とある<マスター>のデンドロ記録   作:貴司崎

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最強だった理論(中)

 □<獣戦士氏族の里> 【獣戦鬼(ビーストオーガ)】レフィー

 

 それから簡単な自己紹介の後で獣戦士(ジャガーマン)氏族の里に案内されたレフィーとパスカルだったが、里そのものはジャングル内にある小さな村落の様な感じであり、住民は総じてキムやレラと同じ様に獣を模した衣装を着ながら側に従魔らしき何らかのモンスターを連れていた。

 

「お帰りなさいませキム族長、カンナ殿。そしてレラ様とアペラ殿、プリンス殿も。……そちらの方は?」

「彼女はレフィー殿とパスカル殿、この森で道に迷っていた<マスター>であり麗都への道を知りたいと言われて里に案内した。客分として扱ってくれ」

「成る程……どうやら素晴らしいテイマーの様ですね。獣戦士の里へとようこそレフィー殿、パスカル殿」

 

 その内、里の外でテイムモンスターの【フォレストゴリラ】を連れている門番に呼び止められてレフィーに怪訝な視線を向けられたが、キムが事情を説明した上でレフィーとパスカルを見た門番は途端に態度を軟化させる所か『敬意』がこもった対応をされた。

 良く言えば独特な文化を持ってるせいで余所者には厳しめなレジェンダリアの部族としても変わった雰囲気だったので、割と好奇心旺盛な所があるレフィーは彼等に色々聞いてみる事にした。

 

「余所者はもっと警戒されると思ってたけどなんか凄い敬意を持った視線で私とパスカルが見られてるね。モンスターにも敬称を使うし」

「私達獣戦士氏族は従魔師系統のジョブに高い適正を持っていて、スキルが無くてもモンスターと意思の疎通が出来る上にモンスターへの観察眼も優れてる。だからレフィーとパスカルが従魔師とモンスターの関係として良いものである事は見れば分かる」

「優れた従魔師を尊ぶのが獣戦士氏族の価値観だからな。それとモンスターにも敬称を使うのはテイムモンスターも俺達にとっては“共に暮らす家族”と同じだからだ」

 

 曰く、総じて高い【従魔師(テイマー)】としての資質を有している獣戦士氏族には一定の年齢に達すると従魔師系統のジョブに就いてモンスターを自らも手でテイムするのが習わしとなっており、その従魔と常に共に暮らすのが当たり前になっているので氏族全体で家族の様に扱うのが普通なのだと言う。

 ……実際に里の中に入るとキムやレラと同じ様な格好をした人達が様々なモンスターと仲良く暮らしており、リアルでも共に暮らすペットは家族も同然と言う考えのレフィーにはとても良い村だと感じられた。

 

「……俺が初めてこの里に訪れた時よりも露骨に里の人の態度が違うんだよな。俺もガードナーのミドとは結構仲が良い方だと思ってるんだが」

「私達の視点では“テイムモンスター”と“<エンブリオ>”は()()()()だから、アレらはなんて言うか<マスター>の一部って感じに思える。まあガードナー? って種類なら良好な関係を築いてるかどうかぐらいは分かるけど」

「チヤホヤされるのは悪くない気分ね!」

『ガウ(少々こそばゆいですが)』

 

 ちなみにこの事を知って態々買って来た純竜級モンスターを見せびらかして獣戦士氏族の好感度を上げようとした<マスター>も居たらしいが、キチンと育てて絆を育んだモンスターとただ買っただけで無理に従えているモンスターの違いは彼等にとっては一目瞭然なので上手く行かなかったらしい。

 

「なるほどー、でもそれなら“獣戦士氏族”じゃなくて“従魔師氏族”になるんじゃないの?」

「聞きにくいセンシティブな話題をあっさり聞くなコイツ」

「別に気にはしない。……まあ実際はそんな感じだけど氏族の開祖が【獣王(キング・オブ・ビースト)】のジョブに就いてたから、そこから部族の戦士達は【獣戦士】に就く事が習わしになって部族の名前もそうなったみたい。後は汎用的なジョブの従魔師を氏族名にすると問題があったとか、従魔師はレジェンダリアでもポピュラーなジョブで従魔師ギルドとかも大きいし」

「最も近年では【獣戦士(ジャガーマン)】のジョブに就くのは家訓として決められてる俺達含めて一部の戦士家系の者ぐらいなのだが。……まあティアンであれば【獣戦士】よりも従魔師系統にジョブを特化させて複数のテイムモンスターに戦わせた方が強いからな」

 

 レジェンダリアには良く言えば気難しい部族も多いのにズケズケと質問するレフィーに呆れるプリンスだったが、当の獣戦士氏族側にとっても【獣戦士】のジョブ自体が慣習的なモノになってるので大して気にはしていない様だ。

 まあ、殆どの獣戦士氏族は直接戦闘系のジョブの適正が【獣戦士】ぐらいしかないので“直接戦闘を行える人間”として一定の需要はあり、ここに居る族長とその妹の様に戦闘形ジョブが無くとも自前のセンススキルによって戦闘系上級職並みの戦力で戦えるレベルで鍛え上げている者もいるのだが少数派な様だ。

 

「ふむふむ、でも確か【獣王】ってもう<マスター>が就いてたよね。確か皇国のめっちゃ強いステ特化型ガードナー持ちが就いてガードナー獣戦士理論における“最強”が現れたって獣戦士スレがお通夜になってた」

「……本当にズケズケ面倒な話題を質問するな。此処の人達は割とサバサバしてるから大丈夫だが他の都市にいる気難しい(婉曲表現)連中が聞いたらその場で無礼撃ちされるかもよ?」

「聞いても大丈夫そうな人達にしか聞かないし、例えば霊都にいた天◯人には聞いたりしないよ……と言うか近付きたくもない連中だったね。それに貴方がさっき【獣王】云々で<マスター>を警戒していたから気になってね。何か問題になったりするかもしれないし」

「◯竜人って……まあ大体合ってるけど。……俺が突っかかったのが原因だししゃあないか」

 

 そうしてプリンスは『現在獣戦士氏族が困っている問題』についてレフィーに話しておいた方が良さそうと判断し、とりあえずキムとレラの家──獣戦士氏族の族長の家に彼女を案内した上で話しする事となったのだった。

 

 

 ◇

 

 

「……さて、事の始まりは<マスター>の間で『ガードナー獣戦士理論』が流行り始めた事から始まるんだが……聞いてるのか?」

「このお菓子おいしー」

『バウ(ご主人、話は聞きましょうよ)』

 

 客人用に出されたお菓子を美味しそうに食べるレフィーを見て『コイツ結構マイペース過ぎないか?』と考えジト目になるプリンスだったが、彼女的には出されたお菓子の感想を言っただけで話もちゃんと聞いてるつもりである。

 

「聞いてる聞いてる。従属キャパシティ内のテイムモンスターのステータスを自身に足し合わせる《獣心憑依》は【獣戦士】系統の従属キャパシティが異常に少ないからサブジョブ全部を従魔師系統で埋めないと強いモンスターのステを足せないけど、システム的に従属キャパシティがゼロのガードナー系<エンブリオ>ならその辺りのデメリットを無視して獣戦士系統と戦闘系サブジョブを組み合わせられるからコレめっちゃ強くね。これがデンドロの最強理論だろJKwww……みたいに流行ってたやつだよね。私はガードナー持ちじゃないけど参考にはなったよ」

「本当にちゃんと聞いて理解はしてるんだな。……上澄みの<マスター>に変人が多いのは今更か。ロリコンとかショタコンとかドSとかドMとか魔法少女マスコットとかフチ舐め男とかドルオタとか」

「私はそこまで変じゃないと思うけどなー、着ぐるみを常時着てたりしないしスライムでもないよ。……そんな理論もあって獣戦士系統超級職の【獣王】は多くの<マスター>が探してたと思うけど、獣戦士氏族の開祖が【獣王】だったって事は転職条件を探した<マスター>が来てたとかそこで何かトラブルがあったとかかな?」

「鋭いな。まあ簡単に言えば【獣王】に転職出来なかった一部のガードナー獣戦士理論を実践していた<マスター>達が『自分が超級職になれなかったのは獣戦士氏族が転職条件を秘匿したせいだ』と言いがかりを付けてこの里に襲撃を仕掛けて来ようとしている情報を得てな。レフィーと最初に会った時に警戒していたのは【獣戦鬼】に就いていた<マスター>だったから襲撃者だと思ったんだ」

 

 それなら初めて会った時にいきなり臨戦態勢だったのも納得いくとレフィーは思ったが、同時に転職条件云々と言うなら“明らかにおかしい所がある”とその場の人間達を《看破》しながら疑問を尋ねてみた。

 

「でも此処にいる人達は【獣王】には就いていないんだよね。そもそも掲示板では【獣王】に就いたのはドライフの<マスター>って話だったし」

「……そこが少し面倒な話ではあるんだが、まずそもそも獣戦士氏族は【獣王】の転職条件をロストしていたんだよな」

「そこからは獣戦士氏族の簡単な歴史含めて俺が話そう。【獣王】の資格を失ったのは俺達の不得のなすとこだからな」

 

 プリンスから話しを引き継いだキム曰く獣戦士氏族はかなり昔その時代の【獣王】を中心として成り上がりレジェンダリアでもそれなりの勢力を誇っていた部族になったのだが、ある事件──部族を襲った非常に強力だったらしい<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>との戦いで長である【獣王】の死亡と部族の人間が多数死亡して勢力を大きく減らしてしまったらしい。

 その際に【獣王】の継承も途絶えてロストジョブとなってしまい、更にはレジェンダリアの議会で『獣戦士氏族の代表は【獣王】である』て決められているので議会の参加も不可能となってしまったので、生き残った者達は辺境にあるこの<魔獣の森>に移り住んでひっそりと暮らす少数部族になってしまったとの事。

 

「超級職を失って部族が減ったらあっさり追い出されるのか。レジェンダリア議会って厳しいね」

「あそこは長く生きてる長命種が自分達の利益の為に互いに蹴落とし合うそこらの自然ダンジョンをある意味上回る魔窟だからな。吸血氏族とかの例もある通り隙を見せた部族は蹴落とされて復権しようにも助けて貰えず無視されるか、最悪妨害されるもの良くある話だ。……俺達は森でモンスターと共に密やかに生きていければ良いから、こうして中央から離れて辺境で暮らすのにも不満はなかったから今まで無事に暮らせてるが」

「嘗て獣戦士氏族を盛り上げた長は『初見のモンスターの資質すらも完璧に見破る目』を生まれながら持っていてそれで上手くやってたらしいけど、今の私達にはそこまでの事は出来る人はいないし、出来ても他の連中に食い潰されそうな気しかしないから部族の再興とかはせずに辺境で暮らす今の生活で十分ってご先祖様も判断したみたい」

 

 そんな感じで部族全体が割と牧歌的と言うか穏健な性格だったのもあって、長である【獣王】がいなくなって議会から追い出されたら『じゃあ前みたいに辺境でのんびり暮らすわ』とレジェンダリアの中では自然魔力が薄く強力なモンスターが多いので人があまり近付かない<魔獣の森>に住処を移して辺境の少数部族の一つになったのが今の獣戦士氏族である。

 尚、似た様な境遇の吸血氏族などとは違い彼等は元々そこまで氏族の人数は多くなく、それが<UBM>関係の事件で更に減った事もあり元への復興は無理だと早々に諦められた事。更に嘗て【獣王】死後に長を継いだ者が権益に関する伝手を最低限だけ残してあっさりと手放し、残しておいた数少ない伝手を使って細々と交易を行いながら生活する少数民族ルートへとスムーズに移行する方針で氏族を纏め上げた事などが獣戦士氏族が今も細々と存続出来ている理由である模様。

 

「この<魔獣の森>は資源とかも微妙だから普通の部族にとっては大した価値は無いけど、私達にとってはテイムしやすくて強力なモンスターが多く生息してるからどうにか暮らせる場所だしね。基本は自給自足で偶に交易用にテイムしたモンスターを従魔師ギルドに売ったりして生活する少数部族になりましたって感じ」

「へー、レジェンダリアの部族にも色々と歴史があるんだねぇ。……それでそこに<マスター>がどう関わってくるのかな。何となく察しは付くけど」

「まあ、伝説に語られる<マスター>の爆発的な増加と言う歴史的事件、それによって否応なくレジェンダリアにも様々な影響が出ていてそれは俺達獣戦士氏族も例外ではなかったと言う事になるか」

「続きは俺が説明しよう。……さっきも言ったがガードナー獣戦士理論が流行った事で多くの<マスター>が【獣王】のジョブを探し始めて慣習的に【獣戦士】のジョブに就き、嘗ては【獣王】が納めていた獣戦士氏族の事を知ってこの里に訪れた事から始まる」

 

 そうして【獣王】への手掛かりを求めて獣戦士氏族の里を訪れた<マスター>達だったが、そもそも先の事情から獣戦士氏族の中でも【獣王】への転職条件はロストしてしまっており、幾ら聞かれても彼等は『知らないし何なら自分達が聞きたい』と答えるしか出来なかったのだ。

 ……最も此処までであればさしたる問題ではなかった。獣戦士氏族を訪ねた多くの<マスター>はその返答を残念にこそ思いはするがそれ以上の何かをする事なく、一部彼等に八つ当たりするマナーの悪い者もいたが他の良識のある<マスター>や獣戦士理論が流行する前から獣戦士氏族と交流していたプリンス自身の手で諌められたので大きな問題にはならなかったからだ。

 

「まあ【獣王】への転職条件を隠してるならともかく全く知らないティアンをどうこうしようなんて阿呆は早々いないからな。《真偽判定》で嘘ではないと分かってるし、そもそも獣戦士氏族の好感度を下げたらせっかく転職条件が分かっても教えてもらえない……と俺が吹き込んだりもしたが。レジェンダリアの現地部族の面倒さはこの国で長く活動してしてる<マスター>なら分かっている」

「ほうほう成る程。じゃあ一部の<マスター>が【獣王】の転職条件とかについて言い掛かりを付けて襲おうとしてるのは超級職に就けなかった八つ当たりみたいなモノなのかな。そもそも知らなかった訳だからその辺りを説明すれば良いと思うけど」

「……そこが少し面倒な所でな。俺とキム、そしてレラを中心とした一部で他の<マスター>には秘匿した上で【獣王】の転職条件を探していたんだよ」

「既に失ってしまったとは言え俺達……嘗て【獣王】だった長の末裔である俺とレラにとっては【獣王】のジョブは特別なモノだからな。出来れば自分達、そうでなければ共に<UBM>と戦い部族の窮地を救ってくれて、共に過ごして来た仲間であるプリンスに就いて欲しかった気持ちもあったのだ」

 

 そう言う事情もあって彼等は他の<マスター>を上手く誤魔化しながら【獣王】の転職条件を探しており、嘗て精強だった時代の獣戦士氏族の情報を集めたり最後の【獣王】の足跡を辿って彼と部族の戦士が相打ちになったと言う<UBM>の情報を集めてみたりと色々動いていたのだそうだ。

 

「そうして探している内に嘗て獣戦士氏族の長であった【獣王】に関する手記を見つけてな。そこに載っていた断片的な情報から【獣王】への転職条件を割り出す事に成功したんだ。それでキムとレラでは条件を満たすのが難しかったから俺が転職条件を満たして就いておこうと言う話になって……」

「ようやく話のオチが見えて来たねー」

「オチ言うな。……まあ察せられてる通り俺が【獣王】への転職条件を満たしたら【【獣王】への転職クエストの挑戦条件を満たしました】【対象超級職【獣王】は在位中です】【空位になった際に転職クエストを再度告知いたします】……ってアナウンスが流れたんだけどなチクショウ!」

「超級職の条件満たしたのにそんなオチだったらショック受けるよねー。分かるよー」

 

 どちらかと言えば獣戦士氏族の為に【獣王】を目指していたプリンスだったが、それでも<マスター>(ゲーマー)の一人として超級職への憧れはあったので条件を満たしても自分がジョブに付けないのは普通にショックな出来事ではあったのだ。

 同じく【獣王】を目指していたキムとレラにとってもショックだったが、そもそも自分達の不手際で転職条件をロストした事に加えて【獣王】に就いたは就いたで議会殿交渉とか面倒になると言うデメリットもあったので仕方ないと割り切る事は出来ていた。

 

「……まあそう言うわけで【獣王】を取り損ねたのが今の俺達という訳だ。言っておくと当代の【獣王】について思う所が無いわけでもないが、先に条件を満たせなかったのは俺達の不手際故に何かをする事もない。そもそも不死身の<マスター>が超級職に就いたのなら何も出来んしな」

「しかし多分【獣王】に一番近かったのは俺達だと思うんだがこの里に来た事もないドライフの<マスター>が取るとはな。獣戦士系統のジョブには各国のジョブクリスタルで普通に就けるし、高い実力で偶然条件を満たせるのはあり得るって事は分かるんだが。……まあそれだけなら超級職を先に取られて残念でしたで終わるんだが、問題は俺達が他の<マスター>に隠れて【獣王】の転職条件を調べて知った事がガードナー獣戦士理論使いの<マスター>に何処かからバレた事だ」

「要するに『お前らが隠してたから俺が【獣王】になれなかったんだー』みたいな事? でも【獣王】になったのはこの獣戦士氏族とは何の関係もないドライフの<マスター>なんだから逆恨みじゃない?」

 

 勿論ガードナー獣戦士理論を行っていた<マスター>が全員そんな考えな訳ではなく、むしろ殆どの者が残念がるか別のビルドを探すか燃え尽きてデンドロを辞めるかと言う常識的な行動を選択している。

 ただ、この<Infinite Dendrogram>で“最強”になれるかもしれない超級職を得る機会を永遠に失った事実はガードナー獣戦士理論にガチになっていた者程重く、そこに八つ当たり出来る理由の連中がいれば所詮はゲーマー(<マスター>)故に八つ当たりじみた行動を選ぶ者も少数はいるのだ。

 

「逆恨みだとは俺も思うしそもそも超級職は誰のモノでもないから早い者勝ちでしかないんだが、それで皆んな素直に納得出来るかと言えば出来ないだろうな。ガードナー獣戦士理論が<マスター>界隈を一時は席巻したビルド論だから尚更だ。……幸い八つ当たりを考えてる連中に同調する者は非常に少ないと、この情報をくれた<YLNT(イエスロリショタノータッチ)倶楽部>の知り合いが言っていたが」

「おーこの国のトップクランからの情報……名称がそこはかとなく不安だけどー」

「あれでも犯罪者<マスター>が多数いるこの国で秩序を維持してる<マスター>達の最大勢力、本当に性癖以外は信用出来る連中なんだよ。本当に。……とは言え例え少数でも<マスター>、しかもガードナー獣戦士理論を突き詰めようとしていたカンスト級の連中が襲撃を掛けて来たら大分面倒な事になる」

 

 ガードナー獣戦士理論の終焉により里に立ち寄る<マスター>がプリンスしかおらず、獣戦士氏族自体もキムやレラなどカンスト級の強者は少数居るし亜竜級から純竜級のモンスターを使役出来る者が複数いるので実は平均戦闘力は高い部類なのだが、以前に<UBM>と交戦して戦士の数が減っている事もあって戦力的には少々心許ない状況である。

 

「まあ、こっちも俺が出来るだけ里に常駐したり森を回って警戒したり、後は里に戦力が少ない事と戦う力がまだない幼い少年少女(ロリショタ)がいると<YLNT倶楽部>に伝えて協力を求めたりして手は打ってあるが。少なくとも敵の情報ぐらいは期待できる」

「少年少女をダシにして協力求める辺り手段を選ばないね」

「味方を変えれば子供達の為に無償で働いてくれるボランティア集団と言えなくもないから(震え声) ……それに里のティアンに被害が行かないように出来るなら手段を選んでる余裕は無いしな」

「ふーん。……じゃあ私達もしばらくこの村に厄介になろうかな。滞在させてくれる代わりに戦力として働かせて貰う感じでどうかな?」

 

 そんな提案をしたレフィーに対してプリンス、そしてキムとレラは驚いた様な表情を浮かべるが彼女としては旅の途中でトラブルに巻き込まれたり、事情を抱えた人間に会って解決の手伝いをするのはそこそこある方なので今回も手伝おうと思っただけである。

 

「しかし良いのか? レフィー殿はこれから麗都へと向かうと言っていたが」

「別に大丈夫だよ。麗都って所が面白そうだから行ってみようと思ってただけで、どうしても行かなければならない事情がある訳でも無いし。……それに事情を聞いて何もしないのは“つまらない”からね。それなら手伝った方が物見湯山で旅してる私達にとっても“楽しめる”から」

「戦力が増えるのは有り難いが良いのか? 少なくともそれなりの腕の<マスター>と戦いになるが」

「戦い自体は嫌いじゃないし、さっき会ったばかりだけど此処の人達にも好感は抱いてるから良い感じに問題が解決してくれた方が気分が良いからね。……それに私とパスカルが“別たれる事はない”から心配無用だよ」

 

 彼女の基本的な行動原理は『この世界(ゲーム)を楽しみつつ愛犬(パスカル)と一緒に過ごす』というだけなので、道中のクエストやイベントは楽しそうなものであれば出来るだけ受けるし、人助けとかは気分が良いので出来るだけするという<マスター>てしては“善良なエンジョイ勢”と言った所である。

 ……そこまでは読み取ったプリンスは戦力的にも十分過ぎると見てキムとレラに彼女の里への受け入れを打診、彼等としても優秀なテイマーの客人を歓待するのなら問題ないとしてレフィーとパスカルは暫くの間獣戦士氏族の里に世話になる事となったのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 それからデンドロ内の時間で数日、レフィーとパスカルは獣戦士氏族の里へ止まり部族の人間とコミュニケーションを取ったり<魔獣の森>で暴れるモンスターと戦ったりして過ごしていた。

 

「そう言えばレフィーの腕って治さないの? <マスター>は一度死亡してあちら側に行けば3日後に戻って来た時には部位欠損も治ってるって聞いたけど。それとそのマントも……」

「この腕は私の<エンブリオ>のデメリットみたいなモノだからデスペナでも治らないのよね。……後こっちのマントも実は特典武具。以前旅の途中で遭遇しためっちゃ強い<UBM>を他の<マスター>と協力して倒したら手に入ったのよ」

『バウワウ(あの時は大変でしたね。幸い相性が良かったのでどうにか倒せましたが)』

「2個も特典武具を持ってるんだ、プリンスだって一個だけなのに。それでどういう特典武具なの? 話したくないなら話さなくてもいいけど、戦闘中にいきなり姿を消したり別の場所に現れたりしてたけど転移能力とか?」

 

 幸い腕の立つテイマーと言う事で獣戦士氏族からの初期好感度が非常に高かった事もあり数日の間は特にトラブルもなく、森に迷い込んだ亜竜級モンスターの群れをプリンスなどと協力して一掃したりもしたので実力も認められて楽しくやっていた。

 そして今は同年代の同姓テイマーと言う事で仲良くなったレラにこれまで旅をして来た中で出会った人や事件について語っていた。ちなみにレラを含めて獣戦士氏族は《魔物言語》を覚えている者が殆どなのでパスカルも会話に参加している。

 

「そんな大層な効果じゃないけど強いていえば『残像』かな? 元は三強時代の【闘牛王(キング・オブ・マタドール)】がアンデッド化したヤツで、王国の辺境にある村で封印されてたけど、どっかの“悪いスライム”が封印を解いてね」

「悪いスライム? 別の<UBM>とか?」

「いや<マスター>。……まあ封印の維持の為にティアンの生贄とかしてたから完全に悪い事かどうかは少し判断に困るけど、アンデッドらしく生者を襲うんで放置してたら危なかった状況なので頑張って倒したの。まあそこにスライムを殴りに来た着ぐるみとかPKKやってるメイデンの<マスター>とかが入り乱れる乱戦で大変だった」

『ガウ(私は聖属性が得意なのでアンデッドには優位に戦えましたから……それでも強敵でしたが)』

 

 ちなみに当時は『さて生贄を阻止して封印を解除するのがこの村にとっては“罪”ですが、この<UBM>を倒しても罪にはならないのでせっかくだから戦いましょうかシュウ』『ゼクスお前マジいい加減にしろガル! こっちはどうにかするからしばらく<UBM>の方を頼むガル!』『俺はPK<マスター>をキルしてNDKする為にデンドロやってるのに! ……待て【生贄】の少女よ泣くんじゃない自分が生贄になって封じるとか言うな! そんなシリアスな展開だとpgr出来ないんだけど! クソァ!<UBM>がなんぼのもんじゃあ!』『それでこそ私のマスターですね(愉悦)』『あっちの<UBM>殴った方が楽しそうだし行こうかパスカル』『バウ!』……みたいな割とカオスな状況で色々あったらしい。

 

「……話の途中で悪いが少し良いか?」

「何よプリンス、ワイバーンでも出た?」

「ワイバーンではないがリアルで友人から例の八つ当たり連中が此処に向かってるって情報が入った。幸い賛同者は少なかったのか数は10人ぐらいの様だが。友人含めた有志の<マスター>も止めに来てくれるみたいだが」

「まあそのぐらいのカンスト<マスター>ならどうにかならない事もないかしらね。じゃあ手筈通りに最初は私達とプリンスで交渉するわね」

 

 そんな風にレフィーはのんびりとしていた所なのだが一旦現実(リアル)に戻っていたプリンスが、<YLNT倶楽部>の友人からガードナー獣戦士理論過激派の<マスター>が獣戦士氏族の里への襲撃を行おうとしているという情報を経て報告して来たので彼と一緒に二人で迎え撃つ事にした。

 自分達の里が狙われているのに蚊帳の外扱いされてレラは不満そうだったが、あの手の<マスター>はティアンを人間扱いしていない(NPCだと思ってる)ので<マスター>同士の方がまだ交渉しやすいし、或いは何らかの手段で里に奇襲を仕掛けて来る可能性も否定できないのでそちらの防御も必要……という理由で里に残って貰った。

 

「(実際にはティアンに被害を出したくないって言うプリンスの考えが大きいけど)真面目に初見の<マスター>が有する<エンブリオ>は何をして来るか分からないからね。初見殺しで全滅する可能性もあるから戦力は逐次投入した方がいいの」

「俺達が“交渉”するが高確率で戦闘になるからな。レラ達には出来れば里を守りつつ俺達の戦いから出来るだけ情報を入手しておいてほしい。手の内さえ分れば<マスター>相手でもレラやキム達なら十分に対応出来るだろうし」

「……うん、分かった。遠見の魔道具と従魔と視界を共有出来るスキル持ちで偵察しておく。でも貴方達が危なくなったら助けるよ」

「頼りにしてるよ」

 

 実の所、初見殺しや伏兵が怖いのは嘘ではないが、同時に“自分達であれば生半可なカンスト<マスター>達相手なら十分打倒できる”とも考えており、故に自分達だけで相対するのが一番手っ取り早いと考えていたからこその行動である模様。

 それでも<マスター>相手では油断は出来ないとこれまでの経験から知っているレフィーとプリンスは、やって来る八つ当たり組に対する“交渉”の為の準備を出来る限り進めていったのだった。




あとがき・各種設定解説

レフィー&パスカル:世界派エンジョイ勢ゲーマー
・彼女自身が基本的にはゲーマーで楽しい事が好きなタイプではあるので、一般的な倫理観と善性を元に“楽しそうな事”には首を突っ込み“楽しくない事”は行わない真っ当にデンドロをゲームとして遊んでいる<マスター>。
・そんなスタンスなのでイベントやクエストには積極的に挑んでいく方針であり、その途中で様々は<マスター>と共闘したり敵対したりするので割と顔が広い模様。

獣戦士氏族:レジェンダリアの少数部族
・レジェンダリアには良くいる没落した少数部族だが本人達が割と善良で従魔と森の中で過ごせれば良いなと思う価値観な事、そしてその割には外部との交流にも忌避感がなくレジェンダリア内の複雑な状況を読んで立ち回れる強かさを持ってるので上手くやってる勢力。
・この辺りは彼等がモンスターと付き合う故に“観察力”や“空気を読む”事に関して平均して高い才能を持っている事、及びモンスターと家族として接しているので他の部族ほどにプライドや面倒な価値観がないので既存権益をさっさと捨てられるのが大きい要素な模様。
・少数部族だが亜竜級から純竜級モンスターを使役できるのでティアンとしては平均戦力はかなり高く、戦士の長の一族であるキムとレラに至ってはレベルがカンストしていて他もティアン高いしては平均レベルは高め。
・そんな風に少数でも平均戦力が高く自然魔力が薄めの場所に居を構えているので他の部族からすれば攻めにくく奪い取っても利益が薄い、議会から見ても森で暮らしてる分には無害だから放置で良いか……と思わせる立ち回りをして生き残ってる者達。
・ただ、最近は<マスター>の増加によるトラブルや<UBM>との戦いでキムとレラの両親含めて部族の戦士が多数死亡する事態にもなっており、どうにか部族の人間の生存の為に色々と頑張っている模様。

アバター名:モノノケ・プリンス
性別:男
メインジョブ:【獣戦鬼(ビーストオーガ)
サブジョブ:【鉈剣士(マチェット・ソードマン)】【獣戦士(ジャガーマン)】【剣士(ソードマン)】【短剣士(ダガーマン)】【盾士(シールダー)】【斥候(スカウト)】【探索者(サーチャー)
<エンブリオ>:【???? ????????】
・レジェンダリア所属の<マスター>で秘境に済む民族的な格好をしているワイルドでマッチョな男性だが、偶にターザンごっこしたり見た目肌色は多いが中身は割と常識人寄りな人。
・都会から離れて自然の中でペットの世話をしながら暮らしたいと思っていたが、現実でやる程のやる気も余裕も無かったのでゲーム内でやろうと<Infinite Dendrogram>を初めて秘境っぽいイメージのレジェンダリアを選んだ。
・それから生まれた<エンブリオ>が特殊なガードナーだったりレジェンダリアの自然が思った以上に過酷過ぎたりで苦労したりはしたが、偶然モンスターと共に暮らし【獣戦士】に慣習的に着く“ジャガーマンの部族”と遭遇して友誼を結び交流を結ぶなどして楽しくプレイしていた。
・その中で獣戦士氏族を襲った<UBM>を打倒したりしたので今では完全に仲間と扱われており、彼自身も獣戦士氏族の人間を“家族”の様に思っているので彼等に仇を成す者には苛烈な敵意を向ける。
・戦闘スタイルは【獣戦士】の《獣心一体》でガードナーのステータスを得る典型的なガードナー獣戦士理論の使い手だが、獣戦士氏族のベテラン獣戦士のキムとレラより“従魔と共に戦う【獣戦士】の技術”を習っているので戦闘技術はかなり高い。


読了ありがとうございました。
次回は“最強”ならざるガードナー獣戦士理論の<マスター>による戦いです。二人の<エンブリオ>の詳細も明らかになります。
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