そういえば……お兄さんの名前」
「ん? ああ、名乗ってなかったか」
そういえば名前を聞いておいて、こっちから名前を教えてなかった。
すっかり失念していた。
「
「暁……これからよろしくね」
呼び捨て。
……いやまあ、別にいいのだけど。
「暁もライディングデュエル、するの?」
「おう。まあ、下手の横好きだけどな」
「ふーん……」
何か思うところがあるのか、ジッとこちらを見つめてくる。
「……D・ホイール、運転させないからな?」
「わ、わかってる」
コイツ、あわよくば使わせてもらえると思ってたな。
……やっぱり子供だ。
「スタンディングデュエルで我慢しなさい」
「……スタンディングデュエルなら、いいの?」
「へっ? ……そりゃあ、ライセンスも要らないんだし」
室内でやるから、デュエルディスクじゃなくてプレイマットでする事になるけれど。
「じゃあ、デュエルしようよ。暁」
「おう、望むところだ」
机の上にプレイマットを置き、その上にデッキを置く。
ユミも手持ちの鞄からデッキを取り出して、同じようにデッキを置いた。
そして、首に付けているチョーカーに手を当てて……目を瞑る。
数秒後、目を開いてこちらを力強い視線で捉える。
「「デュエル!」」
暁:LP 4000 vs ユミ:LP 4000
「先攻はユミに譲るよ」
「そう。じゃあ、私のターン……ドロー」
ユミはデッキの一番上のカードに指を置き、目を瞑る。
そしてそのままデッキの山からカードを抜き取り、手札に加えて目を開ける。
「ジャンク・ブレイカーを召喚」
ジャンク・ブレイカー(☆4/ATK 1800)
ユミがカードをプレイマットの上に置くと、イラストから立体映像が浮かび上がる。
デュエルディスクよりも小規模だが、ソリッドビジョン機能が搭載されているプレイマットだからだ。
「カードを2枚セット、これでターンエンド」
モンスターを召喚し、カードを伏せる。
まずは様子見、と言ったところだろうか。
「次は俺のターンだな、ドロー!」
相手が8つ下の初等部の子供だからといって、手加減するつもりはない。
「自分フィールドにモンスターが存在しない時、このカードは手札から特殊召喚することができる。カイザー・ブラッド・ヴォルスを攻撃表示で特殊召喚!」
カイザー・ブラッド・ヴォルス(☆5/ATK 1900)
「……………………」
俺が召喚したモンスターの攻撃力は、ユミが召喚したモンスターの攻撃力よりも上。
それなのに眉ひとつ動かさない。
冷静なのか、ポーカーフェイスなのか……
「続けてランサー・デーモンを召喚!」
ランサー・デーモン(☆4/ATK 1600)
「……………………」
新たなモンスターを召喚されても、表情を全く崩しはしない。
あくまで冷静な態度のまま。
「バトルだ! カイザー・ブラッド・ヴォルスで、ジャンク・ブレイカーに攻撃!」
カイザー・ブラッド・ヴォルスが、ジャンク・ブレイカーを一刀両断。
「……………………」
ユミ:LP 4000→3900
攻撃を受けてもなお、無表情のまま。
ここまでいくと、コイツに感情というモノがあるのかどうか疑わしいレベルだ。
だが、どんな表情だろうが盤面は変わらない。
ユミのモンスターゾーンが空になった事実は揺るがない。
「カイザー・ブラッド・ヴォルスは相手モンスターを戦闘で破壊した場合、攻撃力が500ポイントアップする!」
カイザー・ブラッド・ヴォルス(ATK 1900→2400)
「ランサー・デーモンで、ユミにダイレクトアタ……」
「罠カード、発動。奇跡の残照」
ユミは、俺が攻撃宣言をし終わる前に伏せていた1枚のカードをオープンする。
奇跡の残照……戦闘で破壊されたモンスターを復活させるカードだ。
「この効果で、墓地のジャンク・ブレイカーを特殊召喚」
「ランサー・デーモンの攻撃力じゃあ、ジャンク・ブレイカーは倒せない……ここはバトル中止だ」
罠を張っていたか。
思ったよりもちゃんとデュエルをする。
「カードを1枚セットして、ターンエンド」
「私のターン……ドロー」
ユミは再び、最初のターンの時と同じようにデッキに指を置いて、目を瞑り……そのままドローする。
祈っている……いや、もっと別の感情を込めているような気がしてならない。
「チューナーモンスター、チューン・ウォリアーを召喚」
チューン・ウォリアー(☆3/ATK 1600)
ユミが新たに呼び出したモンスターでも、パワーアップしたカイザー・ブラッド・ヴォルスには敵わない。
だが、ユミの目に諦めの気持ちは全く感じられない。
「チューナーモンスターってことは……」
「レベル4のジャンク・ブレイカーに、レベル3のチューン・ウォリアーをチューニング」
☆4+☆3=☆7
「集いし星の軌跡が、闇夜に浮かぶ灯火を導く。光差す道となれ! シンクロ召喚……切り裂け! セブン・ソード・ウォリアー!!」
セブン・ソード・ウォリアー(☆7/ATK 2300)
シンクロ召喚。
チューナーモンスターと、それ以外のモンスターを用いて……レベルを合計した数値と同じモンスターを、エクストラデッキから呼び出す召喚方法。
メインデッキに入るモンスターよりも、強力なステータスや効果を持っている場合が殆どだ。
「それでも、カイザー・ブラッド・ヴォルスの方が攻撃力は上。ランサー・デーモンを狙うつもりか?」
「……装備魔法、神剣-フェニックスブレードをセブン・ソード・ウォリアーに装備。装備モンスターの攻撃力を300ポイントアップ」
セブン・ソード・ウォリアー(ATK 2300→2600)
セブン・ソード・ウォリアーの攻撃力が、カイザー・ブラッド・ヴォルスの攻撃力を上回ってきた。
「セブン・ソード・ウォリアーは1ターンに1度、カードを装備した時に800ポイントのダメージを相手に与える。イクイップ・ショット!」
「くっ……」
暁:LP 4000→3200
攻撃力を上げるだけじゃなく、効果ダメージまで与える。
どうやら……ユミのデッキは、シンクロモンスターと装備カードを主軸にした攻撃型のデッキらしい。
「……ふっ」
「……? 何を笑っているの?」
「いや、何でもない。さあ、まだユミのターンだろ」
ユミは怪訝な表情を浮かべる。
……ユミのデッキは、俺のデッキとは最悪の相性だ。
残念ながら。
「……セブン・ソード・ウォリアーは、自身に装備されているカードを墓地に送る事が出来る。私は神剣-フェニックスブレードを墓地へ送る」
セブン・ソード・ウォリアー(ATK 2600→2300)
「装備したのに、わざわざ自分で解除するのか?」
「1ターンに1度、自身の装備が解除された時……相手モンスター1体を破壊する効果をセブン・ソード・ウォリアーは持っている。カイザー・ブラッド・ヴォルスを破壊」
なるほど、それが狙いだったか。
「それは困るな。だから罠カードを発動させてもらおう、身代わりの闇!」
セブン・ソード・ウォリアーから放たれた剣閃は、カイザー・ブラッド・ヴォルスを包み込む深い闇に阻まれた。
「カードを破壊する効果を無効にして、デッキからレベル3以下の闇属性モンスターを墓地へ送る」
デッキを広げ、1枚のカードを墓地に置く。
「墓地へ送られた絶対王 バック・ジャックの効果を発動、デッキの上から3枚捲って確認、そして好きな順番で戻す。
更にバック・ジャックを除外して、もう1つの効果も発動! デッキの一番上のカードを確認し、それが通常罠だった場合は自分フィールドにセットできる」
デッキの一番上のカードを表にする。
そのカードは、闇・道化師のペーテン。
「あーら、残念。モンスターカードだったか〜」
「……白々しい」
そりゃあ、そんな反応にもなるか。
デッキトップを操作して、ワザと外したのだから。
「違った場合は、墓地に送られる。
……だけど、ペーテンは墓地に送られた時に自身を除外して、同じモンスターをデッキから呼び出せる。
2体目のペーテンを特殊召喚!」
闇・道化師のペーテン(☆3/DEF 1200)
「モンスターを破壊しようとしたら、無効にされたうえに増えた」
「ふっふーん、どうだ?」
「……神剣-フェニックスブレードの効果。墓地のジャンク・ブレイカーとチューン・ウォリアーをゲームから除外して、墓地にあるこのカードを手札に戻す」
相変わらず無表情で、淡々と……機械的な手付きでプレイを続ける。
「神剣-フェニックスブレードをセブン・ソード・ウォリアーに装備。そしてファイティング・スピリットも発動、これをセブン・ソード・ウォリアーに装備」
セブン・ソード・ウォリアー(ATK 2300→3500)
「ファイティング・スピリットは、相手のフィールドに存在するモンスター1体につき攻撃力が300ポイントアップする装備魔法カード……モンスターを増やしたのがアダになったかな」
「……バトル」
こちらの言葉なんて気にも留めず、バトルフェイズへ移行する宣言をした。
「セブン・ソード・ウォリアー、カイザー・ブラッド・ヴォルスに攻撃。
セブン・ソード・スラッシュ!」
ユミの攻撃宣言を受け、セブン・ソード・ウォリアーが剣を振るう。
カイザー・ブラッド・ヴォルスは無情にも引き裂かれた。
「っ……」
暁:LP 3200→1800
「カイザー・ブラッド・ヴォルスを破壊したモンスターは、血の呪いを受けて攻撃力が500ポイントダウンする!」
セブン・ソード・ウォリアー(ATK 3500→2700)
カイザー・ブラッド・ヴォルスの効果、そしてこちらのモンスターが減った事でセブン・ソード・ウォリアーの攻撃力は大幅に低下した。
「……カードを1枚セットして、ターンエンド」
「俺のターン、ドロー!」
ユミは相変わらず、無表情のまま。
……さて、その鉄仮面を剥がすとするか。
「チューナーモンスター、変容王 ヘル・ゲルを召喚!」
変容王 ヘル・ゲル(☆1/ATK 100)
「っ……」
ユミの眉がピクリと動いた。
「ヘル・ゲルの効果! ペーテンのレベルをコピーし、そのレベル×200ポイントのライフを回復する!」
変容王 ヘル・ゲル(☆1→3)
暁:LP 1800→2400
「そしてレベル4のランサー・デーモンに、レベル3となったヘル・ゲルをチューニング!」
☆4+☆3=☆7
「天頂に輝く死の星よ、地上に舞い降り生者を裁け! シンクロ召喚……降臨せよ、天刑王 ブラック・ハイランダー!!」
天刑王 ブラック・ハイランダー(☆7/ATK 2800)
「ブラック・ハイランダーの効果! モンスター1体を選択し、そのモンスターが装備しているカード全てを破壊! そして1枚につき400ポイントのダメージを与える!」
「っ!?」
セブン・ソード・ウォリアー(ATK 2700→1800)
ユミ:LP 3900→3100
フェニックス・ブレードとファイティング・スピリットが破壊され、セブン・ソード・ウォリアーの装備カードは全滅。
そしてユミは装備カードを2枚破壊された事で800ポイントのダメージを受けた。
大きく目を見開き……そしてすぐさま、元の表情に戻る。
「でも、セブン・ソード・ウォリアーの装備が解除された事で効果が発動。ブラック・ハイランダーを破壊」
「死者蘇生で、破壊されたブラック・ハイランダーを復活。
更に、ブラック・ハイランダーが存在する限りシンクロ召喚は行えない」
「っ……」
ユミは目を細めて、唇を噛み締める。
これでユミのデッキの主軸である装備カードとシンクロモンスターは封じた。
少し大人気ないかもしれないが……子供に翻弄されっぱなしなわけにはいかないからな。
「これでトドメにしよう。速攻魔法……
「!?」
このカードの効果を知っているのだろう。
そして、これから何が起きるのか……理解したのだ。
「相手と自分のモンスターを1体ずつ選択して破壊する。俺が破壊するのは、ペーテンとセブン・ソード・ウォリアー!」
ペーテンとセブン・ソード・ウォリアーが同時に破壊される。
だが……
「破壊されたペーテンを除外して、3体目のペーテンをデッキから特殊召喚!」
闇・道化師のペーテン(ATK 500)
「……………………」
ユミのフィールドに壁となるモンスターはいない。
そして、こちらのモンスターの総攻撃力は3300。
ユミのライフポイントは残り3100。
「バトル、ブラック・ハイランダーでダイレクトアタック!
「う……!」
ユミ:LP 3100→300
「ペーテンで、ダイレクトアタック!」
勝った。
そう思った瞬間だった。
「
ユミがオープンしたカードから1筋の光が立ち昇る。
その光の柱にペーテンの攻撃は阻まれた。
「相手の特殊召喚されたモンスターのダイレクトアタックで、自分のライフポイントが0になる時……その攻撃を無効にして、1枚カードをドローする!」
ユミは目を瞑って、1枚のカードをデッキから引き抜く。
「そして……エクストラデッキから、シンクロモンスター1体を特殊召喚する。
いでよ、閃珖竜 スターダスト!」
閃珖竜 スターダスト(☆8/ATK 2500)
「スターダスト……? いや、それにブラック・ハイランダーがいるのにシンクロモンスターを!?」
「ブラック・ハイランダーが無効にするのはシンクロ召喚だけ、カード効果での特殊召喚は無効にできない」
ブラック・ハイランダーの効果の穴を上手くついてきた。
コイツ……シンクロ封じの対策をしてたのか。
「師匠が言ってた。シンクロ召喚を封じられた時の対策を講じておけって……」
「なるほどね。でも俺の有利には変わりない。
カードを1枚セットして、ターンエンド」
「私のターン……」
ユミは右手の人差し指と中指をデッキの一番上に置き、目を瞑って親指で挟む。
すると口角が僅かに上がったように見えて……ゆっくりとカードを引き抜いた。
「ドロー」
目を開いて、ドローしたカードを見遣る。
「ふふ……」
笑っていた。
初めて見た、少女の笑顔。
あどけない顔立ちに、無邪気な笑顔。
純粋にデュエルを楽しんでいる目。
「装備魔法、ジャンク・アタックをスターダストに装備」
ジャンク・アタック……モンスターを戦闘で破壊した時に、その破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与えるカード。
効果を発動できれば大ダメージを見込めるが……スターダストの攻撃力は2500、対してブラック・ハイランダーの攻撃力は2800。
スターダストではブラック・ハイランダーは倒せない。
ペーテンを破壊しても、ダメージは微々たるもの。
……ユミの狙いは何だ?
「バトル。スターダストで……ブラック・ハイランダーに攻撃。シューティング・アサルト!」
スターダストがブラック・ハイランダーに目掛けて特攻を仕掛けた。
攻撃力が劣るモンスターで攻撃するなんて、正気か?
……いや、何か策がある!
「速攻魔法、
ペーテンとスターダストに光が降り注ぐ。
フィールドは土煙に包まれ……次第にそれが晴れる。
フィールドに存在しているのは、ブラック・ハイランダーと……それに特攻している途中のスターダスト。
「スターダストが破壊されてない!?」
「ソニック・バリア。スターダストは1ターンに1度、自分のカード1枚を破壊から守る事が出来る」
「っ……それでも、ブラック・ハイランダーの方が攻撃力は上!」
「速攻魔法、武装再生! 墓地のファイティング・スピリットをスターダストに装備!」
閃珖竜 スターダスト(ATK 2500→2800)
「攻撃力が並んだ!?」
「いけ、スターダスト!」
ブラック・ハイランダーとスターダスト、互いの攻撃がぶつかり合う。
攻撃力は互角、相打ちだ……と思った瞬間だった。
閃珖竜 スターダスト(ATK 2800→2500)
ブラック・ハイランダーは破壊され、スターダストは破壊を免れた。
代わりに破壊されたのは、装備していたファイティング・スピリット。
「ファイティング・スピリットは、戦闘での破壊を肩代わりしてくれる。そして……ジャンク・アタックの効果!」
「ぐっ……!」
暁:LP 2400→1000
「予想外のダメージだったけど……これで攻撃は終わった」
「罠カード発動、シンクロ・オーバーリミット! 相手モンスターを戦闘で破壊したシンクロモンスターは、戦闘後に破壊される代わりにもう1度攻撃を行える!」
「なっ……連続攻撃!?」
「スターダスト! 響け……シューティング・ブラスト!!」
「っ……負けた……!」
暁:LP 1000→0
負けた。
初等部の女の子に、負けた。
「はは……いやー、ユミ!」
「っ……」
ユミの肩がビクッと跳ねる。
「お前、強いな! 負けるとは思わなかったよ」
「……暁も、強かった」
「デッキの相性が悪かっただけだ。その相性を覆しちまうんだから、ユミは凄いよ」
「んぅ……」
わしゃわしゃと頭を撫でると、目を瞑って顔を伏せる。
まるで子ウサギみたいだ。
「……なあ、ユミ」
「ん? ……なに?」
ユミは顔を上げて、こちらを見据える。
閃珖竜 スターダスト……スターダストの名を冠するモンスター。
スターダストと言えば、知らない人は居ないあの伝説のデュエリストのエースカード。
「お前のお父さんって……不動 遊星?」
「……うん。私は不動
ユミはバツの悪そうに目を下に向ける。
……マジか。
大雨の日に拾った家出少女は、かつて世界を救った英雄の娘でした。