いつかあの疾走を夢見て   作:高科奈紗

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TURN-2

 

 夏の日差しが眩しい。

 小鳥の囀り、さざめく虫の音、行き交う人々の喧騒……まさに都会の夏って感じだ。

 バイトの帰りにお土産を持ってD・ホイールを走らせる。

 自宅に到着し、D・ホイールを車庫に入れて……玄関を潜り、リビングに入る。

 

「ただいま」

「っ!? お、おかえりっ」

 

 小さな同居人……不動 遊未は咄嗟にノートパソコンを閉じる。

 ……またか。

 

「遊未、何を隠した?」

「何も隠してないよ!」

「ふーん……トリシューラプリン買ってきたんだけど食うか?」

「食べる!」

 

 机の上に小箱を置く。

 その小箱に気が向いてる隙をついて……ノートパソコンを開く。

 

「あっ」

 

 こちらの魂胆に気付いたようだが、時すでに遅し。

 

「……お前、またハイウェイパトロールのシステムにハッキングしてただろ!」

「だって暇なんだもん」

 

 暇だからって公安組織にハッキングを仕掛けるヤツがいるか。

 

「バレるようなヘマはしないよ。仮にバレたとしても、牛尾のおじちゃんやドングリピエロに便宜を図ってもらうし」

「そういう問題じゃねーよ」

「……コンビニのプリン」

 

 小箱の中を見て、遊未はがっくりと肩を落とす。

 

「イヤなら食べなくていいぞ」

「いただきます。あむっ……んっ、これはこれで美味しい……」

 

 ニヘラ笑いを浮かべながらコンビニの安物プリンを頬張る。

 反省する気はゼロのようだ。

 

 コイツが居候し始めてから約1カ月……最初は緊張していたのか警戒していたのか、堅いというか棘があるような感じだったのが……今ではすっかりと年相応なクソガキ感が前面に出てきた。

 これが遊未の素の性格なんだろうな……。

 

「……腹ごなしに、デュエルしよう」

 

 空になった容器とスプーンをゴミ箱に捨て、遊未はそう言った。

 

「はいはい」

 

 互いにデッキを取り出して、プレイマットの上に置く。

 こうしてふざけ合って、デュエルして……そんな光景がいつの間にか日常となっていた。

 

 *

 

「明日、俺のバイト先に行くか?」

「んむ?」

 

 ニュース番組を眺めながら晩飯のカレーを食べてる途中、ある提案をしてみた。

 今は夏季休業の真っ只中。

 バイト漬けの毎日で、遊未も退屈しているだろう。

 

「んっ、んっ……暁のバイト先って?」

 

 頬張っていたカレーを飲み込み、水を一杯飲んでから……首を傾げる。

 クソガキなのにこういう所の礼儀は正しいんだよな。

 

「秘密」

「ケチ」

「うっせぇ」

 

 まあ、バイト先を行ったら拒否するかもしれないからな。

 

「もきゅもきゅ……」

 

 目の前で甘口カレーを頬張る少女。

 10歳で大人顔負けなデュエルの腕前を持っていて、ハッキングが趣味……こんなあどけない女の子が。

 

「……? なにか?」

「ん? あー……いやー……」

 

 何か適当に誤魔化そう。

 

「……たまに師匠って言ってるけど、誰の事なんだ?」

「師匠は……あっ、ちょうどテレビに映ってる」

 

 テレビの液晶画面に目を向ける。

 先日行われた、大規模なライディングデュエルの大会の結果が報道されていた。

 インタビューを受けているのは、優勝チームの一員である、後ろ髪を束ねた緑髪の男性……。

 

「えっ、この人が?」

「うん、龍亞さんにデュエル教わった」

 

 なんだか腑に落ちた。

 英雄の娘で、プロのD・ホイーラーに教わった……俺が1度も勝てないわけだ。

 

「早くD・ホイールに乗りたいな……」

 

 恍惚とした表情を浮かべ、テレビの画面を見つめる。

 遊未が家出している理由……やっぱり、どうにかしなければ。

 このままでは……絶対にダメだ。

 明日が……勝負の日。

 

 *

 

「もっとスピード出せないの?」

「安全運転だっての、子供を後ろに乗せて爆走なんて出来るか」

 

 翌日。

 遊未を後部座席に乗せて、D・ホイールを走らせてバイト先へ向かう。

 ハイウェイを駆け抜けて、風を切る。

 そうして着いたのは、海馬コーポレーションの傘下企業が運営している、とある研究所。

 

「……私、帰る!」

「待てい」

 

 逃げようとした遊未の首根っこを掴む

 

「暁! 私を騙したね!?」

「なんのことやら」

「惚けるなァ! ここには……!」

「遊未」

 

 男性の声が聞こえた。

 俺と遊未は、その方向に目を見遣る。

 もう抵抗する気はないようだ……観念したようだし、手を離してやる。

 

「ぱ……パパ……」

 

 遊未の父親、かつて世界を救った英雄──不動 遊星。

 白衣に身を包んだ彼がこちらにゆっくりとこちらに歩いてきて……

 

 パシンッ! 

 

「っ……」

「え……?」

 

 遊未に平手打ちをした。

 そして、何をされたのか分からない、といった困惑の表情を浮かべている遊未を……優しく抱きしめた。

 

「家を飛び出して、ずっと帰って来ないで……心配したんだぞ」

「っ……ご、ごめんなさいっ、パパ……」

 

 少女の瞳からポロポロと涙が溢れた。

 まあ、なんだ……一件落着……かな? 

 

 *

 

 メインフレーム・フォーチュン。

 この研究所で管理・運用されているモーメントの制御装置だ。

 俺はここでバイトをさせてもらっている。

 ……って言っても、アルバイトには書類整理だの買い出しだの、下っ端の仕事しか回ってこないわけだが。

 

「暁、ここで働いてたんだ」

「給料、結構いいからな」

 

 今は2人で研究室内の待合室で座って寛いでいる。

 事の発端は、昨日……遊星さんに話しかけられた事から始まった。

 

『娘が世話になっているみたいだな』

 

 はっきり言って、マジでビビった。

 あれ、俺、殺される? とか思ったもん。

 遊星さんみたいな責任者と話す機会なんて無いし……何より、今の事情が事情だ。

 

 まあ……結果からして、何か咎められたわけでもなく……遊未のデュエルディスクにはGPSが入っている(なお、遊未はその事を知らない)らしく、何処にいるかは最初から分かっていたそうだ。

 行方が分かっているなら、騒ぎ立てる必要もない。

 子供の癇癪ならすぐに帰ってくるだろうと様子を見ていたが……流石に1カ月経っても帰って来ないのは心配になり、俺に連れて来るように頼んだ……というわけだ。

 

「……あっ」

 

 待合室の窓から外を眺めていた遊未が声を上げた。

 彼女の視線の先にあるのは……ライディングデュエルのシミュレーター。

 

「ライディングデュエル用のシミュレーターか、興味あるか?」

「家に同じのあるし、飽きるほどやった」

 

 家に、同じのある。

 ……うん、やっぱりこの子、スゲー子だ。

 

「シミュレーターじゃなくて、本物がいい」

「でも、もう諦めたんだろ?」

「……うん、16歳になるまで我慢する」

「よしよし、いい子だ」

 

 そっと頭を撫でてやる。

 心地良さそうに顔を伏せて……

 

「……こほん」

「「っ!?」」

 

 2人して、咄嗟に距離を取る。

 遊星さんが待合室に入って来ていたのに気付かなかった。

 

「あ、あはは……」

「遊未、来てくれないか?」

「えっ?」

「キミも」

「……?」

 

 遊星さんに連れられて、研究所の奥……ライディングデュエル用のレース場に着いた。

 そこに置いてあったのは……1台のD・ホイール。

 一般販売されているモノより小さなサイズだが……白銀の塗装が眩しいボディ、最新型のエンジン、新品のタイヤ……明らかに、ハンドメイドな一品がそこにあった。

 

「パパ、これ……」

「遊未、お前にプレゼントだ」

「ほんとに!?」

「あぁ」

「やったー!」

 

 ぴょんぴょんと小躍りして喜ぶ。

 心の底から嬉しがっているのが見て取れる。

 

「遊星さん、いいんですか? あの子……まだ10歳ですよ?」

「確かにライセンスを取得出来る年齢ではないが……ハイウェイのような公道ではなく、私有地での運転なら問題ない」

 

 なんだかルールの穴を突いてる感が。

 

「それに、シミュレーターで最高難度も楽々とクリア出来るなら……きっと大丈夫だ」

 

 この人、結構な親バカだ。

 娘の為にD・ホイールを自作して……それをプレゼントするって。

 

「ねぇ暁! ライディングデュエルしようよ!」

「ん? まあ、いいけど……スタンディングデュエルと同じデッキじゃあマトモに戦えないぞ?」

「はっ!」

 

 テンションが上がり過ぎて、初歩的な事も見落としていたようだ。

 

「すぐにライディングデュエル用に組み替えちゃうね! 

 どんなデッキでライディングデュエルしようかずーっと考えてたんだ!」

 

 遊未は自分のD・ホイールのシートにデッキを置いてカードを組み替えていく。

 

「ふっ……あんなに楽しそうにしている遊未は初めてだ」

「あはは、確かに……完全に舞い上がっちゃってますね」

「キミのおかげだ、ありがとう」

 

 遊星さんが頭を下げる。

 俺は慌てて言葉を返す。

 

「えっ、あ……いや! 顔上げてくださいって! 俺、何もしてませんし、むしろ娘さんを家に帰さないで……!」

「ふっ……そうか」

 

 調子が狂うというか、やりづらいと言うか……。

 

「暁〜! ライディングデュエル用のデッキ、組み終わったよ!」

「おーう、今行く!」

 

 遊星さんが運んできておいてくれた自分のD・ホイールに跨る。

 互いにレース場のスタートラインに着く。

 

「さあ……いくよ、遊未号!」

 

 くっそダセェ名前。

 

「「フィールド魔法、スピード・ワールド3、セット!」」

『デュエルモード・オン』

 

 互いの掛け声と共にスタートカウントが点滅していく。

 

「「ライディングデュエル・アクセラレーション!!」」

 

 暁:LP 4000 vs 遊未:LP 4000

 

 同時に2台のD・ホイールがスタートダッシュを切る。

 ライディングデュエルの先攻後攻は、第1コーナーを制した者が取る。

 オートパイロット機能を使ってデュエルする場合もあるが……今回はマニュアル操作。

 ドライブテクニックがモノを言う。

 

「すごい……これが、本物のライディングデュエル……!」

「惚けてる場合じゃないぞ、遊未!」

「……あっ!?」

 

 第1コーナーは俺が制した。

 よって、俺のターンからだ。

 

「俺のターン、ドロー! まずはチューナーモンスター、幻影王 ハイド・ライドを召喚!」

 

 幻影王 ハイド・ライド(☆3/ATK 1500)

 

「そして自分フィールドにチューナーが存在する時、このカードは手札から特殊召喚できる。奇術王 ムーン・スターを特殊召喚!」

 

 奇術王 ムーン・スター(☆3/ATK 900)

 

「早速チューナーと、それ以外のモンスターが揃った……」

「レベル3のムーン・スターに、レベル3のハイド・ライドをチューニング!」

 

 ☆3+☆3=☆6

 

「天を焼くシリウス。孤狼の蒼き瞳よ、地に縛られた牙無き犬共を噛み砕け! シンクロ召喚……天狼王 ブルー・セイリオス!!」

 

 天狼王 ブルー・セイリオス(☆6/ATK 2400)

 

「カードを2枚セットして、ターンエンド!」

 

 上出来な立ち上がりだ。

 遊未とのデュエルを重ねた事で、自分のデュエリストとしてのレベルも上がっていると実感できる。

 そして遊未は初めてのライディングデュエル……今日こそは勝たせてもらう! 

 

「私のターン……ドロー!」

 

 遊未はいつものように、目を瞑ってカードをドローする。

 ライディングデュエルでもそれは変わらないようだ。

 ……バランスを崩してはいないとはいえ普通に危ないし、後で注意しておくか。

 

 暁:SC 0→2

 遊未:SC 0→1

 

 D・ホイールに設置されているディスプレイに表示されているカウンターが上昇した。

 ライディングデュエルでは、後攻の1ターン目から互いのスタンバイフェイズ時にSC(スピードカウンター)が1つずつ上昇していく。

 

「暁のSCが2つも増えた……?」

「永続罠、フルスロットルを発動させたのさ。このカードが発動している限り、スタンバイフェイズで増えるSCは2つになる!」

 

 ライディングデュエルにおいてSCは機体スピードの指標にもなる。

 SCで上回った俺のD・ホイールは、遊未のD・ホイール……遊未号を徐々に引き離していく。

 

「く……相手フィールドにレベル5以上のモンスターが存在するこの時、ジャンク・ジャイアントを手札から特殊召喚!」

 

 ジャンク・ジャイアント(☆6/DEF 2400)

 

「そしてジャンク・メイルを通常召喚!」

 

 ジャンク・メイル(☆1/ATK 400)

 

 遊未もチューナーと、それ以外のモンスターを揃えてきた。

 レベルの合計は7。

 ……くるか! 

 

「レベル6のジャンク・ジャイアントに、レベル1のジャンク・メイルをチューニング!」

 

 ☆6+☆1=☆7

 

「集いし祈りが空を駆け抜け、天を裂く。光差す道となれ! シンクロ召喚……光雷せよ、ライトニング・ウォリアー!!」

 

 ライトニング・ウォリアー(☆7/ATK 2400)

 

 遊未が召喚したのは、セブン・ソード・ウォリアーとは別のレベル7シンクロモンスター。

 状況に合わせて召喚するモンスターを変える柔軟性……それが遊未のデッキの強みの1つだ。

 

「バトル! ライトニング・ウォリアーで、ブルー・セイリオスに攻撃! ライトニング・パニッシャー!!」

 

 ライトニング・ウォリアーとブルー・セイリオスの攻撃力は互角。

 しかし……ライトニング・ウォリアーの拳がブルー・セイリオスの胴体を抉り取った。

 

「ジャンク・メイルをシンクロ素材にしたシンクロモンスターは、戦闘では破壊されない! よって破壊されるのはブルー・セイリオスだけ!」

「だがブルー・セイリオスは戦闘で破壊された時、そのモンスターの攻撃力を抉る!」

 

 ライトニング・ウォリアー(ATK 2400→0)

 

「でも、こっちだってライトニング・ウォリアーの効果! 相手モンスターを戦闘で破壊した時、相手の手札1枚につき300ポイントのダメージを与える! ライトニング・レイ!!」

「くっ……」

 

 暁:LP 4000→3400

 

 俺の手札は2枚、よって受けたダメージは600ポイント。

 互いに最初の攻防を終え……制したのは、遊未の方といったところか。

 だが、こっちにはフルスロットルがある。

 長期的に見れば有利を取れるのはコッチだ。

 

「カードを3枚セットして、ターンエンド!」

「……楽しそうだな、遊未」

 

 サーキットを1周し終えた。

 ライフポイントはコッチが下だが、微々たる差。

 しかし、SCの方は……

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 暁:SC 2→4

 遊未:SC 1→2

 

「っ……どんどんSCが離れていく、追いつけない……!」

 

 いくらドライブテクニックがあろうとも、SCの差は埋められない。

 これがライディングデュエル……スタンディングデュエルの常識は通用しない。

 

「罠カード、戦線復帰! 墓地のハイド・ライドを守備表示で特殊召喚! そして灰塵王 アッシュ・ガッシュを召喚!」

 

 幻影王 ハイド・ライド(☆3/DEF 300)

 灰塵王 アッシュ・ガッシュ(☆4/ATK 1000)

 

「またモンスターが並んだ……しかも、今度はレベル合計7……!」

「レベル4のアッシュ・ガッシュに、レベル3のハイド・ライドをチューニング!」

 

 ☆4+☆3=☆7

 

「天頂に輝く死の星よ、地上に舞い降り生者を裁け! シンクロ召喚……降臨せよ、天刑王 ブラック・ハイランダー!!」

 

 天刑王 ブラック・ハイランダー(☆7/ATK 2800)

 

 今の遊未の場にいるのは攻撃力0のライトニング・ウォリアーだけ。

 一気にケリをつける! 

 

「バトル! ブラック・ハイランダーで、ライトニング・ウォリアーに攻撃!」

「罠カード、発動! スター・シフト!」

 

 遊未が1枚の罠カードを発動すると、ライトニング・ウォリアーの姿が忽然と消えた。

 そして代わりに現れたのは……

 

 セブン・ソード・ウォリアー(☆7/ATK 2300)

 

「自分フィールドのシンクロモンスターをエクストラデッキに戻して、同じレベルのモンスターを効果を無効にして特殊召喚!」

「なるほど……それでダメージを減らそうって魂胆か?」

「ダメージは受けないし、破壊もさせない! 罠カード、陰謀の盾をセブン・ソード・ウォリアーに装備!」

 

 セブン・ソード・ウォリアーが禍々しいオーラを纏った盾を構え、ブラック・ハイランダーの大鎌を受け止める。

 

「陰謀の盾を装備しているモンスターが攻撃表示の場合、1ターンに1度だけ戦闘での破壊を無効にしてダメージを0にする!」

 

 遊未のタクティクスも成長している。

 俺とデュエルをし始めた時は攻撃一辺倒なところがあったが……今では搦め手や防御も織り交ぜる戦い方をするようになった。

 

「やるな、遊未」

「えへへ……」

「でもこれはライディングデュエル、これが……ライディングデュエルの戦い方だ! Sp−スピードストーム!」

 

 Sp(スピードスペル)……スタンディングデュエルでは使用出来ない、ライディングデュエル専用の魔法カード。

 

「SCが3つ以上ある時、相手に1000ポイントの効果ダメージを与える!」

「っ……あ……!」

 

 遊未:LP 4000→3000

 

 スピードストームの効果でダメージを受けた遊未号は大きく揺れる。

 そしてあわや、スリップする寸前で……

 

「くっ……うぅぅっ……!」

 

 車体を無理矢理ターンさせて、持ち堪えた。

 ……あれでクラッシュしないとは、実力は本物だ。

 

「ふぅ……」

「まだだぜ、遊未! ブラック・ハイランダーの効果を発動して、陰謀の盾を破壊する!」

 

 ブラック・ハイランダーが大鎌を大きく振り上げる。

 

「そうはさせない! 罠カード、ブレイクスルー・スキル! ブラック・ハイランダーの効果を、このターンの間だけ無効にする!」

 

 遊未の発動したカードから、長い爪の生えた腕が伸びて……ブラック・ハイランダーの効果を止めた。

 

「あのカードは……なるほど、ブラック・ハイランダーの対策はバッチリってわけか。カードを1枚セットして、ターンエンド」

「私のターン……ドロー!」

 

 暁:SC 4→6

 遊未:SC 2→3

 

「Sp−エンジェル・バトン! SCが2つ以上ある時、デッキからカードを2枚ドロー! そして手札を1枚、墓地へ送る!」

 

 遊未はドローしたカードを手早く手札に加えて、手札を1枚墓地へ送る。

 すると墓地に送られたカードが、墓地から出てきた。

 

「墓地に送られた代償の宝札の効果! このカードが手札から墓地に送られた時、2枚ドローできる!」

 

 遊未は新たにカードを2枚ドロー。

 これで遊未の手札は4枚となった。

 

 本来なら……いや、《2》までのスピード・ワールドだったのなら遊未は2000ポイントのダメージを受けていた。

 しかし、今のフィールドに存在しているのはスピード・ワールド3。

 SCが2つ以上のプレイヤーは、魔法カードの使用制限が解除される。

 ……スピード・ワールド3の特性を生かした手札増強コンボを、初めてのライディングデュエルをやってのけやがった。

 

「自分フィールドにシンクロモンスターがいる時、ジャンク・ドラゴンセントは手札から特殊召喚できる!」

 

 ジャンク・ドラゴンセント(☆5/ATK 2100)

 

 どう見てもプラグなドラゴンが遊未のフィールドに現れた。

 ……うん、やっぱり何度見てもコンセントじゃなくてプラグだよなコイツ。

 

「自分フィールドにウォリアーと名の付いたシンクロモンスターが存在する時、墓地のジャンク・メイルは特殊召喚出来る!」

 

 ジャンク・メイル(☆1/DEF 100)

 

 これでチューナーと、それ以外のモンスターが再び揃った。

 しかし、俺のフィールドにはシンクロ召喚を封じるブラック・ハイランダーが存在する。

 ……だが、遊未は既に前のターンで手は打っている。

 

「墓地のブレイクスルー・スキルを除外して、効果を発動! ブラック・ハイランダーの効果をターン終了時まで無効にする!」

 

 今度は地面を突き破って現れた手に掴まれ、ブラック・ハイランダーの動きが封じられた。

 厄介なカードを使ってくれるよ、まったく。

 

「これでシンクロ封じの効果は消えた! レベル5のジャンク・ドラゴンセントに、レベル1のジャンク・メイルをチューニング!」

 

 ☆5+☆1=☆6

 

「集いし魂を1つに束ね、新たな翼を作り出す! 光差す道となれ! シンクロ召喚……巡れ! スターダスト・チャージ・ウォリアー!!」

 

 スターダスト・チャージ・ウォリアー(☆6/ATK 2000)

 

「スターダスト・チャージ・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した事で、カードを1枚ドロー!」

 

 スター・シフトの影響で効果が無効になっているセブン・ソード・ウォリアーも、シンクロ召喚したスターダスト・チャージ・ウォリアーも……ブラック・ハイランダーを突破する力を持ってはいない。

 ……フィールドだけ見れば。

 

 ジャンク・ドラゴンセント。

 墓地にいる時、自身を除外してシンクロモンスターの攻撃力を800ポイントアップさせる効果を有している。

 コイツの効果でブラック・ハイランダーの攻撃力を上回る算段なのだろう。

 

「……ふっ」

 

 自分が先のターンにセットしたカードを見遣る。

 このカードの前では、そんな小細工は無意味。

 

「まだいくよ! チューナーモンスター、ジャンク・チェンジャーを召喚!」

 

 ジャンク・チェンジャー(☆3/ATK 1500)

 

「ジャンク・チェンジャーの効果! 自身のレベルを1つ上昇させる!」

 

 ジャンク・チェンジャー(☆3→4)

 

「そして自分フィールドにジャンクと名の付いたモンスターが存在する時、ジャンク・サーバントは特殊召喚できる!」

 

 ジャンク・サーバント(☆4/ATK 1500)

 

 三度、遊未のフィールドにモンスターが揃った。

 レベルの合計は8。

 ……ヤツが来る! 

 

「レベル4のジャンク・サーバントに、レベル4になったジャンク・チェンジャーをチューニング!」

 

 ☆4+☆4=☆8

 

「星海を切り裂く一筋の閃光よ、魂を震わし世界に轟け! シンクロ召喚……響け! 閃珖竜 スターダスト!!」

 

 閃珖竜 スターダスト(☆8/ATK 2500)

 

 遊未のフィールドに3体のシンクロモンスターが立ち並んだ。

 シンクロ召喚を封じられた状態から、よくもここまで展開したものだ。

 

「バトル! スターダストで、ブラック・ハイランダーに攻撃! シューティング・アサルト!!」

 

 スターダストがブラック・ハイランダーに目掛けて特攻する。

 ジャンク・ドラゴンセントの効果で攻撃力を上げ、戦闘で破壊するつもりだろうけど……させるわけにはいかない。

 

「永続罠、スピード・ブースター! SCが相手より上回っている時、その数だけ攻撃を無効にする!」

 

 SCの差は3、よってモンスターが3体しか存在しない遊未の攻撃は全て無効になる。

 

「そんな……スターダストの攻撃が……! ……カードを2枚セットして、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 

 暁:SC 6→8

 遊未:SC 3→4

 

「スピード・ブースターの効果! 自分のターンに1度、SCの差×100ポイントのダメージを相手に与える! SCの差は4、さあ400ポイントのダメージをくらえッ!」

「あぁっ……!」

 

 遊未:LP 3000→2600

 

「やっているようだな」

 

 レース場に1人男性が入って来た。

 長身の金髪男性だ。

 

「ジャック」

 

 ジャック・アトラス……キングの称号を持つ、デュエルチャンピオンだ。

 

「ジャック・アトラス……!? なんでここに……!?」

「暁! デュエル中だよ、余所見しないでよ!」

「あ、あぁ……」

 

 遊未の言う通りだ、今はデュエルに集中しなければ。

 

「あのD・ホイール、随分と調子が良さそうだ」

「ああ、調整は完璧にしてある」

「当然だ! 俺が塗ったのだからな」

 

 なんだか凄い事が聞こえた気がするけれど、気にしてる場合じゃない。

 

「魔法カード、蜘蛛の糸! 前のターンに相手が使用した魔法カードを、俺の手札に加える!」

「あっ! 私のエンジェル・バトンが!」

 

 蜘蛛の糸が伸びて、遊未号にセットされているデュエルディスクの墓地スロットに絡まる。

 そして遊未の墓地にあるSp−エンジェル・バトンが俺の手札に加わった。

 

「便利だよな、このカード。俺も使わせてもらうぜ、Sp−エンジェル・バトン! 2枚ドローして、手札を1枚墓地へ送る!」

 

 手札1枚を墓地に送ると同時に、Sp−エンジェル・バトンは遊未の墓地へ戻っていった。

 

「墓地に送られた、絶対王 バック・ジャックの効果! デッキの上から3枚のカードを確認して、好きな順番で戻す!」

 

 更なる布石は打った。

 次のターンで……俺の勝ちだ。

 

「ブラック・ハイランダーの効果を発動! 陰謀の盾を破壊する! さあ……スターダストの効果を使うか?」

「……スターダストの効果! 陰謀の盾の破壊を無効にする! ソニック・バリア!」

 

 スターダストが風の防壁を作り、セブン・ソード・ウォリアーを包み込む。

 その防壁にブラック・ハイランダーの大鎌は阻まれた。

 

「これでスターダストの効果はもう使えない! バトルだ、ブラック・ハイランダーでスターダストに攻撃! 死兆星斬(デス・ポーラ・スレイ)!!」

「あぁ……!」

 

 遊未:LP 2600→2300

 

 効果を使い果たし、無防備になったスターダストをブラック・ハイランダーが切り刻む。

 ジャンク・ドラゴンセントの効果は、自分のモンスターが攻撃する時にしか発動できない。

 しかし、遊未の攻撃はスピード・ブースターの効果で封じられているので使えず……頼みの綱のシンクロ召喚と装備カードもブラック・ハイランダーで対策されている。

 

「なるほど、遊未が圧倒的に不利な状況だな」

「だが、遊未は諦めていない」

「……………………」

 

 遊未が後方から、俺のD・ホイールをしっかりと視線で捉える。

 その目に宿る闘志は消えてはいない。

 

「カードを1枚、セット! ターンエンド!」

「私のターン……ドロー!」

 

 暁:SC 8→10

 遊未:SC 4→5

 

「永続罠、スピード・エッジ! スタンバイフェイズ毎に、自分のSCが上回っている時、その差×300ポイントのダメージを相手に与える!」

「っ!?」

 

 現在のSCの差は5。

 そして俺のフィールドにはスピード・ブースターもある。

 ブラック・ハイランダーに攻撃を通すなら、6回の攻撃を行わなければならない。

 つまり……確実に次の俺のターンが回ってくる。

 そうなれば、SCの差は6となり……スピード・ブースターとスピード・エッジの効果で2400ポイントのダメージを与えられる。

 これで遊未のライフは0……俺の勝ちだ。

 

「さあ、1500ポイントのダメージをくらえ!」

 

 スピード・エッジから放たれたミサイルの雨が遊未号に降り注ぐ。

 爆風の中に遊未号は消えた。

 

 ギィィィン……!! 

 

 エンジンが加速する音が聞こえる。

 俺のD・ホイールから聞こえる音ではない。

 そうなると、この音が発しているのは……

 

「……ふふ!」

「なっ!?」

 

 爆風の中から遊未号が現れ、俺の後ろにピッタリと張り付いてきた。

 SCの差が5つもあるはずなのに、ここまで付いてこれるはずが無い。

 そう思い、ディスプレイに目を向けると……

 

 遊未: LP 2300/SC 10

 

「遊未のライフが減っていない!? それに、SCが増えてる……!」

「さっきのターン、暁がエンジェル・バトンを使った時……スリップ・ストリームを発動しておいたんだよ!」

 

 スリップ・ストリーム……自分のSCの方が少なく、相手がSpを発動した時に発動する罠カード。

 次のターン、自分のSCを相手の数と同じにする。

 それでスピード・エッジの効果を防いだのか。

 

「……いや、それだけじゃない。SCの数が同じになった事で、スピード・ブースターの攻撃無効効果も無力化したのか!」

「これで憂いなく攻撃出来る!」

「くっ……墓地のバック・ジャックの効果! 自身を除外して、デッキの1番上のカードを確認する!」

 

 デッキの1番上のカードはシンクロン・リフレクト、通常罠カードだ。

 

「シンクロン・リフレクトをセット! この効果でセットしたカードはこのターン中に発動する事が出来る!」

 

 打てる手は全て尽くした、後は自分のターンが来るのを待つだけだ。

 

「……いくよ、暁。これが私のファイナルターン!」

 

 遊未は1枚のカードを天高く掲げる。

 

「Sp−ファイナル・アタック! セブン・ソード・ウォリアーの攻撃力を倍にする!」

 

 セブン・ソード・ウォリアー(ATK 2300→4600)

 

「攻撃力4600……!」

「バトル! セブン・ソード・ウォリアーで、ブラック・ハイランダーに攻撃!」

「罠カード、シンクロン・リフレクト!」

 

 俺が発動したシンクロン・リフレクトがブラック・ハイランダーの周囲にバリアを張り、セブン・ソード・ウォリアーの剣撃を受け止める。

 そして、その衝撃がスターダスト・チャージ・ウォリアーに襲い掛かる。

 

「シンクロモンスターへの攻撃を無効にして、相手モンスター1体を破壊する! セブン・ソード・ウォリアーの攻撃を無効にして、スターダスト・チャージ・ウォリアーを破壊!」

「罠カード、悲劇の引き金! 相手が発動した《相手モンスター1体を破壊する》効果の対象を、別のモンスターに移し替える! 破壊されるのは、セブン・ソード・ウォリアーだよ!」

 

 シンクロン・リフレクトで跳ね返した衝撃が、セブン・ソード・ウォリアーを襲う。

 そしてセブン・ソード・ウォリアーが爆散した。

 

「ごめんね、セブン・ソード・ウォリアー……スターダスト・チャージ・ウォリアーで、ブラック・ハイランダーに攻撃! シューティング・クラッシャー!!」

 

 スターダスト・チャージ・ウォリアーの攻撃力は2000。

 だが……

 

「墓地のジャンク・ドラゴンセントの効果! 自身を除外して、スターダスト・チャージ・ウォリアーの攻撃力を800ポイントアップさせる!」

 

 スターダスト・チャージ・ウォリアー(ATK 2000→2800)

 

「攻撃力はブラック・ハイランダーと同じになった、だけど……」

「スターダスト・チャージ・ウォリアーはジャンク・メイルをシンクロ素材にしている、よって戦闘では破壊されない」

「その通り、暁!」

 

 スターダスト・チャージ・ウォリアーの攻撃が、ブラック・ハイランダーに炸裂。

 ブラック・ハイランダーが一方的に破壊された。

 

「くっ……だけど、これで遊未のモンスターは攻撃を終了した!」

 

 遊未のフィールドにカードはもう存在しない。

 手札も1枚だけ。

 ……手札が、1枚? 

 

「これが……最後のカード! 速攻魔法、ファイナル・クロス!」

「ファイナル・クロス……!」

「自分のシンクロモンスターが墓地に送られたターン、自分のシンクロモンスターは2回攻撃が出来る! 更に……墓地のスターダストの力を、スターダスト・チャージ・ウォリアーに与える!」

 

 スターダスト・チャージ・ウォリアー(ATK 2800→5300)

 

「攻撃力5300だと!?」

「いっけぇ! スターダスト・チャージ・ウォリアー!!」

 

 スターダスト・チャージ・ウォリアーの放つ無数の剣が迫り来る。

 

「ぐわぁぁぁぁぁっ!!」

 

 暁:LP 3400→0

 

 攻撃を受け切れず、俺のライフは0となり……D・ホイールが強制的に停止した。

 

「くっそぉ……! これでも勝てないのかよ」

「暁!」

 

 遊未が俺の横にD・ホイールを着けて、メットを外して降りる。

 

「遊未」

「ありがとう! すっごく……楽しかった!」

「そうか。……俺もだよ」

「えへへっ」

 

 頭をわしゃわしゃと撫でる。

 純粋な笑顔を向けられる。

 ……なんだろうな、コイツの笑顔を見てると心が洗われる気分になる。

 

「2人共、いいデュエルだった」

「少しはやるようになったみたいだな、遊未」

 

 遊星さんとジャックがこちらに歩いてきた。

 

「……あっ、ジャックおじさん」

「おじさんだとォ!?」

 

 遊未の発言に、ジャックがブチ切れた。

 

「ジャック、年齢を考えろ。おじさん呼ばわりも無理はないだろう」

「認めん! 断じて認めん!」

 

 遊星さんがジャックを窘めるも、効果はなさそうだ。

 

「こうなったら……遊未! ライディングデュエルで、貴様の認識を改めさせてやる!」

「んっ……いいよ!」

 

 ジャックはそう言うと、駆け足でレース場を後にした。

 自分のD・ホイールを取りに行ったのだろう。

 遊未はメット被り、再び遊未号に跨った。

 

「ねぇ、暁」

「んっ?」

「また、一緒にライディングデュエルしようね!」

「おう!」

 

 互いに拳を突き合わせる。

 そして遊未はD・ホイールを走らせ……スタート位置に着く。

 心の中が満たされる感覚を味わいながら……その姿を目に焼き付けた。

 

 なお、デュエルは……ジャックが召喚したスカーレッド・スーパーノヴァ・ドラゴンにワンショットキルされて遊未が盛大に吹き飛んだ。

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